☆Happy Valentine Day☆
【Sweet Honey】
……バカじゃないのか、アイツ…
「…あぁ、前からバカか。」
今朝起きて、ふと目に付いたのは食卓に用意された美味そうな朝食。
これを用意した奴は“俺ちょっと遅刻しそうなので先行きます!ヒロさん起きてくださいね!!”といつもより強く俺を揺さぶりさっさと仕事に行ってしまった。
「…頂きます。」
まぁ別に朝飯をバカだと言った訳じゃない。原因は朝飯の横に置かれた一通の走り書きと物体Aだ。
「……(もそもそ)…食いもんかと思ったが…違うのか…」
今日は午前中の授業もないし宮城教授も居ないからノンビリと食事を取る、疲れてるせいかあんま焦る気にならん…。
俺はその走り書きと物体Aをちらりと見て溜息をついてしまった。
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「―――で有るからして、この時の表現として用いられる用語は―――あ、じゃあ…とりあえず今日はこれで。」
おや、もうそんな時間か…
ベルの音に時計を見れば最後の授業が終わってた。
相変わらず俺は集中すると時間的観念が抜けるのかもしれない。
「あ、先生…ここなんですけど…」
「なんだ?…あぁここはな――」
終業ベルを耳にぼんやり歩いてたら数人の生徒に声をかけられ立ち止まる。
開かれたノート…それと向けられた黒い瞳に、ほんの少しだけ昔を思い出した。
「……先生…?」
「あ、すまん。えっとコレは――」
いかんいかん…の…野分を思い出しちまった。
僅かに赤らんだ目元に向けられた視線に溜息が漏れる…野分不足ってか…?
そんなこんなでヨロヨロ研究室に戻り、そう言えば授業中になんかマナーモードだが鳴ってたなと思い出し携帯を覗けば二通のメール。
確認しなくても俺は大してメールなんざしないからアイツなんだけどな…
「…なになに……“ハッピーバレンタインです!”……バカか……次は……“プレゼントは食べちゃダメですよ、使ってくださいね”……解ってるし。」
そうだ。今朝見た物体A。確かにその袋は見た目が飴でも入ってるような感じだ、でもちゃんと書いてただろ…解るっつーの。
それにしてもアイツは律儀だな。
出会ってから毎年毎年、無い時間を裂いてまでバレンタインやらクリスマスなどのイベント事を大切にしてる。
どうしても時間が合わない時は日をずらしてでも大切に大切に祝う。
「…本当に…バカだな…」
本当は嬉しいのに素直に言えない自分が恥ずかしくなった。
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「たーだいま…」
だぁれも居ない部屋。
ふいに見上げた壁掛けカレンダー…今日の日付に小さく書かれた“夜勤”の文字…はぁ。今日…何回溜息ついたんだろう。
「…つか…さみぃ…て、あぁ…雪すげぇな。」
カレンダーの横の窓。何気なく開いたカーテンから覗いた外は帰宅時に雨から変わった雪が吹雪いてる。
随分雪が酷くなっていて底冷えのする部屋に小さな俺の声が響いた。
「腹ごしらえ…よりあったまろ……べ、別に…これを今日中に使いたい訳じゃないけどな!」
俺、何独り言いって照れてるんだか。
今朝発見した物体Aがのったテーブルに目を向け、足早にそれを掴んで風呂場に逃げるように入った―――
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「さ…む…い……」
びゅうびゅう風が吹いて、雪が俺に積もってきた。
夜勤の予定が急遽帰宅となったのは俺が実は風邪気味だったから。
連日勤務で風邪の子供達の診察ばっかりしてたからだろうな…
でもいつもなら帰ってヒロさんに移したら大変だから病院に引きこもるだろうが今日は違う!
なんと言ってもバレンタイン、しかも体調も考慮してくれて明日1日の休みまで頂けた!これは帰るしかないだろう。
一応診察してもらってビタミン剤も打って貰ったし暖かくして寝たら一晩もあれば治るだろう。
「…早く帰ってヒロさんに会いたい…」
ちらりと見た時計は21時前。これならヒロさんは起きてるだろうと暖かい部屋とヒロさんを妄想しながら帰宅した。
ちょっと前に送ったメールには返事が無かったからどうしたんだろうと思ったけど帰宅して響いたシャワーの音と僅かに香る甘い香りに……
(バンッ)
「ヒロさん!」
「うわあぁ!な…んな…野分!ビビらすんじゃねーよ!」
積もった雪もそのまま、浴室に乱入してしまった。
乱入した浴室には泡まみれの体をシャワーで流しているヒロさんがいて…もの凄く色っぽい。しかもこの浴室…すっごく甘くてイイ匂いがして、今日贈ったプレゼントを早速ヒロさんが使ってくれていた事に顔が緩んでしまった。
「ヒロさんただいまです。…ヒロさんイイ匂い…甘くておいしそうで…っぷ!」
「っバカ!変な事言ってんじゃねぇ!…つか夜勤はどうした雪男。」
ヒロさんたら照れてるのかな。
裸なんて何度も見てるのに所在なさげに体を斜めにして大事な部分を隠しながらお湯をかけられた。
「あぁ、俺ちょっと風邪気味だったんで早くあがらせて貰いました。明日もお休み頂けたんで大丈夫です!」
「………は?風邪気味…?……っ!?ば、バカか!そんな奴が何雪まみれになってんだよ!?早く入ってこい!」
…ヒロさん…俺、ヒロさんが思ってるより全然元気なんです、色々。
血行のよくなったうっすら桃色に染まった肌と濡れた体と極めつけが“早く入ってこい”って!
ヒロさんの中に入りたいです(真顔)
「いいんですか?」
「こんな時に何言ってんだよ!もう、早く…俺もう湯に浸かるから…」
俺の淫らな妄想に気付かず真顔で言う俺の服に手をかけられ照れてしまう。
「ヒロさん…イイ匂い…甘い」
「…お…お前が寄越したんだろ、この…チョコレートの入浴剤…匂いが染み着いちまった。」
「…ふふ、使ってくれてありがとうございます。」
「もーいいから早く入れバカ。」
今日は…このイイ匂いのヒロさんを寝かせてあげられそうにありません。
――甘い甘い匂いの中。
いつもより長く、可愛い人を抱きしめてお湯につかりました。
…二人して湯当たりしたのは…仕方有りません。
「ヒロさん…ハッピーバレンタインです。」
「…ほ…ホワイトデーは…俺がもっとマシなプレゼント…用意してやるよ。」
真っ赤な耳であなたが言った言葉に俺は溶けそうです―――
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End.