成歩堂さんの過去ねつ造…いくない!
うう……長くなる予感しかしません。
明日は、会社の飲み会で更新できないと思います。
続きから。
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お話未満の妄想&書きかけお話の倉庫。ここで上がった話は大概大幅に加筆修正を加えられサイトにUPされます。
成歩堂さんの過去ねつ造…いくない!
「あの子は、舞台を中心にした俳優の父とジャズピアニスト兼歌手の母から生まれたんですよ」
ティーパックしかなくて、すみません。
と、入れられた紅茶に、もしかすると成歩堂は御剣の紅茶好きまで彼女に喋っていたのかもしれないと少し苦く思いながら湯気に顎を湿らせ聞いた園長の言葉に、もう一度軽く目を瞠った。
両親共にあり素性も判る。それなのに、このような施設に居た理由に虐待の文字を脳裏に浮かべるのを予想したのだろう、園長は違いますよと唇だけで答えると首を振る。
「龍一くんは、このような場所ではよくある話なのですが、赤ちゃんの時、籐のゆりかごに寝かされて園の門柱の所に遺棄されていました」
その時の調書なのだろう、執務机の奥から取り出した古めかしいファイルの中に挟まれていた黄色く色褪せた白封筒の中身を取り出すと、御剣へ提示しつつその内容について口添えた。
「自分たちは未成年でかつ経済的に安定しない職にあり、今は養育ができません。必ず、必ず成功して迎えにきますから、その時まで息子《龍一》をどうかよろしくお願いします…と」
御剣の手で広げられた紙に書かれた文字は、所々インクを滲ませ、続けて、成歩堂なのだろう眉毛のおかしい赤ん坊とありったけの財産だったか産着数枚と粉ミルクおしめと数万円が撮された写真数枚を見せられる。
「名字は、仮のものです。こう言っては迎えに来ない親が多い中、何故か彼の御両親は約束を守るのではないかと思えたのです――事実、約束は果たされようとしました」
園長は、そう震える声で、先程のものよりは新しい二通目の手紙を手渡した。
緊張は御剣にも伝わり、紙をパサパサ神経質な音を立て広げ、食い入るように見やる。
二通目の手紙には、御剣でも目にした事のある舞台の世界で特に有名な俳優とジャズ歌手の女性の夫婦連名で、こう書いてあった。
ようやく息子を迎える準備ができました。大人の勝手な都合とのお叱りを受ける覚悟はあります。どうか、龍一に親だと名乗り出る事を赦して下さい。
「龍一くんは、本当の意味で優しい子です。話せばきっと解ってくれる。そう返事をする一方で、龍一くんにはその事実を伏せておきました。きっと喜んでくれる、そう思って……しかし」
園長が堪えるように声を詰まらせた瞬間、御剣は思い出した。このオシドリ夫婦と有名な芸能夫婦を襲った運命を……。
「しかし、この夫婦は…確か……!」
飛行機事故で、命を落としたのである。
「この世に神様があるなら、なんででしょうね。どうして、彼に残酷なんでしょうね……」
DL6号事件が起こったのとさして変わらない時期のこの大事故は、御剣の記憶に、世の中に悲劇は沢山転がっているのだと、妙に焼きついていた。
「あの頃の龍一くんは、御剣さんが突然転校された事に大きなショックを受けて、少し不安定だったの。そんな彼に、これ以上のショックを与えられなかった。彼が成人するまで、この事実は伏せました」
息が詰まる程の罪悪感が、御剣を襲う。
実の親とその悲劇を知ったその直後、検事として法廷に立ちだした自分が何をして成歩堂に心労をかけたか、知らず父と同じ道を歩み出した彼に、夢さえ投げ出させる事になったか。
寒くもないのに、震えてガチガチ歯が鳴った。
「私は…知らず、何回も、彼を傷つけ続けていたのですね……」
余程変な顔をしていたのだろう。女性は、驚き慌てて言いつのる。
「それでも龍一くんは、再びあなたに会えた事を喜んでましたよ、とても――そう、とてもよ」
園長の言葉には、嘘偽りはない。記憶の中の成歩堂も。
だが、それでも、知ってしまった罪悪は、無くなりはしない……。
落ち込み暗雲のように澱みだした御剣の精神に、この時、彼女の声が大きく打った。
「龍一くんは、今、あなたの処にいるのかしら?」
はい。とも言えず、ただ頷く事で返した御剣に、園長は今までで最高の満面の笑みを湛え、真実を告げる。
「それなら、あの子は、今幸せね!」
御剣は、何も答える事が、出来なかった――――
-続く-
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