ひまわりの出会い ダークサイド過去

「ふ、ぇ……っ…」

どれくらいこうして泣いていただろうか。
泣きはらして真っ赤に充血した目を擦りながら、空を見上げる。

ここへ来たときには暑い夏の青空が広がっていたはずなのに、気づけばすっかり茜色の雲に変わってしまった。



家族で遠く山沿いの避暑地へ旅行に来た最終日。
宿へ行く途中で見えたひまわり畑がどうしても気になって、お昼寝から起きると内緒で見に行くことにした。

来年から小学校入学する予定で、お母さんもすっかりお姉さんになってきたねって言ってたから1人でも大丈夫。両親や兄に秘密にして外出するのは初めてでドキドキした。

宿から30分ほど歩いて見えてきたひまわり畑。はしゃいでひまわりを見ていると、係のおじいさんから1輪小さなひまわりをもらった。

「ほら、小さいお嬢さん。1つどうぞ」

「うわー!ありがとう」

「風で1つ折れてしまってね。背丈も他より随分と小さいから、お嬢さんでも持てるだろう。ほら、それを持って暗くなる前には帰るんだよ。もう1時間もするとここもおしまいにするから」

「はーい!」

両手で受け取り、落ちないようにギュッと握る。
ふふ、と笑いながら見上げれば黄色い花と目が合う。ひまわりも笑って見えるのは気のせいだろうか。

ひまわりはお兄ちゃんの大好きな花だった。
お兄ちゃんに渡したら、きっと喜んでくれる。

早く家族に見せよう、そう思って回れ右をしたときだった。カラフルな大きいゲートが見える。どうやらひまわりの迷路になっているらしい。家族連れや恋人同士がゴールから出て行くのが見えた。

ワクワクとした気持ちで、思わず足を踏み入れた。
それが間違いだった。




「う…っお、おにい……ちゃ」

大好きな兄の名前を呼びながらとぼとぼと、自分の背丈の倍ほどはありそうなひまわりに見下されながら、土の道を歩く。

どこまで行っても、見える景色は変わらない。
真っ直ぐに進むと、行き止まり。戻って左に曲がってもひまわりの道が続くだけ。右に曲がってもひまわりだけ……。

大きな緑の葉っぱと太い茎。足元は平らに整地された地面。見上げれば黄色い大きなひまわりが、こちらをじっと見ているかのようだった。

「……っ、」

思わずごくりと唾を飲む。

太陽の方を向いて真っ直ぐに立つ姿は、綺麗でカッコよかったはずなのに、今はなんだか落ち着かない。

迷路に入った時はワクワクが止まらなかったはずなのに、今はどんよりとした気持ちで歩く。

このまま誰にも見つからず、ずっと一人ぼっちだったらどうしよう。

知らない場所なのに、みんな私のことを忘れて置いて行っちゃったら……。

「……っ…や、…だっ」

次々とこぼれ落ちる涙がピンクのワンピースを濡らす。焦って何度も転び、土が付いてスカートの裾を飾ってくれている白のレースはすっかり茶色に変色している。

お気に入りだった。
旅行に行くからと、お母さんにおねだりして新しく買ってもらったのに。

「…………あっ!」

おじいさんからもらった、小さなひまわり。
不安からか、知らず知らずに力強く握っていたために、萎れてしまっていることに気づく。

悲しくて、寂しくて……よけいに涙が溢れてきた。

「うわぁ…ん……っ」

嗚咽を上げながら、その場に立ち尽くす。
足も疲れて、お腹も空いた。

もう一歩も動けない……そう、思ったときだった。





「…………どうしたの」





「……っ!」

真っ直ぐ迷路を進んだ先に声の主はいた。
逆光で顔がよく見えない。背丈は…私よりは大きく、お兄ちゃんよりは小さい。

久しぶりに聞いた人の声にびっくりして、涙が止まる。

「…………」

ゆっくりと近づいて来たその人は、そばまで来ると同じように立ち止まった。

「…………ぁ…」

目をぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、眼の前に来た人をまじまじと見る。

真っ直ぐで少しツンツンした短い黒髪。真っ白なTシャツに青いズボン。汚れた黒いランドセルを背負っている、綺麗な顔立ちの男の子だった。ランドセルの色が黒でなければ女の子と間違えたかもしれない。

