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04.声も出せずに(恋→織)

あかね空。
放課後の教室に。

恋次くんと朽木さん。




映画やドラマのワンシーンみたいだった。




朽木さんの真っ黒な髪が、夕陽と対比になって。

ものすごく、綺麗だったの。






敵わないよ。


だって、
強くて優しくて、綺麗な朽木さん。

大好きなんだもの。






「井上さん?」
「あ、なぁに石田くん」


石田くんは、細くて長い指をすっとあたしの膝元に。


「スカート、一緒に縫っちゃってるよ」


少し申し訳なさそうに、石田くんは指を曲げた。


「わぁ、あたし何してるんだろうね!?」


大変だぁと、裁縫箱をガチャガチャと。


「あれ、何処やったっけなぁ?」
「井上さん」
「え?」
「目の前の針刺しの傍に、リッパー置いてあるよ」






あぁ、
これじゃあ、いかにもさっき何かありましたって言ってるみたい…






夕飯の献立考えててうっかりしちゃったとか、言ってみようかな。

う〜ん、かえって妙かな?


「井上さん」
「あー、あのね石田くん」
「今日はもう帰ろう、どうせ二人しか来てないし」


さっさと、帰り支度をする石田くん。

あたしが、動けずにいると。
石田くんは、家庭科室の戸締まりを着実に済ませてく。




「石田くん、」
「何だい、井上さん」


「ごめんね、あたしのせいで部活早く終わらせることになっちゃって」


石田くんは、カーテンを閉めるところで。

あかね空が、ゆっくりと隠れていく。




「調子が出ない時に無理しても、満足のいくものは作れないよ」




だから、気にすることはないよって。

やっぱり、石田くんは優しい人。






ガチャ。


「じゃ僕が鍵返すから」
「あ、あたしも一緒に行くよ!」
「一人で大丈夫だよ、それに…」


石田くんの視線が、あたしのさらに向こうの廊下に。


「多分、彼は井上さんに用があるはずだからね」


じゃ、また明日と。

石田くんは、暗くなりはじめた廊下の向こうに消えていった。




「おい」




石田くんの言った通りだね。
すごいや。


「おいじゃないよ、お…」
「織姫」




うん、そうだよ。
恋次くん。




「話がある」






今日の土手は、もう宵の口。

藍色のグラデーションが、泣きたいくらい綺麗だね。


「恋次くん」
「何だよ」
「天の川」


すぅっと空を指せば、恋次くんの瞳もそっちへ。


「すげぇな」
「うん、すげぇよね」


今夜は、きっと熱帯夜。

今も、じんわりと湿気が鬱陶しい。




「話、」
「うん」


夜の空から、恋次くんへ。
意識を向けたら。






あの夜の恋次くんがいた。






あの夜には、もう夢でしか会えないんだって。

あの夜は、もう戻ってこない過去にあるんだって。

あの夜の恋次くんは、






自惚れてもいいの?






ねぇ、恋次くん。





(言い表せない程に君が、)

03.信じたくない(恋←織)

朝が来て。
乱菊さんと冬獅郎くんに、おはようを言って。

いつもの毎日が始まる。






教室には、茶渡くんがいて石田くん。
それから、たつきちゃんに千鶴ちゃん。




そして…




「うっす」
「おはよう、恋次くん」


おやすみと名残惜しげにキスして別れたのは、そんなに前じゃない。


ねぇ、恋次くんは眠れた?
あたしは、幸せな夢を見たよ。

どんな夢だったかは、忘れちゃったけど。
でも、幸せだったんだ。






赤い髪が、こっくりコックリ。


あ、沈んだ。


くすくすと、声を殺して笑うと。

赤い髪がぐるっと回って。
顔がこっちに。




笑うな。




そんな姿が、余計に可笑しくて。


「井上?」


隣の席の黒崎くんが、いぶかしげに。


「恋次くんがね、」
「恋次?」


うんと、視線をもう一度恋次くんに。

そしたら、ちゃんと鉛筆を握って板書してた。


「ちゃんと授業受けてるぞ」


あれ〜?


