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strange incident2

街に繰り出した二人は…食事をしたり娯楽をたしなんでみたりと人間くさい事を十二分に楽しんでいた…夕方には…いつもの施設への帰路へ付く…。

ウキウキ気分で相当浮かれていた雪乃は…歩いていて一人の男にぶつかった…。

その男?は、詫びの一つもせずにふらりふらり…まるで覇気、いや生気のかけらが無いと言うような感じだった…。

まさに心ここに有らずと言う感じでふらりふらり…。
雪乃は、そんな男?の態度がしゃくに障ったようで怒りを覚えると男の肩をぐいっと引っ張り静かに怒声を上げる。

雪乃『ちょっと…ぶつかって一言無いのっ!』

男?『…うるせーよ…ガキが!』

男?の態度は悪びれもしない傲慢な態度のように受け取った雪乃は、カチンと来ると拳を握りしめ殴ろうと殺気立った…ところ、先ほど覇気や生気のなかった男?は、スイッチが入ったようにかなり高圧的な威圧感が放出され打って変わったかのように瞳は輝いていた…。

男?『おっ!?やる気か!!上等じゃねぇか!!』

男?の殺気は、雪乃の数倍、いや数百倍はありハイネリアは肌で感じ取る…殺気が焼けるように肌にまとわりついてピリピリとしている…猫だった頃の生存本能がかなり大音量で警報をならしていた。

ハイネリア『ゆ…雪乃っ!』

ハイネリアが雪乃に声をかけた途端、男?がまばたきをした瞬間に雪乃の背中側に立っていた…。

男?『オイ、ガキ…さっきの威勢はどうしたんだよ拍子抜けだ…。』

男?は少し拍子抜けしたと残念な表情をするとどこかへまたふらりふらりと去っていた…。

男?が雪乃を殴り倒すのかと冷や汗をかいたところで何事もなかったのがラッキーだった…。

雪乃も、男?の威圧感に負けて動く事もできなかったようだ…。

へなへなと地べたに膝をつけるとハイネリアが走り寄ってくる…。
ハイネリア『雪乃っ!大丈夫か!?』

雪乃『あ…あ…あれが…本当に人間…なの…。』

ハイネリア『あぁ?どういう事だ、何を見た?』

ハイネリアの問いに雪乃はガタガタと少しふるえながらゆっくり考えて言葉を選び静かに答える…。
雪乃『あの人…本当に人間…!?何あれ…あれが本当にイキモノなの?』

ハイネリア『オイッ!何を見たんだ、雪乃、しっかり答えるんだ!』

雪乃『分からない…分からないのッ!』

雪乃は、とてつもない物を見たようでひどく怯えだした、ハイネリアは、博士を呼び出すと雪乃の肩を持ってゆっくり歩く…。施設に着くと博士は、雪乃に鎮静剤を打ち落ち着かせた…。

薬が効き始めてゆっくりとまどろむ…。
すぅ…と小さな寝息を立てた所で博士は、深いため息を着くとハイネリアにニ、三質問をした

博士『ハイネリア君…雪乃ちゃんがこうなるのになぜ止めなかったんだい?』

ハイネリア『男の持つ覇気のせいか…ピクリとも体が動かない状況に陥ってしまったためです、博士…。』

博士『なるほど…な…。』

博士は、ハイネリアの言葉を理解するとため息をまた付く…。
すぅ…と眠る雪乃に目をやると、博士はゆっくり語る…。

博士『それは、君の生存本能が警鐘をならしたんだな…これは死ぬかもと…覇気の放出と言った物、相手は相当な熟練者だな…。』
ハイネリア『相当な熟練者?』

博士はハイネリアの言葉に頷くと…熟練者の事を教える…。
相当な熟練者、つまりは殺人のプロフェッショナルが出す力、殺気よりも段違いの威圧感を与え近づけまいとする…そして、その男は、間違いなく数多くの人命を殺し、数多くの死線をくぐり抜け、生き残っているツワモノだと言うこと…そのツワモノとして一番近い存在が軍人、ハイネリアの同業者で有ることも博士は推察で話しをする。
ハイネリアは、驚いた、同じ軍人なのに気が付かなかった…加えて、直面した焼けるような殺気を持っていた事…。
観察不足だった…。
自分が不甲斐なく思った…。
兵士たる自分が同業者に気が付かないことに不甲斐なく苛立ちを隠せなかった…。
それに構わず博士はさらに質問を投げる…。

博士『ハイネリア君、悔やむのは良いが…殺気や覇気にも人によってパターンが違う…どんなものだったか覚えているかい?』

ハイネリア『や…焼けるようなピリピリとした痛みを伴った殺気…だった…最も直接見ていたのは彼女だ…彼女が起きたら聞けばより詳しく聞けるかと…。』

博士『まぁ、そうだな…その件は雪乃君にきくとしようか…それで、その男の風貌は?』

博士は、ハイネリア達が出会った男について聞くとハイネリアはすぐさまに男の特徴がはっきりと脳裏に浮かんだ…。

ハイネリア『左腕に赤い帯のついた紺のコートで腰まで長い黒髪で…顔は良く見えなかったが…身長は…170以上はあったかと…。』

博士『かなり大男だな…そうすると…。』

博士は…手近にあった白い紙にボールペンでさらりとラフに絵を描いてハイネリアに見せるとハイネリアが見た大男のイメージにぴったりの絵を描いてハイネリアに見せた…。
ハイネリアはまさにこの通りと言わんばかりに頷いて見せた…。
そうすると博士は急に笑い出しすぐさまに服を着替えて、しばらく留守にすると言って嬉々としながら施設を飛び出して行った…。

突然のことでハイネリアは理解ができなかった…いつも冷静な博士の顔がまるで花が咲いたように満面の笑みを浮かべて施設を飛び出して行ったのだから事態も飲み込めずにいるのは無理がなかった…。

しばらくして静けさが周りを包むとハイネリアは、すぅすぅと寝息をたてる雪乃の額に手を当てそっとなでると雪乃は笑ったような表情を見せる…。

ハイネリア『あんたは、あの時何を見たんだか…。』

ハイネリアの独り言は部屋の部屋の隅にまで通ると風が通る…戸締まりもしているし窓もしまっているのに不思議と風が入って来た…。

男?『この前の男だな…。』

入り込んで来た空気と同時に聞き覚えのあるトゲトゲしい声色にハイネリアはすぐさま反応してその方向に戦闘体勢を取りながらキッと向いた…。

ハイネリア『おま…え…どこから入った?』

男?『あぁん?何寝ぼけた事言ってんだ?入り口から堂々と入ったに決まってんだろ?』つい先ほど、とんでもない事態になって時間が経たない状況のために険悪な空気が周りを包み込んで殺気すら混じり男とハイネリアはピリピリとし今にも殴りかからんとし二人は額がくっつかんばかりににらみ合いを続けているところに博士が割って入った。

博士『二人ともやめないかっ!身内同士で!』

男?『身内だと!?冗談は大概にしろよカズト!この頭に血が上りやすい真っ黒野郎が軍人だって!?』

男が笑いながら言うことにハイネリアはカチンと来ると握り拳を作り声を荒らげて反論をする!
ハイネリア『こっちだってあんたのような暴力馬鹿野郎が軍人だとは認めん!絶対に認めん!』
荒らげて言ったハイネリアに男はキョトンとしてほんの数秒固まったがまたすぐさまに笑い出した、それも先ほど笑っていた笑い声よりも一段と大きく笑い出したのだ。男『つくづく、おめでてぇ野郎だな!』

男が言ったところでハイネリアはキョトンとすると男は名乗った。
男『オレは、海賊部隊【赤月:アカツキ】の首領、神崎ハジメ烈月だ!確かに数年前は、国令第零中隊女神隊の戦時徴兵で編入されたが…女神隊の解散でオレの任も解かれて軍人じゃねぇんだよ。』

減らず口に物を言わせて自分の名前を名乗った烈月は笑い出した所でハイネリアは彼の名前にハッとし怒りが冷めた…。

自分の目の前に居る人物が過去の大戦にて伝説的な偉業と驚異的なスコアを叩き出した人物であり本来は出会う事のなかった人間を目の当たりにしハイネリアは驚愕した…。

過去の大戦にてついた徒名がフィールドブレイカー烈月。
戦場を縦横無尽に駆け巡り、敵AG撃墜数オーバー300被撃墜1、殺傷兵士数は推定でも1000人はくだらない歩く大量破壊兵器だ。
日本軍では女神隊の存在の中で一際、戦闘に特化した化け物あるいは英雄のごとき存在である。
ハイネリアはそんな人物を目の前にしている。
通りで戦闘経験の無い雪乃が怯えきることが納得行く…。
ハイネリアは恐る恐る手を差し伸べてゆっくりと名乗りを上げる。

