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一方その頃 P編

20時からの3時間飲み放題コースが終わり、二次会のカラオケに行くことにした家康、佐助、P、貴莇の四人。

23時から、とりあえず二時間で入る。
ひとしきり楽しむとあっという間の二時間。

人それぞれ思惑渦巻く男女間の空気を敏感に読める佐助は、ごく自然に『俺様はPちゃん送ってくから、貴莇ちん宜しくね!』と家康に向かって言った。
またねと貴莇に手を振るなり、佐助はPに向き直ると『さ、行こっか!どこなんだっけ?』と、タクシーへエスコートする。
タクシー乗り場までかと思いきや一緒に乗り込むと、佐助は「〇〇駅の近くの〇〇アパートまで行ったら、●●駅に行ってください」と、先にPの家への道をタクシーの運転手に告げる。
佐助が帰るには通りがけついでと言えるほどそう近くはないはずだった。

「えっ?なんで?」
「なんでって?」
「いいの?」
「いいよ?」

涼しげに微笑まれたら、見栄とか建て前とかそんなんじゃないことはすぐに分かった。

2〜30分ほど走るとタクシーはPのアパート前で停まった。
『じゃっ、俺様はここで。着いたらメールするわ。…ああ!そうだ!Pちゃんの聞いてなかった!赤外線でいい?俺様受信するねー…』とか言いながら返事を待たずに携帯をPに向ける抜け目ない佐助のペースは完璧で、むしろそれくらいが二人には丁度良かった。

Pは家に入るなりソワソワと携帯を開いては閉じ、開いては閉じ…
落ち着け、自分…
とりあえず顔でも洗おう…
お風呂に入っちゃうとその間にメールが来ちゃうかもしれない。
すぐに返せないのはイヤだ。

顔を洗って、しばらくすると携帯が鳴った。

来たっ…!!

携帯を取る手は物凄く早かったと思う。
しかし開いた携帯のディスプレイはメールの受信を告げるものではなかった。



―着信 猿飛佐助―



うそ…!!



不意をつかれて戸惑ったが迷ってる暇はなかった。
でも通話ボタンを押すまでどれくらいかかったろう…なんだかとても長く感じた。


「もしもし…」

『あ、Pちゃーん?今着いたよ!』


もう何を話したかなんて正直覚えてない。
気付いたら小一時間経ってた。

『今度二人で遊ぼうよ』

電話を切ってから何時間経ってもそのフレーズが耳から頭から離れなかった。

ようやく眠りについたのはとっくに明るくなってからだった。
目を覚ました時は昼近く。
ぼんやりとした意識の中、夢のような昨日からの一連の出来事を思い出す。

・・・あっ!!

思い出したと同時に飛び起きるようにして携帯を開く。

―新着Eメール2件―

思わず胸が高鳴るが、受信ボックスまで辿り着くと自然と落胆に変わった。

「なーんだ、貴莇か…」

もう一件はいつものメルマガ。

[佐助と一緒なの?うちは今家康んちだよー]

返す気にもなれず、パタンと携帯を閉じた。

それから待てど暮らせど連絡は来ない。
とりあえずゆっくり風呂にでも浸かろう。
その間にメール来るかもしれないし、昨日の合コンから気持ちが落ち着かないせいか、なんとなく疲れていてダルイ。
浴槽に体を沈めると、温かさが全身に染み渡る。
やっぱ人肌恋しい。
あー、、ナオも貴莇もお泊りか…
彼女らの行動力には恐れ入る。
どうしたらあんな風に振舞えるのか。
いっそ潔く「泊まってく?」とでも聞けたらよかった。
そんなことが出来れば今頃メールを送る送らないくらいで悩んだりしない。


どうしよう、、メール送ってみようかな…
悩む。大いに悩む。

風呂から上がると、軽くタオルドライした頭を掻きあげて、サッと服を着る。
携帯に着信はやはり無い。
画面の右上を見ると、もう時間は14時だった。
さすがに起きてそうなもんだし、この時間で来なかったらもう今日は連絡ないかな…
そしたらとりあえず自分から送るしかない。
メールの新規作成画面を開くと、途中まで文章を作るものの、結局打っては消しの繰り返し。
唸りながら携帯とのにらめっこは続く。
悶々としているとチャイムが鳴った。
ようやく我に返ると、髪から落ちた雫で襟周りが濡れていたことに気づく。
ああ、ドライヤーかけなきゃ。
携帯に夢中でそれどころでは無かった。
それよりとりあえず誰だ?
集金とかまだ早い気がするし…
一応財布を片手に玄関を開けてから、しまったと思った。
なんでドアスコープくらい覗かなかったんだろう…

「よっ!今日休みでしょ?来た方が早いと思って!」

軽く言ったその男はコンビニで買ってきたであろうお菓子や飲み物を手にぶら提げて、まさに今私の目の前に立っている。
携帯でずいぶん悩まされた犯人。

嬉しさより驚愕が先に回ったのは、ちょっと違った形でその男に伝わった。

「あ、ごめん、どっか出かけるつもりだった?」

Pの様子を見て、ちょっと申し訳なさそうに濡れた髪に視線が投げられる。

「あっ、いや!別に出掛けるとかそんなんじゃないんだ!あの、まさか、よもや佐助が来るとは思いもしなくて、ちょっとお風呂に浸かってたんだけど、ドライヤーかけるの忘れちゃっただけで、急いでたわけでもないし…!!」

もう少し短く言えるはずだったが、日本語の文法は木っ端微塵だし無駄に長くなった。
そんなんでも佐助はにっこり笑って言い終わるのを待ってくれた。

「とにかく上がってよ!」

「ほんじゃ、おじゃましまーす!」

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