三日間の眠りから覚めたランが真っ先に見た物は無機質な病院の天井だった…。

もちろん、何が有ってここに居るのかも全く分からない状態なので薄れた三日前の記憶を懸命にさかのぼると薄れた断片を脳裏に思い出した直後、何者かに切られてバックリ空いた腹の傷が痛み出した…。

そうだ…三日前に巴が軍部高官と陸軍記念館での会合をするために記念館の周囲で警戒に当たっていた所、何者かに鋭利な刃物でバッサリと腹を切られた…。
切られたあと、視界はぼやけ白黒の世界に変わり、しびれた感覚と強烈な寒気、眠気に襲われ、朦朧とする中、ねっとりする赤黒い液体が手にべったりとついたためその液体が吹き出る、出どころを理解すると、ふらふらとしてつれそうな足取りで数歩ほど、歩き手近にあった何かに背中を預けて腰をかけた所までは鮮明に思い出した…。

その後が良く分からない…応急措置をした所も思い出せず腰をかけた所でぷっつりと記憶のレコードが止まった状態だった…。

それでもランは、記憶の奥底を必死に思い出そうとして頭の中をぐるぐるとフル回転させたが途中で疲れたので思い出すのを止めた。
誰かが助けてここに運んだと勝手に結論づけて自分一人で納得するとランは再び勝手に助けたその誰かに感謝した…。

『ラン公、入んぞ…。』

ちょうど誰かのためににやにやしていた所で不躾な邪魔が入ったため隠しきれないにやにや顔を毛布で隠すと声の主に目を配る…。
見知らぬコート姿の巨人がのしのしと自分の病室入って来ると近くでドカッと椅子に座って足を組んだ。

ラン『誰!?変態!?変人ッ!?』


烈月『おいおい!助けた恩人を変態呼ばわりか!冗談キツいぜ!』

ラン『助けた?あたしを?』

ランは恩人の姿を目の前で見て驚いた顔を見せると烈月はため息をついた…。
その顔を見たランはすぐに謝罪して否を詫びると再びニコニコとした烈月の知る表情を見せると烈月は、ランが何故病院に居るかを補足がてらにかいつまんで話すと烈月はあえて斬り伏せた人物の正体を伏せたまま話を続けた…。
ひと通りを話終えると、烈月は口が渇いたため部屋をでる。

これからの事をまた考えねばならない、病院側は何時までもランを病室に置きたがらない、かつ軍人を良く思って居ない連中の大多数がこの病院に巣くっていることも烈月は、すれ違う看護士達の目線や態度から伺えた、どうやら時間が過ぎて、ラン自身が軍人である事がすでに出回って居るようだ烈月は胸くそ悪い気持ちになった…そんな連中の中に入る何てことは虫ずが走るくらいだ…願わくばこちらからさっさと撤退することも考えていた…。
水を買う売店の人間も、すれ違う看護士や医師も、はたまた、ここに通院する患者にも嫌気がさす、昔の自分だったら…とうに血祭りに上げて病院を血の海に変える事さえしてしまいかねないそこまで考えて自分ですらゾッとしながらランの病室にゆっくりと戻って行った…。

いつからだろうか…意識せずともランの脳裏に見えの無い少年の顔が焼き付いて離れない…窓際の空を眺めても烈月が良く晴た日だとは言っていたが空は紺碧の中ではなく夕暮れ時の朱に見えてその少年が泣いているのが視界にノイズのように映し出されだんだん強くなり砂嵐のようなザラザラした音が聞こえてくると、その中に少年の一言がかすかに聞こえてくる「助けて…」と弱々しい声で救いを求めて来る、ランはその救いの声に戸惑いと合わせて頭痛が激しくなる加えて自分が何者なのかすら分からなくなる…。

これが病院に入る前から続いていた…。

しかしながら、今回の現象は体が弱って居るせいか一段と酷く激しい頭痛がランを襲いかかった…それがランを混乱とパニックに陥れた…。

頭を抱えて自問自答を繰り返す…。
「私は誰!?私はラン???…RA兵器、三番機、月産社試作機!?冬寺ラン!?それは誰!?」

「私は少年!?頭に映る?!?少年…???…でも彼は…助けを求めて!?!?なら私は誰!?私は冬寺ラン!?月産社試作機、RAナンバー03?そうだ…私はラン…月産社試作RA…」
それを繰り返すうちに烈月が部屋に入って来ると持っていたペットボトルを落としランの細い両肩をつかみ声を強くし問いかける。

