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/静かな一日を終わらせるために音楽をかけます

/空が飼う鯨の吹く潮は夜でも構わず虹を作り、束の間妖精が呼吸をします。目の前で群れる妖精は幻影でしょうか。鯨が空けた空の穴は塞がないで下さい。妖精の帰り道となりますから。

 

/#ふぁぼの数だけ行ったことがあるように架空の町の魅力を紹介する ファンタジー作品の世界地図って良いですよね。一緒に気になる地名を探しましょう。

 

/はじまりの町は、紫煙くゆらす花々が足元を覆い、歩くとサリサリと音がする。路面はいつも霧。煙の渚の町。飛沫を散らして遊ぶ気にはなれない。ザラメ雪の日ほど軽い地面は足を取る。自分の足元なんて見ていないだろう、背の低い花々は底流の中、低く笑う。謹厳な旅人は砂糖葉巻を齧り散策を続ける。

/北西に向かうと巨大な水たまりがある。目指す者が目印にする煙突。その麓の町はとぐろを巻く。トンテンカン。いつも薄曇りだが、空の高さよりも煙突の高さが重要。職人が足場を組んで仕事している。彼らが何を作っているのかは、三ツ頭山から見下ろすとわかるらしい。鉄蛇の町、蛇の背を渡るひとたち。

/地図中央に山の尻尾が描かれている。奥の地と呼ばれたってここに住むひとはいる。終端の山は樹木も凍る厳寒の地。硫黄を避けて作られた、温泉を囲む町。短い夏に、秘色の草原に寝転べば、空とも海ともつかぬさざめきが聞こえる。蒸気を掴み、舟を出す。高くへと昇っていこう。住人は静かに手を振る。

/東の方に缶詰工場がある。龍の髭ほど長い魚からプチプチの小魚まで、職人が選別した損傷の無い魚たちが、一缶に行儀良く詰め込まれている。味噌味の水族館か。旅の間につい食べたくなる。この地の魂を支える工場だ。最寄りの町に寄って、多彩なラインナップに悩んで夜を明かす。

/空から響く爆音が町に降り、異国の言葉となる。耳元での囁きに目を閉じた。酒場に寄ると空灰を纏う透き通った目の異邦人がぱらぱらと席についており、また異国の言葉が聞こえてくる。彼方の破片をぐい呑みに。お隣さんの話を聞くに、空は最近色々なものを降らすという。

/眠りこける鶴の首を渡る。鶴は千年眠っていて、飛ばない間に恐竜みたいにでたらめな大きさになってしまった。半島への連絡路は長く退屈。鶴の寝息で眠くなる。意識が遠のく頃、金色の花畑を見る。茶屋で出された真ん中をくり抜いたお菓子は奇妙な苦味がある。天使の輪っかならばもっと甘いはず。

/半島は幽玄の地。丹の織物が風にはためく町に降り立つ。空が深い。白化した山を背に負う。ここから方々へと道が伸びるが、さてどれも一度踏み込むと進む他無い。送り出す町。躊躇ううちは、留まっても良い。しかし石塊が語り出すと長いので、心を決めねばならない。

/地図に空白地帯があるが、地面がすっぽり抜けているわけではない。動物たちが花を供える城があり、ひとも例外ではなく、みな集ってその種に伝わる祈りを捧げる。それぞれの時間は交わらない。動物が集う城に、名前をつけることが出来ない。そこは今日もぽっかりと空いたまま。

/神様が酔っ払って作った砂浜で、棘のある花が咲いている。花を編んで対岸に渡れると言うが、手はすっかり傷だらけだ。上手く花を編むひとびとが集って町が編まれた。彼らはひとを渡すけれど、浜を離れはしない。淵にかけられた花の飛び石は、一つ踏み外すとどこまで落ちるか分からない。

 

/旅行記風になっているといい。無さそうで無さそうな架空の世界も、有りそうで無い架空の世界も大好きです。

 

/皿の上の大きな水たまりを、たらいに乗って遊覧。2時間100円。保険なし。岬の出っ張りの、ちょうど日陰になる場所で、たらいが岩に繋がれていたのだ。頑丈そうな船が一本の糸を垂らして魚を待っている。皿の割れ目から流れてしまえば未踏の地へと連れて行かれてしまうことだろう。日暮れる前に戻る。

/歌声が聞こえたので紫陽花の間の階段を上っていった。高台は見晴らしがいいけれど、大きな水たまりの向こうは見えない。向こう側なんてあるのだろうか?魚介を盛った皿を昼食に頼む。塩で食べるのが良し。だらだらと楽しんでいる間も歌は続いている。切れ目が無い。旅の音楽家は今ではない季節を奏でる

/平野に出る。比較的穏やかな地に見えるのは季節がいいからだ。冬は雪に閉ざされる。三頭の山が遠くに臨む。それとは別に瘤の山がある。町は三頭山の分社を守っている。田畑に囲まれた神域は、平野の拠り所である。

/野の花が誘う草地には寝ころばなくてはならない。黄色と橙の小さな花が細い茎に掴まっている。花は空に浮かんでいきたいに違いない。祝い事の日にそれは叶うから、今日のところは地面の柔らかさを楽しもう。こんな草地は大昔の住人も好んでいたみたいで、変わらぬ空き地は各所に残る。

