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late summer






なぜだか、毎年のように夏は速く過ぎていく。




そして、僕は寂しい。




ゴムサンダルの痕が、白く残った足先を眺めてる、僕は寂しい。







どこか遠くへ、夏の僕らは行ってしまったみたいで、心はずっと不在中のままだ。





a beautiful girl【5】

ところで…



別の男性、おそらく先程の声の持ち主の隣にいる人物の声がした。



先生とこの子は?



だれ?



おたくが引率してきた生徒さんですよ
午前中の試合には出たんでしょ?





事情が飲み込め、ちょっと唖然とした。

さっき試合がつまらないと零した男性は、どうやらバドの指導者だ。

しかも同年代の男性から先生って呼ばれるってことは、たぶん教職に就いてる。




うち?
うちなんか全然ダメ、話にならんですよ
初戦でボロボロ…

来てすぐ終わっちゃったから、暇でしょうがなくてねえ

昼飯食いに来たようなもんですわ





故意だったわけじゃない。

まったく無意識に、気付けば半身捻って振り返り、侮蔑を宿した目で男性の顔を見てた。



さっきまで聞こえてた会話とは、まるで無縁の人物だった。

白髪が数本混じった髪をきっちりセットし、白いポロシャツの上に品の良いジャケットを着てた。

いかにも学校の教師だった。




僕と目が合った途端、一段高い椅子に座ってた男性は、固まった表情で口を閉ざした。

その顔にあったのは、明らかな動揺と恐怖だった。

もし、振り返った僕が男性の学校の保護者であったなら、ああまで不用意な発言は大問題に発展したかもしれない。

一瞬だが、心臓が凍るような思いをしただろうし、今後は口に気をつけようと自分を戒めたかも。






人ってのは、優しかったり、軽薄だったりするもんだ。

僕には分からないけれど、その男性だって、指導者としての情熱もあるだろうし、自分の教え子はかわいいはずだ。

情熱を傾けたがゆえの、愛を注いだがゆえの、その悔しさから出た言葉だったのかもしれない。






ユウは、入賞決定戦で敗れた。



すごかったよ



ちょ〜カッコ良かったあ




戻ってきた彼女をチームメイトたちは明るく出迎えたが、ユウの顔に笑みはなく、放心しきったような疲れが広がってるだけだった。





大会は終わった。



バドミントンにかけた、ユウの中学最後の試合は、こうして終わった。




画像 もじまる

a beautiful girl【4】

つまんねぇ試合しやがるな…



その声は、背後から聞こえてきた。

声質から察して、年配の男性のようだった。



面白くもなんともねぇな

今年は不作だね

これって選手がいないから、見てても飽き飽きしてくるよ




どうやら、隣に掛けてる人物に、試合の感想を述べてる様子だった。





興ざめさせられるし、聞いてて非常に不愉快な思いもした。

午前中から数えると、ユウたちは相当数の試合をしてた。

そりゃ普段の彼女らは、この何倍もの練習メニューをこなしてる。

だが彼女らは、今日しかない特別な一試合一試合に、全身全霊をかけ挑んでた。

だから、ここまで勝ち上がってこれたんだ。

準々決勝からの試合は、ほとんど気力だけの勝負、つまり彼女らは限界を超えたレベルで戦ってた。

気力と気力、限界と限界の戦いだから、力が互角となり競り合っているのだ。




でも、まあそんなもんだろう。

僕だって、なんの関心もない選手の試合だったら同じことを言うかもだし、実際書いてる映画レビューなんかでも、つまらない作品だと感じればスッパリ切ってしまうことさえある。

その際、監督がどんな思いで撮影に臨んだかとか、俳優がその役を演じるのにどれだけ努力したかなど、全く除外視してる。


後ろの男性は部外者の一人でしかなく、単に一般的な感想を述べただけだ。

ひどく耳障りではあるが、それは責めるべきことじゃない。



僕は無関心に徹し、視線と意識をコートに集中させようとした。



画像 もじまる

真新しい朝に


道が見えている。

行くべきか?

いや、行かなくちゃ。



僕は何を迷ってる?

ここに、僕を引き止めるだけのものは何もない。

あると思っていたものは、すべて過去になくしてた。



そろそろ行かなくちゃ。

もう寂しくはない。

新しい僕を、探しに行かなくちゃ。



a beautiful girl【3】

人ってのは、優しかったり、軽薄だったりするもんだ。

僕だって、神のような慈愛に溢れてるときもあれば、悪魔のごとき冷酷な思いに捕らわれたりもする。

そりゃ神でも悪魔でもなく人間だもん、いろんな感情に動かされるのは当然だ。



そう考えると、書物で神は人間的に描かれたりもするが、ほんとは感情なんて持たないのかもな。

悪魔もしかり。

出来の悪い物語に登場する悪魔は、大概が人間に対する憎悪に燃えてるけど、あれはいただけない。

悪魔ともあろうものが、人並みの感情に支配されてるようじゃダメじゃんか。



うん、話がかなり脱線してる。

大会でベスト8まで進んだ、ユウの話をしなくちゃ。

ここでお断りしておきますが、どの選手の、どのプレイも、数年間ひたすらシャトルに打ち込んできた情熱と気迫のこもった、ほんとに素晴らしいものだった。

しかしながら、中体連の試合結果はネットなどでも配信されてるので、個人情報保護のため詳細は省かせていただきます。



だから、ここからはユウじゃなく僕の話、一般の観戦者に混じり呑気に試合を眺めてた僕の話になる。




僕が座ってたのは、目的の薄い人たち専用シート…とでも言うか、つまり試合に出場してる選手とは付き合いがない人たちが座ってる場所だった。

よく分からないけど、バドが好きで来た人とか、会場の近隣に住んでる人とか、たまたま体育館に来たので暇を潰してる人とか……そんなんじゃないかな。
人も疎らで、このゾーンだけは他の観戦席とまるきり温度が違い、誰もがシーンと落ち着き払って試合をみてた。



そんななか、僕もゆったり座席にもたれていたが、心中を言えば接戦の続くユウの試合にハラハラしてて、落ち着きなく足を組み替えたり、やたらに伸びをしたりと、実際はかなり挙動不審に見えてたと思う。


そのとき分かったんだけど、感情を声に出すのって大事だ。

ほかのサポーターは、そこだ行け、とか、拾って、とか、集中しろ、って声をあげてたけど、あれは無意識に叫んでるんだろう。

試合に熱が入ってくると、観てるだけで自分がコートにいるような錯覚にはまり、すごく緊張してくる。

その緊張を吐き出すため無意識に声をあげ、体内に蓄積されてく熱を発散させてるんだ。



ところが僕は、硬くなってく背中をさらにガチガチにしながら、声を出せない代わりに奥歯をギシギシ言わせてたわけだ。


体にこもった熱は臨界点に達しかけ、気、というか、凄まじいエネルギー塊となってた。






そのとき、ほんの一瞬耳を掠めた声が、僕の思考を一挙にクールダウンさせた。
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