「十文字くんって、彼女のことすごく大切にしそうだよね」
いつも、女どもからは勝手なイメージを持たれてきた。
あまり多く語らなければ、クールだなんだ。
チャラチャラせずダチとだけつるんでりゃ、硬派だなんだ。
アメフトに打ち込んでいれば、スポーツする姿が格好良いだなんだ。
女にぐちぐち言われたくなくて穏便に交わしてりゃ、優しいだの。
校舎裏や階段の踊り場に呼び出されて聞かされる、女どもにとっての俺とやらは大層な男だ。
熱く語っているが、いっそ笑えるほどにソコに俺はいない。
「俺」を呼び出したというのにこのザマでは、初っ端に言われた「好きです」って言葉が今じゃ上滑りしてやがる。
あらかた聞いた後、他を当たってくれと告げる。
そしてギヤーギャー言われて、ウンザリする。
ああ、この人も変わんねーのか。あの女どもと。
「でも十文字くんの彼女って、なかなかなれなさそうね。大切にする分、滅多にそういう人作らなさそう」
「ハァ…そうっスか……」
「信じてないでしょ!私、本当にそう思ってるんだよ」
本当にと言われたところで、あいにくこの俺がそうとは思わない。
だがしかし、さっきは他の奴らとこの人も変わんねーのかと思ったが。
他の奴らとは決定的に違いがある。
まず俺への勝手なイメージってのには変わりないが、単純に他の奴らと違ってこの人とは浅からぬ付き合いがある。
今まで一度だって自らなぜそう思うのか訊いたことはなかったが、今回は気乗りした。
どうせ遅刻の罰則の部室掃除中の俺と、雑務中のマネージャーだ。
それに、この会話の終わらせ方もわからないからついでだ。
「どうしてかって?だって、十文字くんはこんなくだらない私の話も、キチンと最後まで聞いてくれるでしょう。それと聞くだけじゃなくて、それにちゃんと答えてくれる。なかなかできないよ、セナなんて聞き流すのうまいんだから」
だからついつい俺相手にくだらない話をしてしまうのだと、マネージャーは小さく笑った。
いつも悪いな〜と思いつつもね、やっぱり最後まで聞いてくれる十文字くんを見てると話したくなるとさらに言われた。
「ハァ…」
意表を突かれたというか、なんというか。
もっと漠然とした、俺の態度に対する誇大解釈を聞かされるのかと思っていた。
いつも大抵そうだったから。
たしかにこの俺の態度も自覚はないが、他の奴らの語る俺よりは「俺」に近い気がする。
なぜそう思うのか、自分でも謎だが。
「だからね、こんな私の話を最後まで聞いてくれるなら、彼女にならもっと優しいんだろうなって思ったの。でも、十文字くんがアメフトと友達付き合いもちゃんとやってるの見てたら、ちゃんとした人だから安易に彼女を作ったりしないのかもって思って。でも、そんな十文字くんが彼女にする子なら、私はきっと敵わな…!!」
ペラペラと喋っていたマネージャーがピタリと口をつぐみ、次は何でもないの忘れて忘れてと慌てふためいた。
顔を真っ赤にして、えっとえーっとと会話を探してる姿を見てりゃさすがの俺も分かる。
え?嘘だろ?
「マネ‥」
「なんでもないの!気にしないで!!忘れてくれると助かるんだけど、って、あの…もう遅いかな?」
ちょっと笑えた。
必死に頼んできたのに、どうやら自分でも無理な相談だと分かっているらしい。
「俺の勘違いでなけりゃ、もう遅いな」
マネージャーはこれ以上赤くなるとは思えなかった顔を、さらに赤くして目を泳がせた。
どうやら自惚れでもないらしい。
「じゃあ、あんたその″俺の彼女″になって確かめてみるか?あんたの思ってた通りの俺なのか。あいにく俺はそう思っちゃいねーから、酷い目にあうかもしれないぜ」
なんだか、不思議と前向きな言葉が出てきた。
こういった話で「好きだった」と言われなかったのは初めてで、でもその言葉を口に出されていたとしても上滑りしそうもないマネージャー相手だと素直に嬉しいと思えた。
「ううん、きっとそんな目にはあわないよ。だって十文字くんだもん」
この言葉が、なにより当てられた。
さすがに恥ずかしくなって、んじゃ、よろしくとぶっきらぼうに言ったら。
大好きよ十文字くん、だと。
(勘弁してくれ、俺はあんたが思ってるより恥ずかしがりだ)