あらすじ ある日突然、女神隊隊長の巴が豹変し狂気に満ちた表情を見せ、ユウキに襲いかかり、しまいにはユウキに拳銃を撃ち放ち瀕死に追いやると敵として相対していた奈都が激昂し反旗を翻して巴に噛み付き激しく戦闘を繰り広げるのだった。

奈都と巴は、激しくぶつかり合い…互いに磨耗していく。

奈都は、巴の放った一撃で頬を切ったようで血が滴り、巴は奈都のガンブレードの爆振で煤だらけとなりSENCOの防刃・防弾ベストの左腕には浅い割にはと言う位におびただしい量の血がにじんでいた…。

奈都『蘭…ここは任された!撤退して…!』

奈都は、蘭とユウキを逃がすために巴に向かって腰のポーチから取り出した煙幕を発火させ投げつけると噴射音と共に煙が吹き出て巴の周りの視界を遮った。
蘭は、煙が辺りを包んだのを見計らいユウキを抱えて扉へ急ぎ開閉ボタンを押す…。
蘭は、なんとか逃げおおせたと安堵したのもつかの間、扉が開いたと同時に目つきのよろしくない小さい巫女服が立ち尽くしており蘭は、その姿に驚き後ろにユウキを抱えたまま飛び退いて空いた片手でトンファーに備え付いた銃口を向けた。

『待って…撃たないで!味方だって!それより、早くこっちに!』

小さい巫女服は、驚いた蘭を見て慌てながら軽く弁解を述べて手を差し伸べる、ひとまず蘭はその言葉に半信半疑のまま応じて小さい巫女服のそばに小走りで寄る。

『もう、大丈夫…あたし達が居るから…。』

小さい巫女服が放った言葉に一瞬で蘭は、引っかかりを覚え肩で息をしつつもその引っかかりを訪ねた。

蘭『わ、私たちって?何っ!?何のこと!?』

若干、声を荒らげながら訪ねた蘭に、小さい巫女服は微笑をし口元を緩ませるとそのまま…煙の立ちこめる先を指差し蘭はその先を見つめた。

先ほどまでもうもうと立ちこめていた煙が晴れていき、ゆっくりと巴の姿が現れる…先ほどまでの狂気じみた笑みもなく焦りと苦悶の表情を顔に表しているではないか…。

蘭『えっ…ウソっ!?何があったの?なっちは?』

ボソッと言葉を発すると蘭の近くに達していた煙の中から傷ついた奈都がよろよろと息を切らした状態で姿を現し蘭の近くに座る…。

奈都『もう…一人…いる…。』
『そう!もう一人!とも姉キラーが居るのさ!』

奈都も煙の中を指し示し小さい巫女服は自信満々に声を発するとその姿がはっきりわかる…。
煙の中から巴を追うように飛び出て薙刀を使い、まるで巴にそっくりな顔立ちの巫女服が巴と戦っている…。
しかし、良く見ると巫女服が優位に立ち回り巴は、それに振り回されて防戦一方に立たされている明らかに、巴以上の手練れである。

巴が袈裟に振り下ろした槍を半身でかわし一歩、踏み込み、柄を踏みつけてそれを伝い薙刀で横一線に斬りつけようと振りかぶるが巴は、槍からすぐさま手を離して体勢を整えようとした瞬間…間合いを多少詰めていた巫女服が横一線に薙いだ、あっという間の出来事に巴は、そのまま上体をそらして薙刀の刃を紙一重によけたのもつかの間、巫女服が上から…体ごと降ってくるように胴を廻しながらの浴びせ蹴りがすでに繰り出され、さらにおまけに、先ほどやり過ごした長柄の薙刀が彼女に釣られてその上から円を描いて降りかかる…。

巴は、上体をそらしたままの体勢ゆえに隙が生まれていたわけだ…巫女服はそれを見越しての浴びせ蹴り+αだった、巴は、よけられない体勢なはずが巴は、接地していた足を浮かせ床に背中を預け、すぐさまに横転する…その動きはまるでゆっくりとしりもちを付くような光景だが…回避がこの様になるのは当然、巫女服は、体が地面につきズシンと重い音を訓練所に響かせ素早く立ち上がると巴はすでに槍を構えていた…。
二人の一連の動きが二まばたきくらいの凄まじいスピードである…。

