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アスターの花束(鹿桜←佐助※現パロ)

※懺悔文※
お久しぶりです、皆々様。
リハビリ駄文として、今回のお話を載せさて頂きました。
いつもはきちんと細かく設定とかも決めてから話に取りかかるんですが、リハビリ中ということもありまして、今回はお話を先に作って、サクラちゃん以外をおおまかにキャラを割り当てた感じです。
年齢とか、ちぐはぐだったりするんですよ。
サスケとシカマルがサクラちゃんより年下だったり、キバがと年上だったり…という、ね。
本当にざっくりしたテーマで書き始めたので…ごめんなさい。
気に入っていただけるか非常に心配な代物なんですが、ようやく出来上がったし、思い入れもそれなりにあるものなので載せてしまいました。

こんな私の書く駄文でもお待ちになってくださってる方がいることを、コチラとサイトの拍手を通して感激していたので載せさせていただいた次第でございます。
いつもはこういったことを、駄文の前にコメントしたりしないのですが、今回ばかりはあまりにもいつもと雰囲気が変わった代物ができあがったので、お邪魔とは思いつつも顔を出させていただきました。

では、これらのことを踏まえた上でお楽しみいただければと思います…






「サクラなら、俺が貰ってやるよ」


冗談交じりに告げたけど。


「サクラちゃんなら、オレがもらうってばよ!!」


冗談にかき消されてしまったけど。






「私、次の春に結婚するの!」


夏、めでたく就活に明るい目処をつけることのできたシカマルや俺を祝して、バイトのメンバー達が。

地方に就職したキバが上司から有給をふんだくって帰省してきたこともあったし、ちょっと離れたところで一人暮らしの就職組のサクラも来て、なかなか盛大に面子が揃った。

そのキバがいけなかった。

久しぶりだったからって、サクラに近況なんてもの訊いたから。


水を打ったような静寂とは、まさにこのことだろう。


「……おめでとうとは、言ってくれないの?」


騒がしい居酒屋に、サクラの声がよく通った。

感情豊かで、表情も声も素直なサクラ。


違う。

俺達は、サクラの思っているような気持ちで黙ってるんじゃない。


「相手は?」


この場で、ようやく声を発したのは。

やっぱりキバで。


「皆のよく知ってる人よ」
「は?」

「俺だよ」


そう言って立ち上がったのは、


「シカマル…」


俺の隣に座っていたサクラの腕を取って。


「サクラと結婚するのは、俺。俺の就活が終わって、正式にプロポーズした。入社する前に式は挙げるつもり」


シカマルには、この状況が読めていたんだろう。

キバの方を真っ直ぐ見て、そう言った。




「おめでと、サクラちゃん。よかったね、変な男に騙される前に結婚できて」
「ナルト…」
「だいたいさぁー、皆だってそう思うだろ?なんだかよくわかんねーどっかの誰かにヘラヘラ笑いながら立たれるより、この中からサクラちゃんの旦那が出る方が納得いくんじゃねーの」


