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0802掌編

[ホット・サマー・チョコレート]

夏休みのデート。
弁当は腐るからつくらない(本当はめんどくさいだけ)と言った私に、彼は無駄に目を輝かせて言った。
「じゃあ、チョコ! チョコ作って!」
あほか、と突っ込む私に彼はなお続けた。
「だって今年のバレンタインもらってないし」
「当たり前だ。出会ってすらないじゃん」
切り捨ててみるものの彼はしぶとく、なぜかチョコを作るはめになった。
まったく面倒で仕方がない。
でも一応デート前日にトリュフを作り、買ってきたラッピング用品(420円)でラッピングした。

デート当日、待ち合わせは駅前の公園だった。
遊園地と映画とでなやんで、暑い中行列に加わるのは嫌だという意見の一致で映画になった。
それにしても、なぜ待ち合わせ場所が屋外なのだろう。
この暑い中、美白に励む女子を外に出しておくなんてあいつはどんな神経をしているんだ。
ぶつくさ言いつつ彼を待つ。
予定時刻から五分経過。
メールをしても返事はこない。
苛立ちつつ汗が滝のようになりつつ更に待ち、
十五分経過。
もう帰ろうかな、と思っていたら電話が鳴った。
「ごめん、まじごめん」
「うん、帰っていい?」
息も絶え絶えな声が電話越しに聞こえ、彼の謝罪が続く。
なんでも、ゴキブリが出て退治に勤しんでいたとかいないとか。
それを適当に聞いていると、真後ろで声がした。
「ほんとごめん、お待たせ」
電話と後ろの声が一致する。
お互い汗ぐっしょりで、かたや引きつった、かたやさめた顔。
でも一応ゆるしてあげることにして、チョコを渡す。
生ぬるい、というかあたたかい箱。
なんか嫌な予感がする。
彼ははじけるような子犬の笑顔でそれを受け取り、丁寧にラッピングをといた。
「あ」
二人の声は同時だった。
かろうじて固形でとどまっているトリュフは左右とくっついてかたまりになっていて、まるで岩石のようだった。
彼が指でつまめばぐにゅりとゆがむし、もう目も当てられない。
それでも彼はなんとかそれを口に運んで、口の周りを汚して笑った。
「うまい。まじうまい。あったかい」
あったかいのは気温のせいだからあきらめろ、という私に彼は首を横に振る。
「おまえの心が」
小動物みたいないい笑顔。
不覚にも、大好きと言ってしまいそうになる。
「きもいクサい」
でも私はデレてなんかやらない。
なのに、くそう、この暑いのに顔が熱い。
それになんか赤くなっている気がする。
でもそれはきっと、日焼けのせいだ。
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