AD:20xx年某月…

長女、流奈が突然、姿を消した…。

ユウキ達は、流奈の部屋を調べ上げても消える兆候やそれに起因するファクターは、部屋には一切見あたらず、彼女の性格を物語る様相の綺麗な部屋でしかなかった。巴『事情は、どうあれ流奈姉は何か急いでいた様子だし…それでも帰って来るはずよ…。』

奈都『それでも…私の姉なの…私の大切な姉さんなのッ!!【帰って来るはず】なんて希望的観測で言わないで!!』

奈都は、不安を口に出し実の姉の所在を酷く心配すると巴は、ため息をついてさらにヒントを出す
巴『社用のレヴェントンで出てったわ…そこまではわかってる…問題はどこに行ったか…だけど…。』

奈都『だけど…なんです…?』

巴は言いかけて言葉を切ると奈都は、問いつめるように泣き顔を巴に見せると、巴は奈都の頬を少しさすって冷たい顔を見せた…。
巴『追跡するまでは黙っている…でもミッションメンバーとしては連れていけない…あんたは、クライアントとしてミッションの発注だけを行って…必要な人員はこちらで…。』

言いかけて奈都が泣き顔がキョトンとすると巴は奈都の肩を叩いてなだめると言葉を続けて語った。
巴『今の状態で奈都、あんたさんが流奈姉の所に行ったら事態がややこしくなる…クライアント規定でモニターだけしていれば良い。』

巴は冷静に奈都に語りかけて諭すとおとなしくなる…。
クライアント規定とは、クライアントは直接ミッションへの介入はせず状況のモニター、支援するならば、間接的な支援のみを許されている立ち位置で奈都自身が今、精神的に不安定になっている状況では奈都を参加させるのは危険と判断しあえて参加を控えさせた…。

巴は、しばらくして流奈捜索隊として目の前にいたユウキと鼻が利く烈月に捜索をお願いした。

奈都は、流奈が行った先を追跡した資料にユウキと烈月は目を通すと多摩市方面の孤児院、月の家付近で信号は止まっていた…。

ユウキは、その資料を見てため息をつくと少し渋い顔をして奈都の頭をなでる。

ユウキ『多摩月の家…か…ただの出向なら…良いな…。』

少しボヤいたあとに奈都の肩を軽く叩いた烈月が自信にあふれた目で奈都を見ると少し笑う

烈月『奈都公…てめぇは、何も無ぇことを祈って待ってな…流奈の野郎にゃぁ、出かけるなら不安にさせんなってキツく灸を据えてやる…。』

その資料を受け取った烈月は、車庫で自分のバイクにエンジンをかけ大きな声でユウキを呼ぶと慌ててユウキは烈月のもとへ走って行った。
それを見届ける奈都はどこか不安気な顔を未だにしていたのをよそに、ユウキと烈月は多摩市方面へ走らせて行った。

ユウキと烈月が多摩の月の家に着くと日は暮れていたがSencoと赤字で書かれたロゴマークのついたランボルギーニレヴェントンが止まっていたのを見るとバイクに乗ったまま静かに近づいて烈月は中を覗く
烈月『ダッシュボードが開いてらぁ…なんか取ったんだろ…まぁ良い…院内に入るぞ。』

レヴェントンの近くにバイクを止めて二人は門扉を開けて外庭に足を踏み入れると烈月が突然、口に人差し指を当ててしーっと息を吐き沈黙の合図をすると手近の木々に身を隠しユウキを引っ張り込んだ…。

ユウキ『いきなり…どうした?』

烈月『外庭はそうでもねぇが…ユウキ、わからねえのか…血の匂いだ…それも、1や2じゃねぇ…大勢だ…。』

鼻が利いた烈月は、微かな血の匂いを感じ突然の事態を回避せんと樹木に身を隠す…。
しばらく、様子を見ると人の気配は院内からは伺えなかったが入り口に流奈が立っているのが見えた。

ユウキ『…るなね…っ!!』
ユウキが、声を出して立ち上がろうとした瞬間、烈月が口をふさぎ物陰へユウキを隠すと流奈らしき人影は、こちらに頭を向けて様子をうかがってい 。
不気味にも、暮れた空の闇…流奈の目が赤くかすかに光を帯びていた…。

