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リハビリっておくやつ

短く言うとホモなので苦手な人はブラウザバックプリーズ。







先輩は抱きつくのは好きだが抱きつかれるのは嫌いだ。
たぶん根本的人間不信が未だに払拭できないどころか悪化の一途を辿ってるせいで、自分から距離を詰めるのはともかく他人に触られるのが嫌で仕方ないんだろう。
そういうわけで、普段張ってるイカロスの網は、「自分に近付いてくる」相手を最優先で察知する。
今だってそうだ。

「おうお帰りー」

背後のゲートが起動するなり振り向いて、労いの言葉をかける。よく知る相手なら出迎えにも行く。まったく自然で、本人もほぼ無意識。ついでにゲートを潜ったのが本物かどうかという探知も含み、文句の出ようはずもない。
どうしても他人の背後を取りたい類いのいたずら好きには不評だが、今のところ誰も困っていないのは確かだ。
ひらりと手を振る先輩の背後に回り、座った椅子の背凭れごと抱き寄せる。当然先輩を動かすというより俺が近付いていく格好になるわけだが、先輩からは特に抵抗がない。

「ん? おう、お疲れ。一周休みだろ、寝とけよー」

カラカラと笑いながら、先輩は首に回った俺の腕を叩いた。
数少ない、この人が背中を無防備に晒す相手に、自分が選ばれている。
そういう実感がこそばゆくも手放しがたく、俺はこの人を抱き締めるのに、背後ばかりを選んでいる。

幸せの代価

「……で、ええと、高原さん本人への指示は特にありません。とにかくひたすらに歌い続けてください」
「わかった」

頷くと、相里は小さく笑って踵を返した。これから他の誰かに指示を出すのだろう、途方もない時間をかけて育った根の上を駆けてゆく。今年の総統括は彼女だそうだ。年末年始はほぼ潰れてしまうこの年中行事は、中学生には荷が重いだろうに。

「うた姉」
「風雅か」

生成途中なのだろう術式をいくつかまとわりつかせたまま、すとんと風雅が降りてきた。

「大変だねぇ。一晩中うた姉が結界の要でしょ?」
「いや、一度交代するそうだ。要の任を降りても、まだ仕事は山積みのようだがな」
「みんな休みなしだから仕方ないかな。無理はしないでよ、嵐兄が泣くから」
「心得た」

苦笑してみせると、風雅は肩をすくめて見せた。曰く、ほんとにわかってんのかねこの人は。失礼なやつだ。なので、ちょっとした悪戯心を出してみる。

「で、自称親友殿への言い訳はどうした?」
「神事だって言ったよ。冬休みは帰らないって言ったらキレられた」
「だろうな」

風雅に最近増えた友人を思い起こす。女の身で素っ気ない言い回しをする私に萎縮しながら、ぺこりと頭を下げた少年。ちょっとした事故で世界の外の神秘に触れてしまった、それでもただの少年だ。本来なら引き離すべきなのだろうが。

「休み明けには埋め合わせをしろ。誘われていたのだろ?」
「そうなんだけど。こればっかりは外せないしなぁ。あとうた姉、休み終わったらすぐ学年末なんだけど」
「友人は大切にしておくべきだろう?」
「白金の瞬王のお気に入りの友人なんか願い下げだよめんどくさい。絶対に傷つけるわけにはいかないじゃないか。機嫌損ねて下手打たれるのは嫌だけど、どっちかってゆーと俺嫌われたいんだよ?」

風雅は肩をすくめて見せる。
口を開こうとして、風雅の肩越しに郎暉が近付いてくるのが見えた。

「先輩? 今回のデコイって五つだって聞いたんですけど」
「情報含めてデコイですとも。直刃となくるには内緒ね」
「……道理で話通しに来たのが相里じゃなくてリークだったんですか。しかも直刃のいない時に」
「嘘吐くと首刈られちゃうし。直刃にはそもそもデコイの話してないからフォローよろしく」
「働かせる気満々じゃないですか……」

後輩二人のやりとりを眺めながらそっと嘆息する。風雅は人間関係を苦手としている。表面上はそつなくこなしているし、おそらく本人も気付いていない。歪みが現れるのは、好意を抱いた人間だ。好意に根付いた行動が、どうしても相手を傷つける行為に繋がる。今一番の好意を捧げている凛に矛先が向かないのが不思議だ。
できればかの少年を手本に、もっと優しい好意の示し方を覚えてほしいものだ。かなりの苦労を背負うだろう少年を脳裏に浮かべながら、私は次の作業に取り掛かった。