/入り組んだ路地で何度同じ景色を見せられたことだろう。通行規制に従って歩いてみるとどこにも辿りつかない。この町はそういう風に出来ている。忍びの者を探し当て、彼らが使う壁の抜け穴を通らなければ目的の城には近寄れない。茶屋で出された飲み物は恐ろしく苦かったが、林檎のパイが最高。

/昔一度見た景色を見たくて記憶を頼りに歩く。季節は移ろうい、ひとは変わるもの。変遷は聞かないでおこう。かたつむりのように汽車の扉が開いたので、乗って隣の駅にて降車。するとどうだろう、記憶の景色がそのまま広がっていたではないか。電車は行ってしまって、次の便はいつまで待っても来ない。

/湖底の遺跡に想いを馳せる。もう記録されることのないかつての生活。魚や猪の骨が埋まっていて、水の底で保存されることだろう。バスがざぶんと湖に入り、優雅に泳いでいく。順番待ちの列は次の季節まで続いており、立ち寄っただけの旅人は水辺で生活の痕跡を探す。忘れられていくだろう。

/洞を通って抜ける道を孤独に進む。長くて暗い道を抜ける者はどれほどいるのだろう。ひととすれ違うことはないが掃き清められている。雑草の一本も生えてはいない。姿が見えなくても、ひとの気配は感じられるものなのだ。

/風が交わる道で町が栄えた。ひとびとは手と手を取って踊る。言葉は通じないようだけれども、みな風のようなもの。すいっと混ざってみようと思ったが、これがまた難しい。ぎこちない風をひとしきり笑われて、やはり言葉は交わさぬまま輪に入りこんでいる。渦に捕らわれる前に次の町へ。風のように去る。

/黄金色の老木が、町の外れに立っている。利益や薬を与え続ける知恵袋。黄金の老女は朝焼け前に町を散歩する。ひとの顔が分からない時間帯に、すれちがう寡黙なひとびとと会釈を交わす。彼女の着物のすれる音は、老木の葉の囁きと同じ音だとみな気付いている。

/用水路にはまった。突然のことで、笑いも怒りも出来ずに這い上がる。深く広い用水路が何か言うでもなくそこにある。どこまでも続いている。ひと一人流せそうな幅だ。実際、水を滴らせているところにひとが流れてきて、遠くまで流れる。彼はどこまで行くのだ。追ってはいけない。

/花火が打ち上がる。祭りの知らせだろう。音の鳴る方向へ向かう。黄昏時だ。黒い獅子がぬっと顔を出す。長い胴体は、旅人の前をいつまでも這っている。足の数を数えるのも飽きるほどだ。数え損ねて、奇数の足を持つ獣だと認識することに。黒獅子が通り過ぎて残るのは、静寂。

/伝承の人物が住まう町がある。彼は深い慈愛の心を持ち、世界を駆け回る俊足とを誇る個人だと思われているが、隠れもしないこの町は、何人もの「彼」でいっぱいだ。個人名ではなく団体名だっただなんて、とても言えない。けれど伝承の町は確かにあると、信じぬ者には言いたくなってしまう。

/研究者が寄り集まった町があったが、今のその地にはどのような記録も残っていない。機械人形が一匹(二足歩行ではあるが獣の顔をしている)さまよう姿を見た者がいて、遺されたのは本当にそれだけらしい。残っていないものは見ることも叶わない。旅人の空しさ。

/それはそれは大きな獣が住む町だった。大きいだけで害は無く、いつもあくびをしているか眠っているかのどちらかだ。いつから住みついたのだろう。住人は獣に残った魚の頭を放り投げる。それほど好きではないようだが、獣はぱくんと食べてみせる。年に二度、総出で大きな体に上って毛を梳いてやる。

 

/初夏に花をつける果実の木が準備運動を始めると、小鳥たちは少し大人しくなり、燕の編隊飛行に拍手を送る。夜になると果実の木がぽうぽうと鳴き始める。鳴き声に乗って綿毛が飛ぶ。上手く枝に止まれば、秋に実りとなる。鳥たちは木々を見守っている。

/坂の多い町だ。すぐ裏手に山があり、竹がさらさら鳴っている。軒先に杉の玉がぶら下がっている。木造の建物は燻された濃い色をしており、町はずっしりと重い色。家々は山の延長のようなものだ。夜になると鳴く動物が徘徊するから、夜遊びしてはいけないよ。

 

一本の道を行くと必ずこの町に辿りつく。兎の抜け穴の先にあるような町だ。ぼんやりして歩いているといつの間にか不思議の道を辿っている。旅人はみんなそう。狐に化かされているのかな。まあ、美味い唐揚げを出してくれる店があるから、化かされていたってかまわない。

/梯子が多い町で、とにかくショートカットが好きな人々が住んでいるんだろう。梯子に板を渡してこしらえた通路が幾つも伸びていたり、縦横に組んだ12尺の角材を組み合わせた簡易階段もある。道は多いのだが、まるでアスレチックなので体が痛くなる。藤のつるを編んだ梯子は意外と頑丈。

/星の中央に立っている。北へ行けば浄土、東へ行けば異国、西の平野は果てが無く、南へ行けば社の森。どこへ行こうとも、戻って来る。大きな水たまりから吹く風に乗って、祭り囃子が聞こえて来るから。