*はじめに*
登場人物紹介などは、『オリジナル小説『純血の殺し屋6』紹介』と表記されている日記をクリックした次のページに書いてみました。
小説は、小説と言うより脚本のように誰が何を喋っているのかが分かるようになっています。
単に、作者自身が混乱しないようにというために。←
誤字や内容の綴りにおかしな点がありましたら、すみません。
最後に言うのも変ですが、興味があったら読んでみてください。
あ。
この作品は、ミステリーサスペンスです。
あと、キャラクターの設定が少年漫画風になっています。
あと『♪』……お許しください人( ̄ω ̄;)
次から、『純血の殺し屋』の第6章です⇒
story.32:『悲劇』
財務省を出てから一時間後、水嶋は田原鉄筋工場株式会社へやって来た。
水嶋:(伊藤諒紀は、やはりアートロだった…)
初めて葬儀で見掛けた時から気にはしていたが、まさかわざと自分の正体を晒すような真似をしてくるとは、内心驚いた。
それだけ、自信があったのだ。
水嶋:(俺の直感だけでは確かに、全員を納得させることは出来ない…)
それに今回、伊藤諒紀の所へ出向いたのもあくまでもストーカー殺人未遂事件に関して、秘書の遠山敦敏を訪ねるだけの名目であり、ボイスレコーダーで探りを入れたのは個人的な意思。
とりあえず、勝手を咎められることもないようだが、問題はそこではない。
『"水嶋さんのせい"じゃなくて、"水嶋さんがいたから"、この槐事件は成立してるってことですかね〜?』
自分が、何となく抱いた疑問に伊藤はそう返事をした。
と、言うことは、槐事件は自分が原因で起きている……。
それが分かった今、自分が捜査本部に戻れない理由もおのずと理解出来る。
せざるを得ない。
水嶋:(だが、気になるのは…)
『------------水嶋さんのことも、僕ちんと"あの人"が守るからねー♪』
あの伊藤の笑顔はやはり気に食わないけど、言葉は深い。
水嶋:(なぜ、俺がアイツらに守られにゃならんのだ?)
それに、"あの人"って誰だ。
自分はそいつに何をしたと言うんだ?
水嶋:(いや、違うか---------)
アイツら(伊藤たち)の"ご主人様"は、俺に何をしたいんだ。
解らない……。
恨み辛みなら、他人を巻き込まずに自分を直接狙えばいい。
水嶋:(これでは、17年前と何も変わらない…っ)
思い出す------------自分の不甲斐なさのせいで、あの愛らしい少女を無惨にも死なせてしまったことを。
若者たちの危険を、あと一歩早く気付けていれば、彼らを哀しませることもなかったのに。
『------------いやぁっ!水嶋さあぁんっ!!』
『水嶋さん…っ……ごめんなさい!
死なないでぇっ…!』
『僕の…僕のせいでっ!
僕のせいで、水嶋さんを…こんな目に…っ!!』
過るのは、あの少年の眼光。
背を向けた、あの子の手には自分から奪って行った拳銃がしっかりと握られていた。
『絶っ対に…お前らを、赦すわけにはいかない----------っ!!』
ドプァンッ!ドパッドパドパ!!------------脳裏で鳴り響いた忌まわしき過去を振り払うかのように、水嶋は首を大きく横に振る。
水嶋:(…よしっ)
今は過去の感傷に浸っている場合ではなかった、と思い直し、水嶋はドアをノックしてからゆっくりとドアを開いた。
水嶋:「こんにちは!神奈川県警察署の水嶋です〜」
?:「え。律さん!?」
事務所の中に入ると、オフィスで電話番の仕事をしている六条薫を見付けた水嶋は辺りを見渡して話し掛ける。
水嶋:「やぁ、久しぶりだね。
仕事復帰したって田原さんから教えてもらったから様子を見に来たんだけど………田原さんは、何処かお出掛け?」
薫:「はい。ちょっとそこまで。
律さん、適当に座ってください。
本当はお茶を用意したいところなんですが…」
水嶋:「大丈夫。
じゃあ、薫くんの隣に座らせてもらうよ」
水嶋はそう言うと、薫の隣にあった椅子に腰掛けた。
そして、薫をまじまじと見ながらこう話を切り出した。
水嶋:「…俺が言いたいこと、分かるかな?」
薫:「えっ…と、すみませんでした。
勝手に出歩いたりして……。
でも、どうしてもマコトさんの月命日には行きたくて。」
薫はしょげながら、あの日無断外出した理由を話した。
だが、水嶋はそれを聞いて納得を示すのでもなく、じっと薫を見つめる。
沈黙に入り、薫が困り果て出した時になって、水嶋は突然こう話を切り出した。
水嶋:「第6の槐事件は、まだ終わっていない」