烈月『ラン!!しっかりしろ!!オイ!!』

ラン『私はラン??なの…。』

酷く混乱し視界の半分が真っ黒になり先ほど覚えた烈月の顔すら夕日の光と真っ黒な世界の影に遮られ忘れてしまう…。
しかし、烈月が言った【ラン】と言う名前に自分が兵器である事に確信を覚えると烈月の腕を振りほどいてベッドから降りて腕に伝う管を引き抜き烈月を体の奥底からこみ上げる力をいっぱいにして突き放すと…冷たい言葉を烈月に放つ。

ラン『ねえ…いつもいる少年は誰?』

烈月『あ!?少年?【ユウキ】か!?』

ラン『そう【ユウキ】なのね…』

そう言うと病室を抜け出そうとする、烈月はそれに引かずランをベッドに押し戻そうとするとさらにランは混乱を極め良く分からない事を言い出した。

ラン『私は!少年を…ッユウキを助けに行かないといけないのッ!離して!』

烈月『バカッ、てめぇ、動くんじゃねえよ!』

ラン『離して!どいて!どっかいって!』

しばらくもみ合っても堂々巡りになる騒ぎはできるだけここで収めたいと烈月は押し込む!
しかし、華奢な少女とは似つかわない凄まじい力で巨体の烈月を押し込もうとする!
たまりかねた烈月は、真実を口にするとランは少し静かになる。

烈月『ユウキは、オレが殺した!オレが見殺しにして、もういないんだ!死んだんだ!』

怒声混じりに烈月が放った言葉はランをスイッチが切れたように静かになり落ち着いたと烈月はそう思い安堵したがそれは一時的な物で事態は急転、烈月の言葉は火にあぶらを注いだ結果となりランは一層、錯乱し半ば狂乱を極め狂態の体をなした…。

ラン『ウソ…ウソウソウソ嘘!ッ!嘘だッ!少年は、まだ助けを呼んでいるの!私が助けに行かなきゃいけないの!!あんたは、どけッ!』

目に涙滴を流しながら殺意の眼差しが向けられ視線は烈月にグサリと刺さり体が動かない、同時に轟音が病室、いや病院全体を揺らすと烈月は、声を出せなくなった…。

窓の下からゆっくりと上昇するRAナンバー03の顔が姿を現しそれでも上昇を続け胸部装甲が窓の空を隠すと、窓は外からの圧力に耐えきれなくなりたわんではじける…。

けたたましい破砕音が耳をつんざくと同時にブースターの熱風と轟音が部屋に入り込みランが何を口にしているか分からない状態になる、烈月はランが何言っているのかを唇の動きで読み取ると驚いた。

「タスケニイカナイト…。」

確かに彼女はそう言っているのが烈月は唇で読み取るとばたついたカーテンを手につかみ窓から飛び出して機体に吸い込まれるランを捕まえようとしたが入り込んでくる熱風と強烈な風圧で出遅れた…。
吸い込まれたランは、機体と一体化したようで、高い瞬発力でその病院をあっさりはなれ烈月の視界には豆粒ほどの大きさにしか機体を見ることが出来なかった…。

烈月『糞がッ!!』

悔しい顔を見せベッドの端を蹴ると圧力で歪んだ病室のドアを蹴破って屋上を目指した。
屋上に走っている間に偶然スイッチを切り忘れた携帯電話で巴に連絡をすると何事もなさそうに巴が電話に出る。

烈月『ランがトチ狂って病院をぶっ飛んで逃げ出した!追跡出来るか!?』

烈月の険しい言葉に最初は黙っていた巴は、深いため息をついたあとに言葉を切り出した。
巴『悪いけど今はそれができる状況じゃない五分は欲しいねぇ。』
巴は、それでも五分は欲しいと言っていることは期待はして良い事を烈月は理解していた、とりあえずはと了承すると電話を切ると屋上のドアを蹴破って、屋上にたどり着いた烈月は、屋上に自分の機体を呼んで居た無骨な体は空力に任せた翼を幾重にも持ちその一部が斬馬刀に変化する赤紫の機体が光に反射して光を纏っていた…。

烈月『追うしかないのは…百も承知なんだよ…。』

体を機体に溶け込ませて一体化すると自分の体のように動かす用意をする…RAの特徴でもある機体が自分の体のように動き従来のAG以上の挙動を可能にさせるのがそれである…。

烈月『各神経節コネクト…ブースター異常なし、カメラリンクスタート、痛覚コネクト率25%…よし…追いかけるぞ!』

烈月は、飛び立つとランの飛び去った方向へ進んでランを追いかけた…。

しかしながら、月産社の加速の強いあの機体とは大分差が開いている、烈月がいくら追いかけた所でスピードに差が有るのは十分理解していたようで機体を変形させ巡航モードに切り替えてスピードを上げ追い上げようとした。

