陸軍記念館の一件から翌日…。
朝早くから、烈月の携帯電話が唸りを上げけたたましい音で彼女を起こした。

もちろん、朝に弱い烈月にとって時間帯的に起床が不可能に近いのに携帯電話が安眠を妨げた訳だから不機嫌な状態で電話に出た…。

烈月『あ゛ぁ…神崎だ…誰だ?』

着信画面を見ずに不機嫌そうに出たために電話越しの主は少し引いていた…。
声色からまず…一般人だってのが伺えた…。

『あ、あの…先日お知り合いの方が運んで来た冬寺ランさんのご友人の神崎様のお電話ですね?トーキョーシティ総合病院の真下と申します。』

烈月『あ?あぁ…神崎ですが…何のようで?ランの容態が悪くなったのか?』

とりあえず話しの様子をうかがうと看護士のようだ、話しの内容はランの容態の経緯を担当医が直接話したいとの旨の説明を真下看護士は語っていた…。

先日の切り傷は非常に深々と斬られてそれを応急手当てを荒削りでしていた訳だがランの回復の見込みは難しいと烈月は、思っていた…。

とりあえず、主治医の説明を聞きに近く病院に向かうと話しをし真下看護士との電話は一旦きることにした…。
しばらくして如月が部屋に入って来ると椅子にちょこんと座り紅茶をたしなむと烈月が真下看護士と話をしていた事を聞く。

如月『艦長、どなたとお電話をされてたのてす?』

烈月『あぁ…あんたがランを連れて行った先の病院の看護士だ…。』

如月『それで、なんておっしゃってました?』

烈月『患者(ラン)の容態と今後の経緯を説明すっから来いだとよ…。』

如月『なるほど…なら巴さんにこの件、連絡しておきますね。』

如月は話の筋を理解するとすぐに巴に電話をかけに席を外した…。
その間に、ムクリと上体を起こして辺りを見回すと如月の淹れた紅茶に手を伸ばした…。

ほんのり甘く、温かい紅茶を口に運ぶと次第に烈月の寝ぼけ眼がカフェインのせいかしゃっきりし始めた…ついでに同じテーブルに置いてあった食パンを口に運び、再度、紅茶で口を潤してモゴモゴと口を動かした…。

朝に弱い烈月は、軽く食パンを一斤食べた後、携帯電話を取り、トーキョーシティ総合病院の場所を確認すると住処からさほど遠くない位置に病院はあるようだが少なくとも到着までは10分ほど走らせた距離にあるのも携帯電話の簡略地図に書いてあって烈月は道のりの筋道を考える…。

烈月『やれやれ…どのみちランもあんな感じだし、見舞いにいくにゃ丁度いいか…。』

烈月は携帯電話をポケットにしまい込んで起き上がると丁度、如月が電話を終えて戻って来る…。

烈月『行くぞ、如月…ランへ見舞いにな…。』

如月『えっ!?もうですか!?まだ紅茶も飲み終わって無いのに!』

烈月『それなら…もうオレが飲んだ!ホラさっさと支度しろ!』
如月『うぅ…せっかくのフォートネムマイソンが…ロイヤルブレンドが〜…。』


如月はせっかくの高級な紅茶を烈月に飲み干されて涙目になる、それもそうだ…毎日、朝に欠かさず飲んでいて丁度、今日は最後の一杯だったのだ…一缶200gの茶葉はなんと4000円もする高級なお茶だ…それを味の分からない粗暴な烈月にあっさり飲まれたのはひどく落胆し涙目になる訳である。
そんな如月はぐずった顔のまま烈月が駆るバイクの後ろに乗ると烈月の背中をドンッと強く叩いた。

如月『艦長、さっさと出してください行くんでしょ?』

烈月『お…おう…。』

ぎこちない返事を烈月は、するとアクセルを握りバイクを発進させると住処を後にした…。

バイクを走らしている間も普段は、何がしかしゃべる如月は、黙ったままだ…どうやら、烈月に飲まれた紅茶の事をまだ根に持っているようだったし、先ほど烈月の背中を叩いた時にもその手に殺意がこもっていたのを烈月が感じないはずがなかった…非常に気まずい空気が二人の間を取り巻いて離さない…。

烈月『き…如月…?』

沈黙に耐えかねた烈月は、如月に声をかけると如月は、怪訝そうに返事を返すがその言葉の端には殺意がまだこもっており今にも背中から刺されそうだ、烈月は様子を伺いながら言葉をかけた…。

烈月『さっきはすまねえ事をした、後で買ってやるから勘弁してくれ…。』

如月『そうですか…なら…。』

と如月が言いかけた所で病院に着いた。

烈月『何だったかあの紅茶、【フォートレム…なんとか】だっけ?』

間違ったデタラメな銘柄を聞いた如月は途端に笑い出して腹を抑えていた…しばらく笑い転げていた如月は、すぐにキリッと何時もの顔に戻ると烈月の肩を叩いて下車する。

如月『【フォートネムマイソン・ロイヤルブレンド】です艦長、長年付き合ってますがバカですか…やっぱりバカですよね…お詫びにフォートネムマイソンクイーンマリアで勘弁しますよ…。』

フォートネムマイソンのクイーンマリアはロイヤルブレンドより高い…後でこっそり流奈にでも聞こうと策を練った。

病院に入って二人は入り口で携帯電話の電源を切るとランの病室に向かった…。

病室に着くなりに烈月は、ドアを開け『オイ、入るぞ?』

とぶっきらぼうな感じで烈月が入室すると巴は点滴の様子を見ていた…清楚な看護士の別人にダブって見えた…。
入って来た烈月達に気が付くとそのダブった姿はフッと消え…何時もの姿に見えた。