蘭は、一瞬で何が起こったかは理解できなかった…目で追っていくのにやっとであった…。

『さて…あたしは…助けに行かないとね…。』

そばにいた小さい巫女服は、そう言うと独特な鉄の板を腰から二枚取り出して大きな巫女服に向かって走り出した。

巴と大きな巫女服の間には、殺気の渦巻く沈黙だけが渦巻いており…互いに目で牽制している…ほんの一秒の沈黙…。
しかし、すぐに動いたのは巴だ、腰に収めたドイツ製の骨董品拳銃を素早く抜き、銃弾を数発、発射するがその間に、小さい巫女服が割って入りそれらすべてを手に持った独特な得物の鉄板で受け止める…。

大巫女『エイコ…良いタイミングですっ次行きますよ!。』

小巫女『はいっ姉さん!』

二人の巫女服は息を合わせ大きな巫女が薙刀を床に当て小さい巫女はその柄に足を置いた途端大きな巫女が薙刀を振り回し小さい巫女を投げ出す姿はさながら人間カタパルトのようで一直線に小さい巫女が巴に向かって飛んでいきそのまま両手に持った得物を矢尻のように組むと腕を振り上げ巴を打ち上げる…すかさず、落下点を見据えた大きな巫女が先回りしており小さい巫女が再び、薙刀の柄に足をかけ打ち上げられ巴と同じ高さに位置すると腕を振り下ろし巴を地面に叩きつけ彼女は、自重で落下した際に得物の先で追い討ちとして叩き込み巴を地面めり込ませた…。

蘭『す…スゴッ。』

ボソッと蘭がつぶやき奈都はあっけに取られたが彼女の目に入ってきたのは、卓越した戦闘能力ではなく二人の巫女服の後ろの襟元にある代紋(マーク)、八つの菱形のマーク…。

奈都は、瞬時に自分の頭の中にあるデータベースをめぐらせこの代紋を探す…答えはすぐにわかった。

奈都『八菱重工…もしかして私設部隊…。』

『ご明察…でも、ちょっと違いますね。』

奈都が開いた口に挟むように言葉を放ちドアから現れたのは少しどことなく巴に似た雰囲気を持つ女がそこから入ってきた。

蘭『うぇっ…また巫女服…なんかの趣味か仮装パーティー?』
『それより…早く彼を医務室へ運ばないといけないでしょう。』

女に急かされるように蘭は慌てて担いだユウキを医務室に運ぶために訓練室を後にした…。

巴と二人の巫女服はいまだに戦闘を続けている奈都と入ってきた巫女服はそれを眺め続けていたが改めて中くらいの背だけの巫女服が口を開く。『妹の巴がお世話になってます…私は八菱重工の榊原樹…巴の姉です…。』

巴の姉…言い方を変えれば八菱重工が最初に作り出したRAだと言う事だ…奈都は、直ぐに理解する、この女達は、巴をよく理解している連中であると…ゆえにあの狂った巴ですら押し返される訳だと。

樹『大きい方は、風子、お団子頭の小さい方が衛子です。』

奈都『風子と衛子…理解…した…それで…。』

奈都は、聞きただそうとすると樹は、巴とは違うやさしい笑みを浮かべ奈都の頭をポンポンと軽く叩きゆっくり歩き出し巴に向かって歩を進める。

樹『ユウキさんに、助けてと言われたので飛んできた訳です…。』

奈都は、ハッとする…ユウキが呼んだのは紛れもない強力な助っ人であった…そして、樹が巴との距離をほどほどに置いてどしっと威風堂々と構え始める…。

ゆっくりと彼女は左手を上げ胸の位置でピタリと止め手の甲を、巴にさらけ出す…そして、風子と衛子を呼ぶ…二人の巫女服はそれに合わせるように自然と互いの役割と立ち位置がピタリと重なり立ち上がった巴と真一文になる…ボロボロになった巴が樹に飛びかかると、すぐさまに衛子が巴の前に立ちはだかりなぎ払いの一撃を左手に構えた盾のような得物で軽くさばき、右手の同様の得物で横一線に払い巴がそれをよけるために後ろに飛び退くとそこを狙ったかのように風子がタイミングをぴったりと合わせて巴の凪いで戻らぬ腕の反対から袈裟に切り上げる…それにも巴は姿に反応し横へ飛ぶが今度は、衛子が右手の得物をもう一枚連ねて長さを長くした得物で袈裟に振り下ろし殺意のこもった異音が空を切ると共に音を発てるそれでも、巴はかわす姿がさながら追い立てられるうさぎのようだった…。
関心の樹は未だにそこに立っているだけではあるが、風子と衛子に、攻め立てられ巴は近づけずにおり縦横無尽に身をかわす事に精一杯と言うような光景がしばらく続く…。

