2009-7-31 12:30
今朝通勤途中で、ゴミ漁りをしていた鴉と目が合って、「何見てんだコルァ!?」ってな勢いで下から睨みつけられましたよ。しかも、首傾げて。コワいよ!!
あの鴉、絶対ぇヤンキーだよ!!
ともあれ、陽野は鳥類って何か苦手です。鴉とか近くで見ると意外に大きいし、あの脚とか駄目ですね。鷹とかは割りと好きな方ですが、やっぱりこう何考えてんのか解んない、若干感覚違いそうな感じが可愛いなあと思えません。
でも、お肉は一番チキンが好きです(ヲイ)。
『俺って大人げないなと自覚出来るうちはまだマシA』
「銀さん……いくら何でもこれはやりすぎなんじゃないですか?」
「いや、今は何でも明記しとかないと文句言われるから。曖昧表現とかオブラートに包んだ物言いとかも、事実と違うって叩かれるしね」
「って言うか、わざわざ狭いうちに連れて来るなんて馬鹿アルよ」
「仕方ないじゃん。これじゃ仕事出来ないんだしさ」
わやわやと騒がしい声で、土方はふと眠りから引きずり出された。まだ身体の感覚が他人のものであるような違和感が否めない。
――何で俺は万事屋にいるんだ……?
茫洋とした思考を手繰り、はっと思い出す。銀時がくれた差し入れを食べて以降の記憶がない。
――あの野郎……一服盛りやがったな!
一発殴ってやろうと気怠るい身体を奮い立たせて、土方は起き上がった。その瞬間、ジャラ……と耳障りな音に行く手を阻まれる。
「わんわんわんっ(何だこれ)!?」
首輪とそれに繋がる鎖が、土方の自由を大幅に制限していた。そして鎖は、多分万事屋の家具類で一番重いであろうソファーの脚に結わいつけられている。
けれど、目覚めたら突然繋がれていると言う異常事態よりも遥かに強く、土方は自分の口から出た音にぎょっとした。
犬の鳴き声――記憶が蘇る。
お遊びで猫耳をつけていた銀時が、数日間猫になっていた時のことを。
嫌な予感を振り払いたいがために、土方は自分の頭に手を伸ばした。そこには予想通り、あるはずのない三角耳がにょっきりと顔を覗かせている。思わず血の気が引いた。「土方君お目覚め?」
銀時の声が頭上から降ってくる。顔を上げると、ニヤニヤと実に楽しそうに笑う銀時の顔があった。その両隣には、どうするべきなのか困ったような顔の新八と、明らかに面白くなさそうな顔の神楽がいる。
――やられた……
どうやら銀時は自分にこれをつけるがために、わざわざ差し入れまで用意して睡眠薬を盛ったようだ。こんな悪戯をされる心当たりは残念ながらいくつか思いついてしまったが、まあ多分前回の大ゲンカのことが原因だろう。
――我ながら俺も大人気なかったしな……
聞かれないように小さく溜息をつき、土方は銀時の気がすむまで付き合う覚悟を決めた。仕事に支障を来たしてしまうが仕方がない。どうせ飽きっぽい銀時のことだ。2、3日で解放されるだろう。
「やっぱりね〜。土方君は犬耳似合うと思ったんだ。はい、お手してごらん」
「(誰がそこまで付き…合うかっ!! 恰好だけだよ、恰好だけ!!)」笑顔と共に差し出された銀時に手を、土方は思い切り叩いて怒鳴りつけた。
自分が猫耳をつけていた時は『ただのコスプレだよ』というポーズを貫いていたくせに、こちらにだけ動物としての習性を強いるのはフェアでないと思う。
――大体それを言うなら、俺に自分が主人であることを教え込まないと無理だろう……
犬たちだって愛想で芸をする訳ではあるまい。
そして多分それは銀時には不可能だと土方は思った。銀時は何より大事な存在ではあるが、自分の主人にはなりえない。己が頭を垂れるべき存在はただ一人だけだ。
威嚇の表情を浮かべると、案の定銀時のこめかみに怒りマークが現れた。「あ、そう……ふーん。そんなこと言ってくれちゃうんだ」
ぷいっとそっぽを向いて、銀時が宣言する。
「土方君今日晩御飯なしね」
「(………………っ!!)」
少しだけ後悔をしたが、自分のプライドを譲ることも土方には出来なかった。
――それにしても……相変わらずセンスねえな……
土方は自分の周りを囲っている手作りの犬小屋を見遣って諦め半分で溜息をついた。
段ボールを組んで作ったのだろうそれは、工作としては上々の出来栄えだったが、実際に使うと言う点から鑑みれば甚だ怪しい強度の代物だった。おまけにネームプレートには銀時の癖のある字で『トーシロー(狂犬注意)』と書いてある。
――全くガキの遊びもここまで来ると悪趣味だな……
自分への嫌がらせは全力投球の真剣勝負を辞さない銀時に、土方はほんの少しだけへこみそうになる。一時は本当に嫌われているのかと思ったが、どうもそうではないらしい。寧ろ、そうした悪戯が激しければ激しいほど、捻くれた好意を向けられているのだと最近理解した。当の本人はそんな土方の気持ちなど知らずに、呑気な顔をしてソファーに寝転がっていたが。
ページを捲る音に、珍しいこともあるものだと(今日はジャンプ発売日ではない)頭を持ち上げてみると、銀時が読んでいる本の背表紙が視界に入った。曰く、「飼い犬のしつけ方」。
「(……………………)」
思わず眉間に皺が寄ったのを自覚した。するとその気配が伝わったのか、銀時がこちらへ視線を投げかけてきた。
「これ、神楽が定春拾ってきた時に買ったんだけど、全然役に立たなくてさ。まさかこんな風に使う日が来ようとはね」
――コイツ噛みついてやろうか……
ニヤニヤと意地悪く笑う銀時に、土方はギリギリと煮えくり返りそうな腸を噛み締めた。
その時、新八が台所から鍋を抱えてやって来た。「夕飯出来ましたよ」
「わお、今日は豪勢アル!」
「中身野菜だけだから……そんなに喜ばれると心苦しいかも」
飛び上がって喜ぶ神楽に新八が苦笑した。そしてふと、銀時と土方の間に流れる険悪ムードに眉を寄せる。
「どうかしたんですか?」
「んにゃ、別に。わんこがただのニコチン切れだよ。全くこの前は禁煙してやるとか大見得切ってたけど、やっぱり無理みたいだね」
――禁煙するとは言ってねえよ……
心中で銀時の言葉を訂正するが、土方の声は誰にも届かないのであった。「まあ、土方さんくらいのヘビースモーカーになると、禁煙って難しいでしょうね。始終煙草くわえてますもん」
「でも、喫煙は幼児性が抜けてない証拠だって言うよね」
「って言うか、今の姿で煙草吸ったら鼻が曲がって死ぬアルよ」
ダラダラと話しながら鍋をつつき合う万事屋一行。その姿はさながら一つの家族団欒のようで、土方の中の郷愁を誘う。まだただの浪士であった頃の時代を思い出すが故に。
ふと、土方の腹が鳴った。
→続く