ハイネリア『烈月、さっきはすまなかった、お…俺は、第13独立機械化混成中隊隊長の…ハイネリア…仙石ハイネリア、中尉だ。』

烈月『おうオレも悪かったな…ハイネリア中尉、よろしくなっ!』

烈月は、固まった表情をするハイネリアの手をギュッと握りニッと笑うとハイネリアは今までの固まった顔が一気にほころんだ…。

偉人に出会う機会とは全く無いある意味で名誉ある事だ、さらに怒鳴りあった仲と言ったのは大変貴重な経験でもあるハイネリアは少し安堵と喜びがこみ上げる…。
烈月はふと雪乃に目をやるとやるせない表情と深いため息をついて雪乃の額に手を当てた…。
烈月『すまねぇな…こいつには申し訳ねぇ事をしたと思ってる…。』

ハイネリア『烈月…彼女に何を見せたんだ?』

烈月『見せたっつうか…ただ殺気と怒気を全開に放出させたって寸法さ…。』

いまいちぴんと来ない発言だ…。

殺気と怒気を混ぜ合わせて一気に全放出をさせただけで雪乃が怯えきる訳じゃない…。
何か他に隠しているハイネリアはそう思い更に問い詰める…。
烈月『あぁ…オレにゃ人ならざる力っつうかそれに近いのを見たんだろうよ…。』

烈月はそう言ってため息を深くついた、どうやら嘘は言っていないような素振りである…。

烈月『トラウマやPTSDにならなきゃ良いがな…。』

表情が穏やかになっている烈月は、博士に道中で事情を聞かされているみたいで今ここで雪乃の心配をとてもしていたところを見ると歩く大量破壊兵器には見えなかった…。

ハイネリア『優しいんだな…あんたは。』

ボソッとハイネリアはつぶやくと小声でいった言葉は耳に入って居たようで烈月は、首をハイネリアに傾げながら向けて優しい表情を向けフッと笑う。

烈月『てめぇより…優しくなんざねぇさ…。』

彼が言った言葉は色々と含みがあるようだがハイネリアは無駄な詮索はそれ以上すまいと思うのだった…。

Strange Incident IN 女神はほほ笑む

AD.200X年…

日本某所

そこは…いまだにアメリカ公国の残党によるゲリラ戦によって日本軍は一進一退を繰り返し戦況の終焉は当分先に見えた…。

周りは激しい爆撃に晒され建物は形をなさず骨だらけとなり樹林は焼けて更地と化し、そこに住まう生き物は逃げおおせた者や巻き込まれ命を落とした者も少なくなかった…。

そんな爆撃に会い崩壊した街に小さな3匹の猫が、息絶え絶えに必死に生にしがみつきながら小さな穴蔵に入り込んでいった…。

入り込んだ先にはうっすらとした明かりも無い…真っ暗な世界で道のりは中途半端に崩れて渡れない所もちらほらとありそれらを手探りでたどっていく…まるで何かに誘われるかのような道のりをしばらく進むと明るく広い空間にたどり着いた。

その空間に足を着けるとがらんどうとしただだっ広い部屋で錆びた匂いが鼻を覆った…。
それでも爆撃はある程度しのげると鉄のひどい匂いは3匹は我慢して気にしなかった…。

だだっ広い部屋でもさすがに腹は減る…自分たちで何かを得ねばならないのは今の状況で良く理解できた…故にゆっくりと食べ物を探し始め辺りをうろうろし始める…鉄の匂いしかまわりにはなくそれでは腹も膨れない…壁をなめても鉄の味しかせず食べ物を食べている感覚もなかった…。

薄暗い建物の中には食べ物らしき物はなく…生きているネズミすらもなかった…。
爆撃はしのげるとしても、逃げた先に食べ物が無いのでは結局、絶望的だった…3匹はそれでも諦めまいと辺りを探って薄暗い部屋をうろうろとした…。

一匹は小高い丘のような台に立って何かないか見渡す、もう一匹は、妙ちきりんな板が多数張り付けられた台に乗り、辺りを伺う…最後の一匹は、二匹の指示でうろうろしながら食事を探した。
結局、何も見つからない状況で妙ちきりんな板の張り巡らせた台に居た猫が触れた板が突然、光り出し、小高い丘のような台に居た猫のまわりを見えない壁が取り囲んで閉じ込める…。
突然の事で小高い丘のような台に居た猫は恐怖感に襲われ必死に抜け出そうと壁を爪で引っ掻いた…。
引っ掻いて引っ掻いて引っ掻いて、必死に悲鳴のように助けを乞う鳴き声は、無情にも壁の向こうの二匹には伝わらない…。
しばらくして壁の天井がまばゆい光に包まれ、意識が遠のく…。
自分が自分じゃなくなる感覚…頭から尻尾の先までの力が抜けていく…。
床に倒れ伏し、それでもか細くなる助けを求める鳴き声は弱々しくなるついには、意識がぷっつりと断ち切れ…その後の事は良く分からなくなった…。

意識が戻り気が付くと…辺りを始めに見回し気配を探る…。

頭の横には、ピコピコと拍子良くなる機械と液体の入った袋がつるされていた…。

ふと思い出した先ほどの出来事を口にする。

『−ーみんな…ど…こ?』

不思議と声が出しづらい…それでも他の二匹の安否を気づかって声を発する…。
『ど…こなの?』

すると…人間が近くに居たのかそいつは顔を覗き込んで様子をうかがってから上体を持ち上げて起こさせる…。

『オイ…気分はどうだ?』

『そ…れより、みん…なはどこ?』
言葉を荒らげようと力を入れて声を出すとしゃがれた声でみんなの事を聞き出すと黒髪のそいつは手を打ってみんなの事を話し出す。

『みんな…?あぁ…他の二匹か…。』

『他の二匹なら、無事だ…まぁお前に会うことも、会わせる事も出来ないがな…生きてる事は間違いないな。』

『会うことも出来ないってどういう事!?』

まず、他の二匹が生きてる事には安堵したがそいつは会わせる事も出来ないと言う事に妙な引っかかりを覚えるとそいつはきらめく板を手渡してくる…。
そして、そいつはさも自慢げな表情を浮かべ腰掛けに戻るときらめく板を覗いて悲鳴を上げた。
『なっ…なにこれ!?』

『お前は、ニンゲンって奴に変わったんだ…もちろん、俺と同じくな…もともとは俺も猫って言われる生き物だったんだがな…。』

『ニンゲン!?ニンゲンって…。』

と言った所で部屋にニンゲンの姿をした奴らがいくつか入ってくると後に入ってきた白い布を纏ったニンゲンが黒髪のそいつと話しをする。

『ハイネリア中尉…ゼロ号被験体の様子は?』

『はっ!博士…被験体はまだ意識を戻してから時間が経ってませんが容態は極めて安定してます。』

『ふむふむ、良好、良好…ならば…直ぐにでも教育に移したいが良いかね?』

博士と呼ばれた白布はハイネリア中尉と呼ばれた黒髪のそいつの肩を軽く叩いて笑っていると黒髪のそいつは二つ返事で返す…どうやらこれから【教育】が始まるらしい…先ほど入って来た他のニンゲンが妖しげな箱を直ぐに用意しだすと博士と呼ばれた奴が顔を覗き込んで柔らかな表情を浮かべた。

博士『なぁに、心配するこたぁない…ただ、自分が何者なのか…ここは何処なのか、自分の存在や物事への理解を深めるための教育さ…。』

『物事への理解?』ハイネリア『そうだ…自分がどんな奴でまわりのニンゲンって何なのかとか…やってはいけない事とか…もろもろだ…まあやれば解る…もちろん、俺も受けた。』