その攻防もしばらくは続いていたのもつかの間、今度は、樹から金切り音が突然、放たれ、その光景は傍目で見ていた奈都は理解ができなかった。

樹『これで…王手です…巴…。』

奈都は、金切り音を放つ樹に目をやると…左手の先から所々きらめく光る筋が目に入る…それもかなり細い鉄線のようで…それが巴の四肢のいたるところに絡みついてほどけない状態になり、巴は振りかぶった状態でまるで巴だけ一時停止したかのようにそれはがっちりと絡まっていた…。

巴『い…樹っ!貴様っ!』

明らかな不意打ちで自身の体を拘束された巴は、今まで見せたことの無い表情と眼差しを実姉、樹に向けると樹が口を開く…。

樹『あなた、巴じゃありませんね…誰です?』

手が巴のもがく力に負けじと震えながらも言葉に余裕を見せる…樹は驚くべき質問を投げつける…実妹のはずの巴を誰呼ばわりする事にそれを聞いた奈都はおかしな気分になる…。

樹『誰、何です?あなたは…?』

巴『おやおや…姉様…実妹の…あたしを、忘れた…訳じゃ…無いでしょう?』

樹『いいえ…?あなたの事は、知らないですね…妹の巴は、そんな言い回しはしないですし…【姉様】なんて言わないですから…あなたは誰ですか?』

間違いなく、巴の姿をしているはずなのに明らかに様子がおかしかった…奈都ですら気が付かない所を樹が指摘する…やはり、姉妹の仲だ…と奈都は関心する…。

しかし、次の瞬間、巴が摺り足で樹に近寄り張り詰めていた四肢に絡む糸をたるませ、体の自由を多少得た途端、樹に飛びかかる…衛子や風子は、その出来事に一瞬、出遅れたために槍の刃は確実に樹の体の心を捉え、巴はその長柄の得物を突き出す…樹が死ぬ…奈都は目を背け悲しみがこみ上げたのもつかの間だった。

金属のけたたましい音が周囲に響くようにつんざき、奈都は驚いて樹と巴のいる方向にむき直す…。

樹が、右手に隠した鉄扇で巴の槍をはじいたようだ、更にそれは織り込み済みと言わんばかりに半身で槍撃をかわし、巴の顎と首筋に鉄扇を一瞬で叩き込んだ、確実に普通の人間なら、一発KOなくらい一撃が二発も入る訳だからよしんば、巴が耐えたとしてもかなりのダメージなのだろうが…姉の実力は、すさまじいものだった…あれだけ打たれ強く先ほども風子と衛子の攻撃を何度も受けて立ち上がっていた巴が、樹が放った、たったの二撃を受けただけで…ビクビクと体中、痙攣を起こし失神している…奈都ですら、その振るった姿が一瞬のことで理解ができなかった…。

樹『私がこれを持ってるのを知っているのは、風子と衛子、そして、巴だけですから…今のを回避できなかったのは…全く別人ですね…。』

そう言いながら樹は鉄扇をハタハタと扇ぎ、糸の絡んだ巴だった何かを引きながらに未だに、余裕の表情をしつつ…奈都に歩み寄る…。

風子『姉様…彼女は良く耐えてくれました…から。』

衛子『ボロボロだけど彼女が居なかったら全滅してたかもしれない…。』

衛子と風子は、奈都を示し、樹にその事を話すと樹はうんと頷き奈都の頭を改めてなで…奈都は少し満悦そうな顔を見せると樹はおもむろに口を開いた。


樹『あとは…私たちに任せて…あなたは…休息とってください…良く頑張りましたね…。』

すれ違いざまに言われた、流奈とは違う優しさを奈都は感じ普段見せない笑顔を榊原四姉妹に見せそのまま大の字に寝転ぶ…そして、戦いに疲れていたようで安堵がこみ上げ緊張の糸が切れそのまま、笑みを浮かべたままぷっつりと意識が途切れた…。






狂気の戦姫2 END

狂気の戦姫3へ続く…