機体はみるみるうちに変形し一つの戦闘機に変わると先ほどと打って変わり爆発的なスピードでランをぐんぐん追い上げる…。

先ほどは見えなかったランの機影が豆粒ほどに見え時折、反射によってキラッと光るのが分かる、見えている距離にまで近づけたようだ、しかしながらまだ距離は離れている…いかに加速で勝る月産社の機体と言えど変形した烈月には及ばないのはわかって居た事だ…。

高速で追う烈月と追われるランは激しいカーチェイスの様相を呈し始めると先手を打ったのはランだった…。

ラン『ついて来るなぁっ!』

機体を反転させ、追う烈月に向かって腰から取り出したリボルバーで数発撃ち込んでくる…烈月は、機体を左に滑らせ射線をずらすと突き進み再び瞬時に機体を変形させる…。
それでもランは拳銃を撃つのを止めない…烈月は、多少の被弾は覚悟でランを地面に押し出そうとした左肩の装甲が弾丸を弾き衝突した音が気味の悪い音を立てる、顔のガードが衝撃でひしゃげその衝撃で頭ごと反対方向に弾かれそうになりながらも突き進みついにはランを地面に押し倒した…。

烈月『テメエ!何をしやがる!』
ラン『うるさい!来るな!』

起き上がりに烈月を蹴り飛ばしランは拳銃の空薬莢を捨て新しい弾丸をセットしなおし再び、悪意のこもった凶悪な38口径の銃口を突きつけ真っ直ぐに烈月に放つ、体を少し屈ませて今度は右前に滑りこむとビルの壁に弾丸が当たり、壁が異音を発てて砕け散る…烈月は、盾にしたそのビルから一呼吸置いて飛び出ると左右にランの射線を合わさないように体を振りつつ放たれる弾丸に当たらないように近づいてランの右横につき様に蹴りを浴びせる…。

金属の歪んだ音が街の一帯に響き足元は逃げ回る人や、車でいっぱいの中で戦闘を始める…。
拳と拳、足と足で互いを痛めつける…。
しかしながら、身内同士で殴り合いは足元の一般人の犠牲者がいずれは出る、それをよろしく思わない烈月は巴に通信をかける。

烈月『ここじゃマズい、死人が出る!巴ッ!』

巴『わかっている!あんたからみて右方向先、数キロの所に川がある、そこなら行けるわ!』

烈月『川がね…了解!』

烈月は考えた、いかにして暴走するランをその川に誘い出せるか…いきなり離れたとして目的無き目的に突き進むランはどうするか…答えは幾通りとあり烈月は、その中から、ダメージの軽い攻撃を繰り出し川の方向にちょっと移動するを繰り返す方法を選ぶ。

烈月は、近づいてジャブを二、三ランの顔面に打ち込んで川のある方向へ飛び退くとランの怒りが機械兵器越しでも良く伝わってくる…間違いなく、今の状態で一発でもランの攻撃を受ければいくら最新鋭のエアチタニウム合金装甲を纏ったRAでも小破ではすまない。
烈月は、内心冷や汗をかきながら、ランの攻撃をかわしていく、右に回り込んで蹴りを加えてまた下がる…左に回り込んで肘を当て、蹴り上げる足をすれすれでかわして後ろに飛び退くとようやく足に水の感覚が伝わってくる…。
烈月『よし…もう少し…。』

烈月は、順調に行きすぎて油断をしていた…まさに知っているはずの自分が犯した過ちだった…不意に気を緩めた瞬間、ランから距離があるのに何か堅い物が当たる衝撃が胴を伝わり凄まじい力で吹き飛ばされた…。

ラン『殺されたいの!?いや…殺してユウキを助けに行かないと…。』

ランの殺気は次第に大きくなり、存在が非常に巨大に烈月は見えた…。
烈月『マジでか…ラオーかよ!?』
コミックのキャラクターを彷彿させる覇気?に烈月は驚きながらも体勢を整えて再び戦闘体勢を作る…。
幾分も大きく見えるランの気迫に押されつつも烈月は負けじと気迫を十分に拳へ込めるとランに詰め寄り二、三放つ。

屈んだランは、烈月の空振りを誘いすかさずアッパーカットが烈月の顎を捉え、烈月は踏ん張りが利かずそのまま倒れ込み、川の水が雨のように降り注ぐ。
烈月『…ぐあッ!』

機体の装甲が濡れる感覚が自分の体のように感じると半身が川にどっぷりと浸かる…ランはそれでも構わず今度は、自分の固有武器であるトンファーを展開し打撃を加える…。

ミシミシッ!

