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紺から橙(ベン)

海賊をやっていれば、多くの人と出逢う
そして別れる

敵であったり、味方であったり
また次があるのかわからぬまま、お互い自由に流れていく

その中で、二度と再会できない別れをすることもある

病、寿命、相討ち
物言わぬ身体となって、この船を降りる仲間も、少なくはないのだ



それが海賊という生き方であり、この道を選んだ者たちの宿命

わたしはまだ慣れなかった

幾度となく繰り返されてきた別れなのに
どうも全て受け入れられなくて

毎回枯れるほど涙を流す

残った仲間といえば、同じように泣いて泣いて泣いて
しかしどこか納得しているように見える

自らが選んだ道だから、あいつも後悔ないだろう、と
お前のことは忘れない、と
雄姿を思い、泣いて、飲んで、追悼する

わたしは切り替えができなくて

いなくなったことが悲しい、寂しいと
最期の姿を思って、ただただ悼むのだ



そんなわたしの姿を見て
月光の下、優しい人が近付いてきた

「これは俺の考えなんだが」

聞いてくれるか、と隣に立ったのは、背の高いその人

わたしが目を腫らすまで泣き通すことを知っている人



長い影が、濃紺の海に溶ける



「逝っちまった仲間を思って、死ぬほど涙を流すことを、恐らくあいつらは望んじゃいない」



「自分たちのために、大切だった人が悲しむことを、あいつらは望んじゃいないだろう」



「お前が思うのと同じように、あいつらもお前のことが大事だったんだ」



瞬時に脳裏に浮かぶ、失った人たち
笑いあって、共に戦って、支え合ってきた仲間



「悲しむなとは言わねぇ。大切な仲間を失くすのは辛いことだ。ただ、いつも泣いてちゃ、天国であいつらが悲しむぜ」



賑やかで、宴会が好きで
いつも笑っていた、それらの影

泣いてばかりいるわたしを、どう思っていただろう



「あいつらを思い出した時は、感謝したらいい。今まで一緒に過ごせたこと、生きてこれたことに」

出逢いと別れ

海賊の性

悲しむばかりではなく、愛を



「俺たちが側にいるんだ。悲しみを乗り越えろ。涙を伴わない記憶になる日がくる」



今のように痛い記憶ではなく、優しさに包まれたものに

なるだろうか、できるだろうか

不安な視線を送ったら、切れ目の視線が温かく緩んだ



胸のつかえが取れていく



今すぐには、笑えないかもしれない

でも、天国から見守ってくれているだろう笑顔を思い浮かべれば、彼らのために笑っていけるような気がした



わたしには彼らも、今共に生きていく仲間もいる

どんなに沈み込んだって、引き上げてくれる仲間がいる

出逢い別れ、全てに支えられて生きている



ありがとう
海に散った仲間たちよ

今も今までもこれからも、あなたたちが大好きです

いつか笑って思い出すから、その時はきっと空から見ててください



夜が明けていく

春の囁き・下(平子)

わたしは書いていた
この溢れ出ずる思いを余すことなく、溢さぬように

『また書いてるんやな』

そう言って、笑ってくれる人はもういない

春の訪れと共に、桜のように、風に乗って消えてしまった



居なくなるまでは、不安、心配、喪失感
それらでいっぱいだったはずなのに、
時はそんなに甘くはなかった

容赦なくわたしの横を通り過ぎ、時に冷たく突き放す



ふと思い出して泣き濡れた夜もあるけれど

気付いてみれば、いつしか月日は過ぎていて
蝉の五月蠅い季節が訪れていた



『元気でやっとるか?』

そんな言葉を掛けてくれる人はいないけど
わたしはちゃんと、生きている

息を吸って、前を向いて



面影、思い出
それだけではない

彼の残していった痕跡の数々
後の者が困らないように
最後まで優しさを絶やさなかった人は

本当の最後に言ったのだ

「色々厳しいことも言ったけど、お前のこと好きやからな」

その一言があるから、今もわたしはやっていけている



厳しかったことなど一度もない
いつも優しすぎる眼差しで指導してくれた
甘やかしてくれた

決して過去形ではないその言葉が嬉しくて嬉しくて

男女の甘美な台詞ではないけれど
確かにわたしの支えになった



いつか成長したわたしの姿を、見せてあげたい

こんなに立派になりましたと、胸を張って

今はそんな目標を掲げて、遠い金色を追いかける

片道(ジン)

季節外れの雪が降った

何故か私は思い出す
何故かなど、分かりきっているけれど

白い雪に散る鮮血、そして薬莢の香り



彼は追い続けるだろう
自分が仕留めたい獲物を世の果てまで

私は止めない、止められない

彼の執着は別の所にあって、誰にも抑えられはしないのだ



私が執着を持ったあの雪の日
銃声の音と共に散った想い

終わる日が来るなら教えてほしい

その空いた穴に何だっていい
私の廃れた骸だって、何だって

詰め込んで塞いでみせるから

だから雪が降ったくらいで
そんな貌をしないで

恩師(平子)

「お前な、人と関わらなアカンで。人は人との関わりの中でだけ成長出来るんやから」

一世紀前
自分の殻から出ようとしなかった私に上司は言った

呆れたような、叱責するような
金色がそんな色で揺れたことをよく覚えている

それでもわたしが反感を持たなかったのは、その裏に心があったからだろう

一世紀後
この現代で
彼はどこにいるんだろうか

咎を背負い、目の前から消えたあの日から
広い背中を追い続けてる

部下の育て方を知った、聡明な人
その鋭い瞳には、きっと全てが映っていた

仕事の上だけではない
人として
生きていく中、大切なことを教えてくれた



もう上司ではないのかもしれないが
今や部下を持つわたしを見たら何を言うだろう

笑ってくれるだろうか
「よくやった」と

わたしは言いたい

貴方のお蔭で今ここに居ます、と

ご教授差し上げませう(大谷吉継・BASARA)

”恋人”とは不思議な誓約だ

血でも紙でも繋がっていないのに、強い絆がそこにはある

その為に強くもなるし、弱くもなる不思議な存在



わたしはその誓約が好きだ
とても神聖なものに思えるし、頼りにしている

しかし彼は違って、自分も他人も、約束も絆も、信用していなかった

だからこそ、珍しくて、愛しくて
わたしはその縁をあげたくなった

「大谷さん大谷さん」

「我の名を呼びやるな」

「吉継さん…?」

「呼びやるな」

何度蔑ろにされても諦めきれなくて、通って通って

漸く彼も、少しだけわたしを気にしてくれるようになった



「大谷さん大谷さん」

「一度で分かるわ」

この道のりはとんでもなく遠いだろうけど
楽しんでしまっているわたしがいる



わたしが信じる絆の強さ
どうかわかってほしい

貴方は独りなんかではなくて、繋がっているんだということ

愛されているんだと
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