A.D.20XX年…某月

Sencoの大浴場…。

ユウキが長い時間シャワーを頭からかぶってのんびりしながら鼻歌を歌っていると浴場の扉が開く音がする。

ユ・『う…ん?誰だ…?』

戸を開けた主に誰か聞いてみると少し驚いたように応えを返す
女・『あら?ユウキでしたの…てっきり蘭か奈都と思ってましたわ…。』

ユ・『るっ…流奈姉か!ちょっ…待っ!!野郎が入ってるのに平然と入って来るレディが居るかよ!!』

意外な人物がお風呂に入って来たので慌ててタオルで下腹部を隠すユウキに流奈はクスクス笑ってペタペタとユウキの後ろを通り抜けるとバサッと湯を体にかけて湯船に浸かった。

流・『ごめんなさいね…まぁ戻るのも時間のロスですし…。』
なんともマイペースな発言をすっぱりと語る流奈に半ば涙目になる…ユウキは、そそくさと上がろうと考えていた。

ユ・『じゃ〜あ…。』

上がると言いかけた途中で流奈はまた、ペタペタと歩いてユウキの横に座るとにこやかにユウキに聞いた。

流・『背中…流してくださる?』

この言葉におどおどしながも断ろうとすると流奈は間髪を入れずにユウキに再び聞いた
流・『背中流して頂けますわよね?』

その笑みが微妙に恐ろしく断った際には何がしかのいたずら的な報復行為を忍ばせていた…。
恐らくは、彼女の笑みに(私は、面倒が嫌いなのでしってよせめて背中くらい洗って頂いても減らないじゃなくって)と言った類の思惑が垣間見えたためユウキは、しぶしぶと流奈の背中をながしてやった…。

流・『ありがとう、悪くは、なくってよ…。』

流奈は、礼を言い風呂桶に湯を張ろうとすると背筋をユウキは撫でる。

一瞬にしてぞわっとしくすぐったい感触が流奈の背中を駆け巡り通り抜けて行った後、流奈は、ユウキが背中のどのあたりに触れているかが分かった…。
目の前の曇ったガラスを手で拭いて後ろのユウキの顔を見る、どうやら、しんみり顔で流奈の背中を見て居るようだ。

流・『背中の傷くらい…どうだって良いじゃない?』

優しくユウキに声をかけると彼は、首を横に振りどうでも良くないと否定した。

ユ・『いや良くない…この背中の傷、有ってはならなかったんだ…自分が未熟だったばかりに…こんなことになったんだ。』

流奈の背中にはばっさりと斬られた傷痕が生々しく走っていた…。

ユウキがまだ女神隊に入隊して数か月ほどたった頃、敵兵に追われ斬り殺されそうになった時に、流奈が彼を救いかばって受けた大きな傷である、流奈にとってもユウキにとっても思い入れのある傷痕である。
流・『それでも、この傷が無かったら、尊い命を無くしていたのよ…。』

ユウキがいかに大事な存在なのかを流奈はそっと彼に語ると少し笑い石鹸を手に取る
流・『傷があるから、あなたが居る…あなたが居るから私が居る…あなたは、居なくてはいけない大切な、家族ですわ…。』

長い時間が経ったにも関わらず未だに、家族としての認識があるとは少しユウキは嬉しかった…。
拾われた当初は、今までいた本当の家族が目の前で死んでしまい帰るところもなくふらふらと逃げ回る最中であった…。
蘭、曰わくその頃に拾ったユウキはまるで捨て猫のように怯えきっていたとの事だが今やすっかり成長しそのような姿や面影は無くなった。

ユ・『あのとき流奈姉がかばってくれなければ、どの道死んで居たのかも知れないな…本当、感謝しているよ…。』

自分が死と隣り合っている事が今、改めてわかるのが少し怖いと思いつつ女神隊のみんなに愛され、大切にされ家族として女神隊の大事な一人として支え合っているのを感じるユウキは流奈の小さくも大きな背中をながしてやる…。
流奈は、小さな少年が気が付いたらすっかり成長した青年になったユウキの顔を見て初々しい頃のおどおどした顔を思い出して少し笑う…。

ちょっとした事だったが、二人の距離も微妙に近くなった…かもしれない…。

流奈とユウキがゆっくり湯船に浸かっている時に、烈月が乱入して来たかと思えば、巴や蘭がなだれ込んで来るように風呂に入って来ていつものように賑やかになる…。
女神隊に退屈が来る事は、当分先のようだ…。