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パジャマエプロン 22

「自分が揃えた服を漁って何が悪い」
いや別に悪くはないですけど、というかユキトさんが揃えたんだ。
「エプロンの色は二十色揃えておいたんだが、まさか薄カボチャ色を選ぶとはな。予想外だった」
ユキトさんが赤や緑のエプロンを腕に抱えて振り返る。
「あとで替えのエプロン持ってくるから風呂にでも行ってこい。下着はここの引き出しに入れといたし、歯ブラシなんかの衛生用品はそこの収納ケースの中、石けんは風呂場だ」
まるで主婦みたいにてきぱきと説明すると、ユキトさんは部屋を出ていこうとした。
「あの」
お礼を言おうとした私にユキトさんはにやりと笑う。
「下着についての不満は受け付けないからな」
「どういうことですか」
ユキトさんは答えず、肘で扉を閉めてしまった。
こうなったら今すぐ確認する以外ない。
言われた通りクローゼットの下の引き出しを開けるとそこにはちゃんと下着が詰まっていて、全体的に白っぽかった。
試しに数枚出してみると、パンツは綿百パーセントでくまさんやうさぎさんがついている。
キャミソールも見事に綿百パーセントでお菓子のプリントがされていたりする。
ちなみにブラは白のスポーツタイプだった。
ここは気を使って豊乳パッド追加とかなかったんだろうか。
そこまで考えて、どうしてユキトさんが不満は受け付けないと言ったのか分かった気がした。
なんというか、さすがロリコン変態・メガネオレンジだと思う。
あ、この呼び方、戦隊ものっぽくてけっこういいかもしれない。
あとで言ってみよう。
私はちょっといい気分で鼻唄なんか歌いながら下着を揃えた。
次は歯ブラシだ。
机の横の収納ケースを開けると救急箱が存在を主張していて、ケースから出さずにふたを開けると、そこには見覚えのある頭痛薬や風邪薬が詰まっていた。
こういうのもユキトさんが揃えてくれたんだろうか。
傷薬や包帯を一通り確認してふたを閉めると、救急箱の隣のピンクの箱が目に止まった。
薄いピンクで可愛いのに、中に何が入っているのかどこにも書いていない。
ふたを持ち上げてみると、そこには厚さ一センチ弱の白いふわふわした正方形がびっしり詰まっていた。
衛生用品ならちゃんと書いておいてくれればいいのに意地が悪い。
もしかしてユキトさんも恥ずかしかったりしたんだろうか。
ピンクの箱にふたをして手前の白い箱を開ける。
そこには歯ブラシとコップのセットがあって、二つともライトグリーンに統一されていた。
部屋一面の薄緑といい、このパジャマといい、なにか意図でもあるのだろうか。
まあ、他の人の歯ブラシと間違わないのはありがたいけれど。

パジャマエプロン 21

廊下と同色のアイボリーの扉。
その先には二つの洗濯機と洗面台、それに二つの茶色い扉があって、茶色の扉の先にはそれぞれ脱衣所と浴室がある。
「それで、こちらがタオルです」
隣にいるサトさんが洗面台の下を開けると、黒いタオルがぎゅうぎゅうに詰まっていた。
てっきりホテルみたいな白いタオルがあると思っていたのに予想外すぎる。
「分からないことがあれば誰にでも良いので聞いてください」
かがめていた腰を伸ばして言うサトさんに私はうなずいた。
ごはんの後に始まった部屋案内はトイレから始まって、それから一階のなんでも屋の応接室やみんなの部屋の位置を確認したけれど、どうやらこの洗面所で終了みたいだ。
なんでも屋の応接室に台所から行けたことにも驚いたけれど、お風呂や洗濯機が二つあるっていうのはもっと驚きだった。
サトさんが洗面所を出て行く。
目で追っているとサトさんは一番奥にある部屋に入っていった。
あれは確かサトさんの自室で、その一つ手前が私の部屋だ。
なんだか頭がぐちゃぐちゃするけれど、まあ自分の部屋の位置さえ分かってればなんとかなるはず。
私は「よし」と気合いを入れて洗面所を出た。
とりあえずお風呂に入ろう。
公園で倒れてからネットに死亡情報が載る程度には時間がたってるわけだし、なんだか顔がべたつく。
そういえば今何時なんだろう。
部屋に時計はなかったし、ごはんを食べた居間でも時計を見た記憶がない。
お風呂から出たらサトさんに聞いてみよう。
考えながら部屋のドアを開けると、明るく穏やかな緑が視界いっぱいに広がった。
クローゼットから机からベッドまで薄緑尽くしなんて、この部屋をインテリアした人はどんなセンスをしてるんだろう。
これで今着けてるオレンジのエプロンを取ったら部屋と一体化してしまいそうだ。
「おい、ちび」
後ろから嫌な声がする。
私はそれを聞こえなかったことにして一歩前進し後ろ手で扉を閉め、損なった。
「シカトとは良い度胸だな。その薄い胸のどこに」
「うるさい」
ユキトさんの声を遮り後ろを向く。
「貧乳はステータスだろ」
ユキトさんが相変わらずロリコン発言をしながら部屋に入ってくる。
そしていきなりクローゼットを開けた。
「え?」
開いた口の塞がらない私を尻目にユキトさんがクローゼットを漁る。
「何してるんですか」
下着漁りなら私の見てないところでやってください、と続けるとユキトさんは否定の声をあげた。