ハイネリアは、ポケットから水を用意すると手近にあった入れ物に注いで自分の近くに置くと少し笑ったところで突然博士から何かを被せられた…。

ハイネリア『まあ落ち着け…なんのこたぁない…そこでまっすぐ目を開いてりゃ良い…。』

博士『まぁ、君の飲み込みが速い事を期待するよ…それじゃ、始めようか…。』

カタカタ音がした後、しばらくして見ていた真っ暗闇は次第に明るくなりだだっ広い世界が広がるしばらくすると声が広がる…。

最初はかすかな風のような音だったがしばらくしてはっきりと解る音になった。

『この世界と言う枠組みには、あなたのような生き物と言う存在がたくさん存在をしている。』

『生き物?それは何?』

『生き物は、様々な形で生きる物の事、あなたもその一つ、ニンゲンと言う生き物です…。』

『ニンゲン…ニンゲンが私…。』

『そう、あなたはニンゲンなのです…。』


似たり寄ったりの教育が数週間、数ヶ月続いて自分の事が良くわかって来た…生活など仕方から人間の基本…そして自分のするべき事…それらも長い時間をかけて理解をした…。

ハイネリア『博士…そろそろ、課外授業の一環でこいつを外に連れて行っても良いか?』

博士『外に?そうだね…バーチャルトレーニングもそろそろ、終盤だし…実体験もしたほうが良さそうだ…。』

『外に出れるの?』

ハイネリアは、黙ったまま頷くと博士もにこやかに頷く、すると表情はほころび喜びがまんべんなく顔を包んだ…。
人間になって初めての外である…長い時間、室内に居たためようやく外の空気を吸える事に胸がときめいた…。

ハイネリアが用意したシンプルな服を素早く着込むと今やと飛び出さんばかりにウキウキするとハイネリア中尉が制止する…。
ハイネリア『浮かれるのは良いが…周りを良く見ろ街中じゃ、そんな事をしていると阿呆か…イカレタやつにしか見えないからな…平静にな…。』

『えっ…あ、はい…。』

少しシュンとするとその顔を見たハイネリアは笑って肩を叩くとつまらない事を聞く。

ハイネリア『そうだ…街中じゃあんたを呼ぶときにあんたじゃ面倒だ…名前がないとな…いつまでもナナシノゴンベイじゃしゃれにならんしな…。』

ふと言った言葉で自分の名前を考える…今までには無い事で心が少し揺れる…自分の事だが呼ばれたことが無い名前である…ゆっくり考える…周りの時間はさほど経っているわけでも無いのに自分だけが一瞬にして数分、数時間が経っているかのような感覚に包まれると他人が聞いて響きのよい語呂と透き通るような感じが頭の中を巡ると教育で見た雪原の光景が浮かび上がると自分の名前が浮かんだ…。
そして、透き通るような笑みを浮かべハイネリアに眼差しを向けるとハイネリアは無愛想に近い顔から驚きがこぼれた。

『私は…ユキノ…雪に乃…雪乃が良いです…。』

そうだ…これからは自分じゃ無いユキノとしてこの広い世界に生きることになる、こうして回る世界の中でようやく小さな命がゆっくりと小さな花を咲かせた…。


A.C.200X年 の奇妙な出来事がまたこれと同じくゆっくりと動き始めた…だが、まだ誰もそれは知らない…これから起こることは誰も予想はしていなかった。

エボルヴプラン5 in 女神はほほ笑む

烈月は、一抹の不安を未だに抱えている…しかしながら、ここ最近の行動に肩肘が張りっぱなしにしてたことで疲労が溜まりに溜まって、挙げ句にはランの暴走を止めることが追い討ちとなり心身共にとても疲れていた…。

願わくば、楽をして不安を振り払いたいほどだった…。

ランに手を引かれエスアリアに着艦すると機械による機体の緊急メンテナンスが始まり、機体から半ば逃げ出すように抜け出すとランに案内されるがままに部屋を割り当てられ…そのままベッドにうつぶせになるとまどろみが急に押し寄せてきたかと思った途端、ぷつりと意識が途切れた…。

寝返りをうって、あまりにも背中が寝苦しいと思い、違和感のあるその背中に腕を回すとひんやりとした鉄の感触が手に伝わりハッとする…。
大きな斬馬刀を背負ったままベッドの上で泥のように寝ていたことに今更気づく…。

烈月『あ〜やっちまった…寝苦しい訳だ。』

一人でぼやくとムクリと巨体を起こし斬馬刀を外し壁に掛けて部屋中を例によってゾンビのようにうろうろしてみる…。

殺伐とした部屋は何も無くテレビらしいモニターと怪しげな小さなドアと壁側に大きなドアがくっついている、烈月は、迷わずしゃがんで小さなドアをパカッと開く…。
ひんやりとした空気が頬をなでると直ぐに理解する…【ただの冷蔵庫だ…。】
中を調べると、ミネラルウォーターが二、三本入ってるのでそこから一本、失敬して封を開けて口に液体を流しこむ…。

烈月『ただの水…だな…。』

少しばかり味に期待したが、ただの水は、やはりただの水…しかし、その水で体の渇きを十分に潤したあとボトルを片手に持ちながらおもむろに立ち上がり大きなドアに近づくとそこは、廊下で…部屋から顔だけのぞかせてあたりを伺うが特に人気も無く、静まり返っている…。
外から見れば全長200メートル級の重巡洋艦と大差ないのに人、一人居ないのは不思議だ…。
烈月は、廊下をぶらぶらと歩いて人にすれ違わないかを期待しながら艦内を歩く…。

大分歩いたが現在地が分からなくなる軍艦アルアルによっていよいよさまよいだした烈月は、分かりやすい場所を目標にガイド標識に頼った…。

烈月『あ〜こりゃ完全に迷っちまったな…ガイド、ガイド、ガ…イド。』

辺りを見回してガイドを探すと目に入ったのは床に描かれた白く光る矢印だ…烈月は何の気なしにそれに従った歩く…。
また、ゾンビのようにうろうろとさ迷うように歩く…。
ようやく…廊下の突き当たりに出たので再び標識を見る…。

【←左舷居住区及び中央廊下:昇降EV:右舷居住区及び食堂→】

標識を見て烈月は、真っ先に向かいたかった所へ迷わず向かう…左舷だ…。
それも居住区ではなく、このエスアリアと言う重巡洋艦のブレーンである艦橋だそこで全てが分かる、さらに烈月は、自前の軍艦を持っていた頃の経験から、日本軍のエレベーターは、決まって中心、つまりは艦橋につながっている事も理解していた…。
気分を取り直してずんずんと進む…。
しばらくずんずん進むと、右手にエレベーターを見つけてボタンを押す…。

人気の無さは、不気味過ぎだ…エレベーターを待つ間、誰一人とすれ違わない…烈月は、今までの自分の軍艦とは違う艦内ながら懐かしささえ感じた…。

艦橋に着くと複数の座席に艦長の席が真ん中に鎮座し、いかにも軍艦である様相を呈す…。
人を探すように辺りを歩きまわると、突然だった…。

『烈月、目が覚めた…?』

声がする方向に、顔を向けると、座席にはナツが座っており、なにやら調整をしているようだ。

烈月『おぉ…寝覚めは悪かったが…この通りだ…。』

ナツは、チラッと烈月の顔を見ると再びコンソールに、目を向ける…。
電子戦のスペシャリストのナツの表情を烈月は伺おうと近寄ると…ナツは、口を開いた…。

ナツ『モニターを見た通り…今、攻撃されている…ハッキング…。』

烈月『マズいな…防衛率はどれくらいだ?』

ナツ『95…残りの5パーセントから、侵蝕しようとしてる…侵蝕されたらウイルスを注入される…そうしたらこの艦は使えなくなる…。』

ナツが言っていることは、逆に考えたら95パーセントは防衛しているが、それ以外に手がまわって居ないと言っている…烈月は、すぐにそう至ると空いてる席に座った。
烈月『こっちで攻勢に出る、保たせろ!』

ナツ『了解、任された…。』

烈月はコンソールの画面を見てプログラムの図式と侵蝕するプログラムの図式を見て、プログラムを再書き直しを瞬時に加えて侵蝕しようとする図式を追う…どこからハッキングをしているのか、逆探知を加える…烈月でさえ、電子戦お手の物だ。

烈月『発信源さえ分かりゃこっちのもんだ。』

烈月が来てからは、ハッキングの応酬はあっさり片がつく…。
烈月らしく武闘派らしいやり方をする…。
侵蝕を抑えてハッキング源を断定し、そのまま、電子では無く物理的に破壊し爆音が艦橋にまで聞こえてきた…。

そう、艦の操作盤を直ぐに理解し発信源であった近くの倉庫に数発ばかりミサイルを放り込んだ訳だ、まさかハッカーは物理的に攻撃される事は思ってもいなかっただろう、基本的には、巴の意向で電子戦は電子戦で片付けるのだが烈月は電子戦には、根源を壊す方が早いと思っているのだがナツには正直…どっちにしろ解決するならと思っていた…。