唐揚げをつまみ上げながら、一番最もと思われることを言ったんだが。

他のやつらは、まだ声を出せないでいる。


「サクラ、ちょっと席外してくれるか?」
「あ…うん」


シカマルの言葉に、サクラは淋しげな顔を見せたが。

この状況だ、頷く他なかった。

サクラは外を歩いてくると、携帯と下駄箱の鍵を手に取った。


「ならシカマル、サクラ貸してくれ」
「サスケくん?」


じっと、俺を見つめるシカマル。

ココで目を逸らすわけにはいかない。

後ろめたさはあるけど、今言っとかねぇと一生後悔しそうだから。


「わかった、こっちが終わるまでならいい」
「充分だ、サンキュー。サクラ、行くぞ」
「う、うん」


チラリとシカマルを伺うサクラに、シカマルはすぐ終わらせるって少し笑って。




外は少し、けだるいように熱くて。

ああもう夏なのかって、ふと思った。


「就活してたから、季節がもう夏で驚いてるんでしょ」
「まぁ、ちょっとだけな」
「ちょっとだけ?私なんて、春はどこに行っちゃったんだろうって思ったのに!」


社会人になって、すっかり大人の顔をするようになったと思ったのに。

一緒に過ごした日々と変わらない、まだどこかあどけない子供じみた口ぶり。


――変わらないな、お前は。


年上なところが魅力的な時だってあるのに、ずっとその顔ではいてくれない。

抜けてて、素で天然やってて、ユーモラス。

なのに、ぞくりとする表情をすることもある。

でも基本は、その緑がちな瞳をくりくりとさせて明るい笑顔。

そんなどっちつかずなところが目が離せなくて。


もっと見たいから、見せてほしいから。

傍にいたかった、ずっと。


「なぁ、なんで誰かのモノになるんだよ」


本当は、シカマルと付き合いだした時に訊きたかった。


サクラは、ナルトと俺のモノだと思っていた。

三人で笑いあって、時にお互いを出し抜いて一人占めしてみたり。

その日々に、サクラが誰かのモノになるなんてことあるわけないって信じて疑いもしていなかった。


「なぁ、なんでだよ…」
「サスケくん…」
「二十四で結婚って、早すぎるだろ…」


せめて、あと二年。

二十二の俺じゃ、どうあがいたって何もできやしない。

俺の方が幸せにしてやれるだなんて、口が裂けてもえ言えやしねぇ。

二年経ったところで言えるようになるかわかねぇけど、今よりは自信を持って言えるはずだ。


「二十八までは遊んでいたい、だったっけ?」


縛られるなんて真っ平ごめん。

縛らないから、縛るな。


たしかにそう話した、今じゃ懐かしいお前が傍にいたあの頃に。


でも、帰る場所というものがあってほしいと思うのは。

俺だって、世の中の男達となんら変わらない。


変わんないんだよ、サクラ。


そして、それは誰でもいいわけじゃない。

それがサクラであったらと、


「そこまで待ったら、俺を選んでくれるんじゃねぇかなって」
「サスケくん?」


どうしても、ずっと一緒にいたかった。いてほしかった。


「本気で好きだった。でも、サクラにとって俺はそういう対象じゃなかったのは、誰よりも自分でわかってた」


だから、せめて誰のモノにもならないでほしかった。

ナルトと一緒でいいから、俺達以上の存在なんて作らないでほしかった。

一人占めできないのはわかりきってたから、一人占めされないでいてほしかった。


「シカマルがダメとかじゃねぇ…ただ、俺達は」


幸せになってほしくないわけじゃない。


「サクラが…サクラが一番大切になるのは俺達だって、そう思ってたからだ。だから、おめでとうと言えなかったんだ、すぐには」


幸せそうに笑っていてくれるのなら、それでいいとさえとも想う。



「私…私だって、皆の他はなにもいらないって、思ってた」


きゅっと、俺のポロシャツの裾を握ったサクラ。


「でも、皆が彼女を作ったりして、それなのにずっと傍にいて、気兼ねなく笑っていられるほど無神経にはなれなかった。皆、格好良くて、仕事できて、いい人達で、逆ハーレム!なんてエンジョイできるほど開き直れもしなかった」


驚くほどサクラの声は小さいのに。

車の騒音にも、晴れやかに夏を楽しむ人間の喧騒にも消されることなく、俺の耳に届く。


「別に、皆の一番でいたいわけじゃない。でも、私には皆が一番だったから」


でも、私だけが女だったから。


「少し居づらくて。男だったらよかったのにって、何度も思った。男だったら、そんなこと気にしなくてよかったもの」
「サクラ」
「サスケくんは、私を試すようなことばかりだった。褒めてくれも、なにかを勧めてくれても。誰にでも言えそうな言葉ばっかりだったから、自惚れられなかった」


試してたわけじゃねぇよ、サクラ。

怖かったんだ、情けないほど惚れてたから。


「期待してもしょうがないから、よそ見してみたけど。私の傍にいるサスケくんやナルトを見て、引いてく人達ばっかりだった…」

「シカマルは、違ったのか」

「シカマルは、唯一、サスケくん達に怯まずに向き合ってくれたの。シカマルだけが、二人に負けたくないって言ってくれたの」


ポロシャツを握ったままだったサクラの手を、器用に手繰り寄せて。


「今だけでいい、二年前…いや、三年前に戻ってくれ」


二年。

それが二人の付き合った時間。

その前に…春はどこに行ったのかと驚いてたその日に、今だけでもいい。


戻ってくれないか。


もう、戻れないとわかっているから。だからこそ。






(追憶)

