話題:言葉遊び


 
宗谷吐夢(そうやとむ)くんは、その名前により幼い頃からずうっとトム・ソーヤに親近感を抱いていました。そして、“心のハックルベリー・フィンを探す”という長年の夢を叶えるべくアメリカへとやって来ました。吐夢くん、十八歳の春。少し遅めのスタンド・バイ・ミー
です。

そんな或る日、セグウェイで ミシシッピー川を下っていると、若い頃のケヴィン・ベーコンに似たアメリカンの青年が小ぶりなワニに襲われているのに遭遇しました。何とかして助けてあげなければいけません。

背後からそっとワニに近寄り、藤波辰爾直伝(嘘)のドラゴンスリーパーを決めます。ご存知のようにワニは噛む力(口を閉じる力)は強いけれども、逆に口を開ける力は弱い。スリーパーホールドで顎を決めてしまえば勝ったも同然。吐夢くんはそう考えたのでした。事実、その時もワニは地面を叩いてタップしてギブアップを宣言したのです。放してあげるとワニは悔しそうな顔をして去って行きました。

助けられたケヴィン青年が、お礼に七面鳥を焼いてご馳走したい、というのを丁重に断って立ち去ろうとすると、彼は深々と頭を下げてカタコトの日本語でこう言いました。

『どうも、ありげーたー(ありがとう)ございました』

なんという事でしょう!吐夢くんが日本人である事に気づいた青年は恐らく『ありがとう』と言おうとしたに違いありません。それがカタコトのせいで『アリゲーター』(ワニ)になってしまったのです。もしも、これが小ぶりではなく大型のワニであれば、それはアリゲーターではなくクロコダイルになるので駄洒落は成立しません。幾つかの偶然が重なった奇跡。でも本当に偶然なのでしょうか?

何故なら、そう、世界は駄洒落で出来ているからです。だからこうして、隙あらば駄洒落を差し込もうとするのです。

そして、それとは全く関係ないところで吐夢くんは思いました。もしも、ケヴィン・ベーコンが日本人として生まれて来たなら甲本雅裕さんになっていたに違いない、と。

───

果たして吐夢くんは心のハックルベリー・フィンを見つける事が出来たのか?残念ながらそれを知る者はいませ。しかし、一つだけはっきりしている事があります。それは役場に届けられた【吐夢】の正式な読み方は【かなめ】であるという事ですが、もちろん、当の吐夢くんはそれを知らないのでした……。


〜ダジャレ千夜一夜物語第13夜『ソーヤ・トムの冒険』おしまひ〜。