夕日が背に当たり、キラキラと眩しくてまるで人じゃないような……アニメで見た神様や妖精のようにも感じる。

何故か右手でハンカチを頬に当てていたことだけは、違和感を感じた。

「………どうしたの、」

じろじろと見ていたにも関わらず嫌な顔1つせず、もう一度、最初と同じ言葉を繰り返す。

澄んだ落ち着いた声色だった。

「……っ、出口わからなく、なって」

再び込み上げてくる涙。なんとなく人前で泣くのは恥ずかしくて堪らえるも、視界はすぐ目に溜まった涙でボヤケてくる。

「…………っはやく帰らないと、なのに…っ…」

「……」

「……ど、うしよ……うっ…」

うつむくと、瞳から我慢した涙がこぼれ落ちた。
ポタ、ポタと地面に小さなシミを作る。

「………ひまわりも、元気なくなっちゃった……」

まるで自分みたいだと、萎れたひまわりを優しく抱きしめる。

ごめんね、と呟いた。
その時だった。

ぼん、と頭に温もりが乗る。
驚いて顔を上げれば、男の子が頭に手を乗せていた。じわりと柔らかな温もりが染みていくようだった。

「……だいじょーぶ、俺が出口まで連れて行ってあげる」

「っほんと!?」

「嘘言ったってしょうがないだろ、ほら」

温もりが離れていく。
男の子はくるりと後ろを向くと、足を前に進めた。

「ま、待って!」

置いていかれないように、慌てて男の子の左手を掴んだ。

「…………」

「……?」

「…………いや、まあ……いいや」

一瞬こちらを振り返り、何か言い出しそうにする男の子。言葉をかけるよりも先に再び前を向いた。

迷いなく進むその後ろ姿に、先程まで感じていた恐怖はすっかり消えていた。

ふと、何も言わない男の子の横顔を見る。

やっぱり綺麗な顔立ちだ。お兄ちゃんも学校ではイケメンだと言われているらしいが、正直お兄ちゃんよりもこの男の子の方がカッコいいと思う。

「……あ、」

「……」

「め!」

「目?」

キラリと夕陽に反射して光った瞳。
初めてみた金色だった。立ち止まり、じっと見つめる。

「目の中に、ひまわり見つけた!」

「ひまわり?」

「すっごく、きれい」 

中心の濃い部分からぐるりと回るように、黄色い花びらが見える。しかも光が当たる瞬間だけ見える大輪の花。

「きれい……」

見惚れて言えば、少し照れたようにそっぽを向いた男の子。その姿にふふ、っと笑みが溢れた。









「着いたよ」

「やった!出口だっ!」

1人ではあれだけ探してもたどり着かなかったゴールが、あっという間に見つかった。

久しぶりにひまわり以外の景色を見て、思わず大きく伸びをする。視界の端に黄色いものが見えてハッとした。

「ひまわり!!」

くたっと元気のないひまわりを見て、再び落ち込む。迷路なんかに入らず、真っ直ぐ宿へ帰っていれば元気なままだったのだろうか。

「お兄ちゃんにあげようと思ったのに……っ」

こんなに萎れてしまえば、プレゼントにはならない。
何よりひまわりさんに申し訳ない。

「……ちょっと貸して」

「……え……?」

落ち込んでいると、ひょいっとひまわりが男の子に取り上げられる。

男の子は、右頬に当てていた水色のハンカチをおもむろにひまわりの茎に当ててクルリと巻いた。

「ハンカチ、濡れてるからこうしておけばさっきよりはマシだと思う。あとは家に帰ってからきちんと水につければ元気になるよ」

「ありが…………っ、ま、待って!」

「…………」

「け、怪我してるの!?」

ハンカチを外した男の子の頬は、痛々しい程に赤く腫れていた。ハンカチが濡れてるということは、傷を冷やしていたんだろう。

「…………大丈夫。俺、痛みとか感じにくいから」

そっと頬に触れて、事もなげに答える男の子。
表情1つ変えず、まるでそこに傷がないようだ。

「っ………」

「…………どうして、君が泣くの」

「だっ、て……」

どうしてかは自分でも分からない。
男の子の痛みが飛んで、自分の心に刺さったようだった。

絶対痛いはず。
なのに何もないようにしている姿は、逆にとても痛々しく感じる。

「……っあ……そうだ!」

ふと思い出し、肩から下げていた小さなポシェットを開ける。

中から取り出したのは、絆創膏。
急いで外側の袋を破るようにして開けると、背伸びをして男の子の腫れた頬の真ん中に貼った。 

絆創膏に書かれたピンクの髪をした女の子が、ニコリと笑っている。

「…………」

「いたいの、いたいの……飛んでいけー!」

こちらを見ていた男の子は、ポカンとしている。
そっと頬に触れて、再びこちらを見た。

「なに、これ」

「早く良くなる魔法の呪文だよ。しかもね、魔法少女リリーちゃんの絆創膏だから特別なの」

ふふ、と笑いながら答えると、何故か男の子は黙ってしまった。やっぱり、男の子は恐竜とか車の方がいいのかな。

「あとね、これあげる!」

「…………」

先ほどポシェットを開けたときに入っていた事を思い出して、出したものを男の子の手の上に乗せる。

コロン、

「レモン味だよ」

黄色い包み紙に包まれた小さな飴玉。

「…………ありがと、」

「へへ、うん。こちらこそ、たくさんありが――」

「ナツー!!!」

「っ、お兄ちゃん……っ!!」

お礼を男の子に伝えてようとした時だった。駐車場の方からこちらに向かって走ってくる人影。

聞き慣れた声に、こちらも駆け出す。

走って、
走って、

「こら、ナツ!!し、心配したんだ、ぞっ!!」

「っ……ご、ごめんなさい…」

沢山額に汗をかいた兄の胸に飛び込んだ。怒りながらも、声はどこか震えているのは気のせいではないだろう。

ああ、安心する。間違いなく、大好きな兄だ。

「…お前、何処で何して……」

「あっ!」

慌てて、後ろを振り向く。
ひまわり迷路のゴールにはもう誰もいなかった。

「…え……」

「ナツ?」

「…あのね、私のこと助けてけれた子がいたの」

「そうなのか。名前は?どこに住んでる子か聞いたか?」

「……ううん、」

「そっか」

兄に手を引かれて宿への帰り道を進みながら、もう一度後ろを振り返った。やはりどこにもあの男の子の姿はない。

(また、会いたいな)

もし次会えた時は、お礼の言葉を沢山伝えよう。

見返りのない優しさをくれたあのひとに、私もできる限りのことをしたい。沢山頑張ったら、今度は笑ってくれるだろうか。



「…………また、ね」

届かないと思いながら、風に乗せて言葉を伝えた。









「ナツ?」

「…………え、あ…何、お兄ちゃん」

「いや、ボーっとしてるから……もしかして、まだ傷が痛むか?」

「ううん。無理しなければ、痛くないよ」

不安そうな顔をする兄に首を振って笑ってみせる。
それでも、心配そうな表情は消えない。

「こんな直近で2回も入院するなんて……最近の治安、悪すぎるな」

「……そう、だね」

「今回は恭弥が近くにいたから良かったけど……暫く1人で外出するなよ」

「……うん」

返事をして、そっと空を見上げた。
夏はまだ、遠い。

(何か……大切なこと、忘れてる気がするんだけどな)

あの日水族館で……刺された痛みと出血で意識が朦朧とする中、なにか夢を見ていた気がする。

病院で起きたときには思い出せなかった。

モヤモヤする気持ちを抱えながら、そっと息を吐いた。









***

先日アップされたダークサイドを拝見して、あまりにも切なくて涙なしには読めませんでした。海人くんの苦しみを分かって、山本……。
……本当にどうでもいい女の子だったら白蘭に話た通りに壊しちゃうんだろうし、強盗に襲われたって助けないかもしれない。なによりあの場面で刀を止める程の何かが海人くんの中で無意識にでもあったりしたのかな、それとも海人くんだからかな…なんて考えてたら勝手にポチポチしちゃってました。どっちも覚えていないでもいいし、どっちかだけ覚えていても尊い…。最近よくスーパーなんかでひまわりを目にするので『ひまわりの約束』を聴きながら書いてました。完全に私の中での妄想話です。毎回勝手に書いてすみません。
乱文失礼しました。

