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ライラックの木の下で(兎→/灰男)

広い広いこの世界。

今、足をつけているこの土は、大陸は。

君に、繋がっているんだろうか。


そんなことばかり考えていた毎日が、今では懐かしい。


そう、もう、その日々は懐かしさに昇華されてしまうほど昔の話なんだ。


でも、相変わらず海の上を彷徨う日々を送れば。

あの日を思い出す。


君が生きていればそれでいいと。

そう、心から思ったあの日を思い出して。

何かしらのモノやカタチを通して、君と繋がっていたかった自分を笑っている。






君は、怒ってる?




さよならも、行ってきますとも言わずに、あの門を潜り抜けて。

戻らなかったことを。






怒ってるかなんて、甘っちょろいか。

憎んでいたり、恨んでいたり、する?

今もそれは続いている?


その心に、強く――たとえ深い傷であろうとも――俺が残っているのなら。

俺には、謝る気なんてない。




どうしても、君の心に自分を刻みつけたかったんだ。

想いは、いつか風化してしまうから。

君の中の俺が色褪せるなんてこと、受け入れられそうになかったから。


だから、俺は君に本気で愛を囁かなかったんだよ。




君の、過去になんてなりなたくなかった。




昔、まだ少女で、恋に恋してたような頃、とても好きになった人がいたの。

なんて言葉で、さらりと流されてしまう程度の存在にしかなりえないのなら。


酷い言葉を浴びせて、傷つけて、一生消えない――片時も忘れられないほど憎んで恨んでくれる方がよかったんだ。




歪んでるって、君は言うんだろうな。

真っ直ぐで、清い女の子だったから。君は。




「――!」


おっと、タイムオーバーか。

残念、気持ち良くなってきたとこだし、花の下で昼寝とオシャレに決め込もうとしたのに。


隻眼を仕方なしに開けると、ピンクがかった甘い紫色。




ライラック。


花言葉は、「初恋の思い出」。




任務中に、綺麗だと君が言ったから。

一枝、取って贈った。


その時に。






はにかんだ声で、顔で。

君が、そう教えてくれた。






(若き日の思い出)

きみがそうして笑うから(兎(→)→←/灰男)

優しくて、優しすぎる程優しい君だから。

だから、余計見てみたかったんだ。






「ラビ…」


真っ直な黒髪が、場違いなくらい綺麗に揺れた。


「あら、リナリー久しぶりね」


俺の隣にいた女が、優越感に浸した笑みを一つ。


「う、うん」


平素なら、キラキラと形容するするのでさえ物足りないリナリーの笑顔が返ってくるはずなのだが。

今はひきつりこそしてないが、目が笑ってない。


「ラビ、行きましょ」
「あ、おう…」


さりげなく俺の腕を取る女を横目に、リナリーを見た。


少し青冷めた顔に、力を込めすぎて白くなってしまった細い指の関節。






──ショック、だった?






「ラビ、彼女いたのね」
「ん?」


昼間の、とリナリーは小さく笑った。




──なんで笑えるんだよ、俺はリナリーの彼氏だろ?




「今まで私に付き合ってくれて、ありがとねラビ」
「リナリー?」




──え?




「たとえ騙されてたとしても、知らなければこれからも付き合っていけたけど。彼女見ちゃったら、罪悪感の方が勝っちゃう」






だから、さよなら。





「リ、リナリー!?」


「次に会う時は、エクソシストのラビとリナリーでね」


リナリーは、また笑った。






こうなるって可能性の方が、高かったんだ。

高かったんだよ、分かってた。


でも、

それでもこの目で見て、自惚れたかった。






優しすぎる程優しいそんな君が。

誰かを深く傷つけてでも、俺が欲しい俺だけは譲れないって。


どうしようもない無分別な我儘言い出してしまう程、俺は愛されてるって。






(ぼくは何処までも、ひとりきりだと思う)

大好きな人(班長/灰男)※若干WJ41ネタバレ

私が科学班の皆にお茶やコーヒーを淹れるのは、ただいまという意味と無事に帰ってきたのよと報告するためでもあるの。


でも、それを咎められてしまった。


すぐ後に、ペック班長は趣味なら構わないと言ってくれたけど。

心のどこかで、チクリと刺さり続けてる。






「リナリー?」


空になったカップを持ったリーバー班長が、心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「あ、おかわり?」
「あぁ」
「レモンソーダじゃなくていいの?」


クスリと笑いながら、コーヒーの準備を始めたら。

徹夜だからと、リーバー班長は伸びを一つ。


「今日も…?」


もう三日目。


「仮眠は取ってるし、大丈夫だよ」


ポンとリーバー班長の大きな手が、私の頭を。




「リナリー、ペック班長が言ったことだけどな…」
「あのねリーバー班長、私…」
「キツかったら、無理しなくていいからな」


今はエクソシストも減って、一人一人の負担も増えた。

それを踏まえて、私を気遣って言ってくれているんだと分かってる。


分かってるよ、でも…




「リナリー!?」


科学班のど真ん中で。

私はリーバー班長に抱きついた。


恥ずかしかったけど。

リーバー班長にどう思われるか心配だったけど。


「傍に、少しでも多くいたいの」


久しぶりのリーバー班長の匂い。

もっと、とギュッと縋る。


最初は慌ててたリーバー班長だったけど。

皆が終わることのない残業の山に囲まれて、よそ見してる暇がない様だから。


ギュウと抱き締めてくれた。


「無理だけは、やめてくれよ」
「でも、そうじゃないと会え…」
「その時は、俺が会いに行くから」
「ダメだよ、残業が増えちゃう」
「リナリーのためなら、それでもいい」