黒崎くんの視線が、あたしに戻ったその瞬間。

また、赤い髪がぐるりと。




ばーか。




恋次くんって、意外とお茶目だよね。


「ごめんね黒崎くん、気のせいだったみたい」


恋次くんへ視線を向けたまま。
黒崎くんは、不思議そうにあたしを見てた。






放課後部活に行ったら、忘れ物に気が付いて。
石田くんに、教室に行ってくると一言。

慌てなくていいから、怪我しないようにって。
優しい人だよね。




でも歩いていくのも、何だかしっくりこなくって。
自然と小走りに。

窓から見えたたつきちゃんが、走ってたからかも。




パタパタと軽快に、廊下に響くあたしの足音。

おっとっと、通りすぎちゃうとこだった。
いけない、いけない。


ドアに、手をかけようとしたら。


あかね空の教室に。






恋次くんと、朽木さん。






一瞬、息が詰まって。

手も止まっちゃって。




そしたら、
恋次くんの優しい笑顔が、朽木さんに。






あたしの手が、空中にぶらんと落ちて。


一瞬、
ううん、一秒。




世界が止まった気がした。




音も色も、何もかも消えてしまったような錯覚。


気付いたら、何処かへ走ってて。
涙が出そうな気がして、余計に足を止められなかった。






分かってた、筈なのに。






あの夜、
あたしは朽木さんの代わりで。

恋次くんは、黒崎くんの代わりをしてただけ。




あの優しい笑顔を、ほんの少し向けてもらえただけだったのに。

あたしはどうして、あたしだけのモノだとか思ってしまったんだろう。




確かに、あの夜の間はそうだったと思う。

紛れもなく、
あたしは恋次くんに、キスをした。

黒崎くんの代わりだなんて、少しも思ってなかったよ。





目の前の恋次くんが、愛しかった。






だから、恋次くんもそうだったんだって。


そう信じたかった。






信じてたかったんだ、




恋次くん…






(夢にしたくないあたしを許して)

26日・27日レスポンス

拍手ありがとうございます!
生きる糧です〜


どれもさいこーですよ!〜の方
→マジですか!?
ありがとうございます!!
きゅん死になんて、桐島なんかの駄文にはもったいないお言葉ですっ
頑張りますねv


かしこさん
→こんな辺境の辺境へようこそ;;
来てくださるだけでも嬉しいのに、コメントまでっ
ありがとうございますv
こっちも、ちまちまやっていこうと思ってます。
気が向いた時にでも、来てやってください!

02.一夜の恋愛(恋→←織)