海月 本編2人

7月も後半に入り、天気予報が告げる気温は連日30℃超え。いよいよ暑さが本格的になってきて、夏本番という感じだ。

「ふー暑い、暑い……」

駅前のベンチに腰をかけて一息つく。丁度木陰になっていて、歩いていた時に感じていた頭頂部のジリジリとした太陽の熱を感じなくてすむのでありがたい。

そっと腕時計を見る。
約束の時間まではあと30分もあった。

(張り切って早く来すぎちゃったみたい)

今日は海人先輩と半年ぶりに会える。最後に会ったのは、冬だったので随分と昔のことのように感じる。

それでも、常に忙しく日本と海外を往復する先輩からしてみれば半年は早い方だ。

「楽しみだなぁ」

ふふ、と先輩の顔を思い浮かべるだけで自然と笑みが溢れる。

携帯の電波が届かない所へ行くことの方が多いため、毎日声が聴けるわけではない。自撮りをするタイプでもないので、写真は2人で会った時のものしかない。

会えない間に愛が育つとはいうが、育つのは愛しさばかりではなく寂しさと不安も一緒だ。怪我はしてないか、無理したりしてないか……先輩は、他人の痛みには敏感なのに自身の痛みには鈍感なので、直接目で確認するまでは安心できない。それに、旅先で言い寄られたりしていないかも心配だ。

(……っ…)

不意に頭をよぎった不安を追い払うように、頭を振った時だった。

「……っひぁ!」

不意に頬に冷たい何かが触れ、口から変な声が出る。

反射的に振り返ると、クスリと小さく笑う金の瞳と視線が合った。手にはペットボトルが握られている。

「せ、先輩!」

「夏希ちゃん、久しぶり」





並盛駅からバスに乗りこみ、目的地を目指す。炎天下にいたせいか、バスの中のクーラーが気持ちいい。

バスの左奥に丁度2つ座席が空いていて、並んで座ることができた。

「確か5つ目だっけ」

「そうです。割と直ぐですね」

隣に座る先輩の横顔をそっと見つめる。バスの座席は意外と隣同士が近く手をちょっと動かせば触れる距離だ。

半年前に短く切りそろえて出発した髪が伸びている。肩ほどある黒髪は後ろで1つに結ばれていて、バスが揺れる度にゆらりと動いた。

半袖の服から伸びる腕は、日に焼けていて程よくついた筋肉を際立たせている。

顔は……また少し大人びたように感じる。歳は1つしか違わないのに、先輩ばかりどんどん格好良く……大人になっていく。会えない間に先輩だけ先に行ってしまうようで少し寂しい。

「どうしたの?もしかして体調悪い?」

「ち、違いますよ……あ!先輩、次です」

じっと見つめていたからだろうか。心配そうな表情を浮かべる先輩に、まさか見惚れてましたとは言えず首を振る。停車ボタンを押すと、次停まりますと短いアナウンスが流れた。

バスの停留所を降りてすぐ目の前が、今日の目的地……並盛水族館だ。

春にオープンしたばかりで、真新しいカラフルな看板がお出迎えする。

「やっぱり混んでますね…」

建物が新しいだけでなく、先週から小中学校は夏休みに入っている。今は水族館の繁忙期なのだろう。

駐車場から向かってくる親子連れやカップルなどですでにチケット購入の為の列が出来てしまっている。炎天下の中これから並ぶのは大変だろう。

「俺チケット買ってくるから、夏希ちゃんは建物の影に……」

「ふふ、海人先輩こっちです」

「夏希ちゃん?」

不思議そうな先輩の手を引き、チケット購入の列を通り過ぎて入場ゲートへ向かう。

繋いだ手の温かさに、思わず笑みが溢れる。



「いらっしゃいませ……って、あら夏希ちゃん」

「こんにちは、お疲れさまです。今日も凄いですね」

「そうそう、さすが夏休みだね。っと……もしかして一緒にいるの彼氏くん?」

入場ゲート脇に立つスタッフに話しかけた夏希。耳元で内緒話するように囁かれた台詞に赤面する。

「っ…は、はい……」

夏希の返答にニヤニヤと笑うスタッフ。真っ赤になった顔をぶんぶんと振り、カバンから財布を取り出す。カード入れから顔写真付きの青いカードを取り出し、スタッフへ見せた。