烈月『ふい〜片づいた片づいた…。』

ナツ『いつもらしい…荒っぽいけど、結果はオーライ…ありがと…。』

ナツのその言葉に烈月は、引っかかる…。
違和感がなさすぎた…。
一瞬、烈月の心の奥底に押し留めた一抹の不安が…解消されたように思える…。

烈月『ナツ…どこまで知っている?』

烈月は不安をぬぐい去ろうとたたみかけてナツに質問を口にすると、少し黙っていたナツは、鼻で笑って口を開いた…。

奈都『全部…知ってる…初めから…ね。』

全てを知ってる…そう語る奈都はユウキの死んだ日も、巴達が記憶を失った事も、烈月と如月が現れた事も、何から何までを知ってると言って風合いだ…。
烈月は、自分の不安が取り越し苦労だった事に胸をなで下ろした。

烈月『何だ…全部…知ってたのかよ…。』

奈都『ええ…全部…知ってた…でもあなたが現れたせいで計画が御破算よ。』

奈都は片手に持ったコーヒーをちびりちびりと飲みながら、御破算になった計画は、烈月が現れた時に全ておじゃんになったことを少し笑いながら話しを進めた…。

奈都『本来あなたが現れる前に実行される予定だったけど…エボルヴプランはあなたのせいで大きく変わった…。』

烈月『エボルヴプラン?なんだそりゃ?』

奈都『巴や姉さん達の記憶を戻す計画…。』

エボルヴプランを語る奈都の概要はこうだ…時間を掛けて巴達の記憶を司るプログラムにアクセスし、寸断された記憶をつなぎ合わせて元に戻す、いわゆるスマートなやり方だ、だが烈月がムチャクチャやるものだから奈都の考えたプランは、全てめちゃくちゃで、立ち消え状態になった…。
それでも、結果は、荒っぽく曲がりなりにも奈都の思い描いていた終着点にたどり着いた訳だから少々、怒りながらも奈都は烈月に感謝した…もちろん協力をしていた如月にもだ…。
結局、全員が元に戻ったことにホッとする烈月は、奈都の顔を見て少し笑いながら艦橋を後をする…。
とぼとぼと歩いて行くと、奈都が後ろに音もなくついて歩いて居たのに烈月はびっくりした。
奈都『どこに行く?』

烈月『いや…外に出て…風に当たりてぇんだ…。』

奈都『そう…この艦はアデリアと違って迷いやすいから…コッチよ。』

奈都は、烈月の前を歩き、頭を傾げて方向を示すと烈月を案内する…。

自分がどれくらい寝ていたかを聞くと奈都はたいそうな時間寝ていた事を話す…。
どうやら、自分は相当疲れていたみたいだ…意識はしていなくとも体は正直だった…。
大分…歩いて見たが、奈都がハッチに手をかけてグイッと力いっぱいに引くと、若干の気圧差か…風が入り込んで髪がざわめくと、夕日が目に入り眩しく手をかざす…。

烈月『眩しっ…夕日か…。』

烈月の口から…眩しさがこぼれると…視界には巴と流奈がなにやら話しているのが見えた…。

烈月『アイツ等なに話してんだか?』

奈都『さあ?今晩の晩ご飯じゃ無い?』

いつになく奈都は上機嫌なのか…あまり口にしない冗談めいた言葉を口にして巴達の所に歩いて行く…。
巴は、向かってくる二人に気が付くと二人に手を振って呼んで居るのが遠巻きに分かると…烈月は、少し早歩きで近寄って言った。
巴『おはようさん、烈月、ふかふかの軍用ベッドは良く眠れたかい?』

開口一番に巴はふかふかでもない固いベッドを皮肉混じりに笑いながら話すと腕を組んで堅い表情をしだす…。

烈月『あぁ…おかげさんで軍用ベッドでぐったりだ!…で?』

で…と再び不機嫌そうに話の内容を聞き出すと巴と流奈は、今後の事を議論していた、少なくとも活動の障害になるのは、やはり黒い忍者の存在…それが邪魔になって居ると言うことだった…。
烈月はやはりそうくるとわかってはいた…流奈は、障害は排除すべきだとも考えて居る、故に同門のよしみと言うのが流奈には通用しない、彼女ならば彼女単騎で圧倒的な火力や攻撃力で粉砕する、つまりは障害になる物は徹底的に跡形も無く禍根を払いたいのだ…どちらかと言えば武闘派中の武闘派の考えだ。
対して巴は、ある程度の障害なら無視ができ簡単な対症療法で処理すべきと考えて居るので、どちらかと言えば今の烈月の考えに近寄ってはいた…。
しかしながら、それは時間稼ぎにしかならない…もどかしさもつきまとう…結局は、堂々めぐりな状況にある…。
二人の議論に付き合ってはいたが、段々疲れて来た烈月は、フェンスに背中を預けて聞き続けて…。
無論、奈都も決定打は無く聞いて居るだけでノートパソコンを操作して与えられた任務を確認する始末…で云々やっているのは二人だけだった…。

しばらく、二人が云々やってはいた所で烈月の動物的勘が鋭く反応する…。
気配が大分近くにある…その気配は、殺気のようでありその方向に向かって戦闘体勢を取ると巴達もそれに合わせ戦闘体勢に移行した…。

烈月『オイ!そこに居るのはわかってんだ…出てこい!』

烈月は、その方向に向かって吠えると茂みからゆっくりと忍者が姿を現した…。

烈月『やっぱり、てめぇか…会いたかったぜ…。』

烈月は、口元が緩み歓喜した声を挙げるとその場に居る全員に手出し無用の合図を送って後ろに引かせる…。

烈月『てめぇはどこまで知っている答えな!』

烈月は忍者に向かって問いを向けるが元々期待はしていない…答えるはずが無いのは百も承知だ…。

烈月『だろうな…黙秘…何だよな。』

烈月『所詮は、ただのいぬっころだ…。』

言葉を二、三悲しみを込めて放つと忍者に向かって距離を詰めて鋭く拳を突き出すが空を切る…忍者は、距離を置くと腰に差した刀を抜き出して殺す気満々で襲い掛かってくる…。

烈月『やる気満々!良いね良いね!上等!』

歓喜を口に出した烈月は振り下ろして来る、刀身を手でいなして顎に一撃、手鎚を打ち込み忍者はふらりとすると、ソバットを堅いヘルメットに浴びせる…。
当たりの手応えを確認すると、近くにヘルメットの落ちるガラリとした音を耳にして体勢を直すと軽くステップを踏んだ。

烈月『その趣味の悪りぃメットは頂きだ…次は、その顔を隠す面頬だ…。』

余裕を十分に生かして武刃流の武術を引き出した烈月は、素手で刀に勝つ自信を見せた…。
全員が勝てると思った…。

忍者は、焦りを見せずまるでロボットのように攻撃を再び繰り出して来るも烈月は、ひらひらと蝶のように舞い、よけると顔面にキツい拳の正拳突きを放ち当たった所で面頬を引き剥がして距離を離すように忍者の腹に足刀をうずめてやった…。

烈月『ほらほら、てめぇは、武刃流の門下生より弱いんだ…軍人みたいに次の一手考えてみろや!』

投げ捨てた面頬が金属の音がするが烈月の拳は加減しなくとも丈夫だ…その、捨てた面頬がひしゃげていた…。

烈月は、忍者と格闘を交わしつつを喉元をつかんで、巴達の居る方向へ投げると受け身をとれなかった忍者は、そのままドサリと倒れ込む…。

ゆっくりと起きあがる忍者の顔を見て巴達は、驚いた。

巴『そんなっ!嘘でしょうユウキっ!?』

流奈『馬鹿なっ…死んだはずじゃ…。』

奈都『ユウキ…。』

口々に驚きを隠せ無い、数年前に死んだはずのユウキが生きてそこに居るため烈月以外は、驚いた。

烈月は、ユウキの顔を数日前に見ていた…最初は、混乱を極めた状態だったがある時期に新しい解釈に基づいて理解をし平静を保つことを覚えたので今なら全く驚く事もしない。
烈月は、ゆっくり近づいて行くとようやく起き上がったユウキの首根っこをつかみ上げ再び、ユウキを投げる、今度は、近くにあったパレットに体を叩きつけ激しい音と共に砕けたり倒れたりしユウキの姿は、その礫に埋もれ、足だけを見せてピクリとも動かなかった、烈月は、それを見て一つ、ため息をついたあとゆっくりと口を開く。

