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パジャマエプロン 32

「おい貧乳、理解したか」
ユキトさんが聞いてくるけど貧乳なんて呼び掛けには答えないことにする。
「そういえばその基準時間のネゴトさんはどこ行ったんでしょう。さっきから見掛けないんですけど」
ユキトさんを視界に入れないように気を付けつつサトさんに聞くと、サトさんは不思議そうな顔をした。
「さっきリクさんの部屋で一緒にいませんでしたか」
いえ、いませんでした。
即答する私に視界の外から声がする。
「ネゴトならおまえが風呂に行ってる間にベッドに入れといたぞ」
「はい?」
思わずユキトさんに視線ロックオン。
まったく、こんなに早くユキトさんシカト計画が失敗するなんて予想外だ。
いやその前にベッドに入れとくなんてそんなネゴトさんがモノみたい扱いしていいのか。
「湯たんぽはネゴトってメモに書いといただろ」
ドアにメモ挟んでおいたのに見てないのか、ユキトさんはそう続けるけど私の頭の中はすでにオーバーヒートだ。
ネゴトさんは猫で人で湯たんぽで、ということは動物で人間で無機物で、ということはあれか、葉っぱを頭に乗せて変身しちゃったりするのか。
「ネゴトさんってタヌキだったんですか」
真面目に聞く私に三人の動きが止まる。
心なしかサトさんの頭が傾いている気がする。
「……リクちゃん大丈夫?」
ダメモトくんの言葉に「大ではないけど普通に丈夫だよ」と答えると今度はダメモトくんの頭まで傾き始めた。
「よし、寝ろ。もう寝ろ。ハウス!」
ユキトさんが扉を指差す。
「ハウスって、私は犬じゃないですよ」
「いいから」
ユキトさんが私の腕を引っ張り上げる。
そして無理に立たせると背中をぐいぐい押してきた。
「え、ちょっとユキトさん」
ユキトさんは私を居間から押し出すと私の部屋の扉を開けて更に中へ押し入れた。
「ほい、じゃあさっさと寝ろな、おやすみ」
「え、でも歯みがき」
「おやすみ」
だめ押しのように言ってユキトさんが扉を閉める。
なんていうか無理矢理だ。
目の前に立ちふさがる木の扉にため息をつくと、私はベッドを見た。
確かさっきネゴトさんをベッドに入れたとかなんとか言っていた気がする。
でもベッドは見た感じ特に異常はなくて、とりあえず布団をはがしてみると、おおなんだこの黒い毛玉は。
「えっと……ネゴトさん?」
シーツの上では黒くつややかな毛玉が丸まっている。
指先でそっと触ってみるとじわりとした温かさが伝わってきた。
毛並みに沿わせるようにてのひら撫でてみる。
呼吸に合わせてゆっくりと体が動いていて、どうやら熟睡中みたいだ。
私は静かに布団を被せ直すと歯みがきセットを持って部屋を出た。
ユキトさんの言っていた「湯たんぽはネゴト」はこういう意味だったのか。
なんか分かるような分からないような、でもそれ以前になんでユキトさんはネゴトさんを私のベッドに放り込んだりしたんだろう。
猫をベッドの中に入れたら毛だらけになっちゃうし、もしトイレとかされたら困るし、ああでもネゴトさんならベッドでトイレはしないか。
じゃあこれは私の布団毛だらけ作戦という名の嫌がらせって結論でいいかな、いいよね。
考えながら歯みがきを終えて部屋に戻る。
布団の中には相変わらずネゴトさんがいて、私は電気を消すと潰しちゃわないようにベッドに入った。
動物と寝るなんて飼い犬のシロが子犬だったとき以来だ。
あの頃のシロは真ん丸の目をしていて、手足が丸っこくてぷにぷにしてて、本当にぬいぐるみみたいだった。
ああ、今ごろどうしてるかなあ。
玄関で私の帰りを待ってたりするのかなあ。
ごめんねシロ。
私、もう帰らないよ。
もし待ってるなら、さっさと諦めてお父さんに遊んでもらいなよ。
あ、お父さんからおつまみもらいすぎちゃだめだよ。
あんた最近プチメタボなんだから。

11/02〜12/17 移転完了

詩「細い糸」「誕生日前の魔物」
掌編「雪女」「羊はゼロの場所にいる」
本の感想11件

以上を本サイトに移転。

年賀状作成が終わりました。
あとは宛名とひとことを書くだけです。
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