烈月『違う…あいつじゃねぇ…流奈姉は…目が青く光るんだ…あんな赤じゃねぇ。』

ユウキ『じゃぁ…あれは…量産型か…。』

烈月『だろう…ヤツぁ、こっちに気付いてる…。』

ユウキが声を出した事で量産型ルナは、はっきり気付いてゆっくりと一歩、一歩こちらへ近づいてくる…。
量産型ルナの残虐性は驚異なもので烈月が勝てるかどうかの存在だ…ましてや元人間であるユウキなら30秒も保たないだろう…。
まさか、ユウキが声を出すとは思っていなかったのは烈月にとっても誤算であり戦う羽目になるとは思いもよらなかった。

量産型ルナとの距離は、そんなに離れては居ないがまだ二人の姿は見えない…そこで烈月は、意を決して草木から飛び出して切りかかるとルナは、真顔だった表情が一気にニタリと笑い顔に変化し左腕で烈月の重量級の斬馬刀を防ぐそして、ほんのり赤く光っていた瞳は強く光る…。
烈月が斬馬刀を軽々と振り回して斬撃を与えるがルナは、いとも簡単に弾いてゆく…気が付くと烈月のケプラー繊維で織り込んだコートの所々が鋭利な刃物ですっぱり切られて素肌が見える…。
ルナの戦闘力は圧倒的…烈月の高い戦闘力の上を行っていた。
時間を稼ぐ形で少し距離を離して呼吸をゆっくりすると烈月は鼻をついて離れない血の匂いを問いただした。

烈月『てめぇが…やったんだろ?』

ルナ『ソウダ、ワレガ全部破壊シタ…子供モ大人モ…良イモノダ…人間ノ壊レル時トハ…。』

ケタケタと笑い声をあげニヤニヤとしている量産型ルナの表情に虫唾がはしり、烈月は腹のそこから憤怒の念が込み上げてくる…。

怒りに任せて斬馬刀を振り下ろすと轟音にあわせもうもうと土煙が上がりその煙の中からレイピアの鋭い刺突が顔面を捉え烈月は、瞬時に反応して体を落とし上体をそらして紙一重で避けるとその状態からサマーソルトを繰り出して体勢を整えひとつ大きく息を吐く、煙りの中を睨むと今度は、ルナが飛びかかって来た所を烈月は、斬馬刀を大きく横に薙払いけたたましい金属音と火花を散らしてルナが後ろにはじけた。

烈月『煙の中でオレの姿が見えるのはてめぇだけじゃない、オレだっててめぇが見えてんだ!』

にっと笑う烈月は、回避した時に眼帯を引っ掛けられて切れ、眼帯の下の目が姿を現れ、ルナは一層喜び、間合いを詰めようとしたが烈月はその間合いを離すと口を開き斬馬刀を肩に背負った。

烈月『てめぇとマジで遊ぶにゃこっちの方が良いだろ…。』

眼帯の下に隠れて居た目を見開き余裕を見せるとぼんやりと烈月の右目が赤紫に光り爬虫類のように瞳は細く鋭くなり、烈月が今まで纏っていたじりじりとするような殺意の気配は冷たく、ピリピリとした感覚に急変。
ルナは、その気の変化を肌で感じとると笑う顔が次第に真顔に戻り…戦闘差を感じた。

ルナ『ワカラナイ…戦力差ハ優位ナハズ…。』

烈月『分からないって、だろうなぁ…てめぇが死ぬまで理解できねーよ!』

焦りを感じる…ルナには纏えない気の混合である…その気に惑わされてルナは攻勢をかけると、烈月は冷静に一撃、一撃を丁寧にかわしてそこに、また丁寧な一撃を加える…。
烈月は、仮にもロボットのAIだが…純粋な武道を会得しており自らの気をコントロールできる…量産品のルナにはできない芸当である…。
ダメージは有るが手の内や間合いを確かめ…そして今、ルナと決着を着けようとした…。
烈月『真武刃流の真髄を見せてやるよ…ポンコツ女郎が…。』

