「ナツちゃんは佐藤の相手しててくれるかな」
お菓子作りの日。
今日は唐突にそんな事を言われて、平介くんはキッチンから私を追い出した。
なんかショックなんだけど。
そう気を落としてソファに座っていると、横から佐藤くんが顔を覗き込んできた。
「ヒャッ!」
「ナツちゃん吃驚した!?」
「は、はい」
吃驚も吃驚だ。
突然の事に身を縮めた私の足は宙に浮いて……あ、下着見えた?
いや、佐藤くんそんな反応しなかったから大丈夫だと思う。
そんな私の頭を撫でて、佐藤くんはソファの隣に座って、私の膝の上に雑誌を乗せる。
「?」
それはメンズ誌で、私には縁のないものだった。
でも佐藤くんは真剣な顔をして、また私の顔を覗き込んでくる。
「ナツちゃんはさー、どんな男子が好きかなのかなーって思ってさ」
すごく清々しくそう言われて、思わず噴き出してしまった。
なんで笑うの!と両頬を手で挟まれて、グィと目線を合わされる。
流石にこの距離は恥ずかしいんだけどな。
「な、そんなことに興味あるんですか?」
「そんなことって!大事だよ!ナツちゃんのことだもん!」
ううん殺し文句だ。
佐藤くんは私でも気付くくらい、私に好意を向けてくれる。
そうして、両頬を挟まれたまま額をくっ付けられ……と思ったらボスッと音がして、佐藤くんはソファの背もたれに沈んでいた。
「?」
「チョーシに乗るな」
どうやら鈴木くんが投げたらしいクッションが佐藤くんに直撃していた。
「ナツも。あんま調子に乗るようなこと言うなよ」
「は、い」
少し殺気立ったような鈴木くんの言葉に思わず頷く。
「ちょっ!なんだよ鈴k…
「はいはい、お待たせ」
背もたれから復活した佐藤くんが鈴木くんに反撃に出ようとしたら、間に平介くんがお皿を持って身体を割り込ませてきた。
「!」
平介くんの持っていたお皿がテーブルに乗せられて、私の興味はそちらに移る。
佐藤くんも鈴木くんも同様だったみたい。
お皿に乗っていたのは、パンケーキ。
それも何段にも積まれていて、生クリームと苺で可愛くトッピングまでされていた。
「何してるかと思ったらコレだったのかよ」
「ナツといえばコレだよな」
そう。私は生クリームとパンケーキ、特に平介くんが作ったパンケーキが大好物だったりする。
「…でも、なんで?」
なにかの記念日でも、ましてや誕生日なんかでもない。
「あー、それは…
「俺が作りたくなってね、だから今日のお菓子作りはこれ」
佐藤くんが何か言いかけたのを遮るように、平介くんが言葉を紡ぐ。
「はい、ココアも」
「え、ありがとうございます…」
なんだろう。労られている…。
ホットココアを受け取って、取り皿を取りに行った平介くんの姿を目で追う。
「はい、ナツ、口開けて」
「ん?ぐっ」
鈴木くんは振り向くと同時に、私の口に苺を押し込んできた。必然的にあーん状態。
それを見ていた佐藤くんは、何故か闘志を燃やしていた。
言い合いをしながらも、パンケーキを4人で囲む。
鈴木くんと佐藤くんが言い合いをしてる中、ふと平介くんと目が合った。
「元気出た?」
口パクに近いほどの小声でだったけど、それはしっかり私に届いて。
涙が出そうになった。