話題:びっくりしたこと


「青天の霹靂」というか「藪から棒」というか「一寸先は闇」というか、まあ、そんなお話。基本的には実話であります。

さて、いつものように就寝し、いつものように変な夢など見つつ迎えた朝の6時半過ぎ。睡眠は突如として“あるもの”によって妨げられ、私は目を覚ました。

Q―その“あるもの”とは何ですか?

“音”です。

Q―音無美紀子さん、略して“音”ですか?

違います。何の略でもない“音”です。

Q―その音はどの辺りから聴こえて来ましたか?

極めて近く。仰向けに寝ている顔の下方の上空辺りからです。

Q―カホウ。それは「カホウは寝て待て」という意味ですか?

違います。そちらのカホウは結果の報告という意味のカホウであって、私の言うカホウは下の方向という意味のカホウです。

Q―説明的な文章は文章として褒められたものではない、と言われていますが?

いや、説明的なのではなく100%説明している文章なのですが。

Q―まあ良いでしょう。カホウのホウ。つまり、北島三郎さんですか?

それはヘイヘイのホウです。

Q―知っています。言ってみただけです。

それより、いきなり断りもなく人の文章に登場するとは失礼ではないですか。そもそも、貴方はいったい誰なのですか?

Q―フフフ……私は、謎を問う者=Mr.クエスチョンだ。

Mr.クエスチョン!……ネーミング、ダサくないですか?

Q―えっ?

いえ、流石にその名前はダサ過ぎるのではないかと。

Q―……その通り。よくぞ見抜いた。勿論、私はそんなダサい名前ではない。Mr.クエスチョンとは仮の名前、しかして本当の名は…フフフフ…そう、ビッグ・ナゾーだ。

不敵に笑ってますけど、更にダサくなった気が……。

Q―それは、気のせいでしょう。そんな事より、話を本題に戻した方が良いのではないですか?

その点に関しては……江戸城を造った太田さんです。

Q―……何?何ですって?

江戸城を造ったのは太田道灌(どうかん)。つまり、“同感”です、と。

Q―えっ!江戸城を造ったのは大工さんでは?

……もういいです。話を本題に戻しましょう。

Q―宜しい……音無美紀子さんと音無真紀子さんは、どちらが姉でどちらが妹か……そういう話でしたよね?

全然違います。私の睡眠が“ある音”によって妨げられたという話です。

Q―そうでした。で、その音はどのような音だったのですか?

「ぶぅぅぅん」という音です。

Q―それは普段の寝室ではしない音ですか?

はい、しない音です。ただ、音自体は知っている音のようでした。

Q―音の発生源は視認出来ましたか?

見たのは一瞬でしたが、正体はすぐに判りました。

Q―それは生き物ですか?

はい、生き物です。

Q―その時、その生き物はどのような動きをしていましたか?

私のおでこに着陸しようとしていました。

Q―ズバリ訊きます。貴方のおでこは空港ですか?

いえ、私のおでこは空港ではありません。

Q―では、ヘリポートですか?ドクターヘリは着陸可能ですか?

ヘリポートでもありません。ドクターヘリに顔面に着陸されたら、私がコードブルーになってしまいます。

Q―でも、ドクターヘリは無理でもドクター・ペッパーをおでこに載せる事は可能なのではありませんか?

それは……可能だと思います。

Q―では、音の正体はドクター・ペッパーという事で大丈夫ですか?

全然大丈夫ではありません。ドクター・ペッパーは空を飛びませんし、第一、ドクター・ペッパーは生き物ではありません。

Q―しかし、ペッパーという名前の医師は居るかも知れないではありませんか。その場合、彼も無生物になるのですか?

ああ、まあ、その場合は生き物でしょうけど。

Q―では、私の圧倒的勝利という事で宜しいですね?

……それでいいです。

Q―で、結局、音の正体は何だったのですか?

これはまた、急に直球が。はい、音の正体はスズメバチでした。

Q―スズメバチ!貴方の言うスズメバチとは、もしかして、あのスズメバチの事ですか?

……あのスズメバチ以外のスズメバチを私は知らないので、当然、あのスズメバチになります。

Q―本当にスズメバチ?

はい、スズメバチです。

Q―メバチマグロではなくて?

質問の意味が判りません。

Q―いえ、広瀬すずの乗ったメバチマグロ、略してスズ・メバチかと思ったのです。

イルカに乗った少年じゃないんですから。

Q―えっ!なごり雪を唄ったイルカさんに少年が?

いや、海とか水族館にいる動物のイルカさんです。

Q―えっ!動物のイルカが超音波でなごり雪を唄うんですか!?

……何かちょっと脳みそが凍り始めて来たんですけど。

Q―では、まだ脳みそが柔らかいうちにお訊きします。貴方はスズメバチを飼っているのですか?

飼っていません。

Q―では、何故スズメバチが部屋の中に居るのですか?

判りません。判りませんが……見当はつきます。

Q―それはどのような?

早朝に家の人間が洗濯物を干すのにベランダの窓を開けたので、恐らくその時に紛れ込んで来たのだと思います。

Q―なるほど。いきなりスズメバチが目の前に現れて、さぞかし驚いた事でしょう。

それはもう、驚いたなんてものじゃありません!一瞬で体中の毛が逆立ち、全細胞と全神経が目覚めました。

Q―その時、貴方はどのような行動を取ったのですか?

はい。咄嗟に毛布を頭からかぶってスズメバチを防御し、音が遠ざかったのを確認してから布団を抜け出して部屋中の窓を全開にし、何とか外に追い出しました。

Q―瞬間的にそれだけの行動が取れるとは素晴らしい。もしかして、アレですか?

はい。全集中の呼吸を使いました。

Q―もしかして貴方は「柱」の一人ですか?

はい、そうです。

Q―「何柱」ですか?

「ホタテ貝柱」です。

Q―全集中・ホタテの呼吸ですね?

はい。全集中・ホタテの呼吸‐壱の型「バター醤油焼き」を使いました。

Q―……言っていて恥ずかしくないですか?

人間、ちょっと恥ずかしいぐらいがちょうど良いと思うのです。常に恥ずかしさを身にまとっていればおごり高ぶらずに済みますから。

Q―なるほど。

後になってから思ったのですが、完全に無防備で眠っていたものが、僅か一瞬(恐らくは0・1秒ぐらい)の目視と音で“ソレ”をスズメバチだと判別し、適切な防御行動が取れたのは我ながら驚きです。瞬間、時が止まったような感覚がありました。間違いなくそれは“集中”の力によるものでしょう。

Q―つまり、人間の能力は未だ底を見せておらず幾つになってもまだ伸びしろはあると、そう言いたいわけですか?

その通りです。

Q―なるほど。貴方がポジティブなアホだという事がよく判りました。何はともあれ、危機回避おめでとうございます。

アホは余計ですが、ありがとうございます。それにしても、今の世の中、何が起こるか判ったものではないという事を改めて強く思いました。皆様もどうぞお気をつけてお過ごし下さいませ。もっとも、何が起こるかまるで判らないのでは気をつけようがないのかも知れませんが。取り合えず私は次にスズメバチが寝室に入り込んだ時に「これは仲間のハチだ」と思わせる為にハチの着ぐるみを着て寝たいと思います。

Q―良い案だと思います。では、最後に改めてお訊きします。貴方のおでこは本当に空港ではありませんか?

いいえ、私のおでこは空港ではありません。もしも悪天候等で羽田空港に着陸出来ない時でも私のおでこに着陸許可を求める行為はご遠慮下さいませ。


〜おしまひ〜。


(実話。もう本当に一瞬、死ぬかと思いました)(汗)