ワスレナグサの願い(鹿→/忍)※現パロ※※下の続き的な

正直、今年もサクラが一番に祝ってくれるのだと思っていた。

そう、昨年のように。


自分から別れを告げて、縋らせる隙も与えなかったくせに。






朝から携帯ばかり確認する俺に、何人もがどうかしたのかと問う。

いや別に、なんて答えるが。

誰一人として信じてはいなそうだが、かといってさらに訊いてくるやつはいなかった。


まさか、元カノからのメールを待っているなど。

まぁ、口が裂けても言わないが。


『明日、授業ないから!
 来年はわかんない笑』

零時丁度の、似合わないブリブリのデコメに面をくらって返したら。

さらに返ってきたメールは、やっぱりサクラだった。




そうだ、来年はわからないと言ってたじゃないか俺。


いやいや、俺達はあれから別れたんだぞ。

いくら半年前のサクラの誕生日に、俺がメールしてあったとしても。

半年は長い。


俺を忘れ去るほどの大恋愛に堕っこちてしまっていたりなぞしたら、太刀打ちできやしない。






いつもなら、大学なんぞふけるか寝るのどちらか。

だけど今日は、とてもじゃないが寝れそうになかったし。

ふけたところで、気が散ってしょうがない。


学生の本分でも全うして気を紛らわせようなどとしようにも、ひたすら携帯が気になって仕方がない。


もしかしたら、ひょっとしたら。


半日過ぎても、まだ希望があった。

授業がすっかり終わってから、それからなのかもしれないなど。

情けない理由を考え出したりもした。


バイトはないし、急いで帰る用事もない。

ゼミの仲間とだべって、煙草ふかして。

それでも、携帯は気にかかりまくる。


誰かが、飲みに行こうぜと。

立ち上がるついでに見えるように携帯をスライドさせてみるものの、いつも通りのつまんない待受だけ。


「メール待ってるの?」


仲間内の女が、そう聞いてきた。


「あー…まぁ、」
「大事な用件?」


俺が、あまりにもチラチラ見ていたからだろう。

よほど深刻な内容なのではなどと、邪推されたらしい。


「そんなとこだな」


嘘っぱちもいいとこ。

でもメールが来るか来ないかが、俺にとってかなり「大事」なことは確かだ。

そこには、間違いも嘘もない。






いつもの居酒屋に着くと、ニヤニヤした仲間達。


「なんだよ」
「ハッピーバースデー、シカマル!!」


クラッカーに、拍手。

予約席という札の横には、「シカマルくんおめでとう」のチョコプレート付きのチーズケーキ。

教科書通りのサプライズ。


「ああ、なんか悪いな」


俺の反応の薄さに、ブーイングも飛んだが。

なにより主役様、なんだかんだでお咎めなしのVIP待遇。

促された席に着こうとしたら、バイブがメールの受信を報せた。

もしかしてなんて思ったら、それこそ座るより先に携帯。


「んだよ、キバかよ」


ぬか喜びさせやがって、あの野郎。


そのまま、いつものように携帯を机の上に置こうとしたが。

置いておくと、鳴っても気づかない。


思い直して、シャツの胸ポケットに滑り込ませた。


「待ってるメール来た?」


チョコプレートを頬張ろうとしたら、さっきの女がちゃっかり隣にいて訊いてきた。


「いや」
「あ、キバかよって言ってたもんね。違う人?」


そこまで聞いていたのなら、察してくれよ面倒くせぇな。


「イタメール。ガキの時からの付き合いで、しょっちゅうくだらねぇことをメールしてくんだよ」


幼馴染みかいいねなんていう、当たり障りのないコメントはセオリー過ぎてつまらなかった。







普段は酔ったりしないし、羽目も外さない。

でも今日は主役だからと注がれまくって、流石の俺もキタ。


トイレに立ち上がった足元が頼りなくて、隣の女が大丈夫かと訊いてきた。

それに手をひらひらと答えたような答えてないような返事をして、スリッパをつっかけた。

実際歩いてみれば、長時間座っていたのが原因だったらしく。

アルコールは、テンションと脳の回転率を下げることにだけに作用しているだけで。
全然、許容範囲内だ。


「ふぅ」


一応の名目は、俺の誕生祝いだったらしいが。

すでに四時間ほど経っている。

その体など、とっくの昔に崩れ去ってしまっていた。


「今、何時だ…」


ふと気になって、洗った手をペーパータオルで適当に拭いた。

受信ランプの灯らない携帯に、アルコールの吐き気とは違った何かが胃を圧迫した。


「23時58‥」


ブーブーブー。


スライド式の携帯画面が、メールの受信をアピール。


notitle。

送信者は、




「サクラ…」




急いでボタンを押せば、一発で本文へ飛んだ。






『お誕生日おめでとう★
 昨年は一番最初に祝ったから、今年は最後狙ってみたわ笑
 いい1日だった?
 よい歳を重ねてください』






「はは…」


やられた。

もう諦めてた、時間が時間だったから。


忘れ去られたのか俺はと、酷く裏切られたような気持ちでいた。


その裏切られたと感じた時、俺は気づいてしまった。


いや、本当は見て見ぬ振りをしてきただけ。

心の底の、押し殺しきれなかった感情。






「俺、お前に心底惚れてるよ、今でも」






(僕を忘れないで)