「2人、お願いします」

「はいはい、いってらっしゃーい」

呆気に取られている海人の手を引き、入場ゲートを通った。



「夏希ちゃん、さっきのは…」

「え、あ……実はここのレストランでアルバイトをしてるんですよ。アルバイトだと自分と付き添い1名まで無料で入場できるんです」

「! そうなんだ」

「大学生になったし、社会経験もしなきゃなーと思って。いいタイミングでアルバイトを募集してたので、始めて……水族館、好きなので楽しく続けられてます」

「そっか」

ふわりと、優しく微笑む先輩。
えらいね、と頭に手が乗る。

「っ」

早く先輩に釣り合うような、大人になりたいのに。

先輩に頭を撫でてもらえて、とろけるほど嬉しい私は、まだまだ子供だと思い知らされる。

それでも、胸をくすぐるこの温もりを私は手放せそうにない。

「っ…せ、先輩こっちです!」

胸のドキドキを誤魔化すように、背を向けて先輩の手を引く。

後ろでクスリと笑い声が聞こえた気がしたが気づかぬふりをして先を進もうとし、先輩の声に立ち止まる。

「じゃあ、今日は夏希ちゃんにエスコートしてもらおうかな」

「はい、お任せ下さい」

「任せました」

お互い顔を見合わせ、同時に吹き出す。

久しぶりの先輩の笑みに、また大きく心臓が跳ねた。




「ここが、クラゲエリアです」

「……綺麗だね」

「水族館と言えばイルカやペンギンが有名ですけど、私ここの場所もけっこう好きなんです」

イルカショーが始まったからか、他のエリアより薄暗くなったクラゲエリアには他に誰もいない。

海の中にいるような水の音が、時折聞こえてくる。

そっと見上げた先にあるのはミズクラゲが沢山入った円柱状の縦に大きな水槽。

水槽の上にセットされたライトに合わせて、クラゲの色が赤に、黄色に、青に、緑に……と次々変わっていく。

「俺、水族館初めてだと思ってたけど違ったみたい」

「そう……なんですか?」

クラゲの水槽を見上げながらポツリと呟いた先輩。

水の流れに合わせてゆらゆらと動くクラゲ。何を考えて動いているのだろうか。

「一回だけ、家族で水族館に来たことがあった。まだ陸人も産まれてないとき。母さんと父さんと手を繋いで、水槽のトンネルを歩いた。もう、随分と昔のことだけど…この水槽を見てたらふと思い出せた」

不思議だね、と微笑む先輩。
何故か……一瞬悲しそうに見えた。

「っ、」

「夏希ちゃん?」

先輩に抱きつくように、腰に腕を回して力を込める。

戸惑ったような先輩の声が頭上から聞こえるが、頭を振ってそのまま先輩の身体に顔を埋めた。

何も言わず、そっと抱きしめ返してくれる温かい腕。

太陽の……お日様のような匂いがする。

「海人先輩、」

「ん、」

「わたし……っ先輩と水族館に来れて良かった。本当に…嬉しいです!」

「俺も……夏希ちゃんと一緒で嬉しい。大切な思い出も思い出せた。ありがとう」

「っ……はい」

涙目の顔を上げれば、優しく人差し指で拭ってくれる先輩。

月明かりのような優しい金の瞳。
まるで……

「……海月…」

「クラゲ?」

「え、あ……クラゲを漢字で書くと海月って書くんです。海に浮かぶ月のように見えるから、らしくて」

ダイビングした経験はないが、きっと海の中からクラゲをみたら月みたいに見えるのだろう。

「暗い所で見ると先輩の瞳、優しい金色で……海の中みたいに澄んだ色に見えるんです。あ、この色!」

丁度水槽のライトが黄色に変わる。クラゲが黄色に染められる。

「自分じゃ分からないけど…似てる?」

「はい、凄く……すごく、きれいです。私、先輩の瞳大好きなんです!」

興奮気味に答えれば、一瞬驚いたように大きくなる瞳。そっと、頭に手が伸びる。






「ありがとう」
 





「っ、」

不意打ちの笑みに、また大きく心臓が跳ねた。

(……っ好き)

真っ赤で俯く私に、首を傾げる先輩だった。






***

本編未来編後にお付き合いをした2人の水族館デートです。ダークサイドの2人とあえて同じ場所、同じシチュエーションにしてみました。当たり前ですけど、関係性が違うだけで全然違う展開になりますね。
この後も無意識にイチャイチャしながら、デートするんだろなー。海人くん、海の生き物に好かれてそう…!

駄文失礼しました。

藍と金 ダークサイドその後

その場所≠ノ着くとまず目に入るのは果てしなく広がる、大きな海だった。

奥の方へと行くほど濃く、深く見えるブルー。海から離れた高台のため、波の音は聞こえない。時折吹く海風が、サラリと頬を撫でていく。今日は雲1つない晴天で、春の暖かな日差しがぽかぽかと包みこんでいる。

日本にもこんな場所があったのか。

「……………」

ガサリ、歩く度に胸で抱えた花束が音をたてた。紫の花弁がふわりと舞う。風鈴に似た花がまるで音を立てているように揺れた。

「…………」

目的の場所に着くと、自然と足が止まった。




「……随分と、時間がかかってしまいました」




腕に抱えていた花束を、そっと白い小さな墓石の前に置く。

そして、頭を深く下げた。



「……カイ、」




骸様、復讐者がそこまできています…!

……ッ、カイは!?

買い物に出たばかりです

っ、千種、犬をつれてお前たちは先に行きなさい

骸様!?

大丈夫。すぐに追いつきます

死刑宣告され、執行が明日に迫った深夜。4人で脱獄し、あと一歩で国外へ逃げれる……という所で追手に追いつかれてしまった。

計画とは違う展開。
優先すべきは、国外脱出だと…分かっているつもりだった。

骸!

なのに、

……ッ…どこですか!?カイ!!!

頭から離れない声。
胸を締めつける焦燥感、痛み。

利用するだけの関係だったはず。
腐れきったマフィアへ復讐するための、道具に過ぎなかった。

優しくしたのだって、
助けたのだって、打算があってしたこと。

そもそも、彼が苦しんでるのは僕の計画のうちだ。

なのに、
なのに……

カイッ!!!

いつの間に、こんなに大切になったのだろう。自分の内側に入れてしまったのだろう。

……気づいたときにはもう遅くて、

繋いだ手の暖かさは覚えているのに、君だけがそこにはいなかった。





「……カイ…、いや海人でしたか」

まさか偽名だったなんて。
言い慣れない名前にむず痒く思いながらも、それでも君の名前を呼びたいから何度でも口にする。

「……海人が復讐者に連れて行かれたと聞いて、随分と探したんですよ」

ただ、復讐者からの奪還は不可能に近かった。

だから、計画通りにボンゴレ次期ボスを狙い、その力を手にして海人を助けにいくつもりだったのだ。

なのに、
負けてしまい、復讐者の水牢に閉じ込められて身動きがとれなくなった。

しばらくたつと、海人は死んだと復讐者から通達された。

嘘だと、冗談だと言って欲しかった。

まだ、謝っていない。
まだ、懺悔していない。

許されることをしたとは思っていないが、それでも、生きてさえいてくれたら……また、あの底抜けに明るい笑みをまた見れたら。

……それだけだったのに。





っ本当ですか!?

