虧月ノ檻

今でこそ祖父母の家は建て直され西洋風になっているが、私が幼い頃は今にも崩れてしまいそうな『典型的』な日本家屋だった。

小さいと云えど山の麓、更に少し行けば所狭しと墓石が並んでいる様な場所に建っていたので夜になればとても暗く、母屋から渡り廊下を渡って離れの各部屋へ行くのは怖かったと母は云っていた(流石に私が生まれた頃には墓地は街へ行く主要道路へと変わっていたが)。

その離れの部屋に『コンコンさん』は毎夜遊びに来ていたらしい。

いつから来るようになったのかはよく分からないが夜中、一人で離れの部屋に居ると誰かがコンコンと戸を叩く。
それもハッキリ大きく、風の音や聞き間違えと思えないくらいに。

親か兄弟の誰かが来たのだろうと部屋の戸を開けるが誰も居ない。
気の所為か？…そう思って戸を締めるとまた戸を叩く音がする。
だがまた戸を開けると誰も居ない。


そんな事が毎晩毎晩あるので『それ』は私の親や叔父達からはコンコンさんと呼ばれるようになった。

今では家が建て直され、重くずっしりとした戸になったのでコンコンさんは現れなくなったそうだが、たまに泊まりに行った時、夜中にコンコンと窓(二階の)を叩く音を聞いた事があるので一応まだ健在のようだ。