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ノスタルジアの空(ジン)

秋晴れの日

わたしは長らく足を踏み入れていなかった地に戻ってきた

全く似つかわしくない青く澄んだ空の下、冷え始めた空気が肌を覆う

高級な匂いの車に包まれながら湿った倉庫に入って行けば、昔のわたしのように黒く黒く染まった彼らがいた



コツン コツン

足音を聞いて振り返る

誰だかわからないといった顔を見せる女や、驚いた顔を見せる男

寄せられる視線のその中で、唯一変わらない表情の男がいた



「お前も加わるのか」

あくまで仕事上のことしか興味のない男

無慈悲で無感情で無愛想で

しかしそう、この男を見ると、何故かわたしは



「えぇ、そうよ。久しぶりね貴方たち」

自然と笑みがこぼれた

かつてわたしもここにいた

同じ黒い服を着て、黒い車に乗り

そして男と会った



懐かしい、と言えば語弊があるかもしれない

しかしそれ以外の言葉をわたしは知らない

この黒い、目の鋭い、無愛想な男を見ると、わたしは郷愁を感じずにはいられない



「姐さん随分ここを離れてましたね」

子分の男が言う

「そうね。ずっと国外にいたから。何十年ぶりかしら?」

だからというのもあるかもしれない

眠っていた記憶が呼び覚まされて、懐かしい思い出を運んでくる



「何をやってたんだが、分かったもんじゃねぇがな」

それを感じるのが黒く染まった男であるというもの滑稽な話だが

「あら、わたしを信用できない?」

どうしても湧き上がる思いと笑みを禁じ得ないから

ここが、この場所が

わたしの故郷かもしれない
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