【Chocolate Kiss】4
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【Side:All】
リビングに散らかした書籍をまとめ終わり、コーヒーを入れ始めた時に玄関を開ける音に弘樹が振り返る。
「ヒロさんただいまです。ちょっと遅くなりました…」
やや息切れしつつ現れた野分に、そんなに慌てなくても…と考えながらも腹の虫が鳴り慌てて腹を撫でる。
弘樹の腹の音に少し笑い、野分が食材の入った袋を食卓に乗せ、早速それを並べようとする弘樹の腕を野分に取られキョトンと弘樹が見上げた…。
「…何?」
「ヒロさんに先に…今日はごめんなさい。それと…お土産です、はい。」
弘樹が振り返り、野分と向かい合う形となれば手渡された紙袋に……
「土産って…これ…まさか…」
そう…弘樹が手渡された紙袋は、彼が数時間前に手にしていた物と全く同じで…ヒクついた笑みを浮かべてしまう。
「?はい、えっと今日チョコレート作れなかったんで…ヒロさんに…ハッピーバレンタインです。」
この紙袋で丸判りだよな。なんて考えチョコレートを手渡した野分は少し恥ずかしいのか、頬を掻きながら『受け取ってくれますか?』と微笑みかける。
――が、その紙袋を抱えたまま固まる弘樹に首を傾げ…
「…あの…迷惑、でしたか…?」
「え!?いや違っ…えっと、サンキュー……………っ、よし…ちょ、ちょっと待ってろ!!」
しょんぼりうなだれながら野分が問えば慌てて首を振り、何やらしばらく思案した後にバタバタと自室に走り込む弘樹に首をまた傾げる。
「…なんだろ…」
姿を消した弘樹の後ろ姿をながめつつ惣菜やらワインを食卓に並べる。
そして5分程経った頃だろうか…弘樹が自室からドカドカ足音をさせながら現れ―――
「あ、ヒロさん急に居なくなるから何かとおも――っわ!…ぇ、これ…ヤッパリ要りませんか…?」
野分の前で立ち止まり、何故か真っ赤な顔をした弘樹に突き出された紙袋を受け取りショックを受ける…それは、先ほど自分が渡した紙袋で、突き返されたと思い野分の胸が痛んだ。
「〜っ!違う!……お前のは…これ……」
ギュッと紙袋を抱え俯きかけた時だった、弘樹の言葉に彼を見れば…彼の腕の中にも同じ紙袋…
一瞬『えっ?』となるも、事情を察し一気に野分の心が晴れた―――
「もしかして…ヒロさんも…チョコ買ってきてくれたんですか?」
野分の言葉に赤面し、俯きながらも小さく頷く弘樹の可愛さに思わず野分が強く抱きしめてしまい…恥ずかしさもあり弘樹が思いっきり野分の足を踏みつける。
「〜っ!よ…寄りによって同じ奴買ってくんじゃねぇ!バカ!!」
痛み足をさすりながらも、彼がチョコレートを買ってきてくれた事が何より嬉しい野分は終始笑顔のままで抱きしめ続けて。
「ヒロさんヒロさん…俺嬉しいです。開けて良いですか?ヒロさんも開けて下さいよ。」
「…どーせ…同じ店のだし…」
もしかしたらコイツの事だから、店員に勧められるまま、あの動物いっぱいの詰め合わせを買ってるかも…と淡い期待を胸に、明らかに小さめな箱を互いに開封する。
「…あっ!」
「…ぁ……っ…」
―――開けた箱には―――
弘樹の手には、パンダが抱き合いキスをしていて…
野分の手には、大きいパンダが小さいパンダを背後から抱きしめていた…
「…これって、お互いの願望みたいです。」
「んな!ンな訳あるか!こら離せ!!抱きつくな!」
「イヤです、ヒロさんはこうして後ろからギュッとされるのが好きですよね」
ジタバタ暴れる弘樹を物ともせず、強く強く抱きしめて、崩れるようにその場に二人してしゃがみ込み…
小さな吐息と共に力の抜けた弘樹は野分に背を預け。回された腕と自分の手の内のパンダが目に付く。
「……だったら…コレは…お前の願望…?」
ゆっくりと赤らむ顔に叱咤しつつ野分に顔を向ければ、満面の笑みで頷かれ…その幸せそうな笑顔に逆らえる訳がない――と…ゆっくり…ゆっくり弘樹は目を閉じる。
「…ヒロさん、大好きです。…ハッピーバレンタイン…ヒロさん…」
「…っ……お、おぅ……ンッ…」
まだまだ寒い夜。
だけど君が居れば大丈夫…。
静かな室内で愛を確かめ合うように…
――穏やかな口付けは暫く続いた―――
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End.
Happy Valentine ! For you …