烈月は、一抹の不安を未だに抱えている…しかしながら、ここ最近の行動に肩肘が張りっぱなしにしてたことで疲労が溜まりに溜まって、挙げ句にはランの暴走を止めることが追い討ちとなり心身共にとても疲れていた…。
願わくば、楽をして不安を振り払いたいほどだった…。
ランに手を引かれエスアリアに着艦すると機械による機体の緊急メンテナンスが始まり、機体から半ば逃げ出すように抜け出すとランに案内されるがままに部屋を割り当てられ…そのままベッドにうつぶせになるとまどろみが急に押し寄せてきたかと思った途端、ぷつりと意識が途切れた…。
寝返りをうって、あまりにも背中が寝苦しいと思い、違和感のあるその背中に腕を回すとひんやりとした鉄の感触が手に伝わりハッとする…。
大きな斬馬刀を背負ったままベッドの上で泥のように寝ていたことに今更気づく…。
烈月『あ〜やっちまった…寝苦しい訳だ。』
一人でぼやくとムクリと巨体を起こし斬馬刀を外し壁に掛けて部屋中を例によってゾンビのようにうろうろしてみる…。
殺伐とした部屋は何も無くテレビらしいモニターと怪しげな小さなドアと壁側に大きなドアがくっついている、烈月は、迷わずしゃがんで小さなドアをパカッと開く…。
ひんやりとした空気が頬をなでると直ぐに理解する…【ただの冷蔵庫だ…。】
中を調べると、ミネラルウォーターが二、三本入ってるのでそこから一本、失敬して封を開けて口に液体を流しこむ…。
烈月『ただの水…だな…。』
少しばかり味に期待したが、ただの水は、やはりただの水…しかし、その水で体の渇きを十分に潤したあとボトルを片手に持ちながらおもむろに立ち上がり大きなドアに近づくとそこは、廊下で…部屋から顔だけのぞかせてあたりを伺うが特に人気も無く、静まり返っている…。
外から見れば全長200メートル級の重巡洋艦と大差ないのに人、一人居ないのは不思議だ…。
烈月は、廊下をぶらぶらと歩いて人にすれ違わないかを期待しながら艦内を歩く…。
大分歩いたが現在地が分からなくなる軍艦アルアルによっていよいよさまよいだした烈月は、分かりやすい場所を目標にガイド標識に頼った…。
烈月『あ〜こりゃ完全に迷っちまったな…ガイド、ガイド、ガ…イド。』
辺りを見回してガイドを探すと目に入ったのは床に描かれた白く光る矢印だ…烈月は何の気なしにそれに従った歩く…。
また、ゾンビのようにうろうろとさ迷うように歩く…。
ようやく…廊下の突き当たりに出たので再び標識を見る…。
【←左舷居住区及び中央廊下:昇降EV:右舷居住区及び食堂→】
標識を見て烈月は、真っ先に向かいたかった所へ迷わず向かう…左舷だ…。
それも居住区ではなく、このエスアリアと言う重巡洋艦のブレーンである艦橋だそこで全てが分かる、さらに烈月は、自前の軍艦を持っていた頃の経験から、日本軍のエレベーターは、決まって中心、つまりは艦橋につながっている事も理解していた…。
気分を取り直してずんずんと進む…。
しばらくずんずん進むと、右手にエレベーターを見つけてボタンを押す…。
人気の無さは、不気味過ぎだ…エレベーターを待つ間、誰一人とすれ違わない…烈月は、今までの自分の軍艦とは違う艦内ながら懐かしささえ感じた…。
艦橋に着くと複数の座席に艦長の席が真ん中に鎮座し、いかにも軍艦である様相を呈す…。
人を探すように辺りを歩きまわると、突然だった…。
『烈月、目が覚めた…?』
声がする方向に、顔を向けると、座席にはナツが座っており、なにやら調整をしているようだ。
烈月『おぉ…寝覚めは悪かったが…この通りだ…。』
ナツは、チラッと烈月の顔を見ると再びコンソールに、目を向ける…。
電子戦のスペシャリストのナツの表情を烈月は伺おうと近寄ると…ナツは、口を開いた…。
ナツ『モニターを見た通り…今、攻撃されている…ハッキング…。』
烈月『マズいな…防衛率はどれくらいだ?』
ナツ『95…残りの5パーセントから、侵蝕しようとしてる…侵蝕されたらウイルスを注入される…そうしたらこの艦は使えなくなる…。』
ナツが言っていることは、逆に考えたら95パーセントは防衛しているが、それ以外に手がまわって居ないと言っている…烈月は、すぐにそう至ると空いてる席に座った。
烈月『こっちで攻勢に出る、保たせろ!』
