2011-1-30 16:03
九州限定のお酒で『金しろ』と『銀しろ』と言うのが出来たらしくて、店頭に並んでポスターが貼ってありました。
…………買わなきゃ!!
いや、お酒飲めないんですが。
何かこう――誘われた気分です。貴方ならどうする〜♪って古いCMの歌が聞こえそうです。
だって金ちゃんと銀ちゃんだよ?しかも、下についてるのが「しろ」って、双子の息子かああああああっ!?って狂喜しましたからね、店頭で(お前馬鹿だろ)
『背徳の十字架〜罪の後先〜F』
※グロ表現あります。
「は……そりゃ残念だったな」
熱い空気が肌を舐める。
夜闇にも紅く炎が上がる様が映えた。すぐに真選組が駆け付けるだろう。それまでに、始末を着けねばならない。
「俺とヅラはな……高杉に『今度会ったら全力でぶった斬る』って宣言してあんだよ。アイツがこの世界を全てぶっ壊すつもりでいる以上、共に闘う日なんざ永久に来ねえ」
「どうかな……?」
「何?」
「アンタは――『坂田銀時』はそのつもりでも、『白夜叉』はそうじゃないかもしれない」
逆袈裟に斬り上げられる切っ先。弾いて、踏み込む。
かちっ!
――ここもか……!?
瞬間、上がる爆発。
田中は自ら埋めただけあって、地雷の位置を正確に把握していた。銀時が踏み込むその場所に起動スイッチが来るように、誘い、立ち回る。
しかし、銀時は後退せずにさらに踏み込んだ。
「………………っ!?」
それは恰も炎の中に自らを投ずるような無謀な動きだ。予定調和を崩された田中が小さく息を飲む。
「いつまでも後ろばっかり見てんじゃねえよ」
進め進め進め。
それが架された使命だ。
生き残った者の責務だ。
「昔と同じものを作ろうったってなあ、かつての面影をなぞろうったってなあ、一度失敗したものは次だって上手くは行かねえんだよ!ましてや、それがあの頃よりも歪なものなら尚更だ!!」
「アンタは……忘れちまったなんて言わせないぜ!あの時の絶望を、あの時の怒りを……堪えられるなんてのは嘘だ!」
日に日に減って行く仲間とは裏腹に、増え続ける墓標を。
飢えと瀬戸際に立たされた命の危機感を、抱え続ける緊張感を、やるせなさと無力感を、血の滾りと暴力的な衝動を、怒りと憎しみを、全てを失い踏み躙られた哀しみを。
「忘れてなんかいない。忘れる……はずがない」
今この瞬間にも、昨日のことのように記憶が蘇る。日常のふとした瞬間に、何でもない光景に魂が揺さぶられる。
硝煙、火薬の匂いが悲鳴や怒号を連れて来る。一人一人の仲間の顔を覚えている、なんてことはないけれど、それでもあの時あの場所に立っていた記憶は色褪せない。
例え時が経ち、それが過去の出来事として忘れられて行こうとも、自分だけは、自分の罪だけは忘れてはならない、と銀時は思っている。
同朋たちと同じだけ――いや、それ以上に奪った命を忘れてはならないと思う。
「は……アンタにとっては、あの闘いは罪だってことかい」
「違う!だけど、俺にはもう剣を向けるべき相手がいない。もしいるとするなら……それは俺たちの世界を壊そうとするやつだけだ」
大切なものがたくさんある今は、単身で無茶も効いたあの頃とは違う。不満しかなかった昔とは、圧倒的に立場が違う。
やるせなさや怒りや哀しみやその他諸々の感情よりも、目の前にある幸せを大切にしたいと思う。
それは実に都合のいいことだとは思うけれど。
もう世界を変えようとするには余りにも時間が経ち過ぎていて、銀時にはそれだけの気力がない。終わってしまったものを今更覆すだけの感情がない。
「俺は今を生きてんだよ」
だから、これ以上邪魔をしないで。そっとしておいて欲しい。何度も何度もかつての話を聞いたと言う攘夷志士が自分の元を訪れるたびに、銀時は叫びそうだった。
「俺はもう白夜叉じゃない!!」
あの時、土方が『斬って』くれたから、白夜叉は死んだのだ。今、ここにいるのは『万事屋の坂田銀時』なのだ。
例え田中を斬ることになろうと、それだけは変わるつもりはない。夜叉の心意気は持てども、白夜叉に戻るつもりはない。
「だから俺はお前らとつるまない。それでも連れて行こうってんなら、全力で抵抗するぜ」
「……残念だよ」
田中が大きく愛刀を振り上げたその時、一発の銃声が夜闇を斬り裂いた。それに導かれるように爆発が起こり、田中の刀を持った手がクルクルと宙を舞った。鮮血が噴き出す。袂に隠していた爆弾を撃ち抜かれたのだ。
「な……っ!?」
「真選組だ!!ご用改めである、神妙にしろ!!」
聞き慣れた低くよく通る恋人の声が波止場に響いた。
辺りはいつの間にか灯光機で照らし出され、グルリと隊士に取り囲まれている。全員がバズーカや小銃を構えていた。
「土方……」
「土方あああああっ!!」
落ちていた腕から刀を取り、田中が正面の土方に飛び掛かる。
ギッ、と銀時の双眸が一際鋭くなった。土方を背後に庇い、落ちて来る刃を受け止めようと迎撃体勢を取る。
が――
ドンっ!!ドン、ドン……っ!
次々と放たれた弾丸が田中の身体を穿った。空中で避けたり弾いたりなど――それこそ銀時や高杉クラスの化け物じみた反射神経でなければ出来ようはずもない。
自らの服に仕込んでいた爆弾が仇となり、田中はボロ屑のようになって受け身も取れずに地面に叩き付けられた。
土方は、ユラリと紫煙をくゆらせたままだ。
呆気に取られたような銀時の視線も意に介さず、冷たい眼差しで攘夷浪士を見下ろす。
「卑怯者、が……」
「何とでも言え」
「土方……」
「女子供を平気で標的に出来るテメーらみたいなクソヤローに何言われたって、どうってこたあねえよ。卑怯者で結構。俺たちの仕事は刀で斬り合うだけじゃねえ」
「お前らみたいなのがいるからだ……お前らみたいな似非侍がいるから……っ!!」
「テメーは生まれ変わったってこいつのことを理解なんて出来ねえよ。地獄で閻魔相手にほざいてろ」
ぶしゃあっ!
翻った土方の刀が、寸分違わずに田中の首を落とした。
→続く
副長は目的達成に手段を選ばない。