強く香るはキンモクセイ(鹿←/忍)※現パロ

付き合って初めて迎えたシカマルの誕生日。

驚かせようとして、零時ぴったりにデコメを送信。


動揺した文面が、シカマルらしくなくて。

サプライズ成功って、幸せに浸ってた。


その日は、もちろんデート。

あと何時間後には会えるのに、それでも早く会いたくて。
「俺も」と素っ気ないなりに、それでもシカマルも同じ気持ちでいてくれるのが、堪らなく嬉しかった。


幸せだった。

あの日は、あの頃は。






でも私の誕生日は、来なかった。






先を先をと読み解くのが得意だったシカマルが、別れを切り出した。

それが至極当然なように、幸せに笑い合ったのが最後はいつだったか思い出せないほどに、関係は澱んでいた。

追い縋ることもなく、別れを受け入れるしかなかった。


それから、なお一層。

遠い砂の地で、医学に励んだ。

打ち込むことで掻き消したかった。




淋しさを、虚しさを。

彼の独りよがりを。




そして迎えた、一人ぼっちの私の誕生日。

だけど、そんな日のことをすっかり忘れ去っていた私は。

春休みだったけど、大学の図書館で勉強。

携帯も、五感も、余所へやって集中。

さすがに空腹に伴う胃痛には勝てず、少しばかり遅い昼食を取るべくカフェテリアへ。


軽い物とカフェラテでカウンター席に腰を下ろせば、話し相手もなく暇でつい携帯に手が伸びた。

すると、受信メールが何件も。

今日は誰とも約束していないし、何かをすっぽかした記憶もない。


アレコレ考えながら、手慣れた動作でメールボックスへ。






「フォルダ5:1」






もう届くはずのないフォルダに、未読という画面の中でメールが存在を主張している。


カフェラテを飲みながら、メールをチェックするはずだったのに。

左手のマグカップが、いやに重く感じた。


メールのフォルダなんて全然一緒くた、それが基本の私。

でも、ただ一人だけ。


たった一人だけ、特別な人がいた。






そう、シカマル。






すごく、すごくすごく好きで。

今もまだ、忘れられない、酷い人。




指が震える。

別れた時に悲しすぎて、貰ったメールは全部消した。

がらんどうな、フォルダ5の画面にシカマルの名前。


ああ。






『HAPPY birthday !!
 0時に送ろうとしたのに、しくじった。
 負けんな、21歳』






画面がぼやけてきて、よく見えない。


「もう、来ないと思ってた」


誰に言うでもなく、零れ落ちた。


誕生日にメールが、じゃなくて。

メール自体が。


こんなにも、

泣けるほどに、嬉しいなんてね。




悔しいよ、ずるいよ。

酷いよ、シカマル。


私の心は、まだ君が。

君だけが、こんなにもあっさりと揺さぶれるのよ。




『感謝してるから』




それが、メールの理由。

そこに、愛はないと知りながら。

そこに愛しさを感じずにはいられない私は、なんて馬鹿なんだろう。


振られて、あんなに涙に暮れたのにね。




私、迷っていたのだけど決めたわ。

君の誕生日、私もメールすることにした。


でも昨年と一緒じゃつまらないし、何より少しくらい仕返ししてやりたい。


23:59。

その日が、ギリギリ終わらないその時間にあえて。

昨年は一番最初に祝ったから、今年は一番最後を狙う。


一日中、ヤキモキすればいいのに。