烈月『サイボーグかアンドロイドか知らねえが…そういうこった…。』

巴『烈月、知ってたのかい…ユウキだって…。』

烈月『あぁ…知ったのは数日前に交戦した時だがな…。』

烈月は、少し自慢気に話すと巴が表情を強ばらせ一歩を踏み出した瞬間、その隣に居た流奈がツカツカと烈月に近づいていく…。

【ぱしーんッ!】

流奈と烈月、二人の距離がなくなった所で突然、その乾いた音が響き流奈を除いて誰もが目を丸くした、烈月の左頬は赤く手形がついており流奈は、強ばらせた表情のまま真っ直ぐ烈月を見ていた…。

突然の事で烈月はきょとんとしているので流奈は、すかさず口を開いた。

流奈『馬鹿者!!ヤツがユウキだって言うことは前もって言え!!前もって…言って…居れば…言ってれば…。』

口ごもる流奈は、途中から先ほどまで強ばらせていた表情が崩れだししだいには流奈は嗚咽をしだした…。

しばらく…嗚咽をしていた流奈は、深く呼吸をし整えるとユウキの方へ踵を返すと涙ぐんだ顔でキッと眼差しをさし目尻の涙を親指で払い指をさした。

流奈『ユウキ、起きてるのでしょう…立ちなさい…。』

流奈の一言でようやく起き上がったユウキは、パレットの破片を払うと流奈はゆっくりと近づいて行く、しかしながら今のユウキにどう接して良いのかが分からない…。
黙ったまま近づいて行くだけで心臓の鼓動が高鳴るのが分かる…。
気味の悪い鼓動を殺しながら近づいて行く、ユウキは反撃をする様子は見られないが次になにがおこるか分からない…。
昔のユウキなら分かりやすいが今のユウキは全く分からないことが流奈には怖かった…。

ユウキとの距離は近づいてもう無い状態だ…。

すると…いきなり…。

流奈はユウキをギュッと抱きしめた。

痛いくらいにギュッと抱きしめた。

昔に奈都にされた感覚を頼りに流奈はユウキを抱きしめそっと優しい声をかける。

流奈『あなたは…あなたには…ちゃんと帰る場所が有るのですから…戻って来て良いのですわ…。』

ユウキは、忘れない、忘れもしない優しい声に呆然とする…不思議と肩に力が入らず…心の奥底から温かい気持ちがこみ上げてくる、優しい流奈のぬくもりを感じるとユウキにも涙があふれて来る。

ユウキ『許して…ほしい…許して欲しかった…だから…だからごめんなさい…ごめんなさい…。』

ようやく口にしたユウキの言葉は、謝罪だった…。

いろいろな意味を持った深い謝罪だった…。
母のようで姉のような存在に抱かれて自分の人間らしさに立ち返るとユウキは、涙を流した…。流奈『帰って来なさい…ユウキ…まだ間に合いますわ…。』

流奈は、そう声をかけると、ユウキはうんと頷くだけで静かに嗚咽をする…。
ユウキは確かに過去の戦争で心は強くなったがそれでもどこかナイーヴな面があり涙もろい一面を見せてしまった。
しばらくは流奈にしがみついて泣いていたユウキだが、途端に静かになる…。

流奈『ユウキ?』

流奈はユウキの顔を覗こうとかがんだ瞬間だった…。
ユウキに肩をグイッと強く押されて後ずさりをするとユウキは、頭を抱えてもがき苦しみだした…。

ユウキ『がぁぁあっ!!頭がっ頭がぁぁっ!わっ…割れ…るっ!』

激痛にうち回るように頭を抱えるユウキはまるでスイッチが入ったように乱れ狂い転げ回っている所にすかさず流奈が先ほど抱きしめた以上の力でユウキを押さえ込む…。

流奈『烈月!ぼさっとするなっ!担架だ!担架を用意しろっ!』

流奈の怒声に慌てて烈月は担架を持ってくると暴れるユウキをがっしりとつかんで担架に乗せ自分のメディカルポーチから痛み止めを兼ねる鎮静剤の入った注射器を取り出して無理やりにユウキの首筋に突き刺し、その透明な薬剤を流し込んだ。

効果は、すぐに現れるとユウキはおとなしくなり目が虚ろとしている。

烈月『ユウキ、てめぇがオレを助けた借りを返す、今度はオレが助けっからな!』

ユウキの虚ろとしている眼差しに答えるかのように烈月は声量を強くしユウキの肩を握ったあと深い眠りについたユウキを見て、流奈に運ぶように指示をする…。
担架に乗せたユウキは、流奈と奈都に付き添いを受けてエスアリアの医務室に運び込まれるのだった…。

エボルブプラン 5 END

エボルヴプラン 4 in女神はほほ笑む

三日間の眠りから覚めたランが真っ先に見た物は無機質な病院の天井だった…。

もちろん、何が有ってここに居るのかも全く分からない状態なので薄れた三日前の記憶を懸命にさかのぼると薄れた断片を脳裏に思い出した直後、何者かに切られてバックリ空いた腹の傷が痛み出した…。

そうだ…三日前に巴が軍部高官と陸軍記念館での会合をするために記念館の周囲で警戒に当たっていた所、何者かに鋭利な刃物でバッサリと腹を切られた…。
切られたあと、視界はぼやけ白黒の世界に変わり、しびれた感覚と強烈な寒気、眠気に襲われ、朦朧とする中、ねっとりする赤黒い液体が手にべったりとついたためその液体が吹き出る、出どころを理解すると、ふらふらとしてつれそうな足取りで数歩ほど、歩き手近にあった何かに背中を預けて腰をかけた所までは鮮明に思い出した…。

その後が良く分からない…応急措置をした所も思い出せず腰をかけた所でぷっつりと記憶のレコードが止まった状態だった…。

それでもランは、記憶の奥底を必死に思い出そうとして頭の中をぐるぐるとフル回転させたが途中で疲れたので思い出すのを止めた。
誰かが助けてここに運んだと勝手に結論づけて自分一人で納得するとランは再び勝手に助けたその誰かに感謝した…。

『ラン公、入んぞ…。』

ちょうど誰かのためににやにやしていた所で不躾な邪魔が入ったため隠しきれないにやにや顔を毛布で隠すと声の主に目を配る…。
見知らぬコート姿の巨人がのしのしと自分の病室入って来ると近くでドカッと椅子に座って足を組んだ。

ラン『誰!?変態!?変人ッ!?』


烈月『おいおい!助けた恩人を変態呼ばわりか!冗談キツいぜ!』

ラン『助けた?あたしを?』

ランは恩人の姿を目の前で見て驚いた顔を見せると烈月はため息をついた…。
その顔を見たランはすぐに謝罪して否を詫びると再びニコニコとした烈月の知る表情を見せると烈月は、ランが何故病院に居るかを補足がてらにかいつまんで話すと烈月はあえて斬り伏せた人物の正体を伏せたまま話を続けた…。
ひと通りを話終えると、烈月は口が渇いたため部屋をでる。

これからの事をまた考えねばならない、病院側は何時までもランを病室に置きたがらない、かつ軍人を良く思って居ない連中の大多数がこの病院に巣くっていることも烈月は、すれ違う看護士達の目線や態度から伺えた、どうやら時間が過ぎて、ラン自身が軍人である事がすでに出回って居るようだ烈月は胸くそ悪い気持ちになった…そんな連中の中に入る何てことは虫ずが走るくらいだ…願わくばこちらからさっさと撤退することも考えていた…。
水を買う売店の人間も、すれ違う看護士や医師も、はたまた、ここに通院する患者にも嫌気がさす、昔の自分だったら…とうに血祭りに上げて病院を血の海に変える事さえしてしまいかねないそこまで考えて自分ですらゾッとしながらランの病室にゆっくりと戻って行った…。

いつからだろうか…意識せずともランの脳裏に見えの無い少年の顔が焼き付いて離れない…窓際の空を眺めても烈月が良く晴た日だとは言っていたが空は紺碧の中ではなく夕暮れ時の朱に見えてその少年が泣いているのが視界にノイズのように映し出されだんだん強くなり砂嵐のようなザラザラした音が聞こえてくると、その中に少年の一言がかすかに聞こえてくる「助けて…」と弱々しい声で救いを求めて来る、ランはその救いの声に戸惑いと合わせて頭痛が激しくなる加えて自分が何者なのかすら分からなくなる…。