装甲がいくら頑丈とは言っても同程度の武器で振り下ろされたらダメージはとてつもない…。
左胸部装甲が潰れて排熱効率がガクンと下がる!

烈月『ラン!テメエ!思い出せよ!あの時のことをッ!』

烈月は懸命にランに語り掛けるが自分を忘れたランは、そのまま凶悪なトンファーを再度、叩きつける…!

グシャリ…ッ!

叩きつけられた装甲はそのままぺしゃんこになり内部に浸水が確認される…。

巴『烈月、急いでもう直ぐそこに国防軍、3個中隊分の機甲部隊が接近してッ!』

烈月『ぐ…ぅ…うるせー!こっちはそれ所じゃねぇ!』

烈月は半分痛みをこらえながらも怒声混じりに巴に応答するがかなりの痛みだ…人間なら言葉も出ない。

さらにランは、そのままもう一撃、烈月にトンファーを振り下ろし、ついには、烈月の左胸部装甲をぐしゃぐしゃにすると装甲は剥がれ落ち内部フレームがさらけ出す…。
人間だったらとうに死んでいる位にぐしゃぐしゃになった装甲とフレームを見せる烈月は、悲鳴を上げ悶えつつも左手をランにかざす。

烈月『…ッ…お…思い、出せ……あの時…一緒に…居た…だろ…ラン…。』

絶え絶えになりながら語り掛ける烈月の思惑とはうらはにランは無情にももう一度、烈月にトンファーを振り下ろす…今度、受けたら…フレームは脆いだけにジェネレーターにまでダメージが及ぶ、紛れもなく烈月は死を向かえるだろう。

烈月は、自分の死を覚悟した瞬間だった…。
無情にも振り下ろされたトンファーは、ひしゃげた胸部にすんでの所でピタリととまる…。

烈月『ら…ラ…ン…?』

ピタリと止まるランに烈月は恐る恐る、様子をうかがうとランはか細い声で何かをつぶやいて居る。烈月は、ゆっくりと立ち上がりボロボロの体をランに預けて彼女のか細い声に耳を傾ける。

ラン『ごめんなさい…ごめんなさい、烈月…あたしは…あたしは…。』

悔いるように弱々しくランがしきりに烈月に謝るとそれが耳にしっかりと聞こえてくる…あたかも今までの自分に気が付いたような言い方をしている…。
その姿に烈月は、笑みがこぼれる…。
烈月『へ…へへ…何…どうって…事ねえって…ユウキやテメエには、悪い事したって思っちゃいるしよ…これはその…罰だと…思えば…。』

烈月は、痛む左胸を庇いながらランの肩を借りて起き上がると先ほど、巴が話していた事を口にする…。

烈月『ラ…ン、もう…直ぐ…国防軍の…機甲大隊が来る…早めに…退避しねぇと…戦車砲…食らっちまう…。』

ラン『機甲大隊が!?うわ〜あたし達、相当やらかしたね…んじゃ、ここから退散しますか!!』

いつも通りの明るい声で振る舞うランの様子をうかがうと烈月は安堵した…。
もちろん、ランは半べそになっているみたいで所々、鼻が詰まったような声を出す…。

ラン『さて、退散!退散っと!烈月!行こう』

烈月の腕を掴んでランは一気に川を下ると舞い上がる水しぶきを見て昔を思う…。
ビルとビルの合間を駆け抜けて舞い上がったガラスがきらめいた幻想的な世界でユウキを助け出した事…それが懐かしく思え初めてユウキと出会った事を口にする…。

ラン『昔さ、あたしが、こんな風に敵に向かって行ってさ、泣きまくるユウキを助け出したんだよ!』

烈月『おぉ…それで?。』

ラン『あの時のユウキってば、本当に臆病でさ…年上のあたしか、巴の後ろに隠れるようにしてたんだよ…。』

烈月『おい…あいつぁ…立派な軍人…だろ。』
ランは、大分落ち着いたのか笑いながら烈月を励ますように言葉を返し…烈月の言葉を否定した。

ラン『ユウキは、戦争孤児だよ…出会ったのも、16歳…位でなりたてのね…。』

烈月『孤児…か…良くも悪くもいっぱしの軍人の目をしやがって…。』

烈月『頼れる奴が、テメエか糞アマの巴だったってこったろ…。』

烈月とランは、昔話をしながら海に出ると進路を一路を巡洋艦エスアリアに向けて方向を変えると二人は、笑みを浮かべるようにその場を後にしていった…。

しかしながら、烈月は、まだ一抹の不安を未だに抱えながら…ランの昔話につき合うのだった…。

エボルヴプラン4 END