そう言ってフローリングを傷つける音と共に椅子を引きずり、私のベッドに近づいてくる。
そして私の膝の上に開いたままのノートパソコンを置いた。
かけ布団越しに熱と重みが伝わる。
「今表示されているウェブページはリクさんの地域のニュースをまとめたものです。読んでもらえますか」
サトさんはそう言って黒いネクタイの先を邪魔そうにズボンの中に入れた。
なんだか、ちょっとダサい。
そのままサトさんを見ていると笑ってしまいそうで、私は言われた通り画面の文字に目を走らせた。
一番上に「ほっとにゅーす」というタイトルがあり、数行あけて「通り魔か? 女子高生腹部刺される」という見出しがある。
その下には見覚えのある公園の写真があり、更に地味な制服姿の女子の写真もついていた。
「なに、これ」
写真の人物は紛れもなく私で、おそらく学生証と同じものだ。
写真の下の「長野陸さん(16)」という文字が決定打。
焦るように記事に目を通して、私は呆然と、いや愕然とした。
念のためもう一度読み直す。
受け入れられなくて、もう一度。
三度目の読み直しをしようとしていた私をサトさんが止めた。
「理解できましたか」
私は首を横に振る。
理解できるわけがない。
だってそこには、私が公園で刺されて死んだと書かれていたのだから。
死因は失血死、発見されたのは午後八時で、その時には既に私は冷たくなっていたと書かれている。
「ここで話を整理しましょう。ダメモトは混乱しているので」
そう言ってサトさんは一度大きく息を吸い、ふうと吐いた。
「出来る限りわかりやすく話します、とりあえず聞いていただけますか」
中学生の声で紡がれる敬語は丁寧すぎる感じがして居心地が悪くて、私は背中にかゆみを覚えながらうなずいた。
私の顔を見てサトさんが「まず」と話し出す。
まず、ここは魔界です。
リクさんのいた人間界とは別の世界で、天国でも地獄でもありません。
次に、公園でリクさんがブランコにのっていたときのことです。
公園にはリクさん以外に二人の人間がいました。
一人は最近その辺りに出没する通り魔、もう一人はダメモトです。
通り魔は一人でいたリクさんに何かを感じたのでしょう、ブランコをおりたリクさんに背後から近づき、腕を回してリクさんの腹部に刃物を突き立てました。
通り魔は倒れたリクさんに何度も刃物を振り上げ、やがて去りました。
ダメモトはそれをトイレで隠れて見ていたのですが、リクさんの体から魂が抜けていくことに気付きました。
ダメモトはリクさんが魔界の生き物を知覚出来ると勘違いしていたので放っておけなかったのでしょう。
リクさんの魂を捕まえ、すぐここに運んできました。
そしてユキトがリクさんの魂をもとに体を再構成しました。
今のリクさんの体はユキトが再構成したものなんですよ。