殺人の追憶

雨が……

硬く冷えた青白い肌を、恐怖に見開かれた網膜を叩く。

憂鬱な雨が……



出動捜査員数180万人を要し、浮かび上がった3000人の容疑者の取り調べが行われたにも関わらず、10人もの犠牲者を出した華城連続強姦殺人事件の犯人は、いまだ闇の中である。







刑事が連続殺人鬼を追う…といえば、ハリウッドで数々製作されるクライムサスペンスが浮かぶと思うんやけど、この映画は背筋の寒くなるような異色作。

猟奇殺人を追うのは、直情行動型の田舎刑事とクールな推理型の都会派刑事。

ここまでは、まあ日本でも相棒なんかで見る型通りのシナリオや。

ですが、この話はフィクションやない。

事件の舞台となるのは、ソウル近郊の長閑な農村地帯。

冒頭シーンで、手足を縛られ絞殺された女性が無惨な姿で横たわる側溝の脇を、子どもらがはしゃぎながら走り回っとる。

いやにリアルで気味悪い。

実際の事件をもとに作られとるだけに、生々しいグロテスクさとシニカルな視線、つまり映画ゆう非現実空間の中に現実の闇が見え隠れして不気味さを覚えさせる。



ストーリーについては、かなり詳細にAmazonさんの方で解説されとるんで今回は略させていただきます。

で、数年前に21人を殺害したユ・ヨンチョル事件、こちらも映画チェイサーのもとになったわけやけど、この事件の時も警察のヌルい対応が非難を浴びて、随分日本のメディアでも流されたよね。

殺人の追憶の中でも、証拠捏造、違法捜査、誤認逮捕…と、ソン・ガンホ演じる刑事のしょーもなさが描かれ、加えて後手後手に回る捜査を嘲笑うかのように繰り返される殺人。

観とる側も、あまりのダラシなさに何やっとんねん…て感じるんやけど、ストーリーが進むに連れ徐々に感じ方が違ってくるんよね。

特にラスト前の数分、とうとう真犯人を追い詰めたと思わせる展開で、証拠不十分で確保できないことにキレた刑事(キム・サンギョン)が容疑者に暴力をふるう場面。

それを押しとどめるソン・ガンホ。

不敵な笑いを浮かべ、トンネルの闇の中へと消えていく容疑者。



そして、ラストシーンでは、事件から数年が経ち、再び最初の死体発見現場である側溝を覗くソン・ガンホの姿を見た少女が、無邪気に呟く。



さっきも、おじさんと同じことしてる人がいたよ…




こういった、実話をベースにした作品は、遺族感情を考えるとかなり繊細な部分、あるいは嫌悪される部分もあると思います。

事件から既に20年経ってるわけやけど、当事者、被害者家族や容疑者として聴取された人たちの思いが消えるほど過去の話やない。

もちろん、事件を追った警官、そして犯人にとっても。

せやけど、そんな様々な思いが混じった20年が、法の上では時効ゆう結末を迎えてしまった。


各国で優れたエンターテイメントとして高い評価を受けた作品やけど、オレはあのラスト数分で見た刑事の怒りと失望に、ポン・ジュノ監督の正義感も見たと思うんよ。