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都筑。思い当たらない。





「あ」
「えっ、都筑さん!?」



死後数ヶ月。
俺は閻魔様の第二補佐官として仕事をこなしていた。
そんな中で、思いもよらないハプニング。

今日も亡者が連れて来られたと思っていたら、それは生前の同期だった。


「何、お前なんで死んだの?」
「アルコール中毒!」
「あー」

「なになに、都筑くん知り合い?」
「あぁ、はい。生前の同期です」

閻魔様が興味津々で俺たちのやり取りを眺めていて、その横で鬼灯様が厳しい顔でこちらを見ていた。

「最近は若者の亡者も少なくありませんからね」

都筑さんがいい例です。
そう言い放った鬼灯様はどこか不機嫌だ。
確かに、俺あっさり死んだけどさ。

「…都筑さん、此処で働いてるんすか?」
「あぁうん。拾ってもらえてさ」
「それって俺にも…」
「貴方は審判を受けてもらいます」

容赦なく鬼灯様が会話をぶった切ってきた。
うん。今日の鬼灯様は機嫌が悪い。

同期はひと昔、女性のヒモだったり、借りパクとか、小さい罪が重なって、地獄行きが確定した。



「なんか今日の鬼灯くん、厳しかったねぇ」

閻魔様がそう言って、俺が用意したお茶を一口。

「お、今日のお茶はまた一段と美味しい」
「現世で手に入れて来たんですよ。俺もお気に入りで」

そうやってのほほんとしてたら、やはり何処か機嫌の悪い鬼灯様が資料を片付けて戻ってきた。
本来なら俺の仕事なのに、今日に限って鬼灯様が買って出たのでお願いした次第。

「ねぇねぇ鬼灯くん。なんで今日は機嫌悪いの?」

閻魔様、それ地雷です。

案の定、閻魔様は鬼灯様の金棒で頬をグリグリされてた。




…なんでだったのかな。

都筑。帰るところ。




「…引っ越し、ですか」
「えぇ、都筑さんをいつまでも寮に置いておく訳にはいかないので」
「は、はぁ」

突然の申し出だった。
確かに、俺は獄卒の方々と同じ寮暮らしであったが、特に不便を感じた事はなかった。
なのに、突然の引っ越しとは…。
しかもその引っ越し先というのは、鬼灯様たちと同じ閻魔殿の一室で。

元々、そう荷物は多くなかった俺はだけど、引っ越しとなれば、部屋丸ごとである。
一日がかりだよなぁと思っていたら、なんと鬼灯様自ら手伝いを買って出て下さった。
ついでに、茄子さんと唐瓜さんも。
現世とは違い、「トラック」というものがないので、荷物を積んではリアカーを引く。
そんな作業を繰り返した。
流石に鬼灯様にリアカーを引かせるのは気が引けるので、そこは自分で頑張った…が、冷蔵庫や洗濯機などの大型家電は諦めて新調しようと思っていたら、鬼灯様がなんなく運んでしまった。
大変申し訳ない。

取り敢えずの、引っ越し作業は朝から始めて夕方には終わった。
手伝ってくれた鬼灯様や茄子さん、唐瓜さんには申し訳なかったので、その日の夜は花街で慰労会を開かせてもらう。勿論俺の自腹だ。

「本当に皆さん、今日はありがとうございました」
「いえ、こちらの都合で引っ越させたので気になさらないでください」
「はーい、俺も都筑さんの私物見れて楽しかったしー」
「本当にエロ本とかないんすね」
「唐瓜さん、そんなの期待してたんですか?」

冷たい視線が唐瓜さんに集まったところで、店の扉が開いて、閻魔様が入って来るのが分かった。

「あれー?鬼灯くんに都筑くんじゃない」
「…チッ」

え、鬼灯様、今舌打ちしたよね?

「なになにー?僕も一緒にいい?」
「今日は都筑さんの慰労会です、他所当たってください」
「えー、酷いよ鬼灯くーん」

あくまで、閻魔様は一緒に飲みたいらしい。
茄子さんも唐瓜さんも異論はなかったので、同席に賛成してしまった。そしたら鬼灯様の2度目の舌打ちを頂いた。

引っ越しの話になって、そういえば都筑くんはまだ寮にいたんだったね、と言われ、「まだ」という言葉に首を傾げる。
そもそも、補佐官ともなれば閻魔殿に住むのが普通らしい。そんなルール知らない!