ナツ『了解、任された…。』
烈月はコンソールの画面を見てプログラムの図式と侵蝕するプログラムの図式を見て、プログラムを再書き直しを瞬時に加えて侵蝕しようとする図式を追う…どこからハッキングをしているのか、逆探知を加える…烈月でさえ、電子戦お手の物だ。
烈月『発信源さえ分かりゃこっちのもんだ。』
烈月が来てからは、ハッキングの応酬はあっさり片がつく…。
烈月らしく武闘派らしいやり方をする…。
侵蝕を抑えてハッキング源を断定し、そのまま、電子では無く物理的に破壊し爆音が艦橋にまで聞こえてきた…。
そう、艦の操作盤を直ぐに理解し発信源であった近くの倉庫に数発ばかりミサイルを放り込んだ訳だ、まさかハッカーは物理的に攻撃される事は思ってもいなかっただろう、基本的には、巴の意向で電子戦は電子戦で片付けるのだが烈月は電子戦には、根源を壊す方が早いと思っているのだがナツには正直…どっちにしろ解決するならと思っていた…。
烈月『ふい〜片づいた片づいた…。』
ナツ『いつもらしい…荒っぽいけど、結果はオーライ…ありがと…。』
ナツのその言葉に烈月は、引っかかる…。
違和感がなさすぎた…。
一瞬、烈月の心の奥底に押し留めた一抹の不安が…解消されたように思える…。
烈月『ナツ…どこまで知っている?』
烈月は不安をぬぐい去ろうとたたみかけてナツに質問を口にすると、少し黙っていたナツは、鼻で笑って口を開いた…。
奈都『全部…知ってる…初めから…ね。』
全てを知ってる…そう語る奈都はユウキの死んだ日も、巴達が記憶を失った事も、烈月と如月が現れた事も、何から何までを知ってると言って風合いだ…。
烈月は、自分の不安が取り越し苦労だった事に胸をなで下ろした。
烈月『何だ…全部…知ってたのかよ…。』
奈都『ええ…全部…知ってた…でもあなたが現れたせいで計画が御破算よ。』
奈都は片手に持ったコーヒーをちびりちびりと飲みながら、御破算になった計画は、烈月が現れた時に全ておじゃんになったことを少し笑いながら話しを進めた…。
奈都『本来あなたが現れる前に実行される予定だったけど…エボルヴプランはあなたのせいで大きく変わった…。』
烈月『エボルヴプラン?なんだそりゃ?』
奈都『巴や姉さん達の記憶を戻す計画…。』
エボルヴプランを語る奈都の概要はこうだ…時間を掛けて巴達の記憶を司るプログラムにアクセスし、寸断された記憶をつなぎ合わせて元に戻す、いわゆるスマートなやり方だ、だが烈月がムチャクチャやるものだから奈都の考えたプランは、全てめちゃくちゃで、立ち消え状態になった…。
それでも、結果は、荒っぽく曲がりなりにも奈都の思い描いていた終着点にたどり着いた訳だから少々、怒りながらも奈都は烈月に感謝した…もちろん協力をしていた如月にもだ…。
結局、全員が元に戻ったことにホッとする烈月は、奈都の顔を見て少し笑いながら艦橋を後をする…。
とぼとぼと歩いて行くと、奈都が後ろに音もなくついて歩いて居たのに烈月はびっくりした。
奈都『どこに行く?』
烈月『いや…外に出て…風に当たりてぇんだ…。』
奈都『そう…この艦はアデリアと違って迷いやすいから…コッチよ。』
奈都は、烈月の前を歩き、頭を傾げて方向を示すと烈月を案内する…。
自分がどれくらい寝ていたかを聞くと奈都はたいそうな時間寝ていた事を話す…。
どうやら、自分は相当疲れていたみたいだ…意識はしていなくとも体は正直だった…。
大分…歩いて見たが、奈都がハッチに手をかけてグイッと力いっぱいに引くと、若干の気圧差か…風が入り込んで髪がざわめくと、夕日が目に入り眩しく手をかざす…。
烈月『眩しっ…夕日か…。』
烈月の口から…眩しさがこぼれると…視界には巴と流奈がなにやら話しているのが見えた…。
烈月『アイツ等なに話してんだか?』
奈都『さあ?今晩の晩ご飯じゃ無い?』
いつになく奈都は上機嫌なのか…あまり口にしない冗談めいた言葉を口にして巴達の所に歩いて行く…。
巴は、向かってくる二人に気が付くと二人に手を振って呼んで居るのが遠巻きに分かると…烈月は、少し早歩きで近寄って言った。
巴『おはようさん、烈月、ふかふかの軍用ベッドは良く眠れたかい?』
