『海人、さん…』
『………』
情けなく俯く俺
無言が部屋中を包む
そんな俺の方を静かに見つめていた夏希は、苦笑してその場を立った
『……海人さん』
『………』
『苦しませて、ごめんなさい』
『!っちが…おれは』
『ううん。ごめんなさい……あのね、海人さん』
怖くて、情けなくて…彼女の顔をまっすぐ見えない。俯く俺の頭に、暖かい手が乗せられる。
『…っ』
『私は、貴方に逢えて幸せだったから』
『お、れ…は……っ』
『それでも、私は弱いから…この子を手放す選択を取れそうにないんです。ごめんなさい』
『っ…な、つき』
手が
温もりが
離れていく
『私は、だいじょう、ぶ』
『夏希…』
『だから、』
『……っ』
『だから……先輩、』
「っは……」
飛び起きた世界は、真っ暗。拘束されたままの身体は、先ほどまでの世界が夢だと告げる
汗が全身を伝い、流れていく
「はぁ、はぁ……」
(…また……っ)
彼女を手放してしまったあの日。
離れた手を掴むことができたら……こんな未来は待っていなかったのだろうか
夏希を…失うこともなかったんだろうか
「……っき…なつ、き」
流れる涙はただの水
傷ついた心から溢れるただの水
それでも、
「……ねえ、」
「……」
「……無視すんなよ。継峰海人」
「……今日は、ずいぶんとご機嫌だな」
翌朝、満面の笑みで部屋に入ってきた少年。黒髪を揺らし、金色の瞳をこちらへ向ける。
「ん―?だって、今日俺の誕生日なんだってさ」
「……っ」
「白蘭さまが、何でも好きなもの買ってくれるっていったんだぜ!羨ましいだろ」
「………」
「なーに頼もうかな♪最新式の銃か…新しいボックスでもいいなー」
「………」
「あ、いたいた。天人クン」
「白蘭さま!」
「欲しいもの決まった?そろそろ買いにいくかい」
「ん〜まだ悩み中…ね、見に行ってから決めてもいい?お願いっ」
「うーんそうだね…じゃあ、いこっか」
「うん♪」
はしゃぎながら、白蘭に抱きつき笑みを浮かべる息子。先に行かせた白蘭は、こちらを振り返るとちらりと笑う。
「ね、海人クンどう思う?」
「……」
「自分の母親が殺された日に、その母親を殺した男を慕い、祝福を受けるって」
「……っ」
「歪んでるよねー♪」
「………」
「でもさ、真実を知りながら、伝えられない君も………歪んでるって思わない?」
歪んだ世界、
逃れるすべは……
どこにもない
*補足…天人(アマト)君→たぶん10歳くらい。名前は白蘭がつけた。海人を別の読み方で読むとアマト、それを白蘭が好きそうな漢字に当てはめた(新世界をつくる神になる白蘭のそばにつくにはふさわしい名前だと)たぶん、白蘭の海人に対する皮肉。
……勝手に命名すみません!!