これが病院に入る前から続いていた…。

しかしながら、今回の現象は体が弱って居るせいか一段と酷く激しい頭痛がランを襲いかかった…それがランを混乱とパニックに陥れた…。

頭を抱えて自問自答を繰り返す…。
「私は誰!?私はラン???…RA兵器、三番機、月産社試作機!?冬寺ラン!?それは誰!?」

「私は少年!?頭に映る?!?少年…???…でも彼は…助けを求めて!?!?なら私は誰!?私は冬寺ラン!?月産社試作機、RAナンバー03?そうだ…私はラン…月産社試作RA…」
それを繰り返すうちに烈月が部屋に入って来ると持っていたペットボトルを落としランの細い両肩をつかみ声を強くし問いかける。

烈月『ラン!!しっかりしろ!!オイ!!』

ラン『私はラン??なの…。』

酷く混乱し視界の半分が真っ黒になり先ほど覚えた烈月の顔すら夕日の光と真っ黒な世界の影に遮られ忘れてしまう…。
しかし、烈月が言った【ラン】と言う名前に自分が兵器である事に確信を覚えると烈月の腕を振りほどいてベッドから降りて腕に伝う管を引き抜き烈月を体の奥底からこみ上げる力をいっぱいにして突き放すと…冷たい言葉を烈月に放つ。

ラン『ねえ…いつもいる少年は誰?』

烈月『あ!?少年?【ユウキ】か!?』

ラン『そう【ユウキ】なのね…』

そう言うと病室を抜け出そうとする、烈月はそれに引かずランをベッドに押し戻そうとするとさらにランは混乱を極め良く分からない事を言い出した。

ラン『私は!少年を…ッユウキを助けに行かないといけないのッ!離して!』

烈月『バカッ、てめぇ、動くんじゃねえよ!』

ラン『離して!どいて!どっかいって!』

しばらくもみ合っても堂々巡りになる騒ぎはできるだけここで収めたいと烈月は押し込む!
しかし、華奢な少女とは似つかわない凄まじい力で巨体の烈月を押し込もうとする!
たまりかねた烈月は、真実を口にするとランは少し静かになる。

烈月『ユウキは、オレが殺した!オレが見殺しにして、もういないんだ!死んだんだ!』

怒声混じりに烈月が放った言葉はランをスイッチが切れたように静かになり落ち着いたと烈月はそう思い安堵したがそれは一時的な物で事態は急転、烈月の言葉は火にあぶらを注いだ結果となりランは一層、錯乱し半ば狂乱を極め狂態の体をなした…。

ラン『ウソ…ウソウソウソ嘘!ッ!嘘だッ!少年は、まだ助けを呼んでいるの!私が助けに行かなきゃいけないの!!あんたは、どけッ!』

目に涙滴を流しながら殺意の眼差しが向けられ視線は烈月にグサリと刺さり体が動かない、同時に轟音が病室、いや病院全体を揺らすと烈月は、声を出せなくなった…。

窓の下からゆっくりと上昇するRAナンバー03の顔が姿を現しそれでも上昇を続け胸部装甲が窓の空を隠すと、窓は外からの圧力に耐えきれなくなりたわんではじける…。

けたたましい破砕音が耳をつんざくと同時にブースターの熱風と轟音が部屋に入り込みランが何を口にしているか分からない状態になる、烈月はランが何言っているのかを唇の動きで読み取ると驚いた。

「タスケニイカナイト…。」

確かに彼女はそう言っているのが烈月は唇で読み取るとばたついたカーテンを手につかみ窓から飛び出して機体に吸い込まれるランを捕まえようとしたが入り込んでくる熱風と強烈な風圧で出遅れた…。
吸い込まれたランは、機体と一体化したようで、高い瞬発力でその病院をあっさりはなれ烈月の視界には豆粒ほどの大きさにしか機体を見ることが出来なかった…。

烈月『糞がッ!!』

悔しい顔を見せベッドの端を蹴ると圧力で歪んだ病室のドアを蹴破って屋上を目指した。
屋上に走っている間に偶然スイッチを切り忘れた携帯電話で巴に連絡をすると何事もなさそうに巴が電話に出る。

烈月『ランがトチ狂って病院をぶっ飛んで逃げ出した!追跡出来るか!?』

烈月の険しい言葉に最初は黙っていた巴は、深いため息をついたあとに言葉を切り出した。
巴『悪いけど今はそれができる状況じゃない五分は欲しいねぇ。』
巴は、それでも五分は欲しいと言っていることは期待はして良い事を烈月は理解していた、とりあえずはと了承すると電話を切ると屋上のドアを蹴破って、屋上にたどり着いた烈月は、屋上に自分の機体を呼んで居た無骨な体は空力に任せた翼を幾重にも持ちその一部が斬馬刀に変化する赤紫の機体が光に反射して光を纏っていた…。

烈月『追うしかないのは…百も承知なんだよ…。』

体を機体に溶け込ませて一体化すると自分の体のように動かす用意をする…RAの特徴でもある機体が自分の体のように動き従来のAG以上の挙動を可能にさせるのがそれである…。

烈月『各神経節コネクト…ブースター異常なし、カメラリンクスタート、痛覚コネクト率25%…よし…追いかけるぞ!』

烈月は、飛び立つとランの飛び去った方向へ進んでランを追いかけた…。

しかしながら、月産社の加速の強いあの機体とは大分差が開いている、烈月がいくら追いかけた所でスピードに差が有るのは十分理解していたようで機体を変形させ巡航モードに切り替えてスピードを上げ追い上げようとした。

機体はみるみるうちに変形し一つの戦闘機に変わると先ほどと打って変わり爆発的なスピードでランをぐんぐん追い上げる…。

先ほどは見えなかったランの機影が豆粒ほどに見え時折、反射によってキラッと光るのが分かる、見えている距離にまで近づけたようだ、しかしながらまだ距離は離れている…いかに加速で勝る月産社の機体と言えど変形した烈月には及ばないのはわかって居た事だ…。

高速で追う烈月と追われるランは激しいカーチェイスの様相を呈し始めると先手を打ったのはランだった…。

ラン『ついて来るなぁっ!』

機体を反転させ、追う烈月に向かって腰から取り出したリボルバーで数発撃ち込んでくる…烈月は、機体を左に滑らせ射線をずらすと突き進み再び瞬時に機体を変形させる…。
それでもランは拳銃を撃つのを止めない…烈月は、多少の被弾は覚悟でランを地面に押し出そうとした左肩の装甲が弾丸を弾き衝突した音が気味の悪い音を立てる、顔のガードが衝撃でひしゃげその衝撃で頭ごと反対方向に弾かれそうになりながらも突き進みついにはランを地面に押し倒した…。

烈月『テメエ!何をしやがる!』
ラン『うるさい!来るな!』

起き上がりに烈月を蹴り飛ばしランは拳銃の空薬莢を捨て新しい弾丸をセットしなおし再び、悪意のこもった凶悪な38口径の銃口を突きつけ真っ直ぐに烈月に放つ、体を少し屈ませて今度は右前に滑りこむとビルの壁に弾丸が当たり、壁が異音を発てて砕け散る…烈月は、盾にしたそのビルから一呼吸置いて飛び出ると左右にランの射線を合わさないように体を振りつつ放たれる弾丸に当たらないように近づいてランの右横につき様に蹴りを浴びせる…。

金属の歪んだ音が街の一帯に響き足元は逃げ回る人や、車でいっぱいの中で戦闘を始める…。
拳と拳、足と足で互いを痛めつける…。
しかしながら、身内同士で殴り合いは足元の一般人の犠牲者がいずれは出る、それをよろしく思わない烈月は巴に通信をかける。

烈月『ここじゃマズい、死人が出る!巴ッ!』

巴『わかっている!あんたからみて右方向先、数キロの所に川がある、そこなら行けるわ!』

烈月『川がね…了解!』

烈月は考えた、いかにして暴走するランをその川に誘い出せるか…いきなり離れたとして目的無き目的に突き進むランはどうするか…答えは幾通りとあり烈月は、その中から、ダメージの軽い攻撃を繰り出し川の方向にちょっと移動するを繰り返す方法を選ぶ。

