10月31日、ハロウィン。
本来は子供たちがお化けの格好をし、お菓子をもらいに練り歩く日。
だが、ここネオドミノシティのサテライト地区ではそんな常識を壊すようなことが起こっていた。
チームサティスファクション、リーダー鬼柳京介がサテライトを統一するために作ったそのチームに参加する不動遊星は今日も今日とて機械いじりに余念がなかった。
それもそのはず。
彼らの使用する通称『満足手錠』は彼が無茶な注文をもとに作ったもので、それ以外であれど主にそんな仕事は彼のもとに回ってくるのだから。
「ゆーうせーっ!」
ふと聞き覚えのある声に顔をあげる。
そこにいたのは青い長い髪を下ろし、なぜかブラックマジシャンガールの姿をしているレイラ・マリナスだった。
「トリックオアトリートっ!」
その意味を理解できずにキョトンとしているとレイラはさらに続けた。
「もう、遊星ったら今日はハロウィンだよ。お菓子くれないとイタズラしちゃうからね!」
「…レイラのイタズラはいつものことだと思うが……。」
「今日はお菓子で手を引いてあげる♪って日なの。」
ただ単に甘いお菓子か大好きないたずらか、どちらかがしたいだけでたいした意味はないのだろう。
「すまないレイラ、すっかり忘れていたから何もないんだ。」
「んじゃいたずらしてい?」
そこで満面の笑みを浮かべる、彼女をよく知る人物としてはこれはあまりいい気分ではない。
「話は変わるが、この前レイラが拾ってきたカメラが治ったんだが…。」
「あ、ほんと? それじゃあこれ以上粘ってもなんも出てこなさそうだし、これで引き上げてあげるね。」
そのカメラを片手にスキップしながらどこかへ消えていったレイラはおそらく次のターゲットを探しに行ったのだろう。
遊星は他の仲間の無事を祈るのだった。
「お?」
同メンバーのジャック・アトラスを見つけたレイラはもはやタックルという勢いでジャックに飛びついた。
その心中はおそらく「カモみっけ」と言ったところか。
「ジャックー、トリックオアトリートっ!」
「…ふん、毎年毎年飽きない奴め。」
そう言いながら彼は手のひらほどの包みをレイラに渡した…と言うより押し付けた。
「えー、なんで持ってるのー。」
「貴様の行動は読めている。ならば先に対策しておけばよいまでのこと。」
「ちぇ、つっまんなーい。」
包みの中のクッキーを口に放り込み、「たいしておいしくないなー」など言いながら次のターゲットを探す。
残るターゲットは後2人。
「あ、いたいた♪」
レイラにとっては彼が一番の本命だったのかもしれない。
今も昔も、いたずらっ子(いじめっ子の方が正しいかもしれないが)は反応が面白い人が好きなわけで。
「くーろたんっ!」
「うわ、れ、レイラ!?」
ジャックの時とはうって変わって、ぎゅうと後ろから抱きついた。
その方が彼、クロウ・ホーガンにはよく効くのだ。
「くろたーん、トリックオアトリートー。」
「や、ちょっと待てって。なんか、その…当たってるんだけど。」
「当ててんに決まってんだろ。」
即答。
ばっさりと切り捨てた。。
「お菓子くれないと離れてあげないんだからねー。」
「分かった、分かったから! お菓子やるから離れろって!!」
「もー、クロたんかわいいなー。」
相当恥ずかしかったのだろうか。
顔を赤くし、目線をそらしながら渡してきた包みを満足げに受け取ったレイラはこう続けた。
「さて、そろそろ本日の大一番と行きますか!」
本日の大一番。
それは彼女と同等、もしくはそれ以上にイベント事が好きであろう、彼女の幼馴染とのある意味での直接対決である。
「サテライトのブラマジガール今ここに召喚されましたっ。…というわけできょーすけー、お菓子くれないとイタズラなんてものじゃ済まないよー。」
「どこがブラマジガールだよ。ダーク化ブリューナクの間違いだろ。」
「だれがブリュだよ、こんなにかわいいのにっ。」
「レイラ、お前、鏡見たことある?」
「じゃあ逆に聞いてやるよ、京介は残念って言葉知ってるの。」
「お前のことだろ、どう考えたって。」
「むしろお前だよバーカ。京介のバーカ。ついでに言い忘れてた、トリックオアトリート。」
「現れるたびに何をどれだけ場を荒らせばば気が済むんだよ、うちのブリューナクは。できるの手札の枚数までだからな。」
「だまれ腹筋ブレーカー。自分のカードの効果くらい知ってるわ。早くお菓子くれないと…そうだな、そのデッキサテライト中にばらまいてやるからな。」
「もうそれイタズラじゃないって気が付いてるか?」
「もちろん。ちなみに京介に対しては常にむしろ軽い敵意がむいてまーす♪」
「…俺とおまえってどんな仲だったっけ。」
「とりま幼馴染?」
「幼馴染に敵意向けんなよ。」
先手取られた、となんだかつまらなさそうに呟いたことから彼も何かのコスプレする予定があったのだろう。
「おいおい、いい年こいて何する予定だったんだよ。一番年上だって忘れてるだろ。精神年齢絶対一番下だけど。」
ホントは年二つしか違わないけどねー、とか言いながら何かないかと作戦を練る。
どうにかしてこいつからお菓子をもらえるだけのイタズラ、もしくは本当に向こうがやめてくれと懇願するだけのイタズラはないかと。
「あーもう、さっさとレイラちゃんを満足させてくれよな!」
「それオレのセリフ!」
正確にはうるさくなるのはこれからなのだがそれこそ覗くのは危険というもの。
追記からあとがき