10/05〜10/25 移植完了

詩「恋の起承転結」
短編「大野と佐藤05」
本の感想10件
移植しました。

「大野と佐藤」は掌編から短編連載へと分類を変えました。

パジャマエプロン 20

「あ、ごめんねリクちゃん、怖かった?」
私の様子が変わったのに気付いたのか、ダメモトくんがゆっくりと椅子を下ろしてくれた。
「大丈夫、怖くなかったよ」
ただアイスが完食されたという点が大丈夫じゃないだけで。
「ダメモトはうちで力仕事をやってくれてます。リクさんと会った時も大きなお客様との交渉中だったんです」
いつのまに用意したのか、サトさんがコーヒーにミルクを注いでいる。
「交渉するのに力がいるんですか」
ダメモトくんの椅子から自分の椅子に戻りつつ聞くと、サトさんは当然のように言った。
「交渉にも色々あります」
そしてふうふうと熱心にコーヒーを吹き始める。
猫舌なんだろうか。
でもそのまんま猫のネゴトさんはしれっとしてコーヒーを楽しんでいて、どうやら魔界の猫は熱いのが得意みたいだった。
ダメモトくんがテーブルの上のポットを取ってカップに注いでいる。
ポットが一つということはここにはコーヒーしかないということなんだろうか。
これはピンチ、というか大ピンチだ。
「おい貧乳、百面相でも身に付けたのか」
ユキトさんがうざい。
オレンジ眼鏡が特にうざい。
よく見れば「I LOVE CATS」と書かれているシャツまでもがうざい。
そんなに猫好きならネゴトさんとラブラブしちゃえばいいのに。
それで鈍感で無口なネゴトさんに苦労しつつツンデレしながら思いを伝えればいい。
できればそこで一度フラれちゃえば尚美味しい。
「わかった、コーヒー飲めないんだろ」
自分が妄想のネタになっているとは気付かず、ユキトさんは得意気に言ってくる。
推測が当たってるところが本当に憎らしい。
「飲めないんじゃないです、好きじゃないだけです」
空になったアイスどんぶりを見つめながら言うと、ユキトさんは鼻で笑った。
「素直にコーヒーは苦いから嫌いって言えよ。ほんとにガキだな」
うわ、むかつく。
「ガキってなんですか、変態ロリコンあほ眼鏡のくせに」
息巻きつつユキトさんを睨むと、ユキトさんは「これだからお子ちゃまは困る」と言ってグラスを傾けた。
ガキよりもお子ちゃまと言われる方が癪にさわる。
あれ、でもなぜここにグラスがあるんだろう。
というかその中に入ってるオレンジ色の液体は何。
まさかオレンジジュース?
「ユキトさん、それって」
「そんなに気になるなら冷蔵庫見てこい。グラスは左の棚の上から四段目のどっかにあるから」
「そういうことはもっと早く言ってくださいよ」
まったく意地が悪いんだから、と心の中で付け足す。
「聞かれないことは答えようがないだろ」
ユキトさんはそう言ったけれど、やっぱりそこは思いやりの範囲内だと思う。
何も知らない状況じゃ知らないことが多すぎて聞きようがないんだもん。

パジャマエプロン 19

ちょっとつついただけで倒れちゃうなんて、ネゴトさんは案外繊細なのかもしれない。
さっき猫姿の時に押したり叩いたりした気がするけど大丈夫だったんだろうか。
実は骨折してたりとかしてないよね?
「あ、あのネゴトさん」
ネゴトさんがうつらうつらした目を少し開けた。
「さっきはごめんなさい、結構強く叩いちゃって。そんなに繊細だなんて思わなかったんです」
ネゴトさんの金色の目がぱちっと見開かれる。
その隣でユキトさんが吹き出した。
「勘違い一人言女王」
こらえきれないのかくくく、と笑い声を漏らすところが憎たらしい。
一人言女王はともかく勘違いってなんだ。
「ユキト、あまりリクさんをいじめると高血圧でぽっくりいっちゃいます。処理するのはユキトでしょう」
私の右隣でサトさんが怖いことを言う。
というかぽっくりいっちゃったら私はどこへ行くんだろう。
やっぱり天国だろうか。
「この程度でぽっくりいくようには見えないけどな」
ああ、ユキトさんがうるさい。
第一印象は優しい大学生だったのになんでこんな鬼畜なんだ。
絶対詐欺だ。
慰謝料請求してやりたい。
「おいダメモト、説明すんの面倒だからなんかやれ」
私の怒りが向いていることに気付かず、ユキトさんは白バケツからアイスをこそげとりながら言った。
ダメモトくんは「なんかって言われてもこまるよ」と私を見る。
「リクちゃん体重いくつ?」
「え、どうしたのいきなり」
ここは軽めに答えておいた方がいいんだろうか。
いや、でも変に嘘ついてもばれた時が気まずいし。
「残念ながら40キロ台だけど」
「軽いね」
私の身長で40キロ台は軽いとは言えない気がするけどなあ。
「リクちゃん立って」
ダメモトくんはそう言って立ち上がり自分の座っていた椅子を後ろに引く。
「で、こっちの椅子に座って」
よく分からないままダメモトくんが座っていた左隣の椅子に移動すると、ダメモトくんが私の横でひざまずいた。
「しっかり掴んでてね」
「え?」
一瞬だった。
確かに床についていたはずの足は空中をさまよっていて、ユキトさんたちが下に見える。
どうやら椅子ごと浮かんだらしい。
なんだこれ、魔法か?
後ろ手で背もたれをぎゅっと掴むと、真下でダメモトくんの声がした。
「今片手なんだけど、わかる?」
おそるおそる真下を見ると、ダメモトくんが椅子の座面を下から持ち上げていた。
左手を無駄にぱたぱたさせているところを見ると、確かに右手だけで持ち上げているらしい。
魔法じゃなくてちょっと残念だ。
「重くない?」
「軽いよー」
ダメモトくんが明るく答える。
「力有り余ってるもんな」
ユキトさんはそう言って白バケツをテーブルに戻した。
視線が高いおかげでバケツの中までよく見える……ってアイス完食されてるし!
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