乱菊さんが、すっかり寝入ったのを確認して。
冬獅朗くんに気付かれないように、そっと家を抜け出した。




何処へ行こうか。




夜の公園は、明るいけど淋しいし。
夜の学校は、ほんのちょっぴり怖いし。


どうしたものかと歩いていたら、あかね空の霊圧に足を誘われて。






「こんばんは、恋次くん」


浦原さん家の屋根の上の彼に、夜の挨拶。

あたしの姿を見てぎょっとした恋次くんは。
こんな時間に何をしているんだと、慌てて降りてきた。




「散歩したい気分だったの」


乱菊さんの胸で思い切り泣いたのだけれど。
でも、全てを涙にすることは出来なくて。


「恋次くんこそ、こんな時間に屋根の上にいるのはどうして?」
「馬鹿言ってねぇで、送ってやるから帰るぞ」


乱菊さんが心配していると、あたしの腕を掴んだ恋次くん。

いつものあたしなら。
わぁとか引っ張られたことに驚きつつも、ちゃんとついていくのに。


今日の、
今夜のあたしは、出来なくて。




「井上?」
「織姫だよ」






的はずれもいいとこな返事。
でも、恋次くんは何も言わなくて。

だけど、腕を放してもくれなくて。




元々よろしくない目元を、すぅっと細めた。






その瞳の色に、少し、
ほんの少しだけ、縋りつきたい衝動に駆られた。






「恋次くん、髪はいつ降ろすの?」
「寝る直前」
「ふぅん」




放課後の土手、また恋次くんと。


今夜は、熱帯夜には程遠くて。
少し肌寒い。

だから、今度は肩を並べて座った。


少し高い恋次くんの体温が、温かくて心地良い。






恋次くんは、何も訊かない。

あたしのくだらない質問に律儀に答えて、時折視線をくれるだけ。


だからあたしも、甘えて何も言わないでいる。




「泣いたのか?」




急に、
本当に急に、大きな手で目尻を撫でられた。

言われたことにも驚いて。
二倍驚いてしまった。




「な…んで?」
「そんな気がした」




大きな手が、武骨な指が、
目尻を掠めて、頬を伝った。


優しい彼は、気付いたのかもしれない。






「あたし……」
「ん?」
「恋次くんの手、好きだなぁ」


あたしの左頬にある恋次くんの右手に、あたしは触れた。




お兄ちゃんとは、また違う手。

でも、何だかほっとする。
そんな温かさ。




「お前の手、冷たいな」
「うん、心が冷たいからかも」
「はぁ?」
「心が冷たいから、手まで冷たいんだよ」


暖をとるように、恋次くんの手を包み込んだら。


「俺は、心が温かいからって聞いたぜ」


あたしも聞いたけど。
でも、やっぱり信じられないよ。

だって、
優しい優しい恋次くんの手は、とても温かいでしょう?


「恋次くんの手が冷たくなったら、信じてあげる」
「何だよ、それ」
「信じないってことだよ〜」


恋次くんの手を握り締めて、口元に持っていって笑えば。
笑うなと、右頬を抓られた。


「痛いよ、恋次くん」
「お前が笑うからだ」


へっと笑うその顔が、何だかとても愛しくて。

今日初めて、優しく笑えた気がする。






「苦しいよ、恋次くん」
「悪ィ」




でも、抱き締められた腕の力は。
一向に抜ける気配はなくて。

苦しいけど、
苦しいんだけど、温かくて。

窮屈感に、満たされて。


恋次くんの背中に、あたしの指がそろりと伸びる。

きゅっと、恋次くんの服を握ったら。
逞しい腕が、少し緩んで。

恋次くんの顔が、耳元に。






「織姫」






低くて、
素敵な声だということは、重々承知していた筈なのに。

耳元で囁かれる声は、また格別で。

そんな甘くて痺れるような声で名前を呼ばれてしまったら、目を瞑るしかないわけで。




唇が重なる直前に、恋次くんと名前を紡げば。
優しく頬を撫でられて。






ねぇ、恋次くん。

これは、気紛れなのかもしれないけど。
でも、さ。

今は、
キスしてるこの瞬間は、間違いなく恋をしてるんだよね?




キスは、どんどん深くなっていったけれど。
妖しさは少しもなくて。

ただ、
ただ丁寧に愛された気がしたよ。




離れては、またキスをして。
言葉を交わしては、またキスをして。




「ねぇ、恋次くん」




好きだよって言葉は、吸い取られてしまったけど。


伝わったよね?






(嘘なんかじゃないよ、今夜だけは)

01.手の届かぬ人(恋+織)

彼に恋したことに、後悔はない。

叶わぬ恋であることは、悲しいけれど。
彼があたしじゃない誰かを選んだ姿を目の当たりにしてないから、まだ幸運な方なのかもしれない。

失恋してるんだから、幸運なんて言葉相応しくない気もするけれど。


そう真剣に、隣の彼に言ったら。
井上は強いなと。

彼は力なく笑った。




赤い髪が、少しだけ揺れて。
私の髪も、少しだけ揺れた。




所謂、あの世で出逢ったあたしと恋次くん。
そして、この世で再会した。


嬉しかったんだよ。

だって、
恋次くんが、あたしの世界に来てくれたから。






「そーいや、さ」
「なぁに?」




「一護は黒崎くんなのな、お前」



少しだけ、ドキッとした。




そうだよね。
不思議だね。

恋次くんは、恋次くんなのにね。






「恋次くんだって、」
「は?」
「乱菊さん、雛森、井上」
「………」




ほら、朽木さんだけでしょう?




意地悪に聞こえそうだったから、言わないけど。








夕陽が、土手の川に沈んでく。


赤いね。
恋次くんみたい。


「何だよ、それ」
「だって、」


くすくす笑うと、恋次くんも笑ってくれた。


拳が一個。


それが、あたしと恋次くんの手の距離。




みんな、皆。
届かない。





(届く人なんて、いないのかもしれないね)
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