話題:面白い人
この間、エレベーターに乗った時の話。
そこは割と最近建造された高層ビルで、エレベーターも恐らくは最新鋭の機種。上下動は極めて滑らか且つスムーズで、上方の階から一気に降下してくる時などは、脳ミソが置いてけぼりになる感覚を味わえる、とてもクリーミーなエレベーターな訳です。そして作動音も殆んどない。
その時エレベーターの中には、私を含め十数人くらいの人間が居たのですが、珍しい事に全員が単独で乗り込んで来たようでした。つまり、エレベーター内の全員が赤の他人。
結果どうなるかと言いますと、そこには極めて静謐な空間が誕生する事となります。エレベーターの機械音もない。全員が他人なので、会話の話し声もない。誰かの唾を飲み込む音すら聴こえて来そうな静寂の空間です。
と、その時でした。
ヒャクッ。
エレベーター内に妙な音が木霊し始めたのです。
ヒャクッ…ヒャクッ…。
全員の視線が音のする方へ集まります。ヒャクッ…ヒャクッ…。
そこには、初夏らしい爽やかなワンピースに身を包んだ若い女性の姿がありました。
ヒャクッと音がする度、女性の体がビクッと跳ねています。まるで、清流の水面を飛び跳ねる若鮎のようです。塩焼きにして柚子を絞って食べると美味しそう。
どうやら音源はその若鮎の女性で間違いなさそうです。
ヒャクッ…ヒャクッ…。
全員が無言の内に全てを理解していました。
横隔膜の痙攣。平たく言えば、シャックリです。
しゃっくり自体は何も珍しくありません。しかし、シチュエーションが悪すぎます。見知らぬ人達が集う静寂の密室で、ただただシャックリの音だけが木霊し続ける…それは、何と言うか…とてもシュールな空間でありました。
それにしても、シャックリの音の大きさが半端ではありません。さぞかし立派な横隔膜をしているに違いありません。まだ若いのにこのような見事なシャックリをするとは、なかなか大したものです。
そう言えば、以前テレビの番組で「シャックリが20年以上も止まらない男性」のニュースを観た事がありました。彼は今も相変わらずシャックリし続けているのだろうか?私はエレベーターを降りながらそんな事を思い出していました…。
〜おしまい〜。