はい、カイらしき人物を見かけたと。まだ噂に過ぎませんが……

っ出かけます

死亡通達から数年。
千種からもたらされた情報を頼りに、世界中を探した。

ありとあらゆる人間に憑依しては、潜入を繰り返した。

そしてついにたどり着く。



お前が新しい白蘭の伝達係?よろしくな

何年かぶりに会ったが、ひと目でカイだと分かった。

……か、!

そういや、白蘭今何処にいるか知ってる?任務の報告、しなきゃなーとは思ってるんだけど、部屋にいなくて

……白蘭様でしたら、トレーニングルームの方かと

あー…そっか。ありがと

任務帰りの血濡れた姿で立つ君は、記憶の中の海人とは何処違う。

弱々しくとも自分の足で大地を歩く、太陽の匂いがする君ではなかった。

…………

ん、どうした?具合悪い?

………いえ、なんでもありません

そう?白蘭、部下に当たり悪い時あるけど、基本身内は大事してるから。無理しないで言ったほうがいい

お気遣い、ありがとうございます

まるで、白蘭のことをよく分かってるように話す海人。

先日から左手の薬指にはめられた、マーレリング。白蘭から送られたらしい。口では文句をいいつつ、大事にしているのは直ぐに分かった。

面白くない、
どす黒い感情が胸を支配する。

あの笑顔を見つけたのも、
温かい手を繋いだのも、
涙を拭ったのも、

全部、全部僕なのに。




レオクン………いや、骸クンかな?

……っ、

それから数日後。再び海人と接触できる機会を待っていると、白蘭の方から声をかけられる。

白蘭…っ、

ふふ、ここまで来れたのは褒めてあげなきゃね。どう?愛しの海人クンに会えた気分は?

……

あれ?嬉しくて泣いちゃうかと思ったのに。ああ…そっか。自分が骸クンだなんて言えないか。海人クンが並盛にいれなくなったきっかけを作ったのは君だもんね。さらに裏切り者として恨まれてるわけだし

……っ、可笑しいと思ったんです。脱出の計画は完璧だった。なのになぜ居場所がバレたのか。なぜ海人だけ捕まったのか……ッやはりあなたが原因でしたか

人聞きの悪いこと言わないでよ。自業自得でしょ。

……ッ

さて、感動の再会は果たした訳だし……そろそろ骸クンにはご退場頂こうかな?

