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5.彼にとっての心変わりは彼女にとって裏切りに相する

別れたと、事もなげに言われた。


いのは、たしか彼女とどうよと声をかけたはず。


「え!?いつ?」
「10月の終わり」


今はもう11月の終わり。


「み…水臭いじゃなーい。ねぇ、サクラ」


そういえば、その辺りから会話が増えた気がする。

挨拶の時に手を挙げて応じてくるようになったのも、その頃だ。


「サクラ」
「え?あぁ…うん」


おかしいとは思ってたけど。

まさか別れていたとは。


「訊かれてもねぇのに言うわけねぇだろ」
「あたし言うわよー」
「そりゃ、お前の性格ならな」
「だって、彼氏彼女の有無って重要じゃない」
「へー…」
「遊びに誘うのだって、気使わなきゃなんないしー」
「…分からなくもねぇけど。まぁ俺は、本当に好きなら付き合っても絶対言わねぇ」


軽口に混ぜ込まれた、シカマルの本音。

垣間見た気がした。

「えー」
「私も、かも…」
「サクラもー?」
「だよなぁ」


やっぱりサクラとは気が合うなと、シカマルはニッと笑った。

そこへアスマさんがやって来て、仕事もしろよとだけ言い残した。




似た者同士。

シカマルと一緒にいて楽なのは、これに因るところが多い。


お互いいつだって素だし、何を言っても言われてもケンカにならなくて。

私達の間にあるのは、


……そういえば何だろう。


プラスの感情であるのには間違いない。

間違いないけど、言葉にするにはどの言葉もしっくりこない。

私達には”何か”が足りてない。


友達?というより仲間?

でも仲間ってくくるには、ちょっと空気が違う。


「でもシカマルは、私を…」


独り言を言ってることに気がついて、慌てて口を押さえる。

手にしてるお菓子の空箱を持ち直して、早く仕事を終わらせて帰ろうと背筋を伸ばした。






『別れた』






大学構内を聞き耳たてながら歩いたら、一日一回以上聞けるであろう単語だ。

珍しくもない言葉なのに。


あの声で発せられただけで、ものすごく心を揺さぶられた。


『別れた』


いのと一緒に絶句しながらも、どこかでほっとしていた。


『本当に好きなら付き合っても絶対言わねぇ』


軽かった足取りが、つったように凍りついた。


一緒だと、心を分かち合って笑い合ったけど。


聞きたくなかった。

なんで聞いてしまったんだろう。


付き合い始めたんだと、照れもせずに告げられた時。

いのと一緒におめでとうと笑った。

心は痛くて堪らなかったけど、見て見ぬ振りをした。


でも、痛みを感じられるだけマシだったのかもしれない。


『本当に好きなら付き合っても絶対言わねぇ』


ほっとできたのは、あの一瞬だけ。

今日から毎日。


私は存在するのかしないのかも分からない、シカマルの本気の相手の存在に怯え続けなければならないんだ。





(男と女でなければ、この言葉笑って聞き流せたのに)

11/07にコメントしてくださった方へ

福蒼にコメントありがとうございます^^
可愛かったですか!?
甘さがいまいち足りてない気がしないでもなかったので、そう言って戴けるのはすごく嬉しいですッ!
相も変わらず福蒼にはニヤニヤしていますので、また書くかもしれません^^
その時も読んで楽しんで頂ければと思います。

お返事遅くなりまして申し訳ありませんでした><

何処までも青すぎる空にふいになきたくなったのはたぶんこれで8回目(螺)※未来捏造

里外に任務で散っていった仲間達が、次々と帰ってくる。

分娩室にサクラが入ってから、どれほど時間が経っただろうか。


「日向さん」

「おい、ネジ呼ばれてるぜ」
「え?」

「日向サクラさんの旦那様、奥様がお呼びです」


キバに背中を押され、分娩室のドアを潜り抜けた。






「呼んでいると言われて入ってみれば、今産まれたと言われて慌ただしかったぞ」
「ふふ、ごめんなさい。本当はネジさんが来てからと思ったんですけど、ね」


つい先ほど初授乳とやらを終え、ようやくサクラを独り占めできることになった。

共に息子の喜んでくれた仲間達は、赤ん坊は見れたし明日(といってもすでに日付は越えていた)も早いからと帰宅の途についていった。


「…大きな産声だったな」
「そう…ですねぇ。先生にも言われました」


将来大物になりそうですね、と俺にもそう言った先生は、次に誕生を迎える夫妻の元へすぐ駆けていった。


「大物になりそうなのは喜ばしいが、何故あれほど声を張り上げて泣くのだろうか」
まるで、産まれ落ちたことが恨めしいと言うかのようだ。


「医学的には、呼吸するため、なんですけどね」
「分かっている」
「でも、そうですよね。なんでなんだろ…」
「こちらは一日でも早く会いたかったというのにな」


そっと微笑みながらそう口にすると、サクラも柔らかい笑顔を見せて頷いてくれた。


「親の心子知らずって言うじゃないですか」
「今からそうだと、先が思いやられるな」
「いいじゃないですか。私も、こうやって出産を終えて、初めて自分の母親の強さと愛の深さを知りましたもん」


あの子がこうやって親になった時、同じように思ってくれればそれでいい。


「サクラは強いな」
「もう、母、ですもん」
「男はダメだな、いつまでも子供で」
「そんなことはないですよ。これから、あの子が誰よりも頼るのは父親なんですから」
「…そうだろうか?」


私自身もそうでしたと、窓の外に視線をやったサクラは、お義父さん(と呼べというのが挨拶に行って真っ先に頂戴した言葉だった)(春野さん、と呼んだのがまずかったらしい)を想っているのだろう。


父親を早くに亡くした俺には少し想像しがたいのだが、そんな俺でもちゃんとした父親になれるのだろうか。


「大丈夫ですよ。ネジさんなら」
「そうか?」
「不安になったら、お父さんにでも相談してください」
「お義父さんに?」
「ここだけの話、お父さん拗ねてるんですよ、ネジさんがよそよそしいから。せっかく息子ができたのに、まだ酒を飲み交わすこともできてないって」


お酒弱いから、ネジさんの相手なんかしたらベロンベロンになって寝ちゃうだけなのにね。




『君が、すでにお父さんを亡くしていることは、娘から聞いている。私には娘しかいないから、息子の父親というものがどんなものかわからない。君も、父親というものがどんなものであるか幼い頃の記憶しかないと思う。でも、君となら頑張れそうだ』




「…俺が合わせるさ」
「ネジさん…?」
「お義父さんは日本酒よりビールだろ?」


この会話を、一度帰宅し朝イチに戻ってきたお義父さんに、ドア越しに聞かれていたと知ったのは、息子がアカデミーに入学した夜のことだった。






(でも、きっとこれから先も数えきれないほど泣きたくなるような幸せがあるんだろう)
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