改めて、補佐官という責任を感じながら、酒の入ったコップに口をつける。
その辺りから、茄子さんが眠そうだったので、帰宅を促した。唐瓜さんに支えられながら、2人が退席して、鬼灯様と閻魔様の3人で飲むことになった。
閻魔様から鬼灯様の昔の話を聞いたり、盛り上がったのは閻魔様だけで、俺はただ相槌を打つしかなかった。
そして、程よく酔いが回った頃、閻魔様のお孫様自慢が始まろうとした時、鬼灯様が俺の手を掴んで立ち上がらせた。

「閻魔様のお孫様自慢はエンドレスですからね」
「えー、酷いよ鬼灯くん」
「そうなる前に私たちはお暇します」
「えー!」

閻魔様を少し可哀想に感じながらも、痛いくらい強く掴まれた手は振りほどく事もできず。


なんだか慣れない、閻魔殿の俺に与えられた部屋に戻る。
段ボールの山をいつ片付けるか、そんな事を考えながらシャワーを浴びて最小限広げていた布団にダイブする。



疲れた。

風弥。突発。



お兄が所属してる俳優集団の仲間が結婚したそうだ。
歳はお兄より上、という事しか情報はなかったけど、なんともめでたい事だね。

となると、必然的に「結婚式」というものが付きまとう訳で。

その結婚された方は仲間内だけで式を挙げる予定だったらしく、服装はラフな格好でと、招待状が届いていた。



…それがどうして俺まで呼ばれる事になったんだ?

萩野。弱り目に祟り目*。


「案外抜けてるね」
「それは…」
「否定できないでしょ?」
「ぅ…」

言葉通り否定はできなかった。
バスケ中に飛び出して来たねこを避けて足を捻ったなんて…。
将治には爆笑されるし。少しは心配しろよ。

で。

翌日、家に帰ると何故か辰川さんがやってきた。
挨拶もそこそこに部屋に入ってソファに座ってもらおうとすると、腕を掴まれて俺の身体がソファにダイブ。
捻った足を庇ったから、それはもうキレイなダイブだったと思う。
頭に来るべき衝撃は、辰川さんの手で塞がれていた。

「いって」
「ごめんね?」

辰川さんは口では謝っていたけど、全然そんな態度じゃないし。
なんなら今から攻撃でも仕掛けようといった具合の目付きだった。
腹に跨がられて、絶対反撃できない状態。

「ほら、アキくんさ、弱ってないと食べれないじゃん?」
「は?」
「いや俺としては活きが良いのを無理矢理ってのもいいんだけど、」
「や、何を言ってんですか?」

だからさ。
そう耳元で囁かれて思わず背中に嫌な汗が流れる。
ニヤリと口角を上げた表情に、本能がヤバいと感じ取る。
慌てて辰川さんの下から抜け出そうとすると、後ろ手に捻挫した患部を掴まれて、抵抗できなくなる。…捻挫ってこんな痛かったっけ?
出そうになった声を噛み殺して、辰川さんを見上げる。
綺麗な顔が欲に塗れて歪んで見えた。
離された足はまだ痛みを覚えていて動く事を拒否していた。

スッと顎を掬われて、下唇を親指で押さえられる。その感触が気に入ったのか何度かそれを繰り返して、それからキスされる。
下唇を押さえられたせいで、口は半開き。迷う事なく辰川さんの舌が俺の口の中を荒らす。
歯列をなぞられ、引っ込めた舌を追うように辰川さんの舌が奥に入り込んで、捕えられた舌を絡められる。
逃げるたびに深くなる口付けに、頭がボーッとした。

口付けを楽しみながら、辰川さんは器用に俺のシャツのボタンを外す。下に着ていたタンクトップもたくし上げられて、上体が震える。


「これから、なにするか分かるよね?」


唇が離して、そう言って笑う辰川さんの目の奥は笑っていなかった。

伊剣。はじめよう。



「ねぇ、付き合ってよ」
「え、何処に?」
「そうじゃなくて」
「ん?」


はて。越前くんの言うことは唐突だ。
だいたいは付いていけない。
今回も同じで。
付き合うと言えば、放課後スポーツショップだっり、ちょっと買い食いだったり。
でもそれなら同じ部活の先輩とでもいいはず。
なんで俺なんだろう。

不思議に思っていると、こういう事だよと、頬にキスされた。


「え?えぇ!?」


驚きの余り、大きな声を出してしまったが慌てて口を手で塞ぐ。
クラスメイトは一瞬こちらを見たが、なんだお前らかと言わんばかりの視線に変わり、すっと目を逸らされた。
それはそれでどうなの?


「で?どうなの?」
「あ、あー…」

突然の告白に、答えなんて持ち合わせてなくて、慌てる。
それを見ていて愉快なのか、越前くんは意地悪な笑みを浮かべていた。

「NOなんて言わないよね?」
「えっ?」
「そんなの俺が許さないから」
「な、なにそれ」
「それとも他に好きな奴でもいんの?」
「…いや、そういう訳では」
「じゃぁ決定ね」
「えっ、えぇ!?」


そう言った越前くんはさぞ満足気に、また俺の頬にキスしてくる。
キス魔なのかな、越前くん。


後で知ったんだけど、周りからはもう付き合ってるんだと思われていたらしい。
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