勘右衛門のためなら死んでもいいっていつも思っていた。
自分の所にだけきた任務依頼書。眠ってる雷蔵の隣で月明かりを頼りに依頼書を読んでいくと何とも苦痛な依頼内容だった。
三郎はくしゃりと依頼書を握りしめて顔を歪めた。たとえ三郎が成績のいい生徒だとしてもやはり嫌な任務は行きたくなかった。
そんなときにいつも同じ顔を思い出す。またあいつだ。
「ちゃんと脱いだ制服はたたんで、着替えはそこにあるし、あと」
「もう!!大丈夫だよ三郎〜そんなことより気をつけてきてね。きっと三郎だけにってことは……」
「雷蔵、私は平気だ。」
いってきます、と三郎は部屋を出ていった。
廊下を歩いていると勘右衛門とばったり出会ってしまった。
三郎は 任務行ってくる、大丈夫だ簡単な任務だから
と言って不安げな勘右衛門に微笑みかけた。すると勘右衛門は笑って見送ってくれた。そして弊から三郎は外へと消えていった。
ひどい血の臭いに思わず眉を寄せる。そこは酷い戦場だった。
今回の任務は囮役である。それは決して得意というわけでも不得意というわけでもなかった。
しかし何度任務を受けても血の鉄の臭いや生臭さにはなれない。
三郎は深呼吸をして矢が飛び交い発砲音も沢山聞こえてくる戦場へと飛び出していった。三郎はわざと敵陣を挑発するようにホウロクヒヤを投げ込み自分の方へと敵の目線を向かせる。 あとは林へと行けばいい、ただそれだけだった。
しかし三郎は油断していた。
はじめから三郎に気付いていた者が林の中から三郎にむけて火縄銃を発泡させたのだ。
発泡音と同時に林からたくさんの鳥がザワザワと飛び立っていった。
「三郎が任務に失敗したらしい」
兵助から聞いた言葉がどうしても勘右衛門にはのみ込めなかった。微笑みをこちらにむけて出ていったアイツがなぜ?
勘右衛門は医務室に向かった。
「鉢屋……!!」
勘右衛門が医務室についた時には三郎の体には包帯が肩や胴体や顔にまで巻かれていた。どうやら伊作の話では、木に登った所で三郎は火縄銃で撃ち落とされ、そのはずみで木から落ちてしまい頭を打ち付け更には背中に矢が刺さっていたという。火縄銃はどうやら肩に当たったようで一命をとりとめることができたのだ。
こんな友人の姿など見たくなかった。勘右衛門はボロボロ涙を落とした。
「尾浜、鉢屋のことお願いしてもいいかな」
伊作がそう尋ねると勘右衛門はこくりと頷いた。伊作は医務室から出ていき、それを見計らうように勘右衛門は三郎のそばにかけよりそばから三郎の顔を見つめる。ぴくりとも動かない体に勘右衛門は涙を流したままただその包帯だらけの三郎の手に触れる、
ひやりとした。
その体温のなさに勘右衛門はどっと涙を流した。
「はちっ……!!」
しゃっくりがでて上手く名前が呼べない。しかしそれでも三郎の耳に届いたようでぴくりと指先を動かしうっすらと瞳を開いた。
「……勘右衛門?」
三郎のか弱い声で呼ばれる。勘右衛門は込み上げる感情を飲み込んで横になっている三郎の胸に頭を乗せた。
「死んじゃうかと思った」
「はは、それは私もだ。…こわかった」
あの三郎が弱音を吐いたことに勘右衛門は切なげな顔をしながらあやすように三郎の頬を撫でる。三郎は頬を撫でる勘右衛門の手をまだ怪我で震える手で握りしめてぼそぼそと喋り始めた。
「…私はいつも好きな者は死んでも守りたいと思っていた。しかし今日わかったよ、
もっと沢山生きたいって。それでずっと出来るだけ長く好きな者と一緒にいたいって思ったんだ。
勘右衛門と一緒にいたいって思ったんだよ」
死んでも守りたいなんてそんなかっこつけなんていらない。ただずっと一緒にいて生きる、それだけで充分幸せになれるのに。
勘右衛門はぐしぐしと涙を手で乱暴に拭って、そして頬を染めながら笑った。
おわり