来ない来ないって、私のことで頭が一杯になっちゃって。






(あなたの気を引く)

5.彼にとっての心変わりは彼女にとって裏切りに相する

別れたと、事もなげに言われた。


いのは、たしか彼女とどうよと声をかけたはず。


「え!?いつ?」
「10月の終わり」


今はもう11月の終わり。


「み…水臭いじゃなーい。ねぇ、サクラ」


そういえば、その辺りから会話が増えた気がする。

挨拶の時に手を挙げて応じてくるようになったのも、その頃だ。


「サクラ」
「え?あぁ…うん」


おかしいとは思ってたけど。

まさか別れていたとは。


「訊かれてもねぇのに言うわけねぇだろ」
「あたし言うわよー」
「そりゃ、お前の性格ならな」
「だって、彼氏彼女の有無って重要じゃない」
「へー…」
「遊びに誘うのだって、気使わなきゃなんないしー」
「…分からなくもねぇけど。まぁ俺は、本当に好きなら付き合っても絶対言わねぇ」


軽口に混ぜ込まれた、シカマルの本音。

垣間見た気がした。

「えー」
「私も、かも…」
「サクラもー?」
「だよなぁ」


やっぱりサクラとは気が合うなと、シカマルはニッと笑った。

そこへアスマさんがやって来て、仕事もしろよとだけ言い残した。




似た者同士。

シカマルと一緒にいて楽なのは、これに因るところが多い。


お互いいつだって素だし、何を言っても言われてもケンカにならなくて。

私達の間にあるのは、


……そういえば何だろう。


プラスの感情であるのには間違いない。

間違いないけど、言葉にするにはどの言葉もしっくりこない。

私達には”何か”が足りてない。


友達?というより仲間?

でも仲間ってくくるには、ちょっと空気が違う。


「でもシカマルは、私を…」


独り言を言ってることに気がついて、慌てて口を押さえる。

手にしてるお菓子の空箱を持ち直して、早く仕事を終わらせて帰ろうと背筋を伸ばした。






『別れた』






大学構内を聞き耳たてながら歩いたら、一日一回以上聞けるであろう単語だ。

珍しくもない言葉なのに。


あの声で発せられただけで、ものすごく心を揺さぶられた。


『別れた』


いのと一緒に絶句しながらも、どこかでほっとしていた。


『本当に好きなら付き合っても絶対言わねぇ』


軽かった足取りが、つったように凍りついた。


一緒だと、心を分かち合って笑い合ったけど。


聞きたくなかった。

なんで聞いてしまったんだろう。


付き合い始めたんだと、照れもせずに告げられた時。

いのと一緒におめでとうと笑った。

心は痛くて堪らなかったけど、見て見ぬ振りをした。


でも、痛みを感じられるだけマシだったのかもしれない。


『本当に好きなら付き合っても絶対言わねぇ』


ほっとできたのは、あの一瞬だけ。

今日から毎日。


私は存在するのかしないのかも分からない、シカマルの本気の相手の存在に怯え続けなければならないんだ。





(男と女でなければ、この言葉笑って聞き流せたのに)

プラマイ0がちょうどいい(鹿)

信じらんないと、いのも毎月欠かさず目を通している、くの一達の間で一種の聖書と化している月刊誌を前に一言。

 

 

「何がだよ」

 

 

珍しいもんだと、常ならば分厚い医学書が我が物顔で陣取っている手元を一瞥して。

 

ああ暇だと、窓から見える雲をのんびり眺めていたときに突然だった。

 

 

