話題:今日見た夢




祭囃子の中、私は佇んでいた。
夜にも関わらず広い広場には沢山の人が居て賑やかだ。

笛の音がする。
祭囃子とは別物らしく違う音色を奏でているが、不思議と邪魔にはならない。
その笛の音がこちらへ近付いてくるにつれ周りの人々が道を開け始めたので、私もそれに合わせて道を開けた。

人々の間のその向こうに白い一団が見えた。

白い布で顔を被い、不思議な模様の描かれた白い着物を着た集団。

彼らの後には、着いていくように人々が列を成して歩いている。
周りの人々もその列に混ざり始め、私もそれに加わった。

列は月明かりと幾人かが持つ提灯の明かりのみが辺りを照らす山道を進んだ。
生い茂る木々と、所々にある岩肌に口を開けた岩窟が不気味ながらも青白く浮かび上がる様は神秘的に見えた。

暫く進むと鳥居が目の前に現れ、白い一団はその先へと向かう。
愈々佳境という事だろうか。
笛の音はいつの間にか聞こえなくなっていた。

社の前に立っていた。
少し離れた所に顔を被っていた布を取り談笑する白い一団と、一緒に此処まで来た人達が居たが何故か何も聞こえない。

取り敢えず、社に向かい手を合わせると何も分からなくなった。





気が付くと祭囃子の中、佇んでいた。
いつの間にか白い着物を着ており、何と無く動きづらい。
戸惑っていると老人がやってきて『君がお世話する子が来たよ』と云うと、白い幕で覆われた場所へ案内された。
其処には私と同じ格好をした人が数人と、同じようなデザインだが色彩豊かな着物を着た子供が何人か居り、その内の一人が目の前に連れてこられた。

くすんだ黄色の着物を着たその子は愛想良く笑うと私の身体にまとわりついた。

老人が云うには彼は猿なのだそうだ。
何かの例えなのかと思ったが、そうではなく猿なのだという。
今は着物を着ているので人の姿をしているが、着物を脱いでしまえば元の姿に戻るらしい。
にわかには信じられなかったが、信じられないならそれで良いと老人は答えた。

老人曰く此処に居る子供達はこの土地に棲む動物で、この地の主への贄候補だという。
そして私や此処に居る人間は子供達の世話係として、その主に選ばれたのだそうだ。
どうやら前日のあれは主が世話係を決める為の儀式?らしい。

贄候補という事は子供達の誰かは犠牲になるようだ。
しかし、それの世話係とは必要なものなのだろうか。
ふと、そんな事が頭を過ったが人ではないものが考える事だ。
人間には到底理解出来ない理由があるのだろう。

話し相手でも遊び相手でも良い。
今日一日中、傍に居てあげなさい。
けれど、山の方へその子が向かっていっても、決して追い掛けてはいけないよ。
万が一山に入ってしまえば二度と帰ってこれないから。

老人は私にそう云い残すと何処かへと行ってしまった。
彼から任されたその子の手を引いて落ち着けそうな場所に陣取ると、ちょっとした話をしたり手遊びをした。
それに飽きると近くの他の子供にちょっかいを出して怒られていたが、確かにそういう姿は猿らしい。

日が傾き辺りは夕暮れの鈍い光に包まれていた。
祭囃子は一度も止まる事なく続いている。
昼間にはしゃぎ過ぎたのか、それとも動物としての習慣なのか殆どの子供達が大人しく過ごしていたが、私が任された猿の子だけはやたらに元気に騒いでおり、近くで黙って座っていた山犬の子が五月蝿そうに猿の子を睨み付けていた。




ふと、騒いでいた猿の子の動きが止まる。
じーっと山の方を見つめると、突然着ていた着物を脱ぎ始めた。
するとその姿が瞬く間に子猿の姿になると、周りを囲む幕の下を潜り抜け外へ飛び出していった。
思わず自分も外へと出ると山へ向かって駆けてゆく子猿の後ろ姿と、山の入り口で手を振るもう一人の自分が居た。


行ったら駄目だ。
食われるぞ。


咄嗟に追い掛けたが、老人の言葉を思い出し途中で足を止める。

あれは贄に選ばれてしまったんだ。
可哀想だが仕方無い。
主が世話係として人を選ぶのはこの為だったんだな。
油断させる為か、はたまた贄を怖がらせない為かは知らないが。

祭囃子が続く中、子猿が山に食われていく姿を私はただ眺めていた。









夜中に目を覚まして眠る度に断片的にだが、こんな夢を続けて見た。
本当はこの後にも続きのような形で夢を見たのだが、内容を覚えていないので今回は書くのを途中までにしておく。