逢いたいと願えば願うほど。お前は遠くて遠くて…
俺は恋い焦がれるんだ―――
【七夕の笹飾りが窓辺で揺れております】
[Side:H]
ばっかばかしい!!
今月に入って…いや、正確には6月の28日からだ。
野分は全然帰ってこない。
「…でも昼間帰ってはきてるがよ…」
そう、全然顔を合わせては居ないのに、ある日帰宅するとそれなりにデカい笹の木?枝?が窓辺に飾られていた。
怪訝に思いつつこんな事するのは奴しか居ないわけで…どうしたものかと思案してれば突然のメール。
“ヒロさん、病院で七夕祭りをするので、余った笹を貰いました!お願い事、たくさん書いて下さいね”
だとよ……馬鹿じゃねぇの。
一人で七夕祭りかよ?アホ、阿呆、あほ。
お前は子供達やら看護師達に囲まれて楽しく七夕祭りかよ…俺は独りにしてよ…。
「…つかなに。これに書けって?……誰が書くかバーカ!」
そしてふと見た先、テーブルの上には色とりどりの綺麗な短冊が6枚程あった。
*
*
*
[Side:N]
七夕祭りは明日と迫った!
子供達が喜んでくれるように色々と飾りも作った。
「懐かしいですね、この折り紙で輪っか作ったり…昔やりましたよね」
「…俺ぁ折り紙っつーと飛行機ばっか作ってたかな?」
窓枠に飾り付けしつつ津森先輩と他愛ない話をする。
そんな中、ふと子供時代を思いだし懐かしくなった―――
「あ、そういやお前さ、笹持って帰っただろ?なんか願い事とか書いてきたのかよ?」
ぼんやりと昔に思いを馳せていれば掛けられた声に“あっ”となった。
ヒロさんには書いてくれとは言ったが自分は何も書かずに窓辺に飾っただけだったのだ…
もし書いていればヒロさんなら“しょうがねぇなぁ”とか言いながら願い事を叶えてくれたかもしれないのに…
「書き…忘れました。あー…ヒロさん……逢いたい…」
「…へーへー。ほら、短冊あるだろ。ヒロさんに逢いたい。とでも書いとけよ。」
俺がうなだれながらボソッと呟けば先輩は欠伸しながらペイッと短冊を投げよこしてきた。
「…ヒロさんって言わないで下さい。」
ムスッとなりつつも…願いを込めて短冊に言葉を託す。
“ヒロさんとずっと一緒に居られますように”
*
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[Side:H+N]
《七月七日》七夕当日…の夜23:30。
「……ばぁか。…つか俺も何期待してんだよなぁ…ック…」
俺は酔っ払いになっていた…明日も仕事なのに…。
夕方、帰宅した直後に野分からメールが来たんだ。
“ヒロさんへ。逢いたい…明日には帰れそうです。”
たったそれだけ…。何の約束も確かにしてはいない。
だから…何も言えない、文句の一つだって。
「―――ったく…くそ…七夕なんか……つーかよー…彦星は織姫と逢えたのかよ。…あーそーか、良かった良かった。」
俺、さっきから一人で何言ってんだろ。
天の川が流れる空を一人で見上げ、クイッとまた一口酒を呷る。
「…あーそーだ……くくっ…嫌がらせしてやろう。」
アルコールの回った吐息を漏らし、摘みのナッツに手を伸ばせば不意に視界に入った短冊。
それに何気なく手を伸ばした―――
*
*
*
もうすぐ七夕が終わってしまう!
奇跡だ奇跡!なんと“あの”津森先輩が突然帰宅OKを出してくれた!!
まぁ緊急の場合は呼び出しあり…だけど。
それでも俺は必死に自転車を漕ぎヒロさんの待つ自宅へ向かう。健康優良児なるヒロさんはもう寝てしまってるかもしれないが…。
それでも、寝顔だけでも見たくて汗だくになりながらマンションに到着し部屋を見上げた。
「あ…ヒロさん。起きてる!!」
こうこうと明かりが灯り、ベランダの窓は開かれたままで、ヒロさんが起きている事を知らせてくれた。
俺は嬉々としてエレベーターを待ちつつ、そういえばヒロさんに一言も連絡をして居なかったのを思い出し急いで一言メールを送ろうと携帯を取り出せば―――
「わっ。…ヒロさん?…えーっと………っ!?」
突然震えた携帯、そこに表示された名前に携帯を開けばメールが一件。
そしてその内容を見た俺は―――
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■7/7 火 23:45
■ヒロさん
title:野分…
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七夕の笹飾りが窓辺で揺れております。
弘樹
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俺は猛ダッシュで自宅に向かう。
意地っ張りで頑固で格好良くて、可愛いくて…寂しがり屋の恋人の元へ…
「はぁ、は…ヒロさん、ただいま…です」
扉を開き、バタバタとリビングに顔を出した。
あぁ…ヒロさんがびっくりして、耳も首筋すらも真っ赤にして俺を見ている。
「おぉ…お…おか、えり…」
あなたの顔といったら…顔といったら…
彦星と織姫の様に、僕らは束の間の逢瀬で愛を語った―――
End.