開口一番に巴はふかふかでもない固いベッドを皮肉混じりに笑いながら話すと腕を組んで堅い表情をしだす…。
烈月『あぁ…おかげさんで軍用ベッドでぐったりだ!…で?』
で…と再び不機嫌そうに話の内容を聞き出すと巴と流奈は、今後の事を議論していた、少なくとも活動の障害になるのは、やはり黒い忍者の存在…それが邪魔になって居ると言うことだった…。
烈月はやはりそうくるとわかってはいた…流奈は、障害は排除すべきだとも考えて居る、故に同門のよしみと言うのが流奈には通用しない、彼女ならば彼女単騎で圧倒的な火力や攻撃力で粉砕する、つまりは障害になる物は徹底的に跡形も無く禍根を払いたいのだ…どちらかと言えば武闘派中の武闘派の考えだ。
対して巴は、ある程度の障害なら無視ができ簡単な対症療法で処理すべきと考えて居るので、どちらかと言えば今の烈月の考えに近寄ってはいた…。
しかしながら、それは時間稼ぎにしかならない…もどかしさもつきまとう…結局は、堂々めぐりな状況にある…。
二人の議論に付き合ってはいたが、段々疲れて来た烈月は、フェンスに背中を預けて聞き続けて…。
無論、奈都も決定打は無く聞いて居るだけでノートパソコンを操作して与えられた任務を確認する始末…で云々やっているのは二人だけだった…。
しばらく、二人が云々やってはいた所で烈月の動物的勘が鋭く反応する…。
気配が大分近くにある…その気配は、殺気のようでありその方向に向かって戦闘体勢を取ると巴達もそれに合わせ戦闘体勢に移行した…。
烈月『オイ!そこに居るのはわかってんだ…出てこい!』
烈月は、その方向に向かって吠えると茂みからゆっくりと忍者が姿を現した…。
烈月『やっぱり、てめぇか…会いたかったぜ…。』
烈月は、口元が緩み歓喜した声を挙げるとその場に居る全員に手出し無用の合図を送って後ろに引かせる…。
烈月『てめぇはどこまで知っている答えな!』
烈月は忍者に向かって問いを向けるが元々期待はしていない…答えるはずが無いのは百も承知だ…。
烈月『だろうな…黙秘…何だよな。』
烈月『所詮は、ただのいぬっころだ…。』
言葉を二、三悲しみを込めて放つと忍者に向かって距離を詰めて鋭く拳を突き出すが空を切る…忍者は、距離を置くと腰に差した刀を抜き出して殺す気満々で襲い掛かってくる…。
烈月『やる気満々!良いね良いね!上等!』
歓喜を口に出した烈月は振り下ろして来る、刀身を手でいなして顎に一撃、手鎚を打ち込み忍者はふらりとすると、ソバットを堅いヘルメットに浴びせる…。
当たりの手応えを確認すると、近くにヘルメットの落ちるガラリとした音を耳にして体勢を直すと軽くステップを踏んだ。
烈月『その趣味の悪りぃメットは頂きだ…次は、その顔を隠す面頬だ…。』
余裕を十分に生かして武刃流の武術を引き出した烈月は、素手で刀に勝つ自信を見せた…。
全員が勝てると思った…。
忍者は、焦りを見せずまるでロボットのように攻撃を再び繰り出して来るも烈月は、ひらひらと蝶のように舞い、よけると顔面にキツい拳の正拳突きを放ち当たった所で面頬を引き剥がして距離を離すように忍者の腹に足刀をうずめてやった…。
烈月『ほらほら、てめぇは、武刃流の門下生より弱いんだ…軍人みたいに次の一手考えてみろや!』
投げ捨てた面頬が金属の音がするが烈月の拳は加減しなくとも丈夫だ…その、捨てた面頬がひしゃげていた…。
烈月は、忍者と格闘を交わしつつを喉元をつかんで、巴達の居る方向へ投げると受け身をとれなかった忍者は、そのままドサリと倒れ込む…。
ゆっくりと起きあがる忍者の顔を見て巴達は、驚いた。
巴『そんなっ!嘘でしょうユウキっ!?』
流奈『馬鹿なっ…死んだはずじゃ…。』
奈都『ユウキ…。』
口々に驚きを隠せ無い、数年前に死んだはずのユウキが生きてそこに居るため烈月以外は、驚いた。
烈月は、ユウキの顔を数日前に見ていた…最初は、混乱を極めた状態だったがある時期に新しい解釈に基づいて理解をし平静を保つことを覚えたので今なら全く驚く事もしない。
烈月は、ゆっくり近づいて行くとようやく起き上がったユウキの首根っこをつかみ上げ再び、ユウキを投げる、今度は、近くにあったパレットに体を叩きつけ激しい音と共に砕けたり倒れたりしユウキの姿は、その礫に埋もれ、足だけを見せてピクリとも動かなかった、烈月は、それを見て一つ、ため息をついたあとゆっくりと口を開く。
