機嫌が悪いのだろうか。
会ったばかりの時はおどおどしていて、でも強い嫌悪感を示したりして、かと思えば昨日の夜ごはんではずっと無言だったし、なんかつかめない。
「おはようリク、今日もかわいいわねえ。連れて帰っちゃいたいわ」
いつの間に後ろにいたのかアルトの声と共に香水まみれのむっちり感が襲ってくる。
考え込んでいた私も悪かったんだろう、抱きつかれた拍子に右手のフォークがお皿に落下し音と共に跳ね上げたソースがダメモトくんの顔にクリーンヒットした。
「あら、リクったらおっちょこちょいなんだから」
のんきなアルトはよそに私の頭の中では文字にならない悲鳴がかけめぐる。
「ご、ごめんね」
テーブルの上の濡れタオルを取ろうとするも腕の長さが足りない。
「平気だよ。ハンカチあるから」
慌てる私とは対照的にダメモトくんは水色のハンカチで顔をまんべんなく拭い、無邪気な笑顔でアルトを見上げた。
「ユキトがいないからってリクちゃんにちょっかい出したり連れ帰ったりしちゃ駄目だよ。後がこわいんだから」
それにアルトが挑戦的に視線を返す。
「肝に銘じておくわ」
友好的なんだか敵対的なんだかわからない微笑み合戦。
それにしてもアルトの香水ってなんでこんなに頭に響く匂いなんだろう。
バラとかユリのフローラルな香りにチョコレートのような甘さ、それに何か魔女的な薬草を混ぜ込んだようなにおい。
アルトといると心拍数が上がるのはきっとこの香水のせいだ。
それかもしくは。
「どうしたのリク、そんなにあたしの胸が羨ましい?」
私の視線に気付いたのかアルトが谷間を見せつけてくる。
「心臓がどきどきするくらい羨ましいです」
私の答えにアルトが「リクのも大きくしてあげましょうか」と顔を近づけてくる。
化粧バッチリのまつ毛三倍ロングな目力、勝てる気がしない。
「だめだよ、ユキトは貧乳好きだから怒られるよ」
たじたじになっているとダメモトくんがアルトのホットパンツを引っ張って私から引き離す。
助けてくれたのは嬉しいけれどユキトさんが貧乳好きなのとどういう関係があるんだろう。
あれか、もしや体の再構成とやらの時にあの人わざと貧乳に作ったのか?
考えてみれば人間界にいた時はもう少し膨らみがあったような気がしなくもない。
生き返る代償にただでさえ少ない胸を取られたっていうのか。
なんという横暴、ユキトさんの鬼畜野郎!
「リクちゃん、妄想するのはいいけど顔がこわいよ」
ダメモトくんの声に現実に帰ってくると、なぜかみんなの視線が私に向いていた。