【君の笑顔が見たくて】2
俺は今仮眠室で待機中だ。
朝までに何もなければ帰れるんだが…
正直帰りたい、子供達の容態も安定して居るし当直は津森先輩がいるんだから。
しかし何かあった場合は先輩一人だと大変だしな…
「…はーぁ…寝とかなきゃ駄目なんだろうけど、眠れない…」
仮眠室の安っぽい簡易ベッドで寝返りを打てばギシッと大きく軋む。
…同じ軋みでもヒロさんとベッドを軋ませたい…なんてバカな妄想をしてしまい大きく頭を振る。
「……ヒロさん…今年も何か用意してくれてるんだろうな。」
ふと見た時計は午後十時半。
今日は実は俺の誕生日だったりする。去年は俺が至らない為にヒロさんに迷惑を掛けてしまい、申し訳なさを思い出した。
チッ、チッ、と静かな部屋に響く時計の音に溜息を何度しただろうか?
パチンと開いた携帯電話には何のメールもなくて…ちょっと寂しい。
「…会いたい、ヒロさん………俺、成長してないな。毎日毎日ヒロさんでいっぱい…」
勿論ヒロさんのせいになんかしない、けど…ちょっとだけ、ヒロさんの事を考え過ぎて仕事に支障をきたしてしまった事もあり情けない。
こんな俺をヒロさんは“重い”なんて一言も言わず、しっかり背中を押してくれる。
やっぱり考えれば考える程、ヒロさんは俺の全てだ。
携帯電話の中に納めたヒロさんの寝顔写真を眺めていたら響いたノックの音に顔をあげる。
「はい?」
「あ、起きてたか、入るぞ。」
「あれ先輩、どうしました?交代ですか?」
部屋に入ってきたのは津森先輩で、欠伸を一つし体を起こした俺のベッドに腰掛け片手を上げる。
「んーや。ちょっとな、子供達の容態も安定してるし、急患も今はいないしな……俺からのバースデープレゼントをやろうかな、てな?」
ニッと口を持ち上げ、先輩はポケットから棒付きの小さい飴を取り出し俺にほり投げてきた。
「あ、飴……ありがとうございます。」
…それを受け取りながら、これをくれたのがヒロさんなら俺はもっと嬉しいのにな、と飴を見つめていれば先輩に苦笑いされてしまった。
「お前顔に出過ぎ。…あーもー…多分大丈夫だけど、緊急時呼び出し有り…でなら帰っていーぞ。特別プレゼントだチクショーが。」
「…え!…いや…でも俺…」
「ったく、グダグダ言うな、素直に受け取れよ?…まあ実際お前、一週間は家に帰れてねぇしよ、流石に少し休め。」
津森先輩のセリフに驚きもごもごしてしまうも、ポンと頭を叩かれホウッと息をはく。
「先輩…ありがとうございます!」
「おう。取り敢えず呼び出しなきゃ明日は昼からな、たっぷり働いて貰うから覚悟しろよ!」
そうして俺は急いで帰宅の途につき、自転車を漕ぎながらヒロさんにメールを打ったが、マンションについても連絡がないから寝てしまったかと諦めながら部屋を見上げると―――
「あれ、電気ついてる…っ、ヒロさん…」
起きてるかもしれないという気持ちと寝てるかもしれない気持ちで。なんだかドキドキしながらエレベーターに乗り込む、部屋の鍵をゆっくり開け室内に足を踏み入れれば仄かに香る良い香りにヒロさんが浴室に居ることが知れた。
「ヒロさん!ヒロさんただいま、帰りました!!」
俺はたまらず浴室をノックし声をかけると中からもごもごとヒロさんの声が聞こえ、開かれた扉からヒョコッと顔だけ出して『おかえり、お疲れ様』と赤い顔で告げられ疲れがふっとんだ!
「…帰れたんだな、飯は?買った惣菜ならあるけど…食うか?」
「はい!頂きます!」
「…ん。じゃあ暖めてやるから…その…まだ風呂暖かいし入れば…」
そう言いながら姿を現したヒロさんの着ているパジャマに目がいった。
タオル地のような少しふんわりした淡いベージュのパジャマは…初めて見るものだった。
「あ、はいじゃあお風呂頂きますね?…ヒロさんそのパジャマ初めて見ました。」
「…うん。…い、良いからさっさと入れば!湯が冷める!」
「あ。じゃあ入りますね。」
俺の問いに異常に赤くなってまくし立てるヒロさんに首を傾げながら俺はヒロさんの残り香のする風呂にいそいそと入る。
「あ、パジャマ…そこに置いてるのでよかったら着ろ。」
パタンと扉が閉まると聞こえた声に耳を傾け棚の上を覗けば―――
そこには先ほど彼が着ていた物の色違いの、濃紺のパジャマが置かれていてて一気に顔に熱が集まった。
可愛い可愛いヒロさん…彼はそう告げるとパタパタと急いでキッチンに駆けていった―――
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