烈月は、近づいてジャブを二、三ランの顔面に打ち込んで川のある方向へ飛び退くとランの怒りが機械兵器越しでも良く伝わってくる…間違いなく、今の状態で一発でもランの攻撃を受ければいくら最新鋭のエアチタニウム合金装甲を纏ったRAでも小破ではすまない。
烈月は、内心冷や汗をかきながら、ランの攻撃をかわしていく、右に回り込んで蹴りを加えてまた下がる…左に回り込んで肘を当て、蹴り上げる足をすれすれでかわして後ろに飛び退くとようやく足に水の感覚が伝わってくる…。
烈月『よし…もう少し…。』

烈月は、順調に行きすぎて油断をしていた…まさに知っているはずの自分が犯した過ちだった…不意に気を緩めた瞬間、ランから距離があるのに何か堅い物が当たる衝撃が胴を伝わり凄まじい力で吹き飛ばされた…。

ラン『殺されたいの!?いや…殺してユウキを助けに行かないと…。』

ランの殺気は次第に大きくなり、存在が非常に巨大に烈月は見えた…。
烈月『マジでか…ラオーかよ!?』
コミックのキャラクターを彷彿させる覇気?に烈月は驚きながらも体勢を整えて再び戦闘体勢を作る…。
幾分も大きく見えるランの気迫に押されつつも烈月は負けじと気迫を十分に拳へ込めるとランに詰め寄り二、三放つ。

屈んだランは、烈月の空振りを誘いすかさずアッパーカットが烈月の顎を捉え、烈月は踏ん張りが利かずそのまま倒れ込み、川の水が雨のように降り注ぐ。
烈月『…ぐあッ!』

機体の装甲が濡れる感覚が自分の体のように感じると半身が川にどっぷりと浸かる…ランはそれでも構わず今度は、自分の固有武器であるトンファーを展開し打撃を加える…。

ミシミシッ!

装甲がいくら頑丈とは言っても同程度の武器で振り下ろされたらダメージはとてつもない…。
左胸部装甲が潰れて排熱効率がガクンと下がる!

烈月『ラン!テメエ!思い出せよ!あの時のことをッ!』

烈月は懸命にランに語り掛けるが自分を忘れたランは、そのまま凶悪なトンファーを再度、叩きつける…!

グシャリ…ッ!

叩きつけられた装甲はそのままぺしゃんこになり内部に浸水が確認される…。

巴『烈月、急いでもう直ぐそこに国防軍、3個中隊分の機甲部隊が接近してッ!』

烈月『ぐ…ぅ…うるせー!こっちはそれ所じゃねぇ!』

烈月は半分痛みをこらえながらも怒声混じりに巴に応答するがかなりの痛みだ…人間なら言葉も出ない。

さらにランは、そのままもう一撃、烈月にトンファーを振り下ろし、ついには、烈月の左胸部装甲をぐしゃぐしゃにすると装甲は剥がれ落ち内部フレームがさらけ出す…。
人間だったらとうに死んでいる位にぐしゃぐしゃになった装甲とフレームを見せる烈月は、悲鳴を上げ悶えつつも左手をランにかざす。

烈月『…ッ…お…思い、出せ……あの時…一緒に…居た…だろ…ラン…。』

絶え絶えになりながら語り掛ける烈月の思惑とはうらはにランは無情にももう一度、烈月にトンファーを振り下ろす…今度、受けたら…フレームは脆いだけにジェネレーターにまでダメージが及ぶ、紛れもなく烈月は死を向かえるだろう。

烈月は、自分の死を覚悟した瞬間だった…。
無情にも振り下ろされたトンファーは、ひしゃげた胸部にすんでの所でピタリととまる…。

烈月『ら…ラ…ン…?』

ピタリと止まるランに烈月は恐る恐る、様子をうかがうとランはか細い声で何かをつぶやいて居る。烈月は、ゆっくりと立ち上がりボロボロの体をランに預けて彼女のか細い声に耳を傾ける。

ラン『ごめんなさい…ごめんなさい、烈月…あたしは…あたしは…。』

悔いるように弱々しくランがしきりに烈月に謝るとそれが耳にしっかりと聞こえてくる…あたかも今までの自分に気が付いたような言い方をしている…。
その姿に烈月は、笑みがこぼれる…。
烈月『へ…へへ…何…どうって…事ねえって…ユウキやテメエには、悪い事したって思っちゃいるしよ…これはその…罰だと…思えば…。』

烈月は、痛む左胸を庇いながらランの肩を借りて起き上がると先ほど、巴が話していた事を口にする…。

烈月『ラ…ン、もう…直ぐ…国防軍の…機甲大隊が来る…早めに…退避しねぇと…戦車砲…食らっちまう…。』

ラン『機甲大隊が!?うわ〜あたし達、相当やらかしたね…んじゃ、ここから退散しますか!!』

いつも通りの明るい声で振る舞うランの様子をうかがうと烈月は安堵した…。
もちろん、ランは半べそになっているみたいで所々、鼻が詰まったような声を出す…。

ラン『さて、退散!退散っと!烈月!行こう』

烈月の腕を掴んでランは一気に川を下ると舞い上がる水しぶきを見て昔を思う…。
ビルとビルの合間を駆け抜けて舞い上がったガラスがきらめいた幻想的な世界でユウキを助け出した事…それが懐かしく思え初めてユウキと出会った事を口にする…。

ラン『昔さ、あたしが、こんな風に敵に向かって行ってさ、泣きまくるユウキを助け出したんだよ!』

烈月『おぉ…それで?。』

ラン『あの時のユウキってば、本当に臆病でさ…年上のあたしか、巴の後ろに隠れるようにしてたんだよ…。』

烈月『おい…あいつぁ…立派な軍人…だろ。』
ランは、大分落ち着いたのか笑いながら烈月を励ますように言葉を返し…烈月の言葉を否定した。

ラン『ユウキは、戦争孤児だよ…出会ったのも、16歳…位でなりたてのね…。』

烈月『孤児…か…良くも悪くもいっぱしの軍人の目をしやがって…。』

烈月『頼れる奴が、テメエか糞アマの巴だったってこったろ…。』

烈月とランは、昔話をしながら海に出ると進路を一路を巡洋艦エスアリアに向けて方向を変えると二人は、笑みを浮かべるようにその場を後にしていった…。

しかしながら、烈月は、まだ一抹の不安を未だに抱えながら…ランの昔話につき合うのだった…。

エボルヴプラン4 END

エボルブプラン3 in 女神はほほ笑む

陸軍記念館の一件から翌日…。
朝早くから、烈月の携帯電話が唸りを上げけたたましい音で彼女を起こした。

もちろん、朝に弱い烈月にとって時間帯的に起床が不可能に近いのに携帯電話が安眠を妨げた訳だから不機嫌な状態で電話に出た…。

烈月『あ゛ぁ…神崎だ…誰だ?』

着信画面を見ずに不機嫌そうに出たために電話越しの主は少し引いていた…。
声色からまず…一般人だってのが伺えた…。

『あ、あの…先日お知り合いの方が運んで来た冬寺ランさんのご友人の神崎様のお電話ですね?トーキョーシティ総合病院の真下と申します。』

烈月『あ?あぁ…神崎ですが…何のようで?ランの容態が悪くなったのか?』

とりあえず話しの様子をうかがうと看護士のようだ、話しの内容はランの容態の経緯を担当医が直接話したいとの旨の説明を真下看護士は語っていた…。

先日の切り傷は非常に深々と斬られてそれを応急手当てを荒削りでしていた訳だがランの回復の見込みは難しいと烈月は、思っていた…。

とりあえず、主治医の説明を聞きに近く病院に向かうと話しをし真下看護士との電話は一旦きることにした…。
しばらくして如月が部屋に入って来ると椅子にちょこんと座り紅茶をたしなむと烈月が真下看護士と話をしていた事を聞く。

如月『艦長、どなたとお電話をされてたのてす?』

烈月『あぁ…あんたがランを連れて行った先の病院の看護士だ…。』

如月『それで、なんておっしゃってました?』

烈月『患者(ラン)の容態と今後の経緯を説明すっから来いだとよ…。』

如月『なるほど…なら巴さんにこの件、連絡しておきますね。』

如月は話の筋を理解するとすぐに巴に電話をかけに席を外した…。
その間に、ムクリと上体を起こして辺りを見回すと如月の淹れた紅茶に手を伸ばした…。

ほんのり甘く、温かい紅茶を口に運ぶと次第に烈月の寝ぼけ眼がカフェインのせいかしゃっきりし始めた…ついでに同じテーブルに置いてあった食パンを口に運び、再度、紅茶で口を潤してモゴモゴと口を動かした…。