巴『うん?あぁ、来たね…。』

烈月 『おぅ…来てやったぞ…で?状態は?』

烈月は巴に話を聞こうとしたが巴は、両肩を上下させて首を横に振った…どうやら、主治医は着ていないようで容態の仔細な事は分からないと言った具合だ、烈月はため息をついて腕を組み壁に背中を預けるとじっとランを見る…。

烈月『オレと如月が助けて無けりゃどうなってたんだ?』

如月『失血して再起不能、KIA(死亡)でしょうね…。』

巴『確かに、そうね…いくらあたし等が兵器のAIとは言え、傷付いて人間で言う死ぬくらいのダメージを受けりゃ…プログラム処理もできずに再起不能になるからねぇ…。』
烈月『じゃあ…ランは助かる時間が早くって良かったっつう事か…。』

烈月は、ランを指して言うと如月と巴は頷いていると烈月は納得した…AIでも死ぬ(壊れる)かも知れないと、そう考えると自然と失った右目が脈打って疼き出し、途端に冷や汗をかいた。

烈月も過去にそこまでのダメージを知らず知らずに受けていたことをようやく自分で自覚したようだ…人間でさえ眼球を抉られれば死にもすると、そう考えると右目がどうしても疼いてしょうがなかったがこの事を、今居る二人に言ってもどうなる事もないので我慢してその痛みを押し殺した。

しばらくは、沈黙が続く…ランの心拍数を刻む音と時計の音が互いに同じテンポと同じタイミングで刻む音だけが病室の中お大きく聞こえると烈月の右目もそれに合わせて疼いている。

傷が痛む、過去にRAとしての戦果は巴や流奈などと比べれば撃墜スコアや殺害スコアなどのスコアは非常に優秀な物、しかし数値で見ればの場合だ、そのスコアの大半が味方の被害スコアに直結していた…軍部は彼女を投入すると戦局は一変するが犠牲対比があまりに大きく、兵器としての重大な欠陥を示唆し始めた…。もちろん、彼女には、欠陥などは全く無いが、彼女自身に植え付けられた理念とも行動原理とも取れる視界にある物は全て破壊し、なぎ倒し、踏み倒す
【destroy・them・all!】
軍部が求めた力のありようを体現しそれを忠実に実行し、突き進んで来た姿に軍部はいずれは来るであろう反逆を恐れ欠陥品は処分すべしと烈月を抹殺、破壊を実行し信頼していた軍から裏切られ、烈月は、右目を失い、表世界から姿を消した…。
その時の傷が、人間なら致死の傷である事に気が付くとさらに痛みを増した…。

だが、右目が痛むと言った所で巴に何かできる事もない…もちろん如月に求めた所で得るものの無い…そう考えると烈月ずっと沈黙が続く病室で黙って居るだけだった…。

結局、主治医が来るまで大分待たされて痛みと闘う烈月は、そろそろ苛立ちを隠せなくなってくる…長いこと待たされるのを烈月は最も嫌う…ランの眠っているベッド近く腰をかけて…しきりに眼帯をなおす癖をしていたのを如月は見て苛立っているのをかんじた、…。

ようやく、主治医が病室に入って来ると、巴が何やら手帳を見せると主治医は深くため息をついて、表情を曇らせた。

主治医『軍人が来るところじゃ無いんですがね…早めにベッドを開けて欲しいものですな…。』

開口一番に嫌がらせの一言を主治医が口走ると烈月の苛立ちが一気にこみ上げてくる…如月はそれに気が付いたのか烈月の前に出て制止しようとする体勢に入る。

しかしながら、医師が言う事も正しいのだからと烈月自身は理解し理性で残虐性を押しとどめつつも苛立ちながら口を開いた。

烈月『あんたが言うのも納得はする…だから面倒くせえことは無しだ…はっきり言ってもらおう…どうなんだ?』

主治医『容態安定した…数ヶ月もすれば治るだろうさ…最も意識が回復した直後に、ベッドは空けさせてもらうがね…。』

怪訝そうな顔で烈月の単刀直入な質問に的確に話す医師、流石はプロだ…。
医師が言うのもそうだが慢性的にベッドの数が足りずましてや医師不足が常に起こっている一般病院に、軍人が来るのはお門違いだと強く思う医師は多くいる、この医師もその一人である。
烈月は、はっきり言ってこの医師を心底嫌った…。
おそらくは医師も同じく巴達を嫌っている。

巴は、場の空気が悪いと思い手を叩くとにこやかに話し出した
巴『緊急だった物で申し訳ない…最寄りの病室を指示したのは私だ…彼女が意識を戻したらすぐにここを出るとするから…それまでは特別に許して欲しい。』巴が謝りなんとかこの場をしのぐと主治医は部屋を後にした…。

巴『烈月、もう少し、やんわり言ったらどうだい?』

烈月『うるせえ…あんなに言ったこっちだってそうなるだろうが…クソッタレ。』

烈月の言ってる事も最もだ、しかしながら納得はする所でもあった…一触即発の場をなだめた巴は深いため息を付くと部屋を後にした…。


それから、しばらくして…三日の日にちがたつとランが意識を取り戻したのだった…。

エボルヴプラン3 END