ほこほことあたたかい体。
ライトグリーンのパジャマは新品らしいぱりっとした強さがあって、背筋が伸びる気がする。
洗面所を出て廊下を歩きながら、私の足取りは軽かった。
お風呂上がりに洗濯機が「ミス、これを目に当てるとよろしいかと」とドラムの中で冷えタオルを用意しておいてくれたのが嬉しい。
洗濯機のくせにどうやって冷えタオルを用意したのか分からないけど、とりあえず感謝だ。
ちなみに二つある洗濯機で喋るのは一つだけというのも分かって、ちょっと安心。
これでお風呂の度に二つともにツンツンされたらやっていけない気がする。
苦笑しながら部屋のドアを開けると、白い紙がひらりと床に落ちた。
どうやらドアの隙間に挟まっていたらしい。
拾い上げてみるとそこには「鼻垂れガキへ。エプロン入れといた。飲み物は居間で。ゆたんぽはネゴト。カッコいいユキト様より」と書かれていた。
私のことを鼻垂れガキと書いておきながら自分のことをカッコいいと書くなんて、ユキトさんのセルフイメージは狂いすぎている。
一度それらしき専門のお医者さんに診てもらった方が良いよ、ほんと。
それにしても、ゆたんぽはネゴトってどういう意味だろう。後ろ手でドアを閉めて濡れたタオルを椅子の背にかける。
部屋着用のパジャマはクローゼットの上の段に……ってエプロン入ってるし。
それにしても三枚も要らないよ。
これは毎日洗えってことなんだろうか。
ともかくエプロンを寄せて隙間に部屋着を詰める。
さっきまで着けてたエプロンは明日使ったら洗おう。
その時はできれば喋らない方にお願いしたいなあ、なんて。
――コンコン
そんなことを考えていたらノックの音がした。
「はーい」
歯ブラシセットを机に置いてドアに向かう。
この部屋、広いのは良いけれど端からドアまで大股五歩なのはつらい。
ドアを開けると白シャツに黒ネクタイのサトさんがいた。
「脱衣所に靴下忘れてます」
サトさんの指先から垂れ下がる白靴下。
それは紛れもなく私がはいていた、ちょっと臭いかもしれない物で。
「ご、ごめんなさい」
引ったくるように取り返すと、サトさんは驚いたように目を見開いた。
「あ……いえ、ジュースでも飲みますか。ダメモトたちもいます」
「行きます行きます」
大事なことだから二回言いました、けして慌てたりあせったり取り乱しているわけではありません。
「それでは、あ」
サトさんが何かに気付いたように部屋の奥を凝視する。
「どうしたんですか」
振り返ってみても特に変わった様子はない。
でもサトさんはじっと部屋の奥を見ていて、口角をふっと上げた。
「いえ、居間で待ってます」
サトさんはそう言って背を向けると、ほぼ目の前にある居間への扉を開けた。
私も靴下をクローゼットに放り、明日洗濯するからと心の中で約束してサトさんの後に続く。
なんだかとても、りんごジュースが飲みたい気分だ。