アルトの歓声が黄色く響く。
やっぱりこの人、男というよりは女のような気が。
「素敵よねえ、吸血族の血を引きながらも吸血時の痛みを緩和できない未完成さ! なめらかに動く身体!」
言いながらも手早く作業をしていくところが凄い。
「あの無口でクールな流し目なんかもう、見られたら一発でノックダウンね」
無口でクールはわからなくもないけどネゴトさんが流し目をしたところは一度も見たことがないような。
アルトにはあるんだろうか。
「ああ、あたしもネゴトに吸われたいわあ……その時はずっと人型で……細められた目の奥でちらりと見える欲望の光!」
酢飯に具材が投入され、着々とちらし寿司の姿へと近付いていく。
「いやん、そこはだめよ、人前でしょ。部屋の中でなら激しくしてもいいけどお」
アルトのはれんちな妄想がはじけるのと同時にピンクのふわふわがかけられてちらし寿司が完成する。
ああ、なんかこのちらし寿司美味しそうだけど食べたくないかも。
というかアルトが体をくねらせていて気持ち悪い。
「あの、アルトはネゴトさんのこと好きなんですか」
洗い物を食洗機に差し込みつつ聞くと、アルトは一気に妄想の世界から帰ってきた。
「そんなわけないでしょ。愛情と欲望を一緒にするなんてお子様のすることよ」
急に冷たくなった声に居心地が悪くなって私は無言で作業を続ける。
アルトは「リクにはまだ分からないかしらねえ」と言って栗のケーキを切り分けていた。
アルトいわく切り分けておかないと丸ごと食べる勇者がいるらしい。
サトさんはたぶん違うだろうし、ダメモトくんもそこまで食い意地が張ってるわけではなさそう。
ネゴトさんは……静かに見えて結構食べてた気もするけど、でもユキトさんもかなりの勢いで肉に食らいついていた気がする。
あれ、そういえばユキトさんってさっきかぼちゃパイを請求に来たような。
アルトに聞いてみると本当は来る途中に美味しいケーキ屋さんで買っていたそうで、もう冷蔵庫に入っているとのこと。
「一つならつまんじゃっていいわよ」の言葉に甘えて冷蔵庫を開けてみると、一口サイズのパイ菓子が大皿に山盛りになっていた。
一つだけ取って口に入れてみると、さくさくとしたパイ生地の間にやわらかいかぼちゃが挟まっていて、中心あたりにはカボチャのカスタードクリームが詰まっていた。
パイ生地のさくさくとかぼちゃのやわらかさが対比的な上にバター多めで塩味のきいたパイ生地がかぼちゃの甘みを引き立てていてなんとも言えない。
もう一個食べてもいいかな、とアルトの様子をうかがうと、言葉を発する間もなく「だめよ」と言われた。
「さあ出来たわ。リク、みんなを呼んで来て。サトが一階にいるからそっちを先にね」