烈月『サイボーグかアンドロイドか知らねえが…そういうこった…。』
巴『烈月、知ってたのかい…ユウキだって…。』
烈月『あぁ…知ったのは数日前に交戦した時だがな…。』
烈月は、少し自慢気に話すと巴が表情を強ばらせ一歩を踏み出した瞬間、その隣に居た流奈がツカツカと烈月に近づいていく…。
【ぱしーんッ!】
流奈と烈月、二人の距離がなくなった所で突然、その乾いた音が響き流奈を除いて誰もが目を丸くした、烈月の左頬は赤く手形がついており流奈は、強ばらせた表情のまま真っ直ぐ烈月を見ていた…。
突然の事で烈月はきょとんとしているので流奈は、すかさず口を開いた。
流奈『馬鹿者!!ヤツがユウキだって言うことは前もって言え!!前もって…言って…居れば…言ってれば…。』
口ごもる流奈は、途中から先ほどまで強ばらせていた表情が崩れだししだいには流奈は嗚咽をしだした…。
しばらく…嗚咽をしていた流奈は、深く呼吸をし整えるとユウキの方へ踵を返すと涙ぐんだ顔でキッと眼差しをさし目尻の涙を親指で払い指をさした。
流奈『ユウキ、起きてるのでしょう…立ちなさい…。』
流奈の一言でようやく起き上がったユウキは、パレットの破片を払うと流奈はゆっくりと近づいて行く、しかしながら今のユウキにどう接して良いのかが分からない…。
黙ったまま近づいて行くだけで心臓の鼓動が高鳴るのが分かる…。
気味の悪い鼓動を殺しながら近づいて行く、ユウキは反撃をする様子は見られないが次になにがおこるか分からない…。
昔のユウキなら分かりやすいが今のユウキは全く分からないことが流奈には怖かった…。
ユウキとの距離は近づいてもう無い状態だ…。
すると…いきなり…。
流奈はユウキをギュッと抱きしめた。
痛いくらいにギュッと抱きしめた。
昔に奈都にされた感覚を頼りに流奈はユウキを抱きしめそっと優しい声をかける。
流奈『あなたは…あなたには…ちゃんと帰る場所が有るのですから…戻って来て良いのですわ…。』
ユウキは、忘れない、忘れもしない優しい声に呆然とする…不思議と肩に力が入らず…心の奥底から温かい気持ちがこみ上げてくる、優しい流奈のぬくもりを感じるとユウキにも涙があふれて来る。
ユウキ『許して…ほしい…許して欲しかった…だから…だからごめんなさい…ごめんなさい…。』
ようやく口にしたユウキの言葉は、謝罪だった…。
いろいろな意味を持った深い謝罪だった…。
母のようで姉のような存在に抱かれて自分の人間らしさに立ち返るとユウキは、涙を流した…。流奈『帰って来なさい…ユウキ…まだ間に合いますわ…。』
流奈は、そう声をかけると、ユウキはうんと頷くだけで静かに嗚咽をする…。
ユウキは確かに過去の戦争で心は強くなったがそれでもどこかナイーヴな面があり涙もろい一面を見せてしまった。
しばらくは流奈にしがみついて泣いていたユウキだが、途端に静かになる…。
流奈『ユウキ?』
流奈はユウキの顔を覗こうとかがんだ瞬間だった…。
ユウキに肩をグイッと強く押されて後ずさりをするとユウキは、頭を抱えてもがき苦しみだした…。
ユウキ『がぁぁあっ!!頭がっ頭がぁぁっ!わっ…割れ…るっ!』
激痛にうち回るように頭を抱えるユウキはまるでスイッチが入ったように乱れ狂い転げ回っている所にすかさず流奈が先ほど抱きしめた以上の力でユウキを押さえ込む…。
流奈『烈月!ぼさっとするなっ!担架だ!担架を用意しろっ!』
流奈の怒声に慌てて烈月は担架を持ってくると暴れるユウキをがっしりとつかんで担架に乗せ自分のメディカルポーチから痛み止めを兼ねる鎮静剤の入った注射器を取り出して無理やりにユウキの首筋に突き刺し、その透明な薬剤を流し込んだ。
効果は、すぐに現れるとユウキはおとなしくなり目が虚ろとしている。
烈月『ユウキ、てめぇがオレを助けた借りを返す、今度はオレが助けっからな!』
ユウキの虚ろとしている眼差しに答えるかのように烈月は声量を強くしユウキの肩を握ったあと深い眠りについたユウキを見て、流奈に運ぶように指示をする…。
担架に乗せたユウキは、流奈と奈都に付き添いを受けてエスアリアの医務室に運び込まれるのだった…。
エボルブプラン 5 END