クフフ……叶うと思いますか

うん、勿論。だって、

君の相手は、僕じゃないから

悪魔の声に導かれるように、開かれた扉。

……っ、カイ…

そこに立つのはかつての友。
殺気立つ気配。

………骸、なんだな

カイ!君は騙されてます!その男は…っ

それをお前が言うのか?俺を復讐者に売ったくせに

…っそれは

なあ、俺信じてたんだ

っ、

信じてたんだよ、骸

言葉が続かない。
そうだ、彼の幸せを…平和な日常を奪ったのは間違いなく僕だ。

いくら白蘭が手を回していたとしても、もっと早く君を見つけて助ける方法もあったかもしれない。

……っ、……

……何も、言ってくれないんだな

言葉にしたら、言い訳と自分勝手な謝罪しか出て来なそうで声にならない。

白蘭、もういいよ

そっか。うん、じゃあ任せたよ=@

こちらを向く鋭い眼光。
金の瞳が鈍く光る。



……じゃあな、骸




「……あの時、本当にあのまま君に殺されてもいいと思ったんですけどね」

墓石にそっと触れ、苦笑する。
とどめを刺される間際に、外で待機してた弟子から無理矢理精神を戻され、気づけば再び復讐者の水牢の中だった。

回復にも時間がかかり、再び憑依できるようになった頃には……全てが終わっていた。

他パラレルワールドの白蘭が倒され、その影響は全てのパラレルワールドへ。

白蘭は、パラレルワールド全ての白蘭の意思を共有できた。倒された世界で何があったのか分からないが、この世界の白蘭も突然人が変わるように大人しくなったという話だ。

ミルフィオーレを解体し、ボンゴレに投降して処刑されたという。

「…………」

そして、海人も姿を消した。

ボンゴレは海人を保護するつもりだったようだが一歩遅く、その後の彼の足取りを知るものは誰もいなかった……はずだった。

「………なんだ、君か」

「………雲雀恭弥」

突然かかった声に、振り返る。
短い黒髪が、風で揺れる。いつも鋭い瞳で嫌そうにこちらを見ていた。

「……今すぐ噛み殺してやりたいところだけど、ここでは止めておいてあげる」

「クフフ……同感です」

雲雀は手にしていたオレンジ色のチューリップの花束を紫の花束の隣へそっとおいた。そしてそのまま目を閉じる。何かを告げているのだろうか。

「………雲雀恭弥、」

「………なに」

「君は、海人の最期を知っているのですか?」

「………」

この場所をボンゴレから聞いてここへ来たが、ボンゴレも雲雀恭弥から聞いたことだという。

僕の知らないことを、
この男は知っているのだろう。

「君に話す義理はないけどね、まあ……今日くらいは大目に見てあげる」

嘆息と共に語られる話。

海人は、夏希という女性と共に姿を消したという。夏希の家からは兄や家族へ向けた手紙があり、さよならの言葉と海へ行くと記されていた。

「この1年付近の海岸を探したけど結局、遺体は見つかっていない。だから、ここには何も入ってはいないよ。でも、区切りは必要だからね」

「……夏希という女は、海人とどんな関係が?」

「……そこまで君に詳しく教えるつもりはない。ただ……最期は海人は1人じゃなかった。きっとね」

「…………」

「海人、覚悟することだね。勝手ばっかりして……そっちにいったら嫌と言うほど噛み殺してあげる」

墓石に向けて不敵な笑みを浮かべ、
手を乗せる。一瞬、海へ視線を向けるとそっと目を閉じた。

次に目を開けると、回れ右をしてその場から離れる。勿論別れの挨拶などない。

「………海人、」

再び1人になった骸は、雲雀の見つめていた海へ視線を向ける。

青い空を移したかのような、綺麗な海。太陽の光を反射して、水面がキラキラと光っていた。

「………っ、」

君がいなくなっても、太陽は昇るし夜は来る。繰り返される日常に吐き気がした。ここに来るまで、1人取り残されたような感情が常に付きまとっていた。

「……っ、カイ…っ海人!」

僕には、捨てられない人達がいる。
置いて逝けない人達が、帰りを待っている。

だから、君の後を追うことはできない。
結局謝罪も出来なかった僕を、君は恨んでいるだろう。

それでも、どうか。どうか……。



「…っ、く………っ」

今この時だけは、君を想って泣くことを許して欲しい。




そしてパラレルワールドというものが……本当にあるのだとしたら、海人≠ェ幸せに笑っている世界があることを祈っている。



***

なかなか出せなかった骸様を出したくて、遅れながら登場してもらいました。説明&振り返り多めで詰め込んだ感じがしてしかたない……。やや消化不良です。骸様すまぬ。






終焉 ダークサイド完 

「隣、いいですか?」

夜の海岸。
満月の月明かりだけが、浜辺を優しく照らす。

季節は2月。
シンとするほど冷たい風が波と共に吹き付ける。こうして立っているだけで凍えてしまいそうだった。

そんな真夜中の海岸に1人ポツンと座り込む青年。上着などの防寒具1つ身につけず、ただ、海を見つめている。

「…………」

「無言は肯定と取りますね」

よいしょ、と砂浜に直接腰を下ろした。ひんやり冷たい。

青年とは20cmほどの距離を開けて座ったが、夜でもこの距離であればお互いの顔が見えた。

隣に座ったにも関わらず、こちらの姿が見えていないのか反応がない。

感情のない顔で、ボーっと海を見つめているだけだ。

「………ここは冷えますね」

首に巻いていたストールを外し、包むようにそっと青年の肩にかけた。

「………」

「………これ、大学の合格祝いに兄がくれたやつなんです。お兄ちゃん、奮発してくれてカシミアの良いものを買ってくれたみたいで……温かいですよ」

「…………」

「…………」

無言が続く。返答はない。
それでも、夏希は構わず話す。

学生時代のこと、
家族のこと、
友達のこと、

好きな食べ物、
嫌いな食べ物、

趣味やバイトのこと、
得意料理や、苦手な家事……

なんてことのない、普通の事
夏希(わたし)という人物の全てを話した。

「………少しは私のこと、知ってもらえました?」

ふふ、と口元に笑みを浮かべるも、反応はない。そのまま視線を海へ向けた。

月明かりでは、近くの波は見えるが奥の方までは見えない。じっと見ていると闇の先にある海へ引き込まれそうだ。昼間と違い、夜の海は恐怖すら感じる。

同じように海を見つめる青年は、何を考えているのだろう。

「…………おれ、とは…」

「!」

「……俺とは、真逆の人生だな、」

初めて自分以外の声を聞き、反射的に青年の方を向く。相変わらず海を眺めながらポツリと呟いた。

「……俺には、大事に育ててくれた両親も、弟ももういない。やっと出来た友達には裏切られた」

「…………」

「……それでも、手を差し伸べて助けてくれた奴がいた。俺の事を求めて、頼ってくれた。ここにいていいって。仲間だって、言ってくれたのに……っ」





な、なに言ってんだよ、白蘭…

……トゥリニセッテは諦める。ミルフィオーレは解体するよ。これで海人クンは自由だ

っ急にどうして……

………僕が間違っていたんだ。全部、最初から

……ちゃんと説明してくれ、そんなんじゃ納得出来ないッ

……ごめんね、海人クン

びゃくらんッ!!

君を利用していた僕を許してくれとは言わない……言えない。許されないことをしたからこそ……君を手放して、離れるべきなんだ

……お前も、俺を捨てるんだな…

ッそれは違う!

違わないっ!俺は……っ…おれは!

……ボンゴレから、海人クンへ通信が何度もきてる。彼らは何年も前に真実に気づき、君を連れ戻そうと手を尽くしていた。それを妨害していたのは僕だよ。骸クン達と別れた後復讐者に海人クンの居場所を密告したのも僕だ

……そんな、今さら…っ…

そう、今さらだよね。でも、君から奪ったものは返さないと。君の隣に僕がいるべきではない

ッ勝手にしろ!!




……なんて、言った…?

………っ

正一ッ!!

……白蘭さんは、全ての責任を負って処刑されたよ

ッ……

元ミルフィオーレの幹部全員の命を助けること引き換えに……っそれが白蘭さんの最期の願いだったから

……………

海人くん?

…………

海人くん!!




「……っ、謝罪なんてどうでもいい!!騙されていようが、利用していようがッ側に……近くにいてくれるだけでよかったんだ…っ俺を必要としてくれるなら、地獄だって一緒に行くつもりだったのに」

「………っ…」

「…なんで……っ…なんでみんな俺をおいて行くんだッ!!勝手に、いなくなって!!俺は……ッお、れは……」

俯き、顔を手で覆う。
手の隙間からは、透明な粒がいくつも、いくつも流れていく。

「…ッああああああ!!!」

哀しい、
悲しい、咆哮だった。

わんわんと泣く海人を抱きしめるように、手を身体へ回した。

自分よりも大きい身体なのに、とても小さく……弱く見える。

「……っあ……ぁ…」

いつから、ここにいたのか。
すっかり冷え切った身体を温めるように腕に力を込める。

少しでも、この凍えた身体に……心に、温もりが届くように願いを込めて。




「………ッ、…ぁ……」

どれくらい、泣きながら震える身体を抱きしめていただろうか。

自身の体温が海人に移った頃、ようやく顔を上げた海人。

近くで見た彼は、まるで生気を失った死人のように真っ白な顔をしていた。

いつか出逢った頃に見た灯籠のような瞳は欠片もみえず、曇った黄色ガラス玉のように見える。

「……もう、疲れた」

「………」

「………何度も、何度も……期待して、裏切られて………この苦しみを、いつまで我慢しなくちゃいけないんだろうな、」

「………雲雀さんは、待ってますよ」

「……今さら、戻れないことくらいあいつは分かってる。俺は……随分汚れた。どんなに汚れた雑巾を洗っても、真っ白には戻らない」

「そう……ですか」

「…………」

不意に、その場に立ち上がる海人。
見上げるように視線を向ける。




「…………還りたい」




「………どこへ?」

「……還りたいんだ」

「…………」

黒い海へ視線を向けたまま、ポツリと繰り返し呟いた。

指し示す結末≠ノそっと目を閉じる。胸に手を当て、鼓動を感じる。

(大丈夫、)