ルナ『データベースニハ無イ…ブドーノ一種か?』

烈月『ったりめぇだ…古き良き武士に伝わる近接格闘…剣術…それらを統合した戦闘術だ!』

ルナ『真髄…見セテモラオウカっ』

二人は距離を離してしばらく様子を見ていたが交戦の火蓋を改めて切ったのは、烈月だ…丁寧かつ洗練された面打ちと共に左右への袈裟切りの細かなコンビネーションを繰り返し、繰り返し打ち出し、左右へ避ける素振りを見せだすルナに対しては、痛烈な蹴りを出し逃がさない、まるで振るう剣が神主の振るう梵天のような振り方から、拝み打ちと言われ純粋な剣術の一種を洗練された姿で烈月は体現するがルナも馬鹿ではない…左右がダメならと距離を一気に詰めるが烈月は、その動きに合わせ後方へ飛び退くと斬馬刀の重量に任せて横へ一回転する大薙をするとまた、はじけたルナに距離を詰めてそのまま…空いた左拳を思いっきり突き出しルナの腹にうずめた…。
ミチミチっと内部への手応えを感じると、とどめとばかりに烈月は、斬馬刀を再び横一閃に薙払おうとしたがルナの一撃で斬馬刀を弾かれてしまった。
息を吹き返したのだ、仕返しとばかり烈月を押し返す…。
見えない線につながれたエッジは、まるで生き物のように烈月を囲い込んで切り裂いて再びルナの周りに戻ると腕に収まる…

今度は、そのエッジを手先に集めて剣を作ると膝をつき血だらけになった烈月の首を掻かんと髪をムズッとつかんで腕を喉に押し当てると烈月は、やけに笑顔だった…。

烈月『へへへへっ…てめぇには戦略っていうのが抜けてらぁ…。』

笑い声をあげると首に押し当てられた腕を払い、蹴り飛ばし合図をすると低い銃声がルナの左肩を砕きおびただしい血が辺りを濡らし腕が地面にぼとりと落ちる…。

後ろからいきなりの射撃である。
ふっと振り返るとそこには、対戦車ライフルを構えた流奈がいた。
流奈『量産型…墜ちろ!』
量産型との戦いでボロボロになっていたところをユウキに助けられたようである…。
対戦車ライフルを取り出して確実に砕く姿は、どうやら完全にキレているようだ…。

ルナ『005プロトッ!!馬鹿ナ潰シタハズダ。』

流奈『馬鹿めが!あれしきで潰れるものか!』

流奈は、対戦車ライフルをルナに向けて連射する…まるで落雷の雷鳴の如く撃ちまくる。
マガジンがからになり対戦車ライフルを捨てると流奈は、デスサイズを取り出して八つ裂きにしようと距離を詰めるとルナはそれに合わせて部分損壊したエッジを流奈に向けて飛ばすが致命傷になりそうなエッジをはじき、多少の傷をものともせずに詰め寄り、ルナの胸を目掛けてデスサイズを振り下ろす!

まがまがしいしいほどの風きり音が唸りをあげる、流奈のデスサイズは空を切ったものの、着実に奴をとらえ右腕を切り捨てた…鎌とは言え流奈が一度、デスサイズを振るうと予想外の位置で切れる…ルナのエッジもそうだったように…しかしながら、オリジナルの流奈が段違いの殺意を向けてくるために量産型のルナはそれに圧倒されるような形になった。
両腕を吹き飛ばされたルナは再生の為に距離を取ろうとしながら、意地とばかりに体中のありったけのエッジを流奈に投げ飛ばすがまたもや、致命傷になるような部分だけをはじいて
距離つめられてからが一瞬だった、流奈が量産型の足を切り裂いて使い物なら無くしたのだ。
無残に残る胴を動かしそれでも生きながらえようと動くルナの姿を見て流奈は、足で背中を押さえつけて身動きを封じるとふと笑いがこみ上げてきた。

流奈『自分そっくりの奴を自分で殺せるのは…また一つ…一興…だが、貴様は所詮、ただの駄作だ…。』

薄気味悪い表情を浮かべながら、ルナの最期を与える…それも一瞬…ルナの首をいとも簡単にはねた…はねた首はしばらく…断末魔ならぬ声をあげながら、目を閉じたり開いたりしていたが…しばらくしてぴたりと止まると、ノイズが走って遺体は消えて行った…。
すべての出来事を終えたのを分かった烈月は、ため息をついて流奈をみたは眼帯を要求した…。

烈月『流奈姉…眼帯を出せよ…オレは、この前じゃ巴にどやされらぁ…。』

流奈『良くってよ…戻ったら返して下さる?…って私は道具箱ではありませんわ…!』

とは言いつつ先ほどまでの恐ろしい殺意は量産型ルナが消えると共に無くなりいつもの流奈に戻って居た。

流奈が突然現れたのは、烈月がルナと戦っている間にユウキが施設内で見つけた流奈を助け出していたのだ…。
ユウキが施設から出てくると流奈はユウキに礼を言う…。
そして、三人は少し眺めると施設をあとにした…。