…誰かの平穏と引き換えに、あなたの幸いと安らぎを願っている。

どこへもゆかれない。

さく、と雪を踏む。靴の中に雪が入り込んで冷たい。靴箱の中で眠っているはずのブーツを引っ張り出しておくべきだった。ここまで積もるとは思っていなかったので、いつものくたびれたスニーカーで来たのだ。
溜め息一つで視界を覆うほどの白が広がる。どちらにしろ、遠く望む森の他は見渡す限り白いのだが。
なにもない平原。それを横切る足跡が一条。それを追うのが今回の仕事だという。追って、足跡の主がどこにも辿り着かないことを確かめるのが、仕事なのだという。
よく晴れている。何もない場所はその方が冷える。白い息を吐きながら、追い付く頃には足の感覚など失せているだろうと思った。
揺らぎながら地平線へ伸びる足跡を追う。一体どこまで進んでいて、どこへ向かっているのか。説明の足りない指示にまた溜め息を一つ。人影は未だ見つからない。
と、青と白しかない視界に、黒く蠢くなにかを見つけた。恐らく足跡の主だろう。目指すものを一先ず見つけて、少し気分が上向いた。同じに雪を蹴散らして歩く速度が上がる。我がことながら現金なものだ。
あちらも進んでいるので、追い付くには時間がかかった。が、最初に想定したよりも短い時間で済んだ。
原因は目の前に転がっている。白い雪原で、存在を主張する黒。正体は黒いコートだ。中身が雪に体を埋める巻き添えになって白のまだらを作っている。うつ伏せに倒れているのは黒髪の男だった。頬骨が目立ち、顔色は悪い。どう考えても、荷物もなしに雪原を横断するには向かない人間だった。
傍らに立つ見知らぬ人影を見上げることもなく、男は目を伏せて雪を抱いている。しばらく見つめても反応がないので声をかけようとした。
その必要はなかった。
男が消えていく。粗く編まれた毛糸の手袋から、粗末な冬靴から、雪の上に散った短い髪から、波に崩される砂の城のように、音もなく。
コートの黒が完全に消えると、その上にあった雪がばさりと落ちた。後にはいびつな人の形をした窪みだけが残る。
去年も誰だかが受けた仕事だ、と言われたことを思い出す。男は去年もこうしていたのだろうか。もしかしたらその前の年も、また前の年も。そして来年も、どこへも辿り着けない道程を繰り返すのだろうか。再来年も。その次の年も。
踵を返す。明日はクリスマスだ。年末の世界樹戦までいくらもない。裏方の仕事は当たっていないとはいえ、手が足りていることはないだろう。
一度だけ振り返っても、雪を掻き分ける黒い背中は見つからなかった。じっとしていたせいで足の感覚はなくなっていた。

ある魔法使いの話




思えば、あいつは最初から特別だった。

気付けばあいつの両親はいなくなっていた。優しかったような気がするけどよく覚えていない。あいつが覚えているかどうかも知らないし、特別聞いた覚えもない。あいつがよく話したのは、あいつの家に残された、大量の本についてだった。
あいつの家の壁はほぼ一面本棚で、種類は多岐に渡っていた。そして半分以上が魔法に関するものだった。あいつは本を読んで、知ったことを俺に話して聞かせた。俺が話を完全に理解することは一度だってなかったが、あいつは俺に話すのをやめなかったし、俺はあいつと遊ぶのをやめなかった。同い年の子供が俺とそいつの他にいなかったってだけだけど。
あいつが「賢い女」の真似をしはじめた頃、神殿の騎士見習いの募集がかかった。そこに手を上げたのは、ひとえにその称号の中に「魔法剣士」があったからだ。あいつの話を聞いていても、俺の頭の中の「魔法使い」は村にいた「賢い女」のよぼよぼの老人だった。そんなに年を取る前に「魔法使い」になって、あいつの話がちゃんとわかるようになるなら万々歳だと思った。あと単純に、騎士って響きがかっこよかった。
試験も訓練もやたら厳しかった。俺はそう我慢強い方でも努力家でもなかったから、何度も怒鳴られたし何度も泣いた。荷物をまとめたことはなかった。今帰ってもあいつの話はわかんないままだ。いつか挨拶の言葉すら魔法使いのものになるんじゃないかと思うと冗談抜きで怖かった。要するに進むのも戻るのも怖かったわけだけど、時間をかけただけ実力は上がってくれた。
帰省のたびにあいつの家に転がり込んで魔術の課題について聞いた。あいつは話を請われるのが嬉しいらしく、いつも熱心に教えてくれた。おかげさまで魔術の方は成績がよく、意外なほどあっさりと魔法剣士の称号は俺のものになった。
神殿勤めは蹴った。興味ははなからなかった。俺は高い理想を求めたんじゃなく、ただあいつといつまでも話をしていたいだけだった。
勇んで帰るとあいつに迎えが来ていた。
あいつは始めから特別だった。だから特別が向こうからあいつを迎えに来たんだ。俺は慌ててあいつの後を追った。だって俺は始めから、あいつの側にいるためにそこにいるんだから。