覚悟は、ここに来る前につけてきた。



「………わたしも、一緒に連れて行って下さい」




「……意味、分かって言ってんの?」

「……はい」

「っ、なんで……!!よく知りもしない俺のことなんか、どうでもいいだろ!?俺はあんたを傷つけた。死にそうにもなった。それなのに……っ」

「ほんと、なんででしょうね」

苦笑しながらその場に立ち上がる。
服についた砂をバッと払うと、右手を海人の前に出した。

「私にも分かりません。でも、……っこんなにも貴方を考えると苦しくなる。放おっておけないんです。貴方の側にいたいっ……いなきゃ駄目だって心が、魂が叫んでいるんです!」

理屈じゃない、
説明できない何かに心がつき動かされている。

気づけば、涙で濡れた頬。
風で冷えて冷たくなる。

「手を、取って下さい。どんな最期でも絶対離しません。もう死ぬまで、私のいたい場所にいるって決めたんです………海人さん」

精一杯の笑みを浮かべて海人を見る。

「……っあんた、バカだな」

「はい、よく言われます」

もうなんの指輪もついていない、細い手が伸びる。






「………ありがとう、夏希」







ほら、
もうきっと寒くない。






***

これが、精一杯でした。
ダークサイドは辛い……。メインの世界線の海人くんであればしない選択だったと思います。でも、そこまで追い詰められた海人くんであれば、こうなる世界線もあったんじゃないかなーなんて思いました。2人共ごめんね!(泣)
久しぶりに甘々が読みたくなったので、番外編一巡して癒やされてこようと思います。
駄文失礼しました。


※イメージソング……ではないのですが、アカシアからいつくか歌詞をお借りしています。いい曲でリピートして何度も聴いてます。

白対黒 ダークサイド続き

「………」

「………」

無言で見つめ会う二人。
先に口を開いたのは、雲雀だった。

「……8年ぶりだね」

「そんなこと、一々数えちゃいない」

「へぇ?言うようになったね。それに、随分としみったれた顔になったもんだ」

「……お前に言われたくない」

静かに話しているのに、バチバチと火花を散らすような緊張感が2人を包む。

夏希は、オロオロと2人を交互に見る。だが、口を挟むタイミングもない上に完全に部外者のため、口を噤んで一歩下がる。

「……それで?8年も行方をくらませておいて、なんで君はこんな所にいるの」

「……知ってるだろ」

「大方のことはね。それでも君の口から聞きたい。言わなきゃ、きちんと伝わらないでしょ」

「………」

「カイ」

名前を呼ばれ、一瞬何かを迷うように泳がせた視線。

しかし静かに両目を閉じると、次に金の瞳が開かれた時には鋭い眼光が雲雀を刺す。


「俺は、ミルフィオーレファミリーの大地のリング保持者」

「………」

「……ボンゴレの守護者を抹殺するために戻ってきた」


「……それが、8年かかって出した君の答えなんだね、カイ」

殺気が増す海人の視線を正面から受けながら、寂しそうに呟く。

「恭弥、あの頃俺の事を信じてくれたのはお前だけだった。だから、悪いようにはしたくない。ボンゴレリングを渡してくれ」

「……嫌だと言ったら?」

「……力づくで奪う」

「やってみなよ、噛み殺してあげる」

「後悔するなよ」

「望む所だ」

それが始まりの合図だった。
お互い武器は持たずに素手で闘う。

素早い海人の蹴りが雲雀の脇腹を狙って繰り出される。軽く手で払い除けてそのままパンチを海人の左頬へ。当たる寸前でそれを避け、そのまま回し蹴りを向ける。

2ステップでそれを避け、距離をおいて笑う雲雀。

「ワオ。頭は退化したようだけど、腕っぷしは少しは成長したようだね」

「……ッ言ってろ!」

それから何度かお互いに体術を繰り出すが、勝負はつかない。

常人には目で追えないスピードで動いていたにも関わらず、息を乱さない2人。

「……さて、肩慣らしはこんなものかな。ねぇ、カイ。まさか君の本気はこんなものじゃないよね?」

「……いいんだな、」

「当たり前じゃない。こうして会えるのを8年も待ったんだ。直ぐに終わったらつまらない」

どこからともなくトンファーを取り出し、構える雲雀。

同じくワイヤーを出し、構える海人。

「いくよ、」

動き出したのは雲雀。

迷うことなく、海人の頭上目掛けて振り下ろされたトンファー。

かわすこともなく立ち尽くす海人。

「………」

頭に当たる……寸前で、トンファーの動きが止まる。目を凝らせば視認しにくいワイヤーがトンファーに絡みつき動きを止めていた。

「ふーん、それだけかい」

「……っ、」

動きを止めたはずのトンファーからトゲが現れ、振り回す腕の動きに合わせてワイヤーを切った。1度緩んだワイヤーは殺傷能力が落ちる。

「これで、終わり」

「………」

もう一度至近距離から振り上げられたトンファー。避ける時間もない。

……はずだった。



「………な、」

「……………」

ドサッ……
それでも、膝をついたのは雲雀の方だった。

息を乱しながら、肩で大きく呼吸する雲雀。見た所怪我をした様子はない。それなのに、立つ力すらないようだった。

海人を睨みながら答う。

「ど、ういうこと……」

「8年」

「……」

「俺にも、色々あったよ」

カツ、カツと足音を立てながら、雲雀の元へ歩く海人。左手にはめたリングからは柚子色の炎がキラキラと火花をちらして揺れている。

「友達だと思っていた彼奴等に裏切られ、罵られ……終いに復讐者に連れて行かれてからは悲惨な毎日だった。それでも信じれそうだった奴ができた。でも、結局は最後は裏切られたよ。脱獄してからバラバラになったときがあって、何故か俺だけ復讐者に捕まった。信じた奴らに情報を売られたんだって、後から知ったよ」