今回起こした事件は精神の異常を来した量産型RAルナが月の家を襲撃、直接、流奈の手で即応処理したと報告をすると合わせて量産化計画の廃止嘆願書を軍本部へ投げつけてやった…。結果として量産化計画は廃止…今後は、残存するRAのみの稼働だけと決定した。

この事件の原因は軍の行き過ぎたトライアルプログラムの一環が要因だった…。
RAプロトタイプを破壊が可能な戦力か否かで量産化の決定する試験だ、更には予算を低くした影響から、量産型は手段も選ばず感情も無く、ただただ、目的のクリアを目指すためのロボットに成り下がった…そのため、AIとして、兵器としての性能は上がった反面、ヒトとしての品性…品格、自覚は失い…プロトタイプに遭遇する、できるならばどんな手も使う残虐性が際立ち、今回の事件を引き起こした…。

流奈は、自分も一歩考え方を間違えていたら…そんな風になっていたのだろかと切ない思いをめぐらせていた。

遺体は埋葬したあとで葬儀をしめやかに執り行うと流奈は途中で巴にボソッと話すとどこかへ歩いていった。
ユウキは、それを見て後を追うと直ぐに流奈に見つかった…。

流奈『心が…痛くって痛くって…私は耐えられないのです…。』

ユウキは、黙って流奈を見ていると彼女は言葉を続けて言う声が震えていた。

流奈『私は、沢山の人を殺して来て…それらは、敵だからで割り切ってきた…でも…子供達が目の前で殺されて横たわるのを見て他人とは言えどうしてか胸の奥で重たい痛みを覚えたのです…。』

しんみりした流奈はしおらしく空をぼんやりと見ていたのをユウキはため息を深く吐いて笑うと口を開いた…。

ユウキ『流奈姉がそう感じてるなら…まともな神経を持っているって証拠だ【慈悲】も【慈愛】も人として当然の神経を持っている…そうだろ?』

ユウキは、流奈の後ろ姿を見て何か励ましの言葉を言い続けようとしたが完全に見失うとはっきり意識すると振り向いていた、流奈がユウキの顔を伺い何か言いたげな顔を笑った…。

流奈『まぁ…結局、私は誰かの為に悲しむ事ができる…涙も流せる…ロボットよりも人間らしいですわね…むしろ人間臭いですわね…。』

笑った顔でごまかしていたが頬に涙が静かに伝い、流奈は、少し呼吸を置いてその涙を拭くと言葉を続けて話す
流奈『子供達の顔を見ると不思議と、私はこの子達を守りたい守り続けたい…と思って今まで支えになってきたのです…。』

子供たちの存在が彼女にとっての戦うための大きな意味であったことを吐露されユウキは、余りにも自分では大きすぎる意外性に返す言葉は完全に見失い二人の間には重いどんよりとした間がのしかかって放さない状態になった。
この空気を引き裂こうと必死になるユウキと流奈の間を偶然引き裂いた者がいた。

奈都『助けを必要としている子供たちは…ここだけじゃない、だから…また、創ればいい…月の家を…。』
奈都は、ユウキと、流奈のやり取りを静かに聴いていた、だから自分から自分の思った答えをこの重苦しい空気の中へ投げ込んでみたくなったのだ、そして二人は、突然、居もしなかった様な奈都がそのような事を言い出すものだから鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした、だがしばらくしてようやく理解したのか流奈は、少し落ち着いた表情を取り戻したようだ。
今まで、気がつかなかった、起きてしまった事はしっかり悲しみ前へ進む事、結局、前へ進んでいなかった、今ここではしめやかに行われた葬儀は、二度と起こさないそして、惨劇が再び起きないような対策を整えるのが必ず必要になると言うこと…。

それから…数ヶ月…。

悲劇のあった多摩月の家は新しくなり新しい子供たち、新しい施設、新しいスタッフを向かえ流奈はいつもの優しいママ先生を再び始める、奈都の言葉を元に日本各地にも月の家を展開、戦災孤児達を保護する家として再スタートをきったのだった…。
ただ…時々、赤い目をした流奈の姿が暗闇の中でうっすらと影のように多摩月の家を見ていることが細々とささやかれている。

Lnatic Marder END