「若くてイケメンで中身も男前で気さくな男性Aさん(仮名)の彼女がいない、できない理由が」

「一体何の特集だ、ソレ」

「婚活」

 

 

すっかり耳に馴染むようになった、年末の流行語大賞ノミネート間違いなしの造語。

 

あーそうですか。

 

 

一方すっかり興味が失せたようで、雑誌はそこら辺に投げ捨てられ。

 

その動作主は、ふぅと大きな息を吐いて俺のベッドへ背中からキレイなダイブを決めた。

 

 

ベッドの上で、窓のさっしに頭を乗せて仰ぐように空を雲を眺めていたが。

 

足元に転がった桜色の頭に目をやった。

 

 

「で?」

「ん、ナンパなら遊びってわりきって積極的になれるんだって、その人。でも、それを聞いた親しい女性陣――つまり、本命候補達?――には遊んでるんだーって引かれて、敬遠されるばかりか紹介も頼めない有様なんだって」

 

 

自業自得じゃないと、寝返りを打つサクラ。

 

 

「男の人はいいわよね。最初に遊びって言い切って、責任逃れの保険がきくんだもの。女の人はできないわ」

 

 

サクラはそっと、自分のお腹を触って。

 

 

「女の人も遊びのつもりだったとしても、赤ちゃんできちゃったらもう逃げられない。男の人は、最悪、行方くらませば責任から逃げられると思うよ。でも女の人はどこに逃げても自分の体の中に赤ちゃんがいるんだもの。男の人のようにはいかない」

 

 

サクラはひざを抱き寄せて、俺の足元で小さく丸まった。

 

 

「それに赤ちゃんには罪はないし、愛情も湧いてくると思う。女の人の感情ってそうなるようにできてるんだよね」

 

 

医学も心理学もかじったサクラは、俺には到底わかりえない深い話を時たまする。

 

でも、サクラの言いたいことはわかる。

 

 

「まー、男は最低な生き物かもな」

 

 

その昔、一夫多妻制でブイブイいわせて、通い詰めってのもあれば一回こっきりでハイさよならもあったわけで、でも男にはお咎めなし。

 

当時は女にも貞操を求めていたわけじゃないから、フィフティフィフティだと返されりゃそうかもしれないが。

 

それでも、受身である性を持つ女の方にリスクが高いのは明らかだ。

 

 

サクラはそこを逆手に取ったヤツが許せないんだろう。

 

医療従事者として、女として。

 

 

 

 

「俺は遊びなんて面倒くせーもんやらねぇし、興味もねぇ。ガキができたってんなら結婚するぜ?」

 

 

ずいとサクラを引っ張りあげて、足の間におさめて抱き込めば。

 

焦った真っ赤な顔が、ぐりんと向いた。

 

 

「なっ!?違…違うわよ!シカマル、あんたなんて勘違いしてんのよ!?」

「違ったのか?ってきり、お前のことだから言いにくいから回りくどく言ってきたんだと思ってたんだけどな」

 

 

ついでにサクラの下っ腹を撫ぜ回せば、ペチンとやられた。

 

 

「イテ」

「バカ」

 

 

撫で回してた手は、サクラの指が絡められ。

 

肩口には頭が落ちてきた。

 

 

「もしそうなったら、シカマルは責任取ってくれるってことよね」

 

 

ふふふと上機嫌なサクラ。

 

 

「シカマルが面倒くさがりでよかったって、初めて実感したわ」

 

 

なんとも失礼な一言だ。

 

 

「お前がバタバタしてるから、丁度いいだろうが」

「まーね」

 

 

ご飯よって声がしたからして、親父の締まらねぇ声も聞こえてきた。

 

 

「サクラちゃ〜ん、バカ息子なんておいて先においで〜」

 

 

俺らの仲は家族公認どころか、親の方が溺愛気味。

 

 

「はーい、そうしまーす!」

 

 

ついでに、サクラもサクラで親、特に親父に甘い。

 

 

「おい」

「だって、シカクさんタイプなんだもん」

「はぁ!?なんで、よりにもよって…」

「だって、シカマルの将来予想図でしょ?」

 

 

 

 

 

 

(軽すぎず重すぎず、至極自然に当り前に。ぼくらはそっと寄り添うべきだ)

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