自分が情けなくて、悔しくて、悲しくて。 気付けばルツの体を寄せ、涙が出そうになるのを堪えながら、ただ黙って抱きしめていた。
「ディーン…?」
ルツは若干戸惑いながらも俺の背に手を延ばす。
触れた手のひらがとても暖かい。少し混乱していた頭を落ち着かせ、抱きしめていた体を離した。
「悪いな、いきなり。」
「そんな…僕で良かったらいつでも触って下さい。」
少し頬を朱に染め、ルツは嬉しそうにした。ダンピールの俺をルツは気持ち悪がらない。普通の人間や吸血鬼なら罵倒し、侮蔑の言葉を吐くと言うのにルツは吸血鬼であるにも関わらず、好きと言ってくれる。恋人でいてくれる。
俺が長年欲しかった暖かいぬくもりをくれる、愛しい存在。
どんなに悲しい事があっても受け止めてくれる、優しいルツ。
俺は弱い奴だからまたすがってしまうだろう。
そしてその度にルツは抵抗する事なく受け入れてくれる。
「ありがとう、ルツ。」
感謝と愛情を込め、抱きしめながら柔らかいルツの髪をすく。
面倒かけちまうけどこれからも宜しくな、ルツ。
精神的に弱る橙の話。きっかけとしてはダンピールが殺されてやるせなさを感じたんです。凹んでた所を黒が来たので思わずぎゅっ。みたいな。
「ご主人さまー」
ぴょんぴょん、と跳ねながら少年の名前を呼ぶそれ。
白い体毛を持ち、真ん丸の体、焦げ茶の瞳に頭頂部に体の色と同じ二本の触覚を持つ生き物は主人―――アルディーンを呼んだ。
それに応えるのは無表情で銃の手入れをしている10歳の少年だった。
「ぷきゅ。」
「なんだ…?ぷきゅお。」
手入れに使っていたクロスを床に置き、アルディーンは白い体毛を撫でる。
「ご主人さま、笑って下さいっきゅ。」
使い魔の懇願にアルディーンは僅かに顔を歪めた後、ごめんな、と謝った。
出来る事ならいつも自分の為に頑張っている使い魔に笑顔を見せてやりたい。
だが、過去の事件のせいで笑えなくなってしまったアルディーンには無理な事だった。
「ごめんな、ぷきゅお。…もう、わからない。どうやって笑ったら良いのかわからないんだ。」
ぷきゅおの小さい体を抱きしめてやりながらアルディーンはぽつぽつと呟く。
「…おかしいな、昔は毎日のように笑っていた筈なのに。」
遠い目をしながらアルディーンは昔の自分を思い出す。
あの頃の自分。まだ健在だった母と妹、それに父とぷきゅお。
毎日明るく、楽しく過ごしていたのに。あの事件さえなければ今も――。
「みんなを殺した奴らに復讐、してやるんだ。」
碧の瞳に暗い影を宿しながら呟くアルディーン。
その様子を使い魔は心配そうに見つめていた。
しょた橙です。全ての始まりはここから、みたいな。
お母さんと妹を殺された橙が銃を手に取ってお父さんや(お父さんも銃使い)橙に銃を教える師匠に教えてもらって復讐するんです。
俺は、こんなにもルツが大好きなのに。どうして傷付ける事しかできないんだろう。
「今日はどうしたんですか?ディーン。」
「・・・っ」
微笑みを浮かべてそう問いかけられ、ディーンは言葉に詰まる。
今自分が恋人に強要しているのは紛れも無くただの乱暴。
それも、ただの嫉妬から来るもの、だ。
「・・・どうして怒らないんだ?」
ベッドの上に押し倒し、ルツの両腕を締め上げる。それに動じた様子も無く、ただ「ディーンが怖がってるから。」と告げられた。
「なんで」
すぐにわかるんだろう、こいつは。
数時間前、通路を歩いていたらルツと、見知らぬ青年が親しげに話しているのが見えたのだ。
それを見てすごく不安な気持ちになった。ルツを知らない男に取られてしまいそうで怖かった。冷静に考えれば自分に一途な感情を向けてくれる少年が裏切るはずがないとわかっているのに。
そんな不安な気持ちにさせてしまうほど、あの青年とルツのツーショットは似合っていたのだ。
「・・・大丈夫ですよ、ディーン。」
ディーンの拘束を解いた少年はそっと、強張る頬に触れた。
「僕が貴方以外の人に惹かれることはありませんから。ディーンだけを愛し続けるから。・・・だからもう怖がらないでいいんです。」
「・・・ルツ」
「大丈夫、大丈夫ですよ。」
大丈夫、大丈夫と呪文のように繰り返すルツの声に酷く安心して。
小さくありがとう、と呟きながらディーンは頬に触れていたその手に自分の手を重ねた。
久々に書いたらこんなになってしまいました。ただ嫉妬して不安になる橙が書きたかったんだ。
何件かランキング様から削除されてましたのでリンク外しました。すみません…