優しくたれた目が、愛しそうに細められた。




あぁ、幸せ。

涙が出そう。




リーバー班長の胸に顔を埋めたら、頭にリーバー班長の右頬が乗っけられた。


「……ペック班長に、何か言われたりしない?」


仕事が遅いとか、班長ともあろう者が仕事もせずに席をはずすとは何事かとか。


「言われたって、平気だ」
「本当?」


あの言葉が引っかかっている本当の理由は、私の自分本意な行動でリーバー班長にケチをつける機会を与えてしまったから。


大好きな人を悩ませる原因になりたくないのは、皆一緒でしょ?




「本音を言うと。これ以上ペック班長を、リナリーに会わせたくないんだわ俺」


顎がコンと頭のてっぺんに当たって、腰の辺りに組まれたリーバー班長の両手。


「そうじゃなくてもバク支部長とか、室長とかで一杯一杯なのに」


小さい男でごめんなと小さくリーバー班長は笑った。




「ううん、嬉しい…」
「う、嬉しい?」


両手をリーバー班長の胸に添えて上半身を反らして、リーバー班長の目を見つめた。


「嫉妬は、愛情の一つでしょ?」


ちょんとキスを一つ送った。






(これ以上好きにさせて、どうするの?)

にげてしまおう(兎→←/灰男)

「ラビ、まってよ」


たどたどしい声が、俺のすぐ横を走り抜けていく。

走るといっても、大人の早足にも満たないスピードだけど。


「おまえまってると、日がくれちゃうよ」


ラビと呼ばれた少年は、自分とよく似た赤毛だった。


そして、ラビと呼んだ少女の方も。


あの子によく似た髪を、やっぱり二つに結って揺らしていた。




「もうちょい、緑が深かったかな」




忘れもしない、

世界に全てを捧げる場所で、皆の為にだけ戦ってた女の子。






あれから、随分経ってしまった。


「もう、女の子は相応しくないかもな」




でも俺は、まだ少女だった彼女しか知らない。


あれからあちこち走り回って、流れた時間の倍生きた気がする。

だから、

ラビと甘やかに呼んでいた声も、今じゃ思い出せない。






「好きだったんだけどな、」


彼女のラビと呼ぶ声が、笑顔が。


その49番目の偽名ですら。






「ラビ」






そうだ、こんな感じだった。


ん?

でも、もうちょい高かったような。


「ラビ!」




考え事をしながら何かするのは、よくない。

目の前が疎かになるから。




「…リナリー」




この世界に一体どれだけの人間が行き交ってるのかと、ブックマンになることを決める前から思ってたけど。

今ほど強く思ったことはない。




「ラビ」


戦いが終わって彼女は、髪を伸ばした。


短いのも嫌いじゃないんだけどねと笑った顔が、最後に見た笑顔だった。


「夢じゃないわよね?」


ねぇ、ラビ。






幻聴じゃないだろうか。

だって、あまりにも変わらなさすぎる。


ラビと、そう呼ぶ甘い響きが。






教団という規模のでかい場所だったから、いくつもの声で名前を呼ばれた。


でも、

俺を好きだと言ってくれた子さえ、こんなふうには呼んでくれなかった。




「リナリー、元気にしてたか?」
「うん、ラビは?」


そう言いながら、リナリーは長い髪を耳にかけた。


「その長さ、」
「え?」
「最初に会った時も、そん位じゃなかったっけ?」


リナリーは肩にかかる髪を見下ろして、そうかもと曖昧に笑った。




「あの時のこと、よく夢に見たよ」




今度は、俺がえ?と言う番。




「ラビが、帰ってこなくなった日から」


うっすらと涙を浮かべてるリナリーに、あの日のリナリーがダブる。


「………」


何て返せばいいんだろうか。

何て逸らせばいいんだろうか。




「ラビは、一度も返事しないね」




もう、"ラビ"じゃないから?






リナリーの涙が零れて、あの日と重なった。






戦争なんてくだらない、人間なんてくだらない。

そう思って生きてた、あの頃。


リナリーの涙を目の当たりにして、心が揺さぶられた。


俺はくだらないと思うけど、でもその中で必死に生きてる人間もいるんだ。


少なくとも、どこか冷めた自分よりもちゃんと生きてるんだ。






「リナリー…」
「何?」


今まで、とんずらしてきた世界に未練なんてなかった。

これっぽっちだって。


次の記録地に着けば、キレイさっぱり忘れ去ってた。

何もかも。


こうやって、すれ違ったことだってないとは言えないと思う。

でも、誰にも呼び止められたりしなかった。






「リナリーは、名前を捨てられる?」


リナリーは、小さく息を飲んだ。


たぶん、意味は通じたはず。






「出来ない」




だよなぁ。




「出来ないよ、ラビ。だって、」





あなたが好きになってくれたのは、"リナリー"でしょ?






(ふたりが生きてゆけるあの果てまで、)
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