薫:「………。」
水嶋の言葉を聞いて、薫はピクリと反応を示した。
水嶋:「六角恵梨香を警察に引き渡したのは、自分が復讐を成すまで預かってくれってことか?」
水嶋はそう言うと、薫に向かってこう口にした。
水嶋:「第6の槐……六条薫。
佐々木カケルと矢代佑を殺害し、あの鳥の仮面の男と共に六角恵梨香を嵌めた、凶悪の殺人鬼…」
……やはり、水嶋にはお見通しだったようだ。
薫:「……聞きましたよ。
槐事件の捜査、外されてたんですよね。
僕は、すっかり貴方が捜査に加わっているものと思い込んでいました」
水嶋:「やっぱり……」
薫:「ですが、」
薫は、水嶋の声がした方へ顔を向けてからこう言ってきた。
薫:「僕は、槐ではありませんよ。
佐々木カケルが槐事件に対してロマンを感じていたことや、矢代佑が大企業に就職していたことや、六角恵梨香が随分と悪女面していたことは知っていますけど?」
薫は、にこりと笑ってみせる。
水嶋はその表情を見て、唇を噛み締めた。
苛立ちと、哀しみが混ざり合って……今にも泣き出しそうな自分がいる。
目の前に犯人がいるのに証拠が存在せず、槐事件の捜査から外されている自分は例え誘導尋問で証拠を掴んだとしても逮捕が叶わないと言う……あまりにも悔しい状況化に、水嶋はいる----------だが、いま気にすることは"そこ"じゃない。
水嶋:「……何で、そんなに穏やかに笑ってられるんだ?人を、殺したのにっ…」
水嶋は込み上げる苛立ちを抑えながら、薫の手を握って言った。
水嶋:「田原さんの息子さんが、あの2人と六角恵梨香が原因で死んだ。
だが、逮捕に至らなかった………それが復讐の理由だってことは、分かった。」
水嶋はそう言ってから、薫にこう問い掛けた。
水嶋:「六角恵梨香に突き落とされそうになった時、俺に助けを求めたよな…。
…っ……その時、自分がこの手で突き落とした2人のことを思わなかったのか?
…怖かったんだよな、ダメだって…っ……思ったはずだ。」
水嶋は息を飲む思いで、薫にこう言った。
水嶋:「…なのに、どうして笑ってるんだ、薫くん?」
薫:「………………。」
水嶋の震えた声を耳にした薫だったが、まるで仏にでもなったかのように微笑み続ける。
水嶋が握った手を、薫は優しく握り返してから口を開いた。
薫:「……律さんって、優しい人ですよね。」
そう言ってきた薫の表情は、不気味な笑みを浮かべていながら話を続けた。
薫:「しょうがないじゃないですかぁ、嬉しいんですもん!
あと1人!あと1人なんですぅ!
六角恵梨香が死ねば、僕の心は満たされる!
僕から両目を奪った奴らが絶望の末に死んでゆく様はゾクゾクして堪らなかったですよー」
薫は本性をさらけ出したように、おどけた態度で水嶋の気持ちを裏切った。
そして、薫はふと表情から笑みを消してこう言ってきた。
薫:「だから死ぬわけにいかないでしょう。
良いじゃないですか、命乞いしたって…。
僕、ストーカー殺人未遂事件の被害者なんですからぁ」
水嶋:「----------薫くんッ!!」
それまでとは一変した薫の生意気な態度に、水嶋はとうとう怒鳴り声を上げた。
刑事として、一警察として、人が死んで喜んでいるような人間は絶対に許せない。
薫:「……律さん、そんな怖い声を上げないで?怖いですよ……」
水嶋:「ふざけるな!
お前も鳥の仮面の男もアートロも"ご主人様"って奴もッ!!
用があんのは俺なんだろ!?
なぜ他人を巻き込む必要がある!」
水嶋はもう片方の手で薫の肩に手を置いてぐっと掴んだ。
水嶋:「もう、止めてくれ…。
復讐なんて止めて……っ…でないと、そう遠くない未来で薫くんの周りにいる多くの人が哀しむ。
…良いのか、薫くんには----------」
水嶋は、言の葉を放つ。
水嶋:「----------誠さんの哀しむ姿が、浮かばない?」
薫:「………僕の復讐は、僕のものです。
マコトさんには関係ありません----------だから、」
薫は、涙目を浮かべていた。
薫:「お願いします……もぅ、これ以上は踏み込んで来ないでください……律さん。」
水嶋:「…----------」
薫は頭を垂れて、水嶋の口を止めた。
水嶋と言えばこの悲劇に絶望し、何も出来ないこの状況に、まだ続くであろう槐事件に対して、その場で静かに泣くことが精一杯だった。
第6の槐事件は、冤罪者の逮捕が世間に報じられていた……そんなある日の、哀しい夕暮れだったのだ----------。
------------To be Continued...