笑えるだろ?
自嘲気味にそういうと、海人は大きく息を吸った。

「復讐者で死だけを待つ生活。それを救ってくれたのが……白蘭だ。俺にも居場所をくれた。新しい力もくれた。ミルフィオーレという仲間もできた」

「………」

「だから、白蘭が困っているのなら俺が手を貸す。どんなことだろうとやってやる。それが……たとえ旧友を殺すことでも」

鋭い眼光が雲雀へ向けられた。
殺意を持ったその視線に、自然と口角が笑みを浮かべる。

(出逢った頃の君を、思いだすようだよ)

「……そう、なら僕も全力で君を連れ戻すだけだ」

「今の恭弥に何ができる?」

「……言ってくれるね。たとえ、這いつくばってでも、僕は諦めない」

「………」

一歩、
また一歩と歩みを進める海人。

雲雀はなんとか片手でトンファーを構えるも、立つことすら出来ない。

「………じゃあな、恭…」

「っ待って下さい!」 

「!」

雲雀を庇うように、前に飛び出してきたのは涙を瞳いっぱいに溜めた夏希だった。

震える手を広げ、海人と向き合うように立つ。

「………どいて」

「っいやです…」

「……どけ」

「っだめ!」

「っ、どけっていってんだろっ!!」

バシンッ、
平手で夏希の頬を叩く。それだけで崩れる身体。赤く腫れた頬を押さえ、それでも立ち上がる。

「止めて下さい…っ、もう…やめて」

「……ッ、」

「どっちも……もう傷ついて欲しくな、い……ですっ」

「部外者がッ!あんたには何も関係者ない!」

「っ、それでも、」

泣きながら海人にがみつく夏希に、言葉を無くす。怖くて震えているのに、それでも海人を止めようと声を上げ続ける彼女。

「……お願い…っお願いします……」

「………」

「今日話した貴方が、悪い人だなんて…っどうしても、思えない…半年前のことを考えたら、自分でも可笑しいと思う、でも、でも…っ」

「っ……」



「っわたしは、貴方に傷ついて欲しくない……っ」



力が、抜けていく。
振り上げた拳が、重力に伴って下がる。

「……あ、」

その様子に、彼女が安堵の笑みを浮かべた瞬間。






ドンッ…!






「……ぇ…」

視界が一瞬で赤く染まる。
鉄臭い匂いが、鼻腔を刺激した。

「…っ、夏希!」

声を上げたのは雲雀だった。
そちらへ視線を向ければ、床に倒れる彼女。胸から出血が溢れ出す。

出血源の胸に突き刺さる白い龍のようなモノ。
それは、何度も……何度も見かけたことがあった。





「………っ、び…ゃくらん……」






「フフ、海人クンが帰って来るのが遅いから、心配して来ちゃった♪」

クラゲが漂う水槽の影から、ひょこっと出てきた青年。楽しそうに笑いながら海人の方へと歩みを進める。

「もう、海人クンたら駄目じゃない。ボンゴレの守護者はリングを回収したら皆殺し、でしょ?」

「……っ、彼女は一般人だっ…ボンゴレと関係ない奴まで巻き込むなんて聞いてないっ」

「えーそうだっけ?それにしては雲雀クンと仲良さそうに見えたけどー」

「白蘭っ!」

「あーはいはい、分かったよ。じゃあ、彼女は見逃す。でも、雲雀クンは駄目だよ」

「………」

海人の隣まで来た白蘭はゴミを見るような目で夏希を見たあと、視線を雲雀へ向ける。

「仕事はきちんとしてもらわないと」

「………分かってる」

「さすが海人クン♪」

パチパチと拍手をして、笑う白蘭。倒れた夏希の傷口を押さえていた雲雀が、口を開く。

「……海人…?」

「あ。そっか、そっか。雲雀クンは知らないんだったね!」

うっかりしてたや、と口元に笑みを絶やさず話す白蘭は、そっと海人の左手をとると薬指に通るマーレリングに触れるだけのキスの送る。

「君たちはカイって呼んでるけど、それ偽名だから。僕には直ぐに教えてくれたよね、海人クン♪」

「………」

無言で肯定する海人。
されるがままに、白蘭に寄り添う。

「……そう、君には聞かなきゃいけないことが沢山ありそうだ」

「キャ、こわーい」

トンファーを構える雲雀に対して、態とらしく声を上げる白蘭。フフと笑い声が響く。

「白蘭、彼女は見逃す……そう言ったよな」

「あー、うん。そうだけど?」

「なら、雲雀恭弥も今は、殺さない」

「え!」 

「今コイツを殺したら、彼女を病院へ連れて行く人がいなくなる。それに、こんな状態で闘っても面白くない」

「えー!!」

「さっき言質とったからな」

「もう、海人クンてば……ま、さっき嬉しいこと聞けたから……んー、まあいっか」

「ほら、行こう。白蘭」

くるりと向きを変えて、その場から歩きだす海人。後をついていくように歩みを進めた白蘭。

「…カイ……いや、海人」

「………」

後ろ姿に声をかけた雲雀。
歩みを止めるが、振り返ることない海人。

「僕は諦めないよ。必ず君を連れ戻す」





「………やってみろ」




迷わず答えた海人は、今度こそクラゲエリアから姿を消した。



***

結局モヤモヤ、モヤモヤしてしまい、気づけば続きをポチポチしていました(←どこかで聞いた)何故だろう……良い意味で焦燥感を駆り立てられるというか…勝手にキャラが動いていくというか……久しぶりな感覚です。でももう続かない……かな?いや、気づけばどんどん長くなりそうなお話です。

海人くんを救いたいけど、救いはないのかな(泣)難しい……。だって、最終的には本来の世界線のツナ達が白蘭倒して、他の白蘭は消えちゃうわけですよね。ツナ達と和解の道があればいいのだろうが……もう遅いような気も。夏希ちゃんも、いつもとはちょっと違う動きをしてる気がして……魂が、海人くんを認識してて叫んでるようにも思えました。この人から離れちゃいけないって。最期は海人くんと、なんて少し想像してました。

駄文失礼しました。
前の記事へ 次の記事へ