80年代初頭…

日本は、かつての同盟国アメリカ連邦公国によって90パーセントを占領下におかれ国民達は厳しい戒厳令に苦しんでいた…。

その戒厳令も残酷なものである、いくつかのエリアによって日本は分けられてそのエリア毎に日本人収容所を設けた、その収容所は通称【コロニーズ】と呼ばれ、人々はそこに押し込められた。

もちろん、原住している日本人はそうだが、帰化した外国人ももろともコロニーズに押し込んだ。
それに反発した外国人といえどもその戒厳令に反発して幾人もの人間が血を流してきたほどだ…言い換えれば反発すれば即死刑である、もちろんコレには例外はなく、帰化アメリカ系日本人、つまりアメリカ人の血ですら流れたほどだ…。

それほどにアメリカ連邦公国は、人々に圧政と苦痛を与えていた…。

世界に誇る技術力や先端科学はアメリカに搾取されここまで衰退させたのは紛れもない75年のヴェトナムでの敗北からの反発であった…それがアメリカ連邦公国にとって経済や、科学技術の搾取へ邁進させ、周辺国を食い物とした結果だった…。

時は経ち。
198X年…。

日本はほぼ全ての領土をアメリカの占領下におかれ、日本国が消えようとしていたところに果実は実った…。

かねてより秘密裏に行われていた作戦。
【女神の涙作戦】の第一段階がようやく終了した。
それは、ろ獲したアメリカ軍の、M1スチュアートと呼ばれる最新人型機動兵器通称、AGの稼働データから研究開発された秘密兵器、Personal Armor Cell
通称、【パセリ】が完成したのだ。
パセリは、人工知能を搭載し、AGのような多彩な兵器運用を可能にした機体だった。
研究中の頃は、表情も無く本当にただの人形と言った具合のAIだったが今は、表情を持ち人間らしさをまんべんなく表現していた…。
それと同時にパセリは、自分が何のために造られたかも良く理解していた…。
研究員達は、パセリにいろいろな楽しい話、悲しい話、面白い話を話すが決まって最後は、パセリの出生を口にする、だからこそパセリは自分におかれた思いや希望と言った背負う物の大きさは重々承知していた…。
出撃の前夜…パセリの前に現れたのはパセリの開発者、矢下ヒロミ開発主任だ…。

矢下はパセリの足元に座ると片手には、缶ビールを持ち、酔った状態であった。
パセリは、矢下の様子を見ると笑って皮肉る…。
パセリ『ヒロミ、普段あまり、飲まないからそうなるのよ…飲むのやめたら?』

ヒロミ『うるさーい、飲まない食べない、あんたに言われたか無いわゆ〜。』

酔った様子から見てもヒロミの状態は、酒は滅法弱いようだ、顔が赤らんでいるし口の饒舌さが普段の倍以上でろれつも回っていない。
もともと、仕事中のヒロミは鋭い言葉と口数が少ない、いわゆる、職人気質の強い性格なのをパセリは良く見ているし、まわりからモテるほどの容姿の割りに性格のせいか独身で、そろそろ婚期も怪しくなる年齢だと言った所も良く知っている…もちろん、日常でお酒を飲むことなんてめったに無いのもパセリは良く見ているし良く知って居る…。
ここまでプライベートなことを知って居るのはヒロミが、毎日仕事を終えるとパセリを搭載したAIユニットを持ち帰って自宅で教育の名目でパセリにあれこれ吹き込んだり雑談したりしているから、人間らしさを育んで今のパセリがある…。

ふと、ヒロミが何かをぼそぼそと言っているようなのでパセリは、それに聞き入る。

ヒロミ『ひとり言だから聞かなかった事にして…。』

ヒロミ『あなたはこれから、、理不尽に人を殺す事になる…そして、下手をすればあなただって理不尽に殺されるから、本当はパセリを戦場に行かせたく無いの…でも、日本は今、理不尽な事を強いられているから行かせなきゃいけないの…。』

途中からヒロミの言葉の端々はふるえている、涙をこらえて話をしているようである…パセリはヒロミの背中を見てその背中が小さく見えた…。

ヒロミ『これから、あなたは残酷な世界に行かなきゃならない…無理やり行かせる私を…行かせる私たちをどうか許して欲しい…。』

ひとり言だから、パセリは何も言うまいとしても長い月日を共にした良き親であり良き上司であり良き友人であったヒロミとの思い出がまるで走馬灯のように思い出す…。

ヒロミ『パセリ…無事に帰って来たらちゃんとした体を作って一緒にどこかで暮らしましょ…ね…だから…だから、無事に…。』

わかって居る。
パセリはヒロミと永遠に別れるのだ…明日の明朝には、この育った第一兵器研究工廠と家族同然のメンバーとも別れを告げる…。
もう会えないこともわかっている…。

そう思うと不思議と悲しみがこみ上げてくると一緒に涙もあふれてくる…パセリは、ヒロミに悟られまいと嗚咽を殺して涙した…。

パセリは気が付くと先ほどまでふるえた声をしていたヒロミは、横になっている…彼女を起こさないように拾い上げるとコクピットの中にヒロミを入れて体が冷えないように適温に調節した…。

パセリ『ヒロミ…ありがとう…そしてサヨナラ…。』

生み出したことに意味があるパセリはその意味をすぐに受け入れるように努力していた…そしてその意味はこの数年になって大事なことにつながり、自分でなければ意味が無い事を理解したそして今、改めてそうヒロミが教えてくれた…だから、産みの親である彼女に…感謝の言葉をふとこぼした。
そして、パセリは、ゆっくりと眠りについた…。


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