……性格は悪いけど、けっこう捺奈ちゃんのためだけに生きてる翠さんの話。

道を持たない(直刃と水輪)

遅刻した2011年度ハロウィン小話。

…………………………

ここはさむい。
わたしはいつからかそう思っていた。どのくらい続いたのかはわからないし、これからも続くのがどうかもわからない。「これまで」と「いま」と「これから」以外の時間の表現を持たないわたしは、ただひたすらに、「さむい」という感覚を思考に浮かべ続けていた。
ここはさむい。
ここはさむい。
「これまで」の中のいつだったかには「さむい」以外の感覚があり、それはよほど快いものであった気がするのだが、わたしの思考は回想という機能を持たないらしく、ただひたすらに「さむい」と繰り返し続けた。
ここはさむい。
ここはさむい。
ここはさむい。
そう、「さむい」とは、不快である。いつだったかの快さと比べて初めて、わたしは「さむい」ことが不快であることを了解した。だからこそわたしの思考は「さむい」を繰り返すのだ。「さむい」以外の感覚を得ることを目指して。不快であり続けることに耐えられないから。
ここはさむい。
ここはさむい。
ここはさむい。
ここはさむい。
時折「さむい」以外のなにかが思考を掠めていくのだが、それは捕まえ切る前にすぅっと溶けて消えてしまう。だからわたしは延々と、「さむい」と繰り返す思考を持ち続けている。これまでずっと。あるいは、これからもずっと。
ここはさむい。
ここはさむい。
ここはさむい。
ここはさむい。
ここはさむい。
ふ、と。
思考で繰り返される「さむい」が押し戻された気がした。それが数度、続く。「さむい」を押している方に向かうと、「さむい」が押されて戻ってくるのが遅くなった。向かえば向かうだけ「さむい」が遠ざかる。わたしは「さむい」が戻ってくる前にと押している方にひたすら向かった。
ここはさむい。
ここはさむい。
ここはさむい。
ああ、嗚呼、ああ―――――。



「……姉貴?」

 禊の最中のはずの姉が歌っている。
 泉の方に向かうと、濡れた髪を首と襦袢に張り付けたままの姉が、光の只中で歌っていた。光の小球がいくつも、姉を中心にして回転している。光の天球図のような球体は、大きく渦を巻いて姉に近付き、体に触れる寸前にぽぅっと弾けて消えてしまった。
 小球の最後の一つがほろりと消えて、そこでようやく姉は伏せていた目を開いて俺を見る。

「……直刃」
「何してんだよ」
「だって迷われていたんだもの」
「だってじゃない。神事の前に死者の魂に関わるなんて、禊の意味がないじゃんか」
「神事の前に死の穢れを放置しておくのはいいの?」
「よくないけど姉貴の仕事じゃないだろ。ほら目ぇ瞑って」
「え、……きゃあ!」

 冷たい泉の水を姉に盛大にかけながら、俺内心で舌を打った。鎮魂の儀の意味が失われつつある現在、呼ばれっぱなしでかえしてもらえない霊魂を、いったいどうするべきか。



(どこにもゆかれない、かえれない、あたたかいものはすぐさめるね)

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プロフィール
結菜羅衣さんのプロフィール
性 別 女性
年 齢 32
誕生日 7月30日
職 業 大学生