前から色々言ってた、天使悪魔鬼円から派生したものです。
でも書いているうちに、それとは違う世界観になりました。(でも上級天使や悪魔が女体の姿を持っている設定はそのまま)
鬼豪(円豪)前提の、円不です。
要は、豪炎寺さんに対して円堂さんを失恋させるなら、豪炎寺の相手は鬼道さんで、円堂さんの相手は不動さんがいいのです。
そして、今回に限り、思いついたストーリーに対し、円堂さんが『男』である必要が個人的にあったので、円不というわけです。
正直、誰得ですが、ちゃんと話として思いついたものは書く主義です。
ただし、携帯で打っているので、いつもにも増してものすごく不定期更新です。
続きから。
不動は、両側頭部の濃灰色の地髪を刈った個性的な髪に半ば隠れるように存在する額の小さな銀の一角と、大粒の吊り上がったアイスグリーンの瞳ばかりが目立つ小さく痩せっぽっちの体躯、それに対して少し大きくシャープな黒翼、そして先端が矢尻のような形をした黒光りした長い尾を持つ少年――淫魔である。
悪魔の中でも総じて知能も低く、一度発情すると性交の事しか考えられないが故に、誰かを主とし飼われるのが常である最下級の地位に属する出自の彼だったが、
物事には、何にも例外があり。
彼は、先の天魔大戦において、その高くかつ魔王と真逆とも言える指向性の知性を買われ、既成の考えに捕らわれない大胆でかつ緻密な知略を、戦略会議では軍師の一人として、魔王出征の折には手薄になった魔都の内政官として、その優秀な頭脳を思う存分いかんなく発揮した功績に基づき、
天界との和平をもって、四大悪魔に叙せられる程高い地位を得――この世界で昇り詰めた。
彼が、頭を下げる必要があるのは魔王陛下に対してのみ。しかも魔王であらせれる鬼道は、事ある毎に生意気な口をきく不動を無礼呼ばわりをしても懲罰をくれない程度には認めている、というより、今更改まっても気持ち悪げに御尊顔を歪めるので、その不遜は、地獄の沙汰付きで認められ、事実上、誰にも媚びなくてもよいのである。
子供の淫魔に、不相応な高い地位――和平後に再構築される新しき天界と魔界の新しき地綱を定める責務は重かったが、それ以上に新しい世界の枠組みを自らの手で造り上げる実感は、不動に無上の喜びを与えていた。
だが、不安は常につき纏っている。
自分はまだ子供。発情期を迎え大人になった時、どうなってしまうのか――その本性の目覚めと同時に、魔王に認められ、今までの不動を築き上げてきた理性や知性が全て喪われ、誰かに隷属し性交する事しか考えられない下賤な生物となり果ててしまうのかも知れない――そう考えるだけで、恐ろしかった。
「誰かに飼われるなんて、真っ平だ……」
王も仲間も、従える立場の最上位の貴族。誰にも理解されない悟られたくない悩みに、今日の務めを終えひとり気晴らしに歩く居城への足取りは重く、夜の森に溜め息が零れた。
もし、どうしてもその性(さが)が避けられないのなら、せめて魔王に飼われたかった。彼なら悪態をつきながらも、不動の意志と矜持を汲み、何処か誰の目にも触れない場所に幽閉でもしてくれるだろう。
だが彼は、つい先日、和平の約定と引き換えに美しい花嫁を天上より迎えたばかり。
もはや、悪魔のクセに生真面目な性格のヤツが、形だけだろうが愛人なんて設け和平破棄の危険を冒す筈もない。
死刑宣告を受けた者のように、その時に至るまで終わりが見えないと思われた不動の苦悩は。
今、いとも、あっさりと。
ポツ、ポツ、と、降る水音を齎す。
「…………!」
独りの天使が、終わりを告げたのだった―――
不動の居城近くに広く澄んだ湖がある。
そこで、遠浅の湖水に膝まで浸らせ立つ月の光みたいに淡く輝く雛鳥のような柔らかく小さな翼を有する白き衣を身に纏った小さな天使が、ポツ、ポツ、と、水面に波紋を幾つもつくっていた。
「……泣いて、んのか?」
不動の声には、信じられないものを見たような震えと掠れた響きが込められる。
天使は、その目から零れた大粒の涙を金銀宝石に変えながらも、不動の存在にも気付く事なく悲しみに顔中を歪め何もない遥か彼方を見据えたまま、拭っても拭っても目から溢れるものを両の掌で拭い続け、足下にひとつまたひとつと、転がり積もらせていた。
それは同時に、不動の心にも、ポツ、ポツ、と、波紋を落としていった。
-続く-
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