話題:本の感想

6つの物語がそれぞれ、ちゃんと主張し、どれもがなくてはならないように構成されている短篇集。

試着室/年下彼氏との話。昔の自分と重なる彼を冷静に分析して見てしまう彼女と彼の間には、愛の意味も価値もちがうように思えた。恋人の存在がすべてで、あなたがいなきゃ死んじゃうと言ってしまう程に依存していた頃のように今は恋愛をすることができない。それでも、彼は少なからずそういう恋愛を彼女に求めていた。距離は縮まらず、トレンドを追いかけ、全身ブランドを身に纏うような彼女と子供っぽい彼では釣り合わず、破綻する。そうしてまた、なにかを埋めるように試着室でブランドを身に纏う。

青山/男性目線の物語。彼には、付き合ってるというか好きな人がいる。その人は結婚しているけど上手くいってないと言い、それを完全に信じていた彼。カリスマ的な夫とフリーターの彼。対照的な二人を愛する彼女は、それぞれが持ついいものを味わっているように見える。だけど、彼女の一番は夫で勘違いしていた彼は、それでも会いたいと思う彼女にだけど、その彼女が何だったのかもわからなくなる。

ポラロイド/思春期の頃の性欲を兄妹で満たしあっていた二人。その頃の写真を見つけてしまい、彼に問いただす彼女。狂ったようにその写真やら部屋の女性の写った物をすべて投げ捨てた。そうすることで彼の狂気は静まり、彼女を抱いた。寝顔に愛おしさを感じながらも、いつかは憎むだろうと思ったところに共感した。

仮想/出て行った妻、残された夫と子供。最初は嫌々としてきた子育てもいつしか愛情が芽生え、ひとりで育てようという気になった矢先、妻が子供を奪い、離婚届を置いて行った。妻を失うことは、夫婦の間での問題で男女の別れは、世間でもよくあることなので納得もできた彼に、娘まで失うということは想像することができず、ひとりになった時、ようやく、今までのことを悔いたりするのだろうなと思った。


婚前/彼の祖母が亡くなり、二人で葬儀に出席した。そこで、初めて親戚たちに会う。その中で彼との子供を育てているようないとこと出会う。それを確信させる証拠はないけれど、直感で気づく彼女。自分は不妊症だから不妊症でも捨てず、裏切らない男を探して見つけた彼だった。金原ひとみらしさに溢れたドロドロした男女の話だった。

献身/不倫してる彼女には、夫も不倫相手もなくてはならないものだった。だけど、真実は夫が彼女の愛を拒絶したことがきっかけのように思える。愛されたい人に愛してる人に愛されないのは、とても孤独だ。それを埋めるように不倫相手を求める。結婚しても付き合ってる頃と関係は変わらないのかもしれない。

すらすらと読める作品ばかりでした。