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世界の終わり(1)

(突如始まるストーリーなので苦手な方はリターンプリーズです。。)








世界が終わる。


と、聞いて、皮肉な意見はいくらでも湧いてきた。「陳腐なことばだな」、「中二病のユートピアだな」など。
言葉はいくらでも出てくるのに、実感は全然湧いていなかった。

そもそも「終わり」とは何だろう。

仮に私の人生が終わったとしても何億万人の人生は続いていく。人ひとりの存在なんてそんなものだろう。

同じように、全人類がいなくなっても、はたまた地球が無くなっても、広い宇宙のどこかで、きっと誰かの人生は続くのではないか。

数十年前に地球を旅立った人達だっている。あの月に降り立って、生きている。
当時は歴史的な大ニュースと騒ぎたてられた月への移住も、いまや日常の一部になっていた。

何かの始まりも終わりも、一瞬のインパクトを与えて、何事も消えていく。


「…ちょっと、何をぶつぶつ言ってるの?」
「…ん?」
「考えてることを口に出さないで。何言ってるかわかんないし。それが余計に腹立たしい」



隣でりんご飴をかじっているおさげの女の子は、私の幼馴染だ。
友人であり、小学生のとき転校してきた私に、ご近所や学校でのヒエラルキー、パワーハラスメントから守ってくれた恩人でもある。
天真爛漫で誰からも好かれる性格と、ディベートの類では滅多に負けない頭の良さを兼ね備えている。口喧嘩では、相手を完全に黙らせるまで理にかなった言葉を並べ続けるのが得意で、何も言い返せないのである。畏怖の念を抱く者も少なくないという。


「なーんで最後まで、その癖ふぁ、治ららいのはなあ」


彼女がりんご飴をかじりながら喋るので、何を言われているのかよく分からない。しかし、「最後」という台詞に違和感を感じた。




「最後…の晩餐はりんご飴ってことになるね」

「いーや、このあとはタコ焼き、そのあと広島焼き、唐揚げ、あとクレープも食べるよ。シメは白おむすび買って食べる。日本人はお米が命!」

「…聞いているだけで胃がもたれる」

「あんたは?何も食べないの?」



喉を通る気がしないのだ。この際、胸焼けしようが吐き気が起ころうが、明日の心配などする必要はないのだろうから、好きなものを食べればいい。
しかし、どうも胸が詰まった感覚が消えず、食も進まない。

むしろ、彼女をはじめ、何事もないように飲み食いする人々に尊敬に似た感情すら抱く。


きっと、ピンと張った糸が切れるように、ふとしたきっかけで現実を直視すれば、この街には阿鼻叫喚が渦巻くだろう。私も彼女もおそらく普通ではいられない。皆が、今にも水が零れそうなグラスを傾けないように過ごしている。

現実から目を背けるように飾り付けられた、たくさんの赤提灯につつまれる街は、まるで私たちのゆりかごのように優しい。

今、人々は互いを許したことにして、自分自身も救われたことにして、残り僅かな生を生きている。



これで憎しみや悲しみも終わるのであれば、もっとずっと昔にこうなっていれば良かったのではないのか?と思ってしまう程に、街は美しかった。



陽気なお囃子と、紫色の空はとても不釣り合いで、それは心の膿に蓋をする、私たちのようだった。




(続く)



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