※高校生×奨学生
※四人は仲良しだけどクロウはバイトが忙しいからあんまり遊べない、みたいな設定
学校が終わった後ダッシュでバスに乗り、バイトをして、真っ暗な中を帰ってくる。
下宿の明かりは当然消えていて、ドアを開けて明かりを点けるとすぐベッドに倒れ込んだ。安物な上に先輩のお下がりのベッドが悲鳴を上げる。
うつ伏せで溜め息を吐いて、ほとんど習慣で上着のポケットを探る。
硬い感触のそれを引っ張り出して画面を見ると、新着メールの表示が出ていた。
From:鬼柳京介
件名 バイト終わったか?
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相手の名前と件名だけ表示するよう設定してあるそれにひどく安心した。バイトの疲れとここ数日の冷え込みで凝っていた胸の内側が緩くほどけていく気がする。
(鬼柳)
(鬼柳鬼柳鬼柳きりゅうきりゅうきりゅうきりゅう)
きょうすけ。
呟いた名前に声なんてとても乗せられなくて、ただの媒体でしかない機械を胸の疼きと共に抱き締めた。
……………………………
ちかり、光った携帯に気付いてゲーム機を放り出す。
オレンジに光るように設定したアドレスが表示されている画面に馬鹿みたいに興奮した。
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今下宿
明日またな
fin.
件名はなし、返ってくるのはたったこれだけのメールのやりとりを始めたのはいつだったろう。
クロウのバイトの予定を遊星に聞いて(最近では自主的に教えてくれる、ありがたいことだ)、バイトが終わって下宿に着くくらいの時間を見計らってメールを送る。
本当は声が聞きたいのだけど、バイトで疲れて帰ってくるクロウにそれ以上の負担はかけられなくて、メールが返ってくるだけで十分といい聞かせる。
当然心から納得するはずがなくて、化学の宿題の量は鬼だとか今日読んだ雑誌がこうとか夕飯のオムライスにつまようじが紛れて口の中が痛いとか、そんなどうでもいい話で画面が埋まっていく。
話したい。
声が聞きたい。
会いたい。
そんな気持ちに必死で蓋をして。
そしてクロウは毎回返事をくれる。
最初に「返事は簡単でいい」と言っておいた通り、「今着いた」と「また明日」だけが書かれた返信。
また明日。
明日も会える。
クロウが返事をくれなかったのは一度だけ、決死の思いでかけた電話にも出てもらえなくて、遊星に連絡してジャックを叩き起こして、飛び込んだ下宿の部屋でクロウが高熱で倒れていた。
あのときは本気でメールのやりとりを始めた過去の自分に拍手を送りたくなった。同時に、もし気付いていなかったらと思ってぞっとした。
(クロウ)
鳥の名を持つ少年。
自由で快活で世話好きで、現実主義で短気で時々ドジを踏んで、でもその後始末は自分できっちりつけるからしっかり者の印象が強い。
でも時々寂しそうな目をするからたまらなくなる。
一人じゃないだろ、なんて、多分言っても「わかってるって」と笑って流される。だから、言えない。
(なんて、逃げかな)
疑っている。見極めかねている。自分はどれだけクロウの内側に入っていけるのか。その資格はあるのか。
誰より側にいたいのに、逃げてしまうんじゃないかと踏み出しかねている。
(クロウ)
(クロウ)
すきだよ、
吐息すら乗せない呟きは部屋の沈黙に紛れて消えた。
……………………
鬼柳のメールで明日もがんばろうって思うクロウと、クロウのメールで明日も会える確認をする鬼柳。