朝に弱い烈月は、軽く食パンを一斤食べた後、携帯電話を取り、トーキョーシティ総合病院の場所を確認すると住処からさほど遠くない位置に病院はあるようだが少なくとも到着までは10分ほど走らせた距離にあるのも携帯電話の簡略地図に書いてあって烈月は道のりの筋道を考える…。

烈月『やれやれ…どのみちランもあんな感じだし、見舞いにいくにゃ丁度いいか…。』

烈月は携帯電話をポケットにしまい込んで起き上がると丁度、如月が電話を終えて戻って来る…。

烈月『行くぞ、如月…ランへ見舞いにな…。』

如月『えっ!?もうですか!?まだ紅茶も飲み終わって無いのに!』

烈月『それなら…もうオレが飲んだ!ホラさっさと支度しろ!』
如月『うぅ…せっかくのフォートネムマイソンが…ロイヤルブレンドが〜…。』


如月はせっかくの高級な紅茶を烈月に飲み干されて涙目になる、それもそうだ…毎日、朝に欠かさず飲んでいて丁度、今日は最後の一杯だったのだ…一缶200gの茶葉はなんと4000円もする高級なお茶だ…それを味の分からない粗暴な烈月にあっさり飲まれたのはひどく落胆し涙目になる訳である。
そんな如月はぐずった顔のまま烈月が駆るバイクの後ろに乗ると烈月の背中をドンッと強く叩いた。

如月『艦長、さっさと出してください行くんでしょ?』

烈月『お…おう…。』

ぎこちない返事を烈月は、するとアクセルを握りバイクを発進させると住処を後にした…。

バイクを走らしている間も普段は、何がしかしゃべる如月は、黙ったままだ…どうやら、烈月に飲まれた紅茶の事をまだ根に持っているようだったし、先ほど烈月の背中を叩いた時にもその手に殺意がこもっていたのを烈月が感じないはずがなかった…非常に気まずい空気が二人の間を取り巻いて離さない…。

烈月『き…如月…?』

沈黙に耐えかねた烈月は、如月に声をかけると如月は、怪訝そうに返事を返すがその言葉の端には殺意がまだこもっており今にも背中から刺されそうだ、烈月は様子を伺いながら言葉をかけた…。

烈月『さっきはすまねえ事をした、後で買ってやるから勘弁してくれ…。』

如月『そうですか…なら…。』

と如月が言いかけた所で病院に着いた。

烈月『何だったかあの紅茶、【フォートレム…なんとか】だっけ?』

間違ったデタラメな銘柄を聞いた如月は途端に笑い出して腹を抑えていた…しばらく笑い転げていた如月は、すぐにキリッと何時もの顔に戻ると烈月の肩を叩いて下車する。

如月『【フォートネムマイソン・ロイヤルブレンド】です艦長、長年付き合ってますがバカですか…やっぱりバカですよね…お詫びにフォートネムマイソンクイーンマリアで勘弁しますよ…。』

フォートネムマイソンのクイーンマリアはロイヤルブレンドより高い…後でこっそり流奈にでも聞こうと策を練った。

病院に入って二人は入り口で携帯電話の電源を切るとランの病室に向かった…。

病室に着くなりに烈月は、ドアを開け『オイ、入るぞ?』

とぶっきらぼうな感じで烈月が入室すると巴は点滴の様子を見ていた…清楚な看護士の別人にダブって見えた…。
入って来た烈月達に気が付くとそのダブった姿はフッと消え…何時もの姿に見えた。

巴『うん?あぁ、来たね…。』

烈月 『おぅ…来てやったぞ…で?状態は?』

烈月は巴に話を聞こうとしたが巴は、両肩を上下させて首を横に振った…どうやら、主治医は着ていないようで容態の仔細な事は分からないと言った具合だ、烈月はため息をついて腕を組み壁に背中を預けるとじっとランを見る…。

烈月『オレと如月が助けて無けりゃどうなってたんだ?』

如月『失血して再起不能、KIA(死亡)でしょうね…。』

巴『確かに、そうね…いくらあたし等が兵器のAIとは言え、傷付いて人間で言う死ぬくらいのダメージを受けりゃ…プログラム処理もできずに再起不能になるからねぇ…。』
烈月『じゃあ…ランは助かる時間が早くって良かったっつう事か…。』

烈月は、ランを指して言うと如月と巴は頷いていると烈月は納得した…AIでも死ぬ(壊れる)かも知れないと、そう考えると自然と失った右目が脈打って疼き出し、途端に冷や汗をかいた。

烈月も過去にそこまでのダメージを知らず知らずに受けていたことをようやく自分で自覚したようだ…人間でさえ眼球を抉られれば死にもすると、そう考えると右目がどうしても疼いてしょうがなかったがこの事を、今居る二人に言ってもどうなる事もないので我慢してその痛みを押し殺した。

しばらくは、沈黙が続く…ランの心拍数を刻む音と時計の音が互いに同じテンポと同じタイミングで刻む音だけが病室の中お大きく聞こえると烈月の右目もそれに合わせて疼いている。

傷が痛む、過去にRAとしての戦果は巴や流奈などと比べれば撃墜スコアや殺害スコアなどのスコアは非常に優秀な物、しかし数値で見ればの場合だ、そのスコアの大半が味方の被害スコアに直結していた…軍部は彼女を投入すると戦局は一変するが犠牲対比があまりに大きく、兵器としての重大な欠陥を示唆し始めた…。もちろん、彼女には、欠陥などは全く無いが、彼女自身に植え付けられた理念とも行動原理とも取れる視界にある物は全て破壊し、なぎ倒し、踏み倒す
【destroy・them・all!】
軍部が求めた力のありようを体現しそれを忠実に実行し、突き進んで来た姿に軍部はいずれは来るであろう反逆を恐れ欠陥品は処分すべしと烈月を抹殺、破壊を実行し信頼していた軍から裏切られ、烈月は、右目を失い、表世界から姿を消した…。
その時の傷が、人間なら致死の傷である事に気が付くとさらに痛みを増した…。

だが、右目が痛むと言った所で巴に何かできる事もない…もちろん如月に求めた所で得るものの無い…そう考えると烈月ずっと沈黙が続く病室で黙って居るだけだった…。

結局、主治医が来るまで大分待たされて痛みと闘う烈月は、そろそろ苛立ちを隠せなくなってくる…長いこと待たされるのを烈月は最も嫌う…ランの眠っているベッド近く腰をかけて…しきりに眼帯をなおす癖をしていたのを如月は見て苛立っているのをかんじた、…。

ようやく、主治医が病室に入って来ると、巴が何やら手帳を見せると主治医は深くため息をついて、表情を曇らせた。

主治医『軍人が来るところじゃ無いんですがね…早めにベッドを開けて欲しいものですな…。』

開口一番に嫌がらせの一言を主治医が口走ると烈月の苛立ちが一気にこみ上げてくる…如月はそれに気が付いたのか烈月の前に出て制止しようとする体勢に入る。

しかしながら、医師が言う事も正しいのだからと烈月自身は理解し理性で残虐性を押しとどめつつも苛立ちながら口を開いた。

烈月『あんたが言うのも納得はする…だから面倒くせえことは無しだ…はっきり言ってもらおう…どうなんだ?』

主治医『容態安定した…数ヶ月もすれば治るだろうさ…最も意識が回復した直後に、ベッドは空けさせてもらうがね…。』

怪訝そうな顔で烈月の単刀直入な質問に的確に話す医師、流石はプロだ…。
医師が言うのもそうだが慢性的にベッドの数が足りずましてや医師不足が常に起こっている一般病院に、軍人が来るのはお門違いだと強く思う医師は多くいる、この医師もその一人である。
烈月は、はっきり言ってこの医師を心底嫌った…。
おそらくは医師も同じく巴達を嫌っている。

巴は、場の空気が悪いと思い手を叩くとにこやかに話し出した
巴『緊急だった物で申し訳ない…最寄りの病室を指示したのは私だ…彼女が意識を戻したらすぐにここを出るとするから…それまでは特別に許して欲しい。』巴が謝りなんとかこの場をしのぐと主治医は部屋を後にした…。

巴『烈月、もう少し、やんわり言ったらどうだい?』

烈月『うるせえ…あんなに言ったこっちだってそうなるだろうが…クソッタレ。』

烈月の言ってる事も最もだ、しかしながら納得はする所でもあった…一触即発の場をなだめた巴は深いため息を付くと部屋を後にした…。


それから、しばらくして…三日の日にちがたつとランが意識を取り